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第二話

 【G】?待てよ、俺がききたいくらいだ。【G】って何?知らないんだけど。てかetc.って何?曖昧で純情な感情が見受けられるんだけども。


「知らないです。そもそも前の世界でも田舎に住んでいたので、鑑定を受けたことがありませんでした。」


 俺は王様に正直に告白した。ここで無駄に誤魔化して後の印象を悪くしたくなかった。そもそも俺に元の世界へと戻るすべがない時点で、主導権は握られている。


「なるほど、それでは知らないのも無理はないな。だが我々も不確定要素は残したくない。」


 王様はそういうと、隣に立つ衛兵らしき男に声をかけた。声をかけられた兵士はそのままどこかへ走っていってしまった。恐らく何か指示を出されたのだろう。


「今日はこの城に私の知り合いが来ていてな。運がいいことに彼女はこの世界でも有数の鑑定士だ。私が見たところ君の種族欄は鑑定士の能力が足りなくて起きたものだ。」


 そういうことだったのか。それにしても他の人は聞かれてないけど、俺ってもしかして才能があるのか?


 そうこうしているうちに、この部屋にローブの女性が入ってきた。


 さっき俺たちを鑑定した男は深くフードを被っていたが、彼女は顔を出している。


 背丈はかなり低い、百五十丁度くらいだろうか。元々の色素が薄いのか、体は病的に白く、髪や目も白色をしている。アルビノの動物を見たことがあるが、あれにそっくりだ。


 それに見た目は十代前半だけど、本当にそんな凄い人なのか?


「この男を鑑定をすればいいのか?」


 三人横一列でならんているはずなのに、彼女は一発で俺を鑑定すると推測した。


 そんなにわかりやすいくらい凄いのか…俺って。


 もう間違いなく【G】って神だろ。ゴッドのGだろ。ああもう絶対にゴッドのGだわこれ。


「その通りだ。」


 王様が力強く頷いた。


「よし、【鑑定】。」


 先ほどのように紙を用意することもなく、その場で魔法を使用した。やはり俺の世界と同じでイメージとして相手の能力値が出るのか。


 さっきのは全員に見せやすいように紙にしただけだな。


「…ふむ、なるほど…わかったぞ。」


 おいおいそんなすぐにわかっちゃったのか。


 うわぁ…ばれちゃうよ、俺が神様だって…やばいよこれ。


 勇者召喚したら神様が召喚されちゃったっていう小説執筆するよこれ。


 始まっちゃうよ俺の最強異世界ライフ。


 あ、ちなみに俺が神様だったら全員敬語な。


「ゴキブリじゃ。」


 は?


「え?」


「お?」


 全員が一瞬硬直すると、小さな魔法使いを見つめる。


「ゴキブリじゃ、こいつの種族はな。etc.の中身は私でも見えなかったが、【G】…正確には【king G】とかいう種族じゃが…まぁ結局ゴキブリじゃ。」


 ちょちょちょ…マジで言ってる?俺の母さん人間だったけど、ゴキブリじゃなかったけど?


 そもそも二足歩行しているし、ゴキブリの要素なくない?


「そ…それは本当なのか?」


 王様が少しむせながら小さな魔法使いに確認している。


「本当じゃ。こいつはゴキブリじゃ。」


「…そうか。確かに少し変わっていると思っていたが…。」


 どこが?普通の人間だろどう見ても。


 てかなんか声が出ない…本当にショックを受けると人間って喋れないんだな。


「爪とか青いし…。それなのに髪は黒くて少しだけ脂ぎっている気もする。」


 ペトスじゃ!ペトスを作ってたからだわ!ペトス工場のみんな青かったよ!


 あ…ダメだ、ここ異世界で証拠をもないわ。


 髪は辺境の農民だからさ…お風呂もそんないいものに入れないわけよ。


 普通に失礼だろそこに突っ込むのは!察しろよ金持ち!


「ゴ…ゴキブリでも勇者は勇者ですわ!お父様!」


 アリアナさんの顔めちゃくちゃ引きつってるわ。


 せっかくの美人なのに台無しなくらい引きつってるわ。


 いや、待って。そもそもゴキブリじゃないから。そこから間違っているから。


 でも待てよ…凄い鑑定士が鑑定してゴキブリって…もう俺ゴキブリなのか?


「ふむ、一理あるな。アリアナ、彼らにこの世界の勇者について、説明を。」


「も、もちろんですわ、お父様。」


 アリアナさんが気を取り直して説明を再開しようとしている。


 明らかに俺にだけ目を合わせてないけど、どういうことなの?


「あなた達を勇者召喚した魔法には、あるロジックが組み込まれているのです。それはあるものに選ばれた者だけを呼ぶためのもの。そしてそのあるものというのは、この…ブレイブウェポンです。」


 アリアナさんがブレイブウェポンなるものを取り出しながら説明してくれている。


 剣、弓、盾をそれぞれ同時に取り出したから、かなり重そうだ。


 剣は金髪と同じくらい金色で、青色の綺麗な宝石があしらってある。大きさはそこまでではなく、片手直剣で一メートルより少し長いくらいだ。


 弓の方は木製だと思う。ただ真っ白な木で、人生で一度も見たことがないほど綺麗だ。そして弦だけはなぜか黒い。


 盾は全体的に青い。ペトスとよりも少し暗い色をしている。剣と同じくところどころ宝石があしらってあり、それなりに綺麗だ。正直ペトスを作っているから、青色にはこだわりがある。美しさでいえばペトスの方が上だろう。


「つまりこの世界に呼び出されたあなた達は、この武器を使えるはずなのです。」


「そ、それってどうすれば使えることになるんですか?」


 黒髪の子…それは俺も気になるところだよ。


 俺は先ほどから意見が合う黒髪の子の方を見た。


 あれ、黒髪の子?なんでいつの間にか俺から三メートルくらい距離を取ってるの?


 金髪鎧も同時に動かさないとそれできないよね?


「このブレイブウェポンを持っていただくだけで大丈夫ですわ。選ばれているのであれば、武器が光輝くはずですから。」


 そういってアリアナさんは金髪に剣を、黒髪の子に弓を、俺の目の前の地面に盾を置いた。


 え、ちょっと俺だけ地面経由しようとしているよね。


 完全に扱いはゴキブリだよね。


 アリアナさんは俺の視線に気づき、気まずそうに苦笑いをしている。


 いや、苦笑いでごまかされるような事じゃないよ。


 横の二人が武器を持った瞬間、確かにそれらは光り輝き始めた。


 説明の通り、選ばれた勇者ということなのだろう。


 もちろん俺も人間は諦めても勇者まであきらめる気はなかった。


 横の二人とは少しだけ違うが、地面から盾を拾い上げる。


 …あれ?これまずいよね、一切光らないんだけど。


 今度は全員の視線が俺に集まる。それはそうだろう、盾は全く光らない。


 これでは現状ただのゴキブリだ。


「…ふむ、アリアナ。そちらの二人には別室で説明を受けてもらいなさい。」


 王様がアリアナさんに声をかけ、金髪と黒髪の子は別室に案内された。


「あぁ…イクス君。君には悪いが、まずブレイブウェポンは王国の持ち物なので返してくれ。正しきものに渡したいのだ。」


 選ばれていない、ということは使えない武器。


 持っていても仕方がないので俺は素直に地面に置いた。


「ふむ。…そのすまなかったな。今まで前例はなかったのだが、勇者召喚にもミスはあるらしい。今回はその一例ということになる。」


 王様は本当に申し訳なさそうな顔をしている。


 一国の主というだけあり、普通にいい人なのだろう。


 それに挨拶の時は頭を下げてなかったけど、今回は素直に下げている。


 俺が本当にゴキブリなら、かなりの名誉だろう。


「いいえ。あの…俺は一体どうなるんですか?」


「そうだな。まず残念ながら元の世界に返すことはできない。返す手段がないのだ。」


「そう…ですか。」


 元の世界に帰れないことは残念だ。少しだけ予想していたけど。


 でも王様も顎に手を当てて考えくれている。本当に前例がなかったんだろう。


 少し経つと、王様は顎から手を外し、こちらを見た。


「イクス君。君はどうしたいのだ?」


 俺はこの瞬間、少しだけ感動した。


 今まで俺の人生は全て決められたレールの上を歩いているだけだった。


 こうして何をしたいか問われたのは、もしかすると初めてのことかもしれない。


 確かにスタートは最悪だけど、別の視点から見ることもできる。


 三人のうち二人は決められたレールを歩き出し、俺はレールのない場所に立った。


 悲観的に考えていたけど、もしかするとそれだけのことなのかもしれない。


「旅に出てみたいです。俺は…世界を見てみたい。」


 いつの間にか王様の目を見て、素直にそう答えていた。


「…そうか。一応聞いておくが、この城で仕事に就くこともできる。国王である私が指示をすれば、それなりの金を貰える立場にも付けるかもしれないぞ?」


「それでもただ旅をしてみたいんです。自由に…この世界で。」


 王様は少しだけうつむいて肩を震わしている。


 もしかして王様の優しい提案を拒絶するって、結構失礼なことだったのか?


 怒っているのかも。


 だがすぐに王様は顔を上げた。


「ハッハッハッハ!君は面白いな。いいだろう!であればこの世界を自由に歩いてみるといい!…いつから旅に出る?」


 よ、良かった。怒ってはいないみたいだな。


「今からでも。」


「ハッハッハ!そうかそうか、わかったぞ!おい衛兵!この者に白金貨十枚分の金を持たせろ!それにこの国への通行許可証を永続期間で発行するのだ!…あと地図も持たせてやれ!」


 永続的な通行許可証?この国に一生無料で出入りできるってことか?


「あの…それっていったいどういう?」


「何、旅に出るとはいえ帰る場所があってもいいだろう?この世界に召喚してしまったのはこの国の責任だ。これぐらいさせてくれ。」


「あ、ありがとうございます。」


「気にするな。私がイクス君を気に入っただけだ。…もしも君が旅に満足したら、私に旅の話を聞かせてくれるか?」


 そうか…本当にすごい人なんだな。


 素直に尊敬できる。


 この勇者召喚に少しだけ違和感があるけど、それはきっと俺の考えすぎだ。


「ええ、もちろん。その時は必ずまた来ます。」


「ふむ、楽しみにしているぞ。」


 少しだけ照れ臭かったから思わず鼻下を指先でこすった。


 さっきまでペペトトスを採集していたから、指先から優しい香りがした。


 ●


 イクスは勇者召喚のために使用した謁見の間を後にした。


 無事問題を解決したと考えた王様は、王室へと戻った。


 そしてなぜかすぐに部屋がノックされた。


「誰だ?」


「私だ。」


 帰ってきた返事は非常に短いものだった。だが王様はそれだけで相手が分かった。


「入っていいぞ。」


 小さな魔法使いが王室へと入ってきた。


「ふむ、やはりゾーイだったか。」


「どうかしたのか?」


「あの少年の鑑定用紙を見た。」


 そういうと小さな魔法使いは王室にある椅子に座った。


 丁度王様の正面の席だ。

 

「あぁ…イクス君のことか。」


「この鑑定用紙、全然鑑定出来てないな。」


 二人の間にある机にイクスの鑑定用紙が置かれた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 N:イクス (ネーム=名前) 

 R:【G】etc.(レイス=種族)


 H:ER (ヘルス=体力、ヒットポイント)

 P:ER (パワー=攻撃力)

 D:ER (ディフェンス=防御力)

 I:ER (インテリジェンス=知力)


 S:ER (スキル=特殊能力)


 ※()←内の表記はアルファベットの意味。物語には関係なし。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 

「確かにそうだな。このステータス欄にあるアルファベット、ERはエラーだ。」


「私が鑑定しても似たようなものだったぞ。本当に旅に出してよかったのか?」


「心配なのはわかるが、私が気に入ってしまったのは事実だ。」


 王様はゾーイの問いかけに笑顔で答えた。


「はぁ…お前は昔から、本当に困った奴だな。」


「すまない、ゾーイにはいつも心配をかける。」


「まぁいい、それがお前のいいところでもある。」


 ゾーイは椅子から立ち上がると、それだけの会話で部屋から出た。


 部屋の外ではローブの男が待機していた。


「おい、あの少年をしばらく見張っておけ。放置しておくにはあまりに謎が多い。王が警戒しないのでな、我々魔術師協会の預かりにする。」


 指示を聞くと、ローブの男はさっそうと去っていった。


 ゾーイは廊下をカツカツと音を鳴らして歩くと、小さくため息をついた。


「はぁ…何もないといいが。」


 小さな背中には少なくない哀愁が漂っていた。

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