二十話
いやぁ…完全に切れちゃってるよ。
首ってあんなに簡単に飛ぶんだなぁ…。
綺麗な切り口が見えるし、凄いな本当に。
キッと斬る側の腕も必要なんだろうな、あそこまでの切り口だと。
…あれ?
でもなんで俺は生きてるんだ?
俺は今頭部を失った自分の体を眺めている。
俺に止めを刺して安心した勇者も仲間のローブたちに歩み寄ってる。
たぶん無事かどうか様子を見ているんだろう。
しかしながら俺がそれを見れている状況がおかしくないか…?
…ん?俺の体の首のところに魔法陣…みたいなのがあるな。
あれはなんだ?
ていうか俺の体がゆっくりと立ち上がり始めたんだけど?
今度は胸元にも魔法陣が出てきたな。
これどういう状況なんだ?
俺は勇者に殺されて、首と胴体がお別れして。
それで死んでるんじゃないの?
「イクス。どうもお前がゴキブリというのは間違いないらしいな」
俺の体が口もないのに突然話始めた。
どうも音は胸の魔法陣から出ているみたいだ。
「え?」
俺は思わず返事をしたけど、普通に喋れた。
というかこの声、凄まじいくらいの美少女萌えボイスだな。
俺の体を使ってしゃべってるのは誰なんだ?
なぁ…誰だと思う?グリム。
…む?グリムから返事がないな。
…ていうか待てよ、そんな訳ないよな?
「ほら、一緒に読んだ図鑑に書いてあっただろう?ゴキブリは頭と胴体に合わせて二つの心臓を持つ。だからこういう状況になっても死なないのだ。そしてなんの因果か、胴体の心臓には私が、頭の心臓にはお前が宿っていたみたいだぞ」
…一緒に図鑑を読んだ…。
やっぱりもう俺の胴体を使っている奴の心当たりは一人しかない。
「グリム…なのか?」
「そうなのだ」
頭部と胴体で会話が成立している。
凄い変な状況だ。
あまりの状況についてこれず、黄金の勇者も唖然としてる。
「ていうかグリムって…女の子だったのか?」
「むぅ…今の私の性別は男だが、魔王時代は女だったな」
グリムは平然と答える。
普段グリムと会話をしている時は意識の中に直接響いてくるような感じだった。
とりあえず言い切れることは声という感じでなかったということだ。
別にどっちでもよかったけど、まさか女の子だったとは。
「それにしてもイクス、お前の体は素晴らしい。どうしてこんな体を持っているのに、たかだか人間相手に後れを取るのだ?」
グリムはどこから視覚を手に入れているかは分からないが、少なくとも景色が見えているらしい。俺の体をキョロキョロと見まわしている。
「待って。そんなことよりどうして俺は死んでないの?」
「あぁ、ここと、お前の首を私が魔法で正確につないでいるからなのだ」
グリムは俺の胴体の首元を指さす。
だが言っている意味はよく分からない。
「どういうこと?」
「…そうだな、簡単に言ってしまえばお前の首は取れているが、生えているのと同じ状況を私が魔法で作り出しているのだ。だからお前は首だけになっても生きていて、私も胴体だけになっても生きているのだ。意識がこうして分かれている理由は分からないが、おそらく【king G】だとかいう訳の分からない種族としての特性かもな」
グリムは平然と分析している。
二人で会話をしていると、そこに勇者が割り込んできた。
「胴体と頭部が分かれれば、アンデットでも絶命するはずだがな」
勇者は警戒心を増して、ブレイブウェポンを構えた。
どうもこんな状況でも見逃してくれないらしい。
「体を消滅させれば、流石に死んでくれるだろうか」
勇者は全身に魔力を充実させ、その肉体から可視化できるほどのオーラを放っている。俺がまだ胴体につながっていた頃は全然本気を出していなかったみたいだ。
「ふむ、そういえばキサマ。何度も世界を巡り、何度も魔王を討伐しただとかほざいていたな。よほど当たりの世界で、雑魚ばかり討伐していたせいで感覚が鈍っているらしい」
グリムが俺の胴体でそういうと、俺の体が宙に浮き始めた。
「私が本当の絶望だ」
両手を軽く広げると、なぜかそこに黒い雷のようなもの起こった。
「笑わせるな」
勇者がまたほざいた。
でもさすがの身のこなしで、一瞬でグリムの側まで踏み込んだ。
そしてグリムが動くよりも速い速度で心臓を突き刺そうと剣を胸へ突き出した。
だが剣は胸に直撃するも、それ以上進むことはない。
「は?」
黄金の勇者は唖然としている。
「これは私の力ではないぞ?こいつの体に元々ある神聖装甲を、限界まで高めただけだ。」
グリムは両腕を勇者の頭の横に持っていく。
先ほどの黒い雷が、勇者の頭を貫通しながらグリムの両手を行きかった。
「グワァァァァァァァァァアアアアアア!!!???」
勇者は叫び声をあげている。
俺はその光景をまるで他人事のように眺めていた。
魔王が両手を下げると、そのまま勇者は倒れ込む。
「ほう?まだ意識があるとは、雑魚の中でも上等な方だな」
「馬鹿な…この…俺が…こんなにも簡単に…」
勇者は苦しそうにつぶやく。
「お前が如何に世界を渡ろうとも、いかに鍛錬を重ねようとも、所詮それは人間の領域までの悪あがきでしかない。私たちの世界の勇者のほうが、まだガッツがあったのだ」
グリムが黒い落雷をもう一度勇者の体に落とすと、彼は気を失った。
最後は叫び声すら上げなかった。
そしてグリムはこちらに歩いてきて、そっと俺(頭部)を持ち上げた。
「ふむ。ま、お前も少しは戦う練習をしないとな。今後は気を付けるのだぞ?」
最後にそれだけ俺に伝えて、グリムは頭部を乗せた。




