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二十二話

 ガイアス王はイクスを見送った後、ある人物を呼びだし、そして自室で待機していた。


 数分もすればその人物が王室の扉を鳴らした。


 彼女は転移魔法を使用できる。


 一度呼び出せばここに来るのにさほど時間はかからない。


 仮に王城から遥か離れた別の国にいても、彼女は同じように駆けつけただろう。


「ガイアスよ、呼んだか?」


「ふむ、よく来てくれた。まぁ座り給え。」


 王室はかなり豪奢な作りになっている。


 ソファ一つで庶民の家を問題なく買えるほどの値段だ。


 それらの豪華な家具は王様が趣味で集めたわけではない。


 ガイアス王の一世代前の王が、こういう趣味を持っていただけだ。


 王に呼び出されたゾーイは、手招きされるままにソファの一つに座った。


 向かい合うようにガイアスがすでに座している。


「それで?何用だ?」


「連れないことを言うな。お前ほどの魔術師なら、先ほどまで私が誰と会話をしていたかも理解しているのだろう?」


「ふんっ…まぁな」


 ゾーイは非常に幼い容姿をしている。


 そんな彼女が頬を膨らませてそっぽを向けば、見た目通りの子供に見えるのも無理はない。ただし彼女を子ども扱いすれば、間違いなくその者は後悔することになるだろう。


 彼女もまた人ならざる領域の力を持っているからこそ、こうした姿に甘んじているのだから。


「なぜイクス君に刺客を放った?」


 王の視線はいつもの優しいものではない。


 怒りというよりも失望に近い者だった。


 その視線に当てられ、流石のゾーイもバツが悪そうな表情になる。


「奴のやっていることは聞いたか?」


「あぁ、もちろん聞いたとも」


「それを聞いて危機感を抱けないお前の為に、私が動いたまでじゃ」


 ゾーイは王の瞳を見る。


 だが王の感情は一切動いた様子がない。


「ならば必要ない。私は彼がやっていることを理解し、それでもなお彼にはあのままでいてもらいたいのだ。だからこそ彼に余計なことをして欲しくない」


「なぜだ?あ奴がやっていることがどれだけ危険か、お前にはわからないのか?この世界はようやく魔王を倒し、平和を手に入れたのだぞ?それをみすみす手放すようなことが、正解だと思うのか?」


「なぁ…ゾーイ、平和とはなんだ?」


 ガイアス王は賢王と呼ばれるほどの人物だ。


 彼が真剣に見つめれば、その謎の気迫にゾーイですら一瞬戸惑う。


 それにこんな質問をされたのはゾーイも初めてだった。


「それは…人類の繁栄と栄光。魔王を倒した今、我々はようやく発展の進路をとれるのじゃ」


「そうか…私とお前との認識の差はそこだったのか。であれば私の思う平和について聞いて欲しい」


 王はゾーイがこちらを見るのに合わせて、ゆっくりと口を開いた。


「平和とは、分け隔てなく、全てが平らで平等であることだ。人類も、亜人も、それこそ知性有りし魔物たちも、その全てが平等に暮らし、幸せを分かちあう。だからこそ私は断言できる。今の世の中に必要なのはイクス君なのだ」


「…そんな甘えが許されるほど、この世界は甘くはないぞ?」


 ゾーイは王が真剣に絵空事を話していることを理解していた。


 だからこそ真意を確認したかった。


「だからこそ、魔王を倒した今だからこそ、動くべきだった。私も、そして世界も魔王の脅威に目をくらまし、この世界に勇者たちをもう一度呼んでしまった。自国の安全のために」


 王の話が何を示唆しているのか理解できていた。


 仮に勇者を一つの兵器と考えるのであれば、各国が強大な力を手に入れたことになる。


 魔王という強敵がいなくなった今、それがどこに向くか少し考えれば誰にでもわかることだ。


 どんなに優れた者でも強大な力を手に入れてしまえば欲を出す。


 王が示唆するものは戦争だった。


 この国の勇者は他国に対する抑止力の意味もあった。


 もちろんこの国から戦争を仕掛けることはない。


 だが相手も必ずしも同じ考えとは限らないだろう。


 それに別の意味合いもある。


「今平和のために人類はあえて停滞している…そういいたいのか?」


 各国が他国を警戒して余計な身動きが取れない。


 そしてその隙にこイクスのような動きができるのだと。


「彼がこの世界に来たのはもしかすると神の導きなのかもしれない。私たちは勇者を召喚したが、本当に今世界に必要なのは勇者ではない。【真の王】だ。」


「…本気で言っているようじゃな」


 ゾーイが見る王の瞳は真剣そのものだった。


「彼の存在に世界が気付けば、世界中がまた動き出すことになる。世界中の王たちが、【真の王】を目指して立ち上がることになる。だが私は彼を担ぎ上げることに決めたぞ?私が彼を召喚したのだ。きっとそのこと自体に意味があるのだと、私は考えている」


「そうか…お前の考えは理解できた。…ただ一つだけ、あいつはゴキブリだぞ?」


「ふっ…そうだったな。しかしだからこそ面白いとは思わないか?世界の命運が一匹にかかる。私たちはそれを間近で見ることができるのだぞ。これ以上の特等席はあるまい?」


 ゾーイは顔を上げて笑い始めた。


「ハッハッハッハお前が稀に見る虚け者だと、ようやく思い出すことができた。そして私もその虚け者をしたって、この国に来たのだったな。私の結論も決まったぞ。私は私の信じる王について行こうぞ」


 ゾーイはガイアスの方を見た。


「ふっ、ならばいっしょにこの世界の行く末を爆心地で見守ろうじゃないか?私はお前と見たいと考えていたのだ」


 ガイアスもそれにつられて無邪気に笑う。


 ゾーイの頬は少し赤く染まった。


 彼女が王に連れ従う理由はもちろん忠義だけではない。


 だがそれはまた別の話だ。

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