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十六話

 イクスとティナは無事に巨人族の集落から引き揚げた。


 巨人族も元々暮らしていた集落がある。


 集落から移動するための準備に大体一週間は欲しいそうだ。


 それまではとりあえずエルフの集落で待機することになる。


 巨人族がエルフの集落に合流するころには水路は完成しているだろう。


 そして巨人族はエルフの集落へと合流する準備を…


 進めてはいなかった。


「ふむ、奴らが馬鹿で助かったな。普通であればもっと疑うところだろうが。お前達もよくやった。エルフ達は滅ぼすが、巨人族は見逃してやる」


 金色の鎧、金色の瞳、金色の髪、そのすべてを金色に統一したその男は、イクスのいなくなった集落に姿を現す。


「我々は…助かるのだな?」


 巨人族の狩人、ブルーノは尋ねた。


「あぁ…ま、余生もこの森でひっそりと生きる分には何も言うことはない。くれぐれもあいつのような思想は持たないほうがいい」


「そ…そうか」


 ブルーノはホッと一息ついた。


「一週間後、この集落に我が兵士を連れてくる。エルフともども滅ぼすからな。それなりの数だがお前達には手を出さない。あの愚か者が死んで、お前たちは生き残る。それだけだ」


「わ…わかった」


「よし、いいだろう。それではまた来るぞ。くれぐれも寝返ることがないようにな?まぁ奴と俺の力の差を体感しているお前達では、寝返るなんて考えすらわかないだろうが」


「も、もちろんだ」


 ブルーノは巨人族の中でも狩りを生業にしているだけあり、この集落の中でも屈指の実力者だった。だがその彼をもってしても、黄金の男は恐ろしいほどの力を持っていた。


 明らかに異常なその力の領域、おそらく黄金の男は勇者。


 ブレイブウェポンの所持者だ。


 だがその男が集落をようやく去り、巨人族たち全体がホッとする。


「マァヤ様。本当にこれでよろしかったのですか?」


 巨人族の女性、赤子を抱くその人にブルーノは尋ねた。


 巨人族に長はいない。これは確かに正しいが、長としての役割を担っている者ならいる。それが祈祷師だ。


 巨人族の性質は未だに解明されていないことの方が多い。


 そしてその最たるものがマァヤだ。


 生まれつき人間よりも遥かに大きな脳みそを搭載する巨人族は、非常に利口だと言われている。


 まさしくそれはその通りだった。


 だがそれは人間の常識内での表現でしかない。


 つまりマァヤもまた、勇者のように常識の外の存在だった。


 ただし勇者のように圧倒的な力を持っているわけではない。


 その大きな脳が異常発達しているのだ。


 そしてその大きな脳は、この世界でもごく少数、ほんの一握りしか所持できない力を彼女に発現させた。


 予知能力、彼女は通常の巨人よりも先を生きている。


 だからこそ彼女はこうして他の巨人たちに頼られる立場だった。


「あぁ…これでいいのだ。我々がこの先も生き抜くには、道はこれしかない。これが最善の一手で間違いない」


 マァヤ様と呼ばれるその女性は、ゆっくりと息を吐いた。


「本当に…あのか弱そうな男が我々亜人族全ての希望たりえるんですか?」


 オズウェルはマァヤにそう尋ねた。


「ふむ、この先の世界は…私にもあやふやにしか見えない。だがそれは同時に大いなる可能性でもある。今ようやく我々巨人族、そして亜人種族たちは新しい未来へと踏み出しつつあるのだ。そしてそれが次に彼らがそろう時、証明される。未来という膨大な情報が収束する瞬間が、訪れるのだ」


 マァヤがゆっくりと目を見開くと、その目は真っ白だった。


 未来を見通すことができても、彼女の本当の目は機能を失っている。


 それは生まれつきのことだった。


 だが彼女はまるで目が見えているかのように動き回ることができる。


 なぜなら膨大な未来の全てを見る中で、彼女の人より優れた脳に全てが記憶されているからだ。


 集落の地形はもちろん、この世界そのものを彼女はすでに見たことがある。


 彼女は視力を失っているが、人よりも遥かに多くの情報を得ているのだ。


 膨大に拡散し続ける未来という名の可能性が持つ、極一部から。


 一歩先程度の未来ならば確定してしかるべきだが、この瞬間にも未来は変わり続けている。


 拡散し続ける未来を全て一つに収束することはできない。


 それでもほんの少し先、例えば一週間程度であれば、彼女にも意味のある未来が見える。


 もちろんその全てが確定で起こるわけではない。


 勇者、はては魔王、そういったある種の到達点にいる者の未来までは彼女にも完全に見通すことはできないのだ。


 そして来週、あふれんばかりに拡散し続ける未来がぶつかる。


 彼女にわかるのはそれだけだった。


 ●


「俺が余りに優秀だった為、無事巨人族はこの集落に合流することになった。皆の者、称えたまえ」


 巨人族も俺の偉大さを理解したようだ。


 俺は今、あまりに上手く行った交渉に酔いしれている。


 簡単に言えば自分に寄っているのだ。


 あれからすぐに帰宅し、エルフの集落まで戻ってきた。


 そこで集落の中心に大様とかが座ってそうな椅子を作った。


 もちろんグリムに教わった魔法で。


 今もそこに座って横を忙しそうに通り過ぎていくエルフ達に声をかけている。


 俺はかなり大きな椅子を作った。


 それこそエルフ達の住む一軒家くらいはある。


 大きな問題が一つだけあった。


 それは声をかけるたびにエルフ達がスルーしていくのだ。


 全員が俺に軽く会釈をするだけで、忙しそうにしている。


 ティナも俺のこの様子を見て家に帰ってしまった。


 -馬鹿だから相手にされていないのだ-


「ふぅ…俺が余りに偉大過ぎて、声をかけることすら申し訳ないのかな?」


 -それはないのだ。お前が余りに滑稽すぎて、声をかけるのが恥ずかしいのだ-


 俺がエルフ達に諦めずに自慢を続けていると、長老が帰ってきた。


「交渉が成功したらしいな」


「その通りだよ、長老。俺を称えるんだ」


「お前何言ってんだ?それよりこれを早く片付けた方がいいぞ?」


 なんだよ長老、君まで照れているのかな?


 俺のあまりの偉大さに。


 -今の所証明できているのは無能さだけなのだ-


 グリムがそうコメントした瞬間、急に椅子が浮いた。


 なにごとかと下を見れば、丁度ベンが出てくるところだった。


 なぜベンがそんな勢いで地面から出てきたのかは分からない。


 だがよほどの勢いだったのか、俺は椅子ごと五メートルは飛んだ。


 もともと急遽設計しただけの椅子だった為、先に落ちていった椅子は速攻で崩れた。


 そして次に俺の落下。


 神聖装甲があるから痛みは全くない。


 俺はベンの頭の真上に着地した。


 背中にはジゼルが乗っている。


「イクス、お前だったか。テンションが上がってベンと飛ばしすぎたようだ。すまなかったな。こんな村の真ん中にあんな大きなゴミを作り上げる愚か者がいるとは…。撤去するところだったんだろ?」


「…いや、その…気にしないでいいです」


 -おいおい、愚か者が恥ずかしそうにしているのだ-


 目が覚めた気分だ。


 おそらく俺は何らかの刺客から洗脳魔法を受けていた。


 -お前が受けていたのは慢心魔法なのだ- 


「それで、ベンとジゼルはどうしてここに?」


「あぁ。実は予定より少し早く排水路が引き終わったんだ。ここ最近ベンと仲良くなってな、そのおかげだろうな。かなり頑張ってくれた」


 ジゼルが愛しそうにベンを撫でている。


「ンボッ」


 ベンも嬉しそうにしているのが分かる。


 -チャンネーのデナデナ315~って言っているのだ-


 どういうこと?


 -若い女に撫でられると気持ちええな~ってことなのだ-


 っていうことは今のは竜語か。


 -違うのだ。堕落した大人の言語なのだ-


「そうか、村の排水設備の出口を中心に作ったんだっけか」


 -その通りなのだ-


「ジゼル、お疲れ様。結構大変だったでしょ?」


「いや、ベンが良く頑張ってくれたんだ。そのおかげだよ」


 ジゼルが少し照れ臭そうにしている。


「ま、その女もなかなかちゃんと働いていたかもな」


 ベンの周囲にいつの間にか幾人かのエルフが立っていた。


 俺の記憶が正しければ、ジゼルや長老と一緒に作業をした者達だ。


「へぇ…それはよかった」


 俺は当初の予定通り、ジゼルとエルフ達の溝が少しでも埋まったようで安心した。


 やはり一番人間が感情を動かされるのはひたむきな努力だ。


 きっと今回の仕事の中で、ジゼルにはそれがあったのだろう。


 ジゼルの方を見れば、彼女も嬉しそうにしていた。


 なんだかんだ言っても俺たちの集落は上手くっている。


 さて、次は巨人族を迎えに行かなくちゃな。


 そんなことを考えていると、よほどやかましかったのか。


 俺はベンの頭の上から振り落とされた。


「ンボッ」


 -今肩こってるからそこ乗らないでって言っているのだ-


「あ…あぁベン、それはごめんよ」


 もうすぐエルフの集落に新しい風が吹く。


 俺は尻餅をつきつつも、そう感じだ。

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