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毒操師  作者: まあす
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刺客③

「これは!!」


 サイクレスは眼前の光景に唖然とする。


「昨夜のお客様です。招かねざる、ね」


 そこには十数人の人間が累々と横たわっていた。


 地面に突っ伏している者、仰向けの者、倒れた拍子に頭をぶつけたのか額から血を流している者などその恰好も様々だ。ふと視線を挙げると、木の上にも枝に引っ掛かったまま硬直している者もいる。


 みな一様に呻き声を上げていることから意識はあるようだが、小刻みに震えながらも殆ど動かない。


「揮発性の高い麻痺毒です。昨日ちょっと周囲に仕込んでおきました」 


 蒼は外套の隠しから手の中に収まる程の小瓶を取り出すと、サイクレスの顔の前でふるふると振って見せる。念の為蓋は閉めているものの中身は既に空のようだ。


 昨晩、南西からの風を確認すると蒼は何気ない様子で風上の木々を分け入り、薪を拾いながら薬を撒いていた。小瓶から零れた薬品は蒸発し、風に乗って散布されたのだった。


 結果、空気中に紛れた麻酔薬は周辺を取り囲もうとした曲者たちを直撃した。


「風上って、じゃあ俺達も吸っているじゃないか」


 開けた場所は木々の隙間から流れてくる風が対流する。どちら向きであろうとも広場にいる自分たちに当たらないわけがない。


 しかし身体は疲れがとれて軽いだけで、痺れや麻痺などは感じられない。


「私も一応本業ですから、そんなヘマはしませんよ。貴方と貴方の愛馬くんには予め中和剤を仕込んでましたし、森の動物には影響が出ないよう麻酔毒と一緒に獣除けの匂いを放つ薬剤も撒きましたから」


 馬は背を撫でているとき、サイクレスには毛布を掛けるときにそれぞれ数滴中和剤を垂らしておいた。


「麻痺毒は末端神経に作用し、手足が動かなくなります。但し意識は残ってますので、ちょっと様子を見てみましょうか」


 蒼はそう言うと木々の中をサクサク分け入り、所々倒れている暗い服の一団へと近付いて行く。


「え、おいっ、蒼殿!?」


 サイクレスも慌てて追い掛ける。


 倒れている者たちは皆様々に顔を隠していたが、蒼はぐるりと周囲を見回すと他の者よりやや明るい色調の服を来た男に歩み寄った。


 仰向けに倒れている為、昇り始めた陽の光に顔を晒しているが、適当な覆面の他の者と違って目の下まで隙間無くキッチリと布を巻き付けており、その顔を伺うことは出来ない。

 しかしお陰で症状が軽かったのか、その男は近づく蒼たちから何とか逃げようと仰向けのままずりずり後ずさっていた。


 また倒れたとき額を打ったのもこの男である。額から流れる血がこめかみを伝って捲かれた布の一部を染めていた。


「さて、貴方。随分厳重に顔を隠していらっしゃる。余程見られるとマズいって感じですね」


「..........」


 勿論相手から返事はない。しかし布の隙間から覗く栗色の瞳には必死な色が浮かんでいる。


 蒼は服の隠しから新たに小瓶を取り出すと蓋を空け、瓶の口を布に覆われた男の鼻の辺りに近づけた。


「それは?」


 異様な雰囲気に呑まれながらも興味を惹かれ、サイクレスが覗き込む。


「ちょっとした気付けです。麻痺は取れませんが、話を聴く必要がありますので」


 瓶を鼻に近づけられた男は、思い切り顔をしかめたようでぎゅっと目を瞑る。


「うぐぅ」


 低い唸り声。少しだけ声が大きくなったが、布を巻いているせいでくぐもって聞き取りづらい。


「それ、邪魔ですね。取ってしまいましょう」


 蒼は、仰向けの男の顔半分を覆う布に手をかけた。

 途端男は先程よりも自由になった首を背けて逃げようとする。


「やっ、やめ、やめぇ」


 弱々しい声で抵抗する男。発言は乱れていても発音に訛りはない。公用語だ。


 エナル皇国は公用語の国だ。特に首都は元々商人が支配していたこともあり、他言語の国から来た人間でも公用語を身につける。エナル出身の者であれば訛りも少ない。


「おや貴方、貴族ですね。まっ、止めろと言われて止める人間はおりません」


 必死な様子の男に対し、蒼は鼻歌まじりにその覆面を剥ぎ取った。


「!!」


 驚いたのはサイクレス。


「あなたはっ」


 厚く捲かれた布の下、現れたのは貴族的な容貌の男。栗色の瞳に見合う栗色の長めな髪は整えられて艶があり洗練された雰囲気を纏っているが、気取った口髭が嫌みな感じだ。


「ルース卿・・・・・」


 サイクレスの呟きに、名を呼ばれた男は動かせる精一杯で顔を背けようとする。


「お知り合いですか?」


 男の脇に膝をつき、小瓶をしまっていた蒼が肩越しに尋ねる。


「ヘミング=ルース子爵。仕官はされていないが、ある騎士団との繋がりが強い。それは......」


「平打ちの鎖を編んだ銀の首飾り。......ああ、聖銀鎖騎士団、実質的に皇太子の親衛隊ですね」


 仰向けのルースの首元から陽光を浴びて輝く銀の鎖が零れる。決して派手ではない装飾品だが、他にもキラキラと色々身に付けている中では妙にシンプルで逆に目立つ。


 単なる趣味かカモフラージュか知らないが、付けすぎが裏目に出ていることは間違いない。


「そうだ、リャドル様の騎士団支援者でいらっしゃる」


「ほう、騎士団の一員でもないのにこういったものを身に付けるとは。またえらく忠誠心が厚いようですね。それにしても........」


 蒼は肩を落として、深く溜め息をついた。


「何だか......否応なく巻き込まれていく気がします」


 予感は確信に近かった。

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