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十五話

 俺は今、森を歩いている。


 目的地は巨人の集落だ。


 彼らは頭が非常にいいらしいけど、正直俺は頭が悪い。


 会話になるかどうかが一番の心配だ。


 もし会話にならなかったらどうしよう。


 今エルフの集落のみんなは水路の工事をしているはずだ。


 それと同時進行で巨人に交渉をしたいと思ってる。


 一応エルフと関係があることを証明するためにティナを連れてきた。


 彼女が入ればエルフの集落が本当に活動しているという説得力になる。


 でもティナの役割はそれだけじゃなくて、案内も兼ねている。


 この森のことは未だに把握しきれていない。


 王様からもらった世界地図で見るに、この森は世界でも有数の大森林らしい。


 だからって訳じゃないけど、歩いていない場所の方が多いのも事実だ。


「イクスさん、もうすぐ着きます」


「わかった」


 -む?なんか変な感じがしないか?-


 え?…確かになんというか…ゾワっとするな。


 何かがうごめく気配を感じてすぐにかがんだ。


 もちろん隣にいるティナも忘れずに頭を下げさせる。


 俺たちの真上を杭状に加工された丸太が通り過ぎていった。


 丸太は紐で結ばれ、振り子の原理でこちらを襲ってきたらしい。


 直撃したら俺はまだしもティナは重傷だったかもしれない。


「うわッ!?い、イクスさん!?こんな森の中でなんて…ダメです」


 咄嗟にティナを守ったから押したおす形になってしまった。


「こんな森の中でこそ協力しなくちゃ!」


「…さいですか」


 ここのとこティナが冷たい。


 何かしちゃったのだろうか?


 思い当たるふしはない。


 -だからなのだ-


「丸太トラップ…古典的だけどどうやって発動したんだ?」


 周りを観察しても、それに必要そうなこれといった装置はない。


 突然丸太トラップが降ってきた、そんな状況だった。


 -魔法なのだ。そんな古典的な装置を使った罠では隠密性が低い。地面に魔法陣を設置すれば、踏んだものに対してこのようなことができるのだ-


 なるほど。魔法陣は見抜けないの?


 -…こればっかりは無理なのだ。もちろん私は見抜くことができるのだが、お前は私ではないのだ。お前の体である以上、魔法と違ってイメージでどうにかなる問題じゃないのだ。情報は共有できても、感覚だとか、個人に依存する力は共有できないのだ-


 罠が発動してから反応するしかないってことか。


 -早速【G】としての性能を発揮する時が来たのだ-


 ふぅ…まぁその通りなんだけど。


「ティナ、ここら辺には罠が仕掛けられているみたいだ」


 地面に倒れるティナに手を伸ばして立ち上がるのを助ける。


 ティナは立ち上がると服についた砂を払った。


 そして未だにブラブラと空中で揺れる丸太の方を見た。


「そうみたいですね。気を付けます」


 巨人族は頭がいいらしいけど、まさか罠で歓迎されるとは。


 -侵入者を拒むスタイルなのだ-


 この先の交渉が不安になるよ。


 止まっていても仕方がないので、それからも俺とティナは前進を続けた。


 地面から網が出てくる罠。


 地面から出てきた網が俺とティナを包み込む前に【G】の瞬発力で脱出。


 空から剣山が降ってくる罠。


 同じくこちらに到達する前に脱出。


 左右から挟み込むように剣山が迫ってくるトラップ。


 同様に脱出。


 火炎弾が計八方向から同時に飛んでくるトラップ。


 脱出。


 …集落へ近づいているのだろう。


 明らかに罠が強力になってきている。


 反応できるから何も問題なく、進んではいるけど。


 やがて建造物らしきものが見え始めた。


 そのころにはいくつもあった罠も、もうほとんどなくなった。


 集落の近くに罠を仕掛けると、万が一があるからだろう。


 そして今、俺の目の前には巨人が立っている。


 建物が見え始めたと思ったら向こうから歩てきた。


 友好的かどうかは分からない。


 彼は笑顔も、怒りも、何も浮かべていない。


 無表情だ。


 背丈は5メートルくらい。


 見上げていると首が痛くなるくらい差がある。


 彼は黒い髪を短髪にまとめ、全体的にごつごつとした顔つきだ。


 気になったのはその服だ。


 別に何か変わっているわけじゃないけど、巨人の服は気になってた。


 半袖半ズボン…田舎の少年みたいな恰好をしている。


 -こいつゴツゴツのおっさんなのに…なんかキモいのだ-


 そう、顔から判断するしかないが、恐らくはおっさんだ。


 目測三十代後半ってところな気がする。


「罠はどうした?」


 想像の五倍くらい低くて太い声だ。


「罠はかわしてきたんだ。それにしても仕掛けすぎじゃない?」


「警戒していのは魔族だ。当然あれくらいの罠は仕掛ける」


「なるほど」


 どうも長老の言っていた知性的な種族というのは間違いないらしい。


「とりあえず言っておきたいんだけど、俺に敵意はない」


「だろうな。じゃなきゃこちらもこうして会話をしていない。話を聞こう、来てくれ」


「待ってくれ、その前に君の名前は?」


「あぁ、俺はオズウェル。この集落での立ち位置は兵士だ」


「俺はイクス。よろしくな」


「わわわ、私はティナです!」


「む?エルフ…なるほど、何か大きな流れが…始まっているのか」


 俺とティナが一緒にいるというだけで、少なくない何かを感じ取ったのか。


 -流石に一目見ただけじゃ何も分からないと思うのだ-


 それはそれで悲しいな。


 巨人族が住んでいる建物は、やはりその大きさもこちらの常識には当てはまらない。


 石レンガを使用して作られた大きな建物は動かなくても十分な迫力がある。


「家の中の設備はお前たちように作られていない。仲間を外に呼ぶからそこで会話すればいい」


 オズウェルは複数の建物中心まで歩いていった。


 建物は全部で十個。


 円状に並んでいる。


 真ん中には大きなかまどがある。


 驚くべきはそのサイズ感だ。


 確かにそれはただのかまどなのだが、大きさはエルフの家ほどもある。


 そしてその上には大きな寸胴鍋が置かれている。


「イイイイイクスさん!わわわ私達、食べられちゃうんじゃ?」


 ティナが心配そうにこちらを見てくる。


「大丈夫だと思うよ。人間ってあんまり美味しくないから」


「え?」


 彼女は唖然とした表情に変わった。


 もしかすると返答を間違えたかもしれない。


 -今の感じだとお前は人間を常食しているのだ-


 大丈夫、彼女はエルフだから。


 -エルフも人間なのだ-


 ぐぬぬ…参りました。


「おい!みんな!出てきてくれ!客人だ」


 オズウェルが呼びかけると、それぞれの家の中から巨人が出てくる。


 全ての家から出てきたのは合計で二十人程度。


 それぞれの巨人は家庭を持っており、子供ですら俺よりも背が高い。


 そして全員俺とティナを見ている。


 特に子供は俺たちが珍しいらしく、穴が開くほどこっちを見ている。


 全員が胡坐をかいてかまどを囲んだ。


 一人の巨人が口を開いた。


「それで?なぜこんなところに?」


「彼はブルーノ、狩人を生業にしている」


 オズウェルが狩人の名前を教えてくれた。


「実はこの集落…というよりは巨人族に一緒に生活してもらいたいんだ」


「……‥‥‥‥」


 巨人族は暫く無言でお互いの視線を交差させていた。


 言葉を発していないが会話ができているのだろうか。


 -不気味なやつらなのだ-


「わかった。一緒に暮らそう」


「え?」


 何も相談していなかったし、まだ事情も全く説明していない。


 了承を得られたのは嬉しいけど、あまりに不気味だ。


「その…偉い人に許可とか取らなくても?」


「いわゆる長は我々巨人族にはいない。我々は一人一人が優れ、正しく考えることができる。それに数も多くはない。何かに従う必要はない。お前は私達を支配しに来たのではないのだろう?一緒に暮らそうと言ってきただけだからな」


「…それならいいんだけど?まだまだいろんなものを作り途中だし、普通に働いてもらうと思うよ?別に命令とかするつもりはないけど、手伝って欲しいとは思ってる」


「問題ない。それももちろん頭の中にあった。共同生活をするのだ、他人でいるのはもったいない。それにもし我々が困っていても、お前は助けてくれるのだろ?」


「それはもちろんそうだけど…そんなに簡単に決めてもいいの?」


 ブルーノはかまどをジッと眺めて、やがて返事をした。

 

「簡単に決めたわけではない。ちゃんと考えて決めたことだ」


 そんなに簡単についてこられると、なにか別の狙いがあるのかと思っちゃうよ。


 -まぁとりあえずいいんじゃないのか?来てくれるらしいし-


「う~ん…それじゃよろしくお願いします?」


「ふむ、よろしく頼む」


 ブルーノが集落の女性に視線を向ける。


 すると彼女はかまどの方へと歩いていき、人間一人がすっぽり入れそうな器に寸胴鍋からスープを持った。そしてそれを俺とティナへと持ってくる。


「どうぞ」


 そういって巨人の女性は下がっていった。


 目の前に置かれた器には恐らく百リットルくらい入っているのではないだろうか。


「もちろん全部食べろとは言っていない。それを回し飲むことによって、真の仲間だという儀式だ」


「な、なるほど。それならちょっと待ってくれ」


 俺は一番近くに生えている木まで近寄って、枝を落とした。


 そしてそれに魔法を展開する。


 物質の形を変化させる魔法だ。


 木で作りだしたのはおたまだ。


 器からおたま一杯分救ってそれを一気飲みした。


 隣に立っているティナにもそのお玉を渡す。


「…え?私も…ですか?」


 ティナが小声で抗議してくる。


「当たり前でしょ!空気読んで!」


 俺も小声で説得する。


 ティナはいそいそとおたまにスープをすくうと、それを飲んだ。


「…美味しい」


 そう、このスープ、めちゃくちゃ美味しい。


 巨人ならではの大味とかではなくて、繊細なだしを口の中にいくつも感じ、非常に細かい美味しさがある。すごい高級な味って感じだ。


 -高級料理なんて食べたことあるのか?-


 あ…あ…ないよ。


 そして巨人族が全員そのかまどからスープを飲んだ。


「これで我々は仲間だ。今後もよろしく頼む」


「よ、よろしく」


 また巨人族が全員こちらを見ている。


 結構気まずいけど、まぁ仲間になってくれてよかった。



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