旅路①
赤く染まった太陽が木々の隙間から差し込み、鮮烈な色が時折視界に入っては残像を残していく。
季節は春だが夕方ともなると気温も下がり、風も冷たい。
サイクレスの短く刈り上げた銀髪が、傾いた陽光を吸い込んだかのように焔の色に瞬く。
日暮れも近づき逸る気持ちで先を急ぐ傍ら、視線をチラリと斜め後ろに向ける。
そこには歩調に併せて揺れる豊かな黒髪。しかし昼の太陽そのもののような黄金の流れはない。
何もかもを染め上げる強い夕陽に晒されても、艶の少ない普通の黒髪にしか見えなかった。
あれからすぐ準備を整え、エナルへ向けて出発したのだが、蒼は変装と言って目立つ髪を染めてきた。
しかし、さほど時間は掛かっていない。旅支度をしてくると言って長机の向こうに消え、半刻もせずに現れた時には既に金髪の部分は全くわからなくなっていたのだ。
ちなみに突然湧き出したかのような群青の布による派手な登場は、なんのことはない、布が落ちるのと同時に長机の陰に作られた地下室から上がってきただけだった。
唖然とするサイクレスへ、種明かしでもするように蒼は肩をすくめて見せる。
「得体の知れないところにいると、ほんの少し予想外の事態が起こるだけで、不可思議な体験に思えるものです」
つまりはこれも毒薬を願う依頼人を追い出す手段の一つだったということだ。
さて、エナル皇国の首都は一般人の徒歩で1日半と、意外と近い距離にある。
蒼の家まで一昼夜、馬を飛ばしてきたサイクレスだったが、葦毛の愛馬は全身に汗をかいて力を使い果たしており、休息を取らせる必要があった。
その為愛馬を近くの家に預けて代わりの馬を調達しようとしたサイクレスに、
「置いていかなくても大丈夫ですよ。歩けば」
と、蒼はてくてく歩き出してしまった。
慌てて止めて急ぐと言っても、
「焦っても状況は大して変わりませんよ」
と取り合わない。
結局、エナル皇国への旅路は馬が回復するまで徒歩となってしまったのだった。
そんな毒操師蒼は、ほけほけとした足取りでサイクレスのほんの少し後ろを歩いている。
木綿の上衣と下衣、柔らかい羊革の長靴を身に付けたその姿は先程と打って変わって活動的に見える。
旅人らしく肩に羽織った群青色の外套が、全体的に砂色な中で鮮やかに翻っている。
しかしよくよく見ると風にはためくそれは、先程までズルズルと頭から引き被っていたものと同じものだった。
やけに準備が早かったのは、一枚脱いだだけだったからだろう。
染めて今度こそ艶の少なくなった巻き毛は紐でテキトーにくくっており、初めて目にしたときよりも随分さっぱりした筈だが、鼻先に掛かる長い前髪はそのままなので見た目の印象はほぼ変わっていない。
相変わらず飄々として得体の知れない人物だ。
サイクレスは蒼の行動に怯みつつも、大事な主君と上官の為、せっせとエナルへの旅路を急ぐのだった。




