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第五話

 馬車の中にいたのは、金髪の美少女だった。


 透き通る緑色の瞳は、宝石を閉じ込めたようだ。背丈は150㎝くらい。かなり幼そう、たぶん十五歳くらいだと思う。


 服、というよりは布に近い恰好をしてる。


 -エルフの年齢を見た目から判断しないほうがいいのだ-


「エルフ?」


 御伽噺でしか聞いたことのないそのフレーズに思わず反応して声に出しちゃった。


 エルフの女の子がビクリと震え、こちらを見ている。


 エルフと口に出したのが良くなかったのか、警戒されちゃったみたいだ。


「あぁ…敵意はないんだ。盗賊も全部倒したし、もう大丈夫だけど」


 -ベンが倒したのだ-


 思わず大丈夫なんて口にしたけど、何が大丈夫なのかは自分でもわかってない。


「●×▼●×▼●×▼●×▼●×▼●×▼●×▼●×▼●×▼」


「え?なんて?」


 -エルフ語なのだ。イメージを渡すから魔法を使うといいぞ-


 グリムからイメージが送られてくる。


 今度は左耳に手を当てて、口に右手を当てる。


 するとまた魔法陣が現れた。


 -おそらく先ほどまでこちらの言っていたことも通じていない-


「盗賊は倒したよ。君はもう解放された」


 -似非宗教団体の教祖みたいな口調なのだー


「ほ…本当ですか?」


 見た目の割に口調がしっかりとしている。


 魔王の言った通り、見た目通りの年齢ではないのかもしれない。


「うん。とりあえず馬車から出てきなよ」


 馬車が倒れてしまっているので、外へ出るのに手を貸した。


 外に出るとエルフは、急激に電源が落ちたみたいに停止した。


「…?」


 -ベンにビビっているだけなのだ-


「あ、あぁなるほど。ベンは無害だよ。えっと、ミンナトモダチ」


 -なんでカタコトなのだ?怪しさが倍増しているだけだぞ-


「て、テイマーなのですか?」


「違うよ。本当にただ友達っていうだけなんだ。」


「竜と…友達?」


「ンボッ」


 ベンが代わりに返事をしてくれた。


 -人類みな兄弟って言っているのだ-


 残念。俺は【G】、ベンは竜、魔王は知らないけど、この中に人間はいないよ、ベン。


 -馬鹿なのだ-


「私はこれから…どうなるのですか?」


 エルフの女の子は怯えている。盗賊の件もあったし、仕方がないだろう。

 

「どうって?」


「それは…例えば殺されたり、この純潔の身を汚されたり、売られたりとか」


「あぁ…売ります。」


「えッ!?」


 -魔王よりも魔王なのだ-


 冗談のつもりで言ったけど、めちゃくちゃ警戒されただけだった。


「いや、冗談だよ。う~ん、正直どうもする気がないってのが本音だね」


 俺はそこでふと、あの国王様の言葉を思い出した。


「君はどうしたい?」


「…?私は…ですか?」


 エルフは少し迷うそぶりをした後、口を開いた。


「故郷に…帰りたいです。みんなとまた…会いたいです」


 何があったかは分からないけど、盗賊に連れられていたのだから、無事だった訳じゃない。


 本当に助かった実感があったのか、泣き出してしまった。


 -あぁー泣かしたぁーのだー-


 小学生みたいな魔王の妨害は無視して、俺はベンの方を見た。


「彼女も乗っていいよね?」


「ンボッ!」


 ベンがなんて言っているかは魔王無しでもわかる。「もちろん!」彼はそう言っているはずだ。


 -男の尻より女の尻の方がましって言っているのだ-


 何はともあれベンに乗ってもいいみたいだな。


「ほら、じゃぁ行こう。ベンが乗ってもいいってさ」


 俺は彼女に手を差し出した。


 どうせ目的のない旅だし、旅は道連れ世は情けってね。あれ?さっきも言ったかな。


 -いったのだ-


 彼女はもう訳なさそうに、俺の手を握った。


「本当に…いいんですか?私…エルフですよ?」


「種族は関係ないよ。君を助けたい。そう思っただけだから」


 -ゴキブリが言うと深みが違うな-


 【G】って言ってよ。


 彼女は顔を真っ赤にしてうつむいている。もしかして脈ありかもしれない。


 -考え方がキモイのだ。思春期かよ-


 そうだよ。


 ベンの尻尾が後ろに来たらそこに座る。あとは器用にベンが背中に乗せてくれる。


「す、すごい。竜に乗ったのは初めてです」


「気持ちはわかる。驚くよね。この前まで俺も乗ったことなかったから。地図は読める?」


「え?はい。わかります」


 ベンの背中で地図を広げた。


「どこに向かえばいいのかな?」


「あの…ここです」


 彼女が指で指定した場所は、地図上では森だ。


 -エルフらしい住処だな。私たちが元いた世界でもエルフは森の民と言われているのだ-


「了解。ベン、ここに向かってくれ」


 ベンの頭まで歩いて行って、地図を目の前に差し出す。


 するとベンはゆっくりと頷いた。


 ベンがまた前進を開始した。


「そういえば君の名前は?」


「…ティナです」


「俺はイクス。よろしくね、ティナ」


「よ、よろしくお願いします」


 どこまでも続くこの草原を、あたたかな日差しが照らした。


 ●


「暗いよ!?」


 -まぁ森だからな。当然これくらい暗いのだ-


「もうかなり深くまで来ましたからね」


 どこまでも続くかと思えた草原は、夕刻になる頃には終わった。


 やはり人間の歩行速度とベンの歩行速度ではかなり差があるらしい。


 地図的には数十キロレベルの距離があったはずだが。


「もう少しだけ進みましょう。今夜中につくはずですから」


「…暗いと危ない魔物とかでない?大丈夫?」


「ベンちゃんがいれば大丈夫だと思います。竜種はその魔力だけで他の魔物を遠ざける効果がありますから。もちろん彼がかなりの上級竜だからですけど」


 ティナがベンをベンベン叩いた。


 -なんかうざいのだ-


 …ていうか今ベンが上級竜って言わなかった?


 -この世界の竜には詳しくないから私には分からないのだ-


「ティナ、ベンってなんていう竜なんだ?実は友達になったけど、あんまり知らないんだ」


「え?そうなんですか」


 ティナがなぜかもう一度ベンをベンベン叩く。やりすぎじゃないか?


「ベンちゃんはアースドラゴンなんですよ。まだ若い個体みたいで小さいですけど、生体に成長すれば全長百メートル以上のサイズになります」


「ひゃ、百メートル!?」


「竜種の中では三番目大きさですからね。」


 -百メートルで三番目!?百メートルの竜なんて、上級種の竜の中では別に大きい方くらいの印象なのだ-


 でもティナはこの世界の住民だから、グリムよりは詳しいだろ。


 -奴らは寿命の分だけ成長し続ける性質を持っているのだ。そもそも種族ごとに固定のサイズを付けるのが間違えているのだ-


「なぁ、ティナは竜の性質についてはどういう風に理解してるんだ?」


「竜の…性質ですか?あまり詳しくはないです。今のも人から聞いた知識ですし。そもそも人とかかわりを持つ竜種が少ないですし、危険ですからね」


 確かに調査を始めるには偉大な一歩が必要になるだろうな。


 仮に自分が特別な力を持っていたとしても、竜を調べようとは思わないし。


「ベン。竜は寿命が尽きない限り、成長し続けるって本当か?」


「ンボッ」


 -本当だって言っているのだ-


「ンボッ」


 -親は大きくなりすぎて人が気付かずに登山しに来たことがあるって言っているのだ-


「…マジかよ。そういうレベル?」


「え?ベンちゃんなんて言っているんですか?」


 ティナが興味深げに聞いてきた。


「そうだよって、言ってる」


「す、すごいですね。竜の言っていることが分かるなんて。もしも他の生き物の言葉もわかるならそれだけで仕事になりそうです!」


 ありだな。


 -お前以外には力を貸したくないのだ。私はメリットにならないことはしない主義なのだ-


 無理だな。


「どうも難しそうだよ」


 そんな話をティナと話していると、どこからか視線を感じるような気がした。


 -いや、その感覚は正しいのだ。確かに何者かがこちらを見ているぞ-


 残念ながら周囲を見ても暗くて何も分からない。


 昔からこういう視線には敏感だった。


 -凄い触角なのだ-


 いや、生えてないからな。髪の毛くらいしか生えてないから。


「あぁ…ティナ、なんかよくない感じなんだけど、わかる?」


 ティナにも気づいて欲しくて声をかけてみる。


「…え?あぁ…なるほど。もうすぐ集落につくので、エルフの偵察が来ているだけだと思います」


「な、なるほど。それならティナの家族みたいなものだよな?」


「そうですね。普段なら速攻で私もろとも矢でいられているところですけど、ベンちゃんのおかげで警戒してくれているみたいです!」


「は?」


「集落の場所を知られてしまうというのはそれだけ重大な事態ですから。秘密を洩らした私も当然処刑対称なわけです」


「い、嫌な部族だな」


 -まぁお前なら矢くらいじゃ死なないけどな-


「大丈夫です集落についたら私から話をしますから。」


「そんな危険な種族が話を聞いてくれるのか?」


「はい。私の父が長ですから、話せばわかってくれるはずです」


 え?


 -え?-


「ンボッ?」



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