最終話
「まさかこうも簡単に我々を受け入れるとは…正直こちらも不安になるぞ?」
巨人族の祈祷師、マァヤが俺の方を見てそんなことを言ってきた。
「え?何が?」
脅しに近い状況下で勇者の言うことを聞いていたマァヤをなぜ受け入れない場合があるのか、正直俺からすれば謎なんだけど。
-今後も裏切られる可能性があるとか、少しは疑えってことなのだ-
そんな馬鹿な…マジで?
今俺たちの集落は、巨人族を迎え入れるための住居を作っている。
水路も完成しているので、後はベンに頼むだけだ。
彼らの体のサイズは十分に考慮する必要がある。
といっても俺は一度彼らの住居を見ているので、それを再現すればいい。
「ベン、頼んだぞ?」
ベンは暫く設計図を見つめた。
「ンボッ」
いつも通りそれだけ言うと、直ぐにベンは振り返って大地を操った。
地面から設計図通りの家がニョキニョキと生えてきている。
大きさでいえばエルフの住居の約三倍。
正直子供のベンで作れるかどうか不安だったが、問題ないらしい。
「ほう…流石はアースドラゴンだな」
マァヤが感心しているみたいだ。
俺が想像している以上にどこの種族でもベンの評価は高い。
俺からすればアホの子なのに…。
「ベン、同じものを巨人族の為に大量生産してくれ」
まさか家に対して大量生産という言葉を使う日が来るとは。
-どう考えても間違っているのだ。巨人は二十人程度しかいないのだ。そんな沢山家はいらないのだ-
住居を作成するスペースは事前に確保してある。
木々を少し伐採することになったけど、エルフ達も許してくれた。
思ったよりも木に思い入れはないみたいだ。
木々には魂が宿るだとか、神として木を崇めるとか、そんなことはない。
エルフにとって木は神聖なものではなく、ただのカモフラの道具だった。
おかげでこうして居住スペースを確保できたので、いいことだけど。
「それじゃマァヤ、これからよろしく」
一瞬握手をしようと手を差し出す、でも俺の手は疑惑付きだ。
だからティナに頼んで手袋を作ってもらった。
集落のみんなには俺の手事情を説明してある。
どうも亜人たちには効かない毒らしいが、それでも不安だろう。
というか俺が一番不安だ。
まぁとりあえず一番の脅威はティナがカバーしてくれた。
なのでマァヤとは無事に握手を交わすことができた。
余談だけどマァヤ以外の巨人族は勇者に協力した罪滅ぼしにと色んな労働を手伝ってくれている。
現状一番助かっているのは農場の拡大だ。
ベンがいれば簡単だと思うかもしれないけど、無論農作ってのは非常に複雑で繊細だ。
なるべくなら手先が器用な者達で進めたい。
巨人族の体は大きいけど、それと器用さは関係ない。
むしろ知能が高い分、ずっと繊細で器用だ。
今後は彼らがかなり活躍してくれるだろう。
●
一日の仕事を終え、今日も帰宅した。
同じことを繰り返すだけだった毎日が懐かしい。
でも今の方が生きてるって感じはする。
生活による満足感は比較にならない。
ジゼルとティナは大概俺より早く帰ってきて夕飯を作っていてくれる。
だから俺は食卓に座るだけだ。
「二人とも、いつもありがとう」
俺は不意にこんなことを口にしていた。
「気にするな」
「私がやりたくてやってるだけですよ」
そんな俺に二人は優しく返答してくれる。
夕食を食べて満足した後は風呂に入る。
それが終われば寝る。
でも今日は夢の中でも労働が待っていたらしい。
「えっと…どういうこと?」
「ふむ、勇者のおかげなのだろうな」
目の前には白髪の幼女が立っている。
彼女は幼い顔立ちの割にはやけに妖艶な瞳をしていて、なんというか独特な雰囲気を持っている。
「たぶんだけど…グリムだよね?」
「そうなのだ」
やっぱりそうだった。
全身を一ミリも見たこともなかったから声だけで判断したけど。
「どうしてここに?」
「この前の勇者の戦いで、お前の弱さに危機感を覚えたのだ」
「…確かにあの時は手も足も出なかったけど…」
「もはやお前の体は私の体でもあるのだ。だから簡単に死なれては困る。そこで私は考えたのだ。夢の中でお前を鍛え、それを肉体に再現すると」
「…は?」
「つまりお前の肉体と夢をリンクさせ、夢で行われた運動と同じ影響を肉体に与える。苦痛といったダメージの話ではない。お前を強化するためのダメージをあえて再現するのだ」
「…難しいな。つまり俺は何をすればいいの?」
グリムはにんまりと笑った。
その笑顔を見て彼女が人外の生命体であることを実感する。
あまりにも恐ろしく、そして魅力的だったからだ。
「簡単なのだ。お前はここで私と戦うのだ。毎日、目が覚めるまで、ずっとな」
「ハハハ…それは是非…」
俺は頭の中で勇者と魔王の戦闘シーンを再生していた。
「遠慮したい」
俺がそういったのと、魔王が俺に飛び掛かってくるのは同時だった。
首から上が一瞬ですっ飛んで痛かった。
はぁ…これは苦労しそうだ。
●
「あばっふ!!!???」
目が覚めると俺は叫び声をあげていた。
まず全身の筋肉痛、そしてそれによる痛み。
目が覚めるまでに経験した全ての恐ろしさを思い返した。
叫び声をあげるのはとても自然なことだろう。
そんな俺の様子を心配してか、部屋にティナが駆け込んできた。
時刻はもう朝で、俺より少し早く起きていたのだろう。
「あの…大丈夫ですか?」
「いや、筋肉痛がひどくてね。流石にやり過ぎたよ」
疲労を再現するために重そうに肩をまわした。
「…え?」
ティナは眼を点にしてこちらを見つめている。
そして納得がいったのかようやく口を開いた。
「あの…悲しきソロプレイはほどほどにして、私がお相手しましょうか?」
「は?」
「え?」
俺とティナは暫く見つめ合った。
俺がティナの言った意味を理解するのは、もうずっと後のことだった。
もっとそう…俺が偉大な王になり妃を迎えたその後だ。
お読みいただいた方々、本当にありがとうございました。
また新しく小説を書くと思います。
文章を書くのは面白い。
不思議な魅力がある。
毎日そう思っています。
今度も機会がありましたら、どうかよろしくお願いいたします。




