表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒操師  作者: まあす
5/20

暗殺者③

 アドルフの後継者である王位継承者は全部で5人。


 商業議会の代表議長だったアーセナル=ニフェルの娘、正妃リュシアンヌが生んだ皇太子リャドルと二人の息子。

 同じ一族出身で幼い頃からの許嫁ディアとの子ハーディス。


 そして、アドルフが最後に吸収した騎馬民族の女族長ネイシスの孫、女騎士ジュセフ。


 名目上、正妃が生んだ第一皇子を皇太子としているが、実力社会の騎馬民族で育ったアドルフに嫡子相続といった考えはない。

 また能力が高ければ性別も関係ない。騎馬民族時代からの流れで臣下の大半は男性だが、女性であっても立身出世が叶う、アドルフの実力主義は徹底したものだった。

 皇太子リャドルは無能ではないが凡庸で、アドルフが17歳の時の子ということもあり既に若さもない。覇王の後継者としては役不足であるというのが、側近たちのもっぱらの評価であった。


 そして現在、五人の中でもっとも高い能力を示しているのが末子、女騎士ジュセフだ。


 女性の身にして近衛騎士団を統率するジュセフはまだ25歳。性格は明朗闊達で豪胆。人を惹きつける不思議な魅力を持ち、国民からの人気も高い。

 また、アドルフの能力を一番受け継いでいるのも彼女だと言われていた。

 近衛騎士団第一中隊隊長ディオルガ=ローゼンはそんなジュセフの夫だったのだ。



「エナルの王位継承者紛争は有名ですからね。アドルフ王が五十年も王座に君臨しているせいで、子が全員成人しているばかりか、年頃の孫までいる。現にリャドル皇太子の子とジュセフ皇女は同い年だったはず」


 蒼はお茶をすすりつつ相槌を打つ。


「そう、陛下の子孫は二桁を越えている。皇城内でも派閥が起こり、勢力争いは年々熾烈を極めるばかりだ」


 サイクレスは苦悩の表情のまま俯くと、無意識に目に入った茶碗をぐっと握る。革の手袋ごしにもお茶の微かな温もりが陶器の肌からじんわりと伝わっているはずだが、今のサイクレスにそれを感じる余裕はなさそうだ。


「派閥内では様々な能力者が国中から見出だされ、権謀術数に飽いた後の武力闘争に備えて、貴族連に囲われている。

 我々近衛騎士団も例外ではない。軍隊そのものが他の派閥に差をつける手札となる上、他にも決定的な力がある」


あけの存在ですね」


「・・・・・そうだ」


 苦みを帯びたサイクレスの返答に、蒼は小さく吐息をつく。しかし、どのような感情の元に吐き出されたのかは読み取れない。


「我々毒操師は機密性の高い仕事を請け負っている為、基本的に組織に属することは稀ですが、全くないわけではない。特に緋は元々皇王付きだったと聞いています。他の派閥にはあらゆる意味で脅威でしょうね」


「・・・・・そうだ。緋殿が近衛の顧問になられたとき、宮殿内では陛下が後継者にジュセフ様を選ばれたのだと、まことしやかに噂が流れた程だ。当のジュセフ様は兵士の回復力が上がると単純に喜んでおられただけだが」


 サイクレスは握り締めたままだった茶碗を口元に運ぶ。もはや不気味に感じていた茶の空色など目に入っていない。


 無意識に口にされたお茶はすでに温くなっていたが、サイクレスは瞬間的に目を見開いた。


 不気味な色の茶は、非常に美味だった。


 口当たりの軽い爽やかな味わいが口いっぱいに広がり、まるで茹だる暑さの中、冷たい清水を飲んだときのような清涼感に包まれる。


 話に集中し過ぎて何を口にしたのかもわからなくなっていたサイクレスだが、思わず茶碗の中を見つめてしまう。


「ほら、スッキリしたでしょう。悶々としても事態は良くなりませんよ」


 蒼本人はスッキリしているようには全く見えなかったが、サイクレスへの効果は抜群だった。

 幾分落ち着きを取り戻したのか、椅子に心持ち深く腰掛けると息を吐き、藍色の瞳に静かな光を宿して話し出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ