十八話
「よし、一週間が経過したな」
俺はこの日を楽しみにしていた。
今日は巨人族の新しい仲間たちを迎えに行く日だ。
彼らがいればこれからの生活は明るい。
生活を豊かにするための労働力はいくらあっても足りない。
彼らがいれば百人力なのは間違いないだろう。
「それじゃ行きましょうか」
今日も案内役としてティナが付いてきてくれる。
「まぁ待ってよ。この前行った場所だから、今日は俺が先頭を行くよ」
「え?大丈夫ですか?」
「もしも俺が間違った道に行ったら訂正して欲しい」
-非行少年なのか?-
「わかりました。それじゃ行きましょうか」
早速ティナよりも前に出て、俺は歩き出した。
正直自信がある。
この前【G】の情報を調べてから、自分が頭がいい気がしてきた。
おそらくこれくらいの道のりなら、景色が同じ森の道でも問題なく目的地までたどり着くことができるだろう。
-知能指数…-
何か気になるのか?
-いや、お前とは縁がなさそうな言葉なのだ-
ふむふむ、言っていたまえ。
生物的に、私が利口だと証明されているのだよ?
-何その口調?あとなんで疑問形?自分でも自信ないのだ-
「あの…イクスさん」
ティナが気まずそうに俺の方を見ている。
「どうしたの?トイレ?」
-お前女心って言葉知ってる?-
「違いますよ!そうじゃなくて…最初から間違えています」
「え?」
「…すでに方向が違うんです」
俺は周囲を観察して必死に記憶をたどる。
しかしエルフの集落にある建物はどれも同じ形をしていて、目印になるようなものは祭壇しかなかった。
それなのに何とかなるだろうと見切り発車したため、咆哮を間違えたらしい。
「なるほど…。やっぱ案内してもらってもいい?」
-素直なのはいいことなのだ-
「はい、そのためにいますから」
ティナがさっそうと歩きだした。
●
あれから数時間ほど歩いた。
そして俺とティナは迷うことなく巨人族の集落にたどり着くことができた。
ただ前回と様子が違う。
相変わらず円状に並べられた建物があるが、肝心の巨人族がいない。
「…?あれ…建物的にも場所はあってると思うけど」
「そう…ですね。私もそう思います」
-…ほう?これは恐らく…-
魔王がそうつぶやいた瞬間、俺の脳天へと矢が一本だけ飛んできた。
どうも俺の肌は空気の振動すら感知できるらしく、余裕でそれを掴んだ。
「また罠か?でもこんな集落の中にはなかったと思うけど」
ティナは一発で理解したらしく、腰を低くして身に着けていた短刀を抜刀した。
「イクスさん、違います!」
「どういうこと?」
彼女は焦っているのか、少しだけ早口だ。
「この森で矢を使う種族は私達エルフしかいません」
真剣な眼差しでこちらを向いてくる。
「どういうこと?」
-え?知能指数3なの?今のでわかんないの?-
「つまりその手に持っている矢は、人間のものです」
ティナがそういうと、円状に並べられた建物の陰からローブを着た魔術師が幾人か出てきた。
「そっちの子は察しがいいみたいだな」
一番先頭に立つ男が口を開いた。
「なぜここにいるんですか?」
ティナの表情はもはや怒りに染まっていた。
エルフにとっての人間とはそういう存在なのだろう。
戦闘に立つスキンヘッドの男は、頭をポリポリとかいた。
「そこのお前」
そして俺の方へと指をさしてきた。
「お前に死んでもらうためにここに来た」
ティナの怒りはさらに深まる。
「そんなこと、絶対にさせない!イクスさんは私達亜人種族の希望です!」
「それがまずいから、その男は殺されるんだ」
男は淡々と口にする。
「ふむ、お嬢さん。その男のことは見なかったことにして、今まで通り森の奥へ帰りなさい。そうすれば君は見逃してやろう。私たちは奴隷商ではない。何もエルフの少女を殺す気はない。だが彼の味方をするとなると、君も相手せざるおえない。わかるな?」
…奴隷商ではない?
狙いは俺?
ダメだ。心当たりが全くないぞ。
以前相手にした盗賊の仲間かと一瞬思ってたけど、そうじゃないのか。
-わかりやすく消去法で、お前と関わりがある集団は後は国くらいじゃないか?-
…まさか。王様は俺を快く送り出してくれた。
-私もそう思うのだ。ただ王様だけがお前を心よく送り出したとは、考えられないのか?-
まさか…一体どういうことだよ。
-さぁな。これ以上は直接奴らに事情を聞けばいいのだ-
確かにそれしかないか。
「私は…戦います!イクスさんを守って死ねるなら、それは本望です!」
ティナが短剣を持って一歩踏み出した。
でも俺はその瞬間ティナの後ろ襟を掴んで、引っ張った。
「グェッ!?」
ティナから変な声が出た。
「ティナ、ここは俺に任せて欲しい」
「で…でも」
彼女は心配そうな顔でこちらを見てくる。
「君は集落に戻ってこの状況をジゼルに教えておいて。もしかして集落にも危険が迫っているかもしれないだろう?今それができるのは、森の道のりを完全に把握している君だけだ」
流石に心配そうな様子はぬぐい切れない。
俺は一度ティナの頭へと手を伸ばした。
「大丈夫、俺なら必ず戻るよ、約束する。だから君はみんなを守って」
「…わかりました」
迷う様子はあったものの、ティナも納得してくれたらしい。
足をたわめて飛び上がると、一瞬で高い木の枝まで到達する。
そのまま木々を飛び移りながら集落へと戻っていった。
「優しいじゃないか?」
スキンヘッドの男は今度は顎を撫でている。
「ほめてくれてありがとう。できればこのまま帰ってくれるとありがたい」
「それはできない相談だな。どんな内容でも、命令には逆らえない」
…命令、知能的な集団。
上下関係…やっぱり国が怪しいな。
全員の服装が同じだな。
「君たちの素性は?どうせ俺を始末するなら、教えてくれてもいいんじゃない?」
「ダメだ。お前は始末するし、俺たちは謎のまま。それが仕事だからな」
忠誠心、またはプロ意識の表れ。
完全に意識統一された上限関係のある大きな集団。
これは厄介だ。
-あぁ。その通りなのだ。恐らく今こいつらを追い払っても、次のやつらが来るだけなのだ-
「そう、ならいいよ。君たちのことは、多少強引な手を使っても、聞かせてもらおう」
「それがいい。対話をしていると相手に対して少なからず感情がわく。こういった任務で最も邪魔になるのは感情だからな」
そういってスキンヘッドの男は顎に手を当てたまま片手をあげた。
そしてそれを前後に振る。
戦闘開始の合図だろう。
ローブの集団の数は全部で7人。
半端な数だが、これで十分だと判断したのかもしれない。
もしかすると俺のことを始末しようとしているが、情報は十分ではなないのかもしれない。
そもそもなぜ始末されるのかも分からない状況だ。
スキンヘッドの指示を聞いて二人が詠唱を開始した。
魔王の魔法には詠唱なんて段階はないが…。
-魔法の詠唱が必要になる場合はごく少数なのだ-
どういうこと?
-とりあえずこの場合は複合魔法、複数人が協力する魔法なのだ-
止めた方がいいの?
-…ローブなのに近接戦闘を請け負おうとしている正面の五人を無力化できればな-
確かに正面の五人は剣を構えている。
刃には見たこともない文字が彫られている。
-魔法文字なのだ。いわゆる魔法剣、魔剣どっちでもいいが-
五人は一斉にこちらに走ってきた。
見た目は魔法使いだが、どうもそれだけじゃない。
明らかに剣を使えるように訓練された動きだ。
だが状況は一瞬で変わる。
一人の男が俺を魔剣で斬りつけるが、あえてそれはよけなかった。
やはり魔剣とは言っても、そこまで強力な剣ではないらしい。
俺のことを斬りつけても、神聖装甲を超えることはない。
人間を斬りつけた時の音ではない、ギャインッという音が周囲に響く。
「隊長!この男…斬れません」
スキンヘッドの男が一瞬だけ、目を見開くが、直ぐに冷静になる。
「魔法に切り替えろ。人数的にはこちらが有利だ、うまく立ち回れ」
斬れないという話を聞いてすぐに策をこうじてきた。
一人の男が何回か俺を斬ろうと剣を振りまくる。
その間に俺の左右に二人が展開してきた。
両手を前に出し、手で三角を作った。
「【バーン・ファイア】」
火炎放射がサイドから俺を包み込む。
炎が俺を中心に衝突し、一気に上空まで巻き込んだ。
おそらく斬れないから燃やしにきたんだろう。
俺の正面で剣を振るっていた男はすでに何歩か華麗なステップで下がっている。
…火傷はしてないみたいだけど、単純に熱いな。
-だろうな-
俺は一瞬で炎の包囲陣から脱出した。
今となってはこれも【G】特有の初速の速さだと理解できる。
一瞬で周囲の視線を置き去りにした俺は、直ぐに正面の男の手を掴んだ。
「グ、グアァァァァァァ!!!????」
すると剣を振っていた男は大きな声で叫び、力なく倒れた。
「ん?」
俺は疑問気に剣を持っていた男を眺める。
-やっぱりペペトトスは毒草なのではないか?-
いや、でもエルフとかにも結構触ってるけど?
-例えば人間限定で効く毒とか…可能性はいくらでもあるのだ-
嫌な可能性だな…。
「【ブル・ブリザード】」
今度は背後から吹雪が発生し、また俺を包み込んだ。
…寒い。
俺はとりあえず倒れた男を放置し、魔法を放つ二人に迫った。
やはり今の所誰も俺の速度に対応できていない。
瞬時に片方の男の手を掴んだ。
これには本当にペペトトスが毒なのか、確認する意味合いもある。
「ウ…ウガッ!?」
一瞬で俺に手を掴まれた男は、その場に倒れ込んでしまった。
-決まりなのだ。毒人間、誕生-
う~ん、人間限定で効く毒か…今度ティナに手袋を作ってもらおう。
でも今は好都合だ。
彼らは味方ではない。
「【フルバーン・ファイア・トルネード】」
今俺の近くにいる三人中最後の一人に接近しようとした瞬間、それは起きた。
俺の周囲に炎の竜巻が発生する。
瞬時に熱気を察知したので、足元に転がっている奴を蹴り飛ばした。
しかし味方もろとも燃やすこの攻撃は、今の行動のせいで躱せなかった。
-さっきの二人の複合魔法なのだ。…にしてもどれも見たことがない魔法なのだ。流石に異世界ということなのかもしれないぞ-
今度長老の家で探してみようか、魔法の本。
-そうしたほうがいいかもな-
二人がかりの炎でも、俺は一向に燃えることはない。
ただし先ほどよりも遥かに熱いので、瞬時に魔法から脱出した。
スキンヘッドの男の前まで到達すると、俺はゆっくりと汗をぬぐった。
「ふぅ…。暑いね」
「馬鹿な」
スキンヘッドはうめくようにそう呟いた。
そして俺はスキンヘッドと友好的な握手を交わした。
もちろん強引に。




