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魔王城の資産運用。

魔王を退治すれば絶対に儲かると言うのはもう古い。

魔族と人間族では価値観が違いすぎる。



 ここは大魔王フョードロヴナの城。勇者イリッチ、戦士のアレクセーエフ、僧侶のフョードル、魔法使いのマンチリアのパーティーが魔王にとどめを刺したところである。

「グ、グオオ。わ、私の負けだ、勇者イリッチよ」

「やったぜ!ついに魔王を倒したぞ!」

と戦士アレクセーエフ。

「お宝!お宝!魔王の財宝はみんなで山分けよ!」

と魔法使いのマンチリア。

 いくら魔王を退治したとしても、部下はまだ生き残っている。バラバラで宝物庫を探すのは危険なので、非効率的ではあるが魔王の宮殿を順番に一部屋づつ見て回った。

「ここじゃないか?頑丈な鉄の扉で、デカい鍵がかかっている」

とイリッチが怪しい扉を見つけた。

「みんな下がって。火炎魔法で錠前を溶かして入る。地獄の業火よ!焼き尽くせ!コミルフォー!」

とマンチリアが呪文を唱えた。高熱に耐えきれず錠前がボロリと落ちた。

「軽い水魔法で扉を冷やそう。聖泉の精よ!ゲラーシム!」

視界が遮られるほどの湯気が扉から上がった。消えるのを待ってイリッチが扉を開けて中に入る。

「何だ?こりゃ?」

「どうした?イリッチ?」

宝物庫に仲間が入る。

「な、何よこれ!」

 宝物庫にあったのは、持ち運べないほど巨大で、中央に10センチほどの穴の空いた金属製の円盤の山だった。大きな物は直径4メートル、厚さ2メートル。重さは5トンはあるだろう。小さいものでも1メートルか、60センチはある。

「表面に魔族文字が刻んである。何々、500億ルーブリ通貨」

魔族知識に精通した僧侶のフョードルが解読した。

「これは魔族のお金だ。確かに人間の王様も宝物庫には金貨や銀貨をしまってあるからな。魔王のお宝が魔族の通貨でも不思議は無い」

「これで、人間の商人から買い物は・・・」

「当然できない。魔族のお金で品物を売ってくれるのは魔族の商人だけ」

イリッチの質問にフョードルがぴしゃりと答えた。

「あんなに大苦労して冒険して、ようやく大魔王を倒したのに何も手に入らないのか?タダ働きだ!」

戦士のアレクセーエフが叫んだ。

「しかし、こんな動かせないほど巨大な通貨って何だ?盗難防止対策か?買い物をするたびにいちいちゴーレムかサイクロプスに頼むのかな?」

と勇者のイリッチ。

「何とかしないと本当にタダ働きよ。みんな、宮殿内の魔族を一人捕まえてきてこのお金の使い方を聞きだしましょう。もしかしたら魔剣とか死槍や呪詛弓と交換できるかもしれないわ」

魔法使いのマンチリアが提案した。

「それだ。早速行こう!」

イリッチが決断してパーティーは行動を起こした。ほどなく宮殿内のゴブリン兵を捕まえた。

「い、命だけはお助けを!私は魔王様に命令されていただけで!」

「騒ぐな。宝物庫のお宝の使い方を説明するだけでいいんだ。場合によってはお前にも分けてやる」

「アレを?小さいのを1個もらえるだけで大金持ちだ!」

「な、得な話だろ?さ、宝物庫に行こう」

ゴブリン兵を連行して宝物庫に戻った。

「さすが魔王様!下っ端兵士には一生かかっても稼げないほどの大金持ちだ!」

「で、この通貨でどうやって買い物をするんだ?持ち運び方法は?」

イリッチが聞く。

「これ?これは買い物の時には持ち運びません」

とゴブリン兵。

「このデカい貨幣自体が信用の塊。これだけのお金を持っているという証明です」

「それでどうやって買い物をするんだよ!」

イライラしたアレクセーエフが腰の戦斧を振り下ろしかけたのを仲間が止めた。

「魔族は信用で買い物をするのです」

「信用!?」

パーティー全員が異口同音で疑問を叫んだ。

「このデカい貨幣は『私はお金を持っていますよ』という印。その印を『信用』して、一定期間取引して、一定期間が過ぎると決済の時がやってきます。買う魔族は『これだけ持っているから払えるぞ』、売る魔族は『じゃあツケで』と商品を渡すのです」

「わかったわ。ツケが貯まると借金取りに雇われたサイクロプスが持っていくのね」

マンチリアが言った。

「持っていきません。所有権が変わるだけです。『食べ物や酒とか魔剣やらツケが貯まりすぎたから俺の物!』となるので持ち運ぶ必要はないのです。魔王様は魔族みんなのお金で部下の自宅が狭くならないように自腹でしまい場所を作っていただけなのです」

「じゃあ、たまたま魔王の宮殿にしまってあっただけで、細かく所有者を割り出せば・・・」

と勇者イリッチが聞くと

「おそらく、この宝物庫の半分は魔王様の物ではありませんね」

とゴブリン兵が答えた。

「魔族から見ると人間族の取引は無駄が多すぎて不思議なのですよ。信用してツケで売り買いすればいいのに、いちいち山を掘って、金とか銀なんていうキラキラするだけの少なくて柔らかくて、武器にならない金属を採掘して、大量のたきぎや木炭で精錬して、わざわざ盗まれやすく小さな円盤形に小分けにして革袋で持ち歩いているので。金貨とか銀貨って、スリや泥棒やかっぱらいに優しい取引方法ですね」

「商取引なら人間族より魔族のほうが進んでいるのか!」

とイリッチが感心したように言った。

「いや、魔族の取引が成立するのは魔族の土地が狭いからです。取引をする全員顔見知りだから成り立つ商取引です。人間族は土地が広いし、知り合いも少なく、物価の相場に詳しくない奴から不当な値段で巻き上げたり、安いだけの粗悪品を無知な奴に売るのが当たり前なので持ち運び式なのです」

と僧侶フョードル。

「結局、タダ働きか。ああ、教えてくれたお礼だ。この小さいの1個持っていっていいぞ」

と戦士アレクセーエフ。

「こ、こんな大金を!?」

「人間族には無用だからな」

「ありがとうございます!」

と60センチほどの円盤を一枚抱えてゴブリン兵は喜んで出て行った。

「なあ、イリッチ。この通貨、俺にゆずってくれないか?」

と僧侶フョードルが勇者に聞いた。

「どうせ俺たちじゃ使えない。フョードルなら魔族の知識もあるし、少しはつかいこなせるかもな。いいよ。全部くれてやる」

「あ、フョードル!魔族から僧侶用武器の『禍々しい杖』を買うつもりね!私も欲しい!魔族の持っている魔法使い用装備の『死霊の短刀』を買うの!」

とマンチリア。

「持っていけ、持っていけ。さすがに死んだ魔王の宮殿に置きっ放しだと、いくらデカくてもギガンテスとかの巨人魔族が持っていくから馬車で運ぶ必要はあるぞ。荷馬車代と積み込み、積み卸しの人夫代はフョードルの自腹だからな」

「もちろんそれでいい」

「じゃあ、帰ろうか。あーあ、疲れたよ」

と戦士アレクセーエフ。

「帰ってメシにしよう。魔王と戦って腹が減った」

と勇者イリッチ。


________________________


1年後。

________________________

 

 勇者イリッチと戦士アレクセーエフは宿場町ゴロヴィンの居酒屋で魔王退治で王様からもらった褒美金で酒を飲んでいた。これだけあれば20年は働かなくてもいい金額だ。

「イリッチ、首都メリヴェンスキイに新しい武器屋と防具屋ができたって聞いたぜ」

とアレクセーエフが勇者イリッチに言った。

「金はまだまだあるが、より強い大魔王退治用に切れ味のいい剣が欲しかったんだ」

「俺は鎧兜を新調したい。前の冒険でベコベコに凹んでいるんだ」

「金があってヒマなら旅も悪くない。暇つぶしと気晴らしに出掛けよう」

と二人は首都に向かって旅に出た。

「ここが首都メリヴェンスキイか。田舎と違って賑やかだな」

「あ、イリッチ。あの店が武器屋だ」

「よし、行こう。・・・ってアレ?武器屋の店長はフョードルだ!」

とイリッチが叫んだ。

「よう勇者イリッチに戦士アレクセーエフ。久しぶりだな」

と元僧侶のフョードルが二人を見つけた。

「僧侶から商人に転職したのか?」

「1年前に退治した大魔王の宮殿にあった魔族用の動かせないほど重くてデカい通貨があっただろ?あれを少し削って持ち帰って錬金術師に分析してもらったら、金属自体が魔力を帯びていて、これで武器を作れば対魔族用の強力な剣や槍といった武器が作れるって聞かされてな。持ち帰って溶鉱炉で溶かして武器を作ったんだ」

「な、何-!?」

「向かいの防具屋の経営者は元魔法使いのマンチリアだ。俺たち結婚したんだよ。あの魔族の通貨のおかげで今じゃ大金持ちさ。魔王退治の褒美金の500倍の儲けさ」

「しまった!あの時に手伝っていれば俺たちにも出来たのに!」

と勇者と戦士は後悔した。


終わり。

登場人物名、呪文は全部ロシア語です。

異世界ファンタジー物の呪文なら、ウィキペディアか百科事典で動物の学術名のラテン語をコピペして使う方がインスタントにお安くそれらしい呪文が出来上がります。(その代わりにネタがバレるとウィキのテンプレコピペ小説と読者に叱られます)

中二呪文は真面目に作ると意外と難しい。漢字に凝りすぎると、昭和時代の暴走族になる。舞台が西洋なら西洋の呪文にしないと世界観が崩れる。中二呪文が使える小説は現代日本が舞台の超能力バトルか、現代日本人学生の異世界転生チート無双小説。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 貨幣、通貨が違うはリアルでありそうですね、 お金、信用、まずは大事ですもの。 [気になる点] 大魔王様も武器防具にすりゃよかったのにね。 いや、自分の身が危ないか。 [一言] あとがきさえ…
[一言] 頭をちょっと使う面白いお話でした。 魔王を倒すとお宝がというのはよくあるパターンですが、そなお宝に捻りを加えてとても楽しく読むことができました。
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