第三話
とまぁ色々あって俺は旅に出ることになった。
不用意に鑑定されることが無ければ、また俺の種族を鑑定できるほどの実力者がいなければ、俺の種族の【G】の意味がばれることはないだろう。
俺は今、城を出るとともに王都からも出て、出たとこにある草原にいる。
どうせ目的もないし、一度地図を確認するのもいいかと思った。
国を出てすぐに森があるわけでもなく、果てしない草原が続いている。
補装された道をあるけど、俺は歩きだからそこまで関係ないだろう。
「いやぁ…今日はいい天気だな。」
一人という実感がわいて、なんとなく呟いてみた。
ワクワク半分、不安半分ってところだ。
草の上に貰った地図を広げ、とりあえず眺めてみる。
結構長い草原が続いているけど、意外にも近場に別の国もあるみたいだ。
最初はここに行ってみようかな。特に目的もないし。
地図をしまって早速歩いてみる。
といっても辺りはずっと草原だから、田舎と変わり映えするかって言われたらそんなこともない。
歩いているだけで楽しいとか、流石にそこまで単純じゃないし。
それからしばらく草原を歩いた。
かなり長い草原で、魔物とかはいない。
あの国はかなり安全な地域にあるらしい。
王都で必要な物資をある程度買ったときに聞いたけど、この世界にもやっぱり危険な魔物はいるらしい。そういうのを狩る仕事もあるみたいだ。
旅の資金集めにそれもやってみようと思ってる。
あの村じゃ狩りも俺以外の仕事だったから。あんまり危険だったらやめておくけど。
そもそも今ある一番大きな疑問は、自分が強いのか、それとも弱いのかってことだ。
お城で見た自分の能力値はアルファベットが使われていてよくわからなかった。
ここら辺で見つけられる適当な魔物に力試ししてみるのもありかもな。
昔から足の速さには自信があるんだ。…ゴキブリだからかな。
ま、まぁ仮に勝てなくても逃げ切れるはずだ。深く考えるのはやめよう。
-おい-
「ん?」
何か声が聞こえた気がして、俺は振り向いた。
でもそこに人影はない。
-違う、そうじゃない-
「え?」
や…やっぱり声がするな。でも何もいないぞ。心霊体験か?
-誰が幽霊だ。…まぁ意識体だから似たようなものだが-
おいおい嘘だろ、幽霊が普通に返事してくるんだけど…すげぇ。
-関心するところか、馬鹿者!-
怒ってきたよ、幽霊に怒られちゃったよ。いやぁ、いい経験だな。
-はぁ…関心するところでもない。全くなんて奴なのだ。呆れた-
幽霊に呆れられるなんて…。
-待て。いい加減私の話を聞け。私はお前の中にいる-
は?
-そのまんまの意味なのだ。私は魔王、そしてお前の中にいる-
え?
-いいか?今から私の話をよく聞くのだ。事情を説明するから…-
…ふむふむ、ふむふむ…なるほど、なるほど。
「つまりお前は魔王で、一回死んじゃったから転生して、でも転生先が【G】で、それはまずから俺を乗っ取ろうとして口から侵入したと?でも失敗して俺はそのまま生き延びたって?それに今聞こえるこれは音じゃなく、俺の頭の中に直接伝えるイメージみたいなものだって?」
-あぁ、その通りなのだ。理解が早くて助かる-
俺は思わずその場で突然両膝を突いた。そして両目に手を当てる。
溢れてくる涙を隠すためだ。
「絶対お前のせいじゃーーーーん!!!!!!俺が【G】なの絶対お前のせいだぞ!!!」
-あぁ、先ほどの城のやり取りか、あれはさすが笑ったのだ。そもそも私のせいみたいに言っているが、お前も悪いのだぞ?-
「え?どういうことだよ?」
ボロボロ溢れてくる涙を止めることができない。
-お前が私を吸収したのだ。私に支配されていなければこんなことにはならなかった。そもそも私を吸収していなければ、こうして私が自我を持つこともなかっただろう-
「俺が…お前を吸収?」
-そうだ。お前の胃袋に仕込んであった罠に見事にはまったのだ。赤子のお前の胃袋には神聖装甲という大変頑丈な防御手段が行使されていてな、【G】の私には何もできなかったー
「待って、ついていけないんだが?俺は生まれも育ちも普通で、ずっとペトス作ってだけだぞ。」
-笑わせるな。適当な嘘をついているとろくな死に方をしないぞ?-
「前世の悪行で【G】に転生したて、さらに赤ちゃんに消化されて死んだ奴に言われると説得力があるな。」
-グッ!?それは言うな!お前の鑑定用紙の種族欄、あの【etc.】の中身がなんなのか、私にはわかったぞ!だからお前は嘘つきなのだ!-
「いや、本当に知らないだけで、何が書いてあったんだ?」
-神と魔王なのだ!いい加減知らないふりはヤメロ!-
「…え?」
-‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?もしかして本当に知らなかったのか?-
いつの間にか俺の涙は止まっていた。目の前にある莫大な情報に脳がついて行かない。
-魔王は間違いなく私を吸収したせいだが、神に関しては何か知っているんじゃないのか?-
俺は数分間停止した後、ようやく言葉を返した。
「聞いたことない。母さんは何も言っていなかった。え…でもなんでゴキブリだけわかるの?」
-etc.の中身は相当な力がないと読めないのだ。力としてもっと普通で弱い、【G】だけが魔法使いには読むことができた。要はあの鑑定を使った魔法使いが弱すぎたのだ-
「…。」
俺はボーっとこのだだっ広い草原を眺めた。
そして不意に脳に浮かんだ疑問をつぶやいた。
「もしかして俺って強い?」
-さぁ、よくわからないのだ。でもまぁ知りたいなら、お前の後ろに今来た奴に試してみてはどうだ?-
「は?」
俺は魔王の声?を聞いて振り返った。
そしてそこにはいつのまにか俺でも知っているようなメジャーな魔物がいた。
ドラゴン、確かそんな名前だった。
こいつの真後ろに大きな穴が開いている。体には羽も生えておらず、四つ足で立っている。
おそらく後ろにある穴から出てきたんだろう。
体調は…二十メートルくらいだろうか。体は全体的に茶色い、土から出てきたからってわけじゃなくて、ちゃんと鱗が茶色い。
魔王の話に夢中になっていて全然気づかなかった。
あとこういう寸胴みたいなドラゴンも世界にはいるんだな。
色と相まってうんこみたいだ。
それにしても旅開始後速攻でデッドエンドか。いい人生だった。
-こいつらはドラゴンとはいえ竜種、原種は爬虫類みたいなものだ。ゴキブリが食いたくて土から出てきたのだろう-
ナチュラルなゴキブリ呼びだけはやめて欲しい。
ドラゴンは俺を見つめて鼻息を荒くし、ゆっくりと立ち上がった。
二足歩行も標準搭載か。
地面を掘るためか腕と爪が長く、かなり力強そうだ。
ドラゴンはその強大でいかつい爪を、容赦なく俺に振り下ろした。
そしてギャインッという金属がはじけるような大きな音が鳴った。
死んだ。
俺がドラゴンの爪がへし折れた瞬間に考えていたことだ。
-ハッハッハ!神聖装甲を竜の爪ごときで破れるわけないだろう!馬鹿が!私がどれだけ吸収されるまでもがいたと思っているんだ!-
生きてる。
俺が魔王が大爆笑する中で考えていたことだ。
ドラゴンは俺が呆然と見つめる中、タンスに小指をぶつけたみたいな反応をしばらくして、悶えまくった後にその場に倒れた。
爪が折れたのがよほど痛かったのだろうか。痛みだけで死ぬとは。
-馬鹿が。死んだふりだ!こいつら竜種が爪が折れたくらいで死ぬわけがないのだ!-
魔王の指摘を受けてドラゴンの周りをゆっくりと歩いてみた。
危なそうだし、生きているのか確認しないと気がすまなかった。
仰向けで倒れているドラゴンの顔まで到達した。
顔だけは横向きなので、顔の前に立つ形だ。
俺が顔の前に立つと、フスッフスッという鼻からの呼吸音が聞こえる。
顔の前に立っていることに気付いて動揺しているのか、結構息が荒い。
でも死んだふりはやめない。生きるために必死なのだろう。
俺はどうするべきかと、暫くドラゴンの鼻息で揺れる地面に生えた草を眺めた。
「生きてるよね?」
ある程度経って声をかけると、ドラゴンの体がビクンッて大きく揺れた。
流石にもう隠しきれないだろう。
「もう目を開けていい。別に殺す気はないから。」
なるべく優しい声色でドラゴンに話しかけた。
だが何も反応が返ってこない。
-こ…こいつ、し…失神しているのだ-
結局反応したのは魔王だった。