表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中森さんちの異世界生活  作者: 欠席
第1章
7/7

地獄の日々

初日

あの後、いくつか検査を行った。結果を見ながらケネスさんがニヤニヤしてるのがやけに気になった。その後は体力向上ということでひたすら走らされた。吐いた。


二日目

引き続き、ひたすら走らされた。やっぱり吐いた。


三日目

筋力向上ということで、腕立て、腹筋、背筋、スクワット、短距離ダッシュなどなどいくつもやらされた。全身が痛い。


四日目

魔力向上ということで、よく分からないアーティファクトにひたすら魔力を込めさせられた。魔力欠乏で何度も意識を失う。


五日目

戦闘訓練ということで、様々な武器で基本の型を少しだけ教えてもらい、その後はひたすら素振りをさせられた。腕が上がらないし、指に力が入らない。


六日目

五日目までのトレーニングを全て詰め込まれた。キツすぎる。


七日目

六日目より更にハードになった。限界も近い。宿に帰るとみんな心配そうにしていた。美希にきいてみると、魔法の基礎や発動のコツなど丁寧に教えてくれているらしい。シロの方も、無理のないトレーニングメニューで楽しくやっているとのこと。


八日目

トレーニング前に昨日聞いたことを含め文句を言ってみたがケネスは「俺のは特別だからな」と、あっさりしたものだった。七日目より更にハードになったことは言うまでもない。死んでしまう。


九日目

トレーニングから逃げようとしたらギルドお抱えのスカウト三名に追われ、あえなく捕まってしまった。八日目より更にハードになったことは言うまでもない。殺されてしまう。


十日目

シャロン、ゲイルに話をするも支部長の決定には逆らえないとのこと。何てブラックなんだ。九日目より更にハードになったことは言うまでもない。あのおっさんいつかブッ潰してやる。


結局、その後も変わり映えしなかった。ひたすらハードになっていくだけの辛い辛い訓練が続いたのだ。宿に帰って家族と話す時間だけが唯一の癒しだった。

なぜか周りが段々と自分を心配しなくなっていったのが引っかかってはいたが…


そして、三ヶ月ほど経過したある日のこと。


「よし、今日からはしばらくシャロンのところにいけ」

「また急な…何でまた」


それなりに長い期間、文字通り毎日顔を合わせていれば気安い関係にもなろうというものだ。もうすっかり敬語など抜け落ちていた。


「まさかここまで脱落せず着いてくるとは思わなかった。倒れて動けなくなって寝込んだら魔法講習に回すつもりだったんだが、思った以上に丈夫だから楽しくなってきてな。つまり忘れてた。はっはっは!」

「マジか…てか、だったら一度脱走した時にそうしてくれよ」

「まだあの時は逃げる余裕があったろ?」

「まぁ…本当にヤバイ時は逃げるって思考にならんし。結果としておっさんのシゴキには慣れたのかな…」

「感謝しろよ?」

「したくねぇ…」


正直に言えば、戦い方を教えてくれたのがケネスであることは間違いなく僥倖だった。複数の武器に格闘まで上級スキル持ちなのは伊達ではない。


彼が扱うのは自身の豊富な実戦経験から生まれた "命を確実に刈り取るためのもの" であり、合理性を追求した戦闘技術と言える。物騒だが、この世界で生きていくためには必要なことだ。

また、身体操作を最重要とするものだったため、何にでも応用が利いた。

無駄が無くなるので体力の消費も抑えられるし、武器が変わってもその特性さえ掴めればある程度は扱える。


毎日体力を限界まで奪ってから身体操作を教えていたのは、その方が身体が本能的に無駄を省いた動きをするからなのだろう。


そんな技術を惜しげも無く教えてくれたケネスには感謝しなくてはいけないと思う。


…だけどいつかぶっ飛ばしてやる。ブラックなトレーニングなのは確実だ。

まぁ、現状では明らかな実力差があるから無理だけどさ…


「ま、しばらく俺みたいな無茶はさせないだろうさ」

「無茶だと分かってるなら自重したらいいじゃないか」

「それじゃ意味ねぇだろ?」

「まぁ、そうだね…じゃあとりあえずシャロンさんのとこ行くけど、場所は?」

「受付で待ってるからとりあえずそこに戻れ」

「りょーかい」


----------


「ヤスヒロ殿、申し訳ありませんでした…」


受付で合流し、移動しているとシャロンから突然の謝罪を受けた。


「え、何がです?」

「支部長を止められなかったことです」

「あぁ、別にシャロンさんが謝ることではないですよ」

「ですが、相当辛い訓練だったはずです」

「あー、ええ、それはもう…」


はじめの二週間は毎日吐いてたもんなぁ…

段々慣れていったけど筋肉痛は常時あったし、魔力枯渇で意識は朦朧とするし、酷いもんだった。


「ま、いつかあのおっさんをぶっ飛ばしてやろうとは思います。でも同時に感謝してますよ」

「支部長の指導を乗り切った方は大体同じ事を言いますね…はぁ…」

「得るものが大きいですからね。そうなると思いますよ。あの人に成長した姿を見せるには戦って勝つのが一番いいって分かってるからじゃないですかね」

「そういうことを皆さんが言うから止められないというのもあるんですが…」

「見込みがある人間にしかやらないんだと思いますし、いいんじゃないですかねもう」

「私その度に始末書を書いてるんですけど」

「またまた。やらかしてるのはあのおっさんなんだから、本当に嫌なら本人に書かせればいいじゃないですか」

「う…まぁそれはそうなんですけど」

「そんなことより早速魔法を見せて下さいよ。楽しみにしてたんです」


やっぱり異世界の醍醐味と言えば魔法だよね。ケネスのおっさんは結局見せてくれなかったし、見る機会も気力もなかったし。


それに、俺の固有スキル、魔法の才能と魔の深淵がどういう効果を発揮してくれるか…


「じゃあ、まずは基本のファイアーボールを」


シャロンが杖を少し前に傾けるとその先に10センチほどの火の玉が現れた。


「おおぉ…本物だ」


「基本の魔法で驚いて貰えるとやり甲斐がありますね。ミキさんも大興奮でしたよ」

「夫婦してオタクだったので」

「オタク…?」

「すみません、気にしないで下さい」

「…?で、では少し動かしてみますね」


火の玉がくるくると杖の周りを回っている。


さて、じゃあ魔の深淵を使ってみよう。魔法の解析が出来るんだよね。


「うおっ」


念じると同時に目の前に自動でウインドウが起動した。何だこれ…コードエディタ?


「このように魔力を操ることで火を発生させたり動かしたり出来るわけですね」


…ウインドウが気になってせっかくの魔法の実演なのに集中出来ない。


とりあえずこのエディタが魔の深淵から出現したものなのであれば、これで解析が出来るってことなのか?


あの火の玉をエディタに格納出来ないかな…って、出来た。コードが表示されてる。


「えーと、続けていいですか?」

「あ、はい、すみません」


いかんいかん、集中しよう。


「ちなみに、複雑な操作をしようとすると知力の数値や魔法スキルのレベル、後は個人の資質や技術が必要になってきます」

「個人の資質や技術、っていうのは?」

「同じ知力、スキルレベルでも人によって得意な操作は異なってきます。簡単な例ですと、一発の威力を上げるか、複数に分けるかという違いですね」

「なるほど」


つまりはみんなが感覚でやってることを俺はこのエディタで可視化出来るということか?


よし、今読み込んだコードを編集…どうやるんだ?いや、もう多分念じればいけるんだろ。


消費魔素であろうManaを10から5に変更。

移動のさせ方であろうMoveメソッドの引数のうちMoveTypeをCircleからSquareに変更し、設定されていなかったLoopCounterを新たに5に設定してみる。


やっぱり出来た。んー、typoもしないし楽だけどどういう仕組みなんだろうこれ。まあいいか。


で、実行。


「お、出た」


さっきの半分ほどの大きさの火の玉が出現し、正方形を5回描いて消失した。


魔法の出現ポイントはそこと意識した場所になるらしい。


うーん、戦闘中に魔法を作るのは無理そうだな。あらかじめいくつもモジュールを作っておくのが無難な気がする。


「な、ななな、何ですか今の!?」


シャロンが驚いている。


「何、といいますと?」

「今、魔法使いましたよね!?」

「まぁ、はい」

「見ただけで再現、しかもカスタムしてましたよね!?」

「そうですね」

「そうですね、じゃないですよ!どうなってるんですか!?あ、もしや、実は既に魔法を使えたとか!?」

「いや、初めてです」

「初めてでそんなこと出来る人いませんよ!」

「ここにいますが」

「だから驚いてるんです!」

「異邦人だから、ということでここはひとつ」

「じゃあもう教えることないじゃないですか…」


うーん、それはそれで困る。可能な限り見せてもらってコピーしたい。フルスクラッチで書いてもいいけど面倒だ。


魔の深淵については説明するか?少なくともケネスのおっさんは信用に足る人物ではあるし、懐刀であろうこの人も流石に大丈夫だろうとは思う。


「はぁ…ミキさんと同じくとんでもない固有スキル持ちとかそういうことなんでしょうか…」

「え?」

「ミキさんが固有スキルを複数お持ちだということは聞きました。ヤスヒロさんもそうだと。何のスキルかは聞いてはいませんが」


何で話しちゃうかな…悪意感知に引っかからなかったからってことか?

まぁいいや。元より美希の勘は当たるし、美希が信じるなら大丈夫だろう。


「…固有スキルに "魔の深淵" というものを持っています。スキルレベルがあり、レベルの上昇に伴って魔法の効果が増し、消費魔力が減ります」

「聞いたことのないスキルです…」

「また、魔法を解析し、自在にカスタマイズ出来ます。どちらかといえばこの解析とカスタムがこのスキルの真価だと思っています」

「自在にカスタマイズ出来るって…修練なしに自由に魔法を生み出せるってことですか?」

「まだどこまで出来るのかは試していませんが、見た魔法がどういうものか、どうしたらカスタム出来るのか、というのは今分かりました。まず間違いなく作ることも出来ます」


細かい説明しても分からんだろうし、スキルレベルで出来ることが増えていく可能性もあるけど、まぁざっくりこんな感じだろう。


「…何てうらやましい!」

「はい?」

「魔法職なら誰もが欲しがるとんでもスキルじゃないですかぁぁ!!いいなぁぁぁ!!」

「なんかすみません」

「私も異邦人になりたいな…ミキさんから聞いたマンガっていうのも読んでみたいし…」


そこはかとなく漂うヲタ臭。美希が話した理由が分かった。多分同志認定したんだな。


「あのー、戻ってきてもらえます?」

「え?あ…コホン。し、失礼しました」

「今更そんなすまし顔されましても…」

「う…」

「大丈夫ですよ。美希もそんな感じですし」

「あ、そうですよね。じゃあもういいかぁ」


その後、とりあえず基本の魔法を見せてもらいカスタマイズやったり、エディタそのものに対しても色々念じてみたところ、分かったことがいくつかある。


まず、ヘルプ機能やオブジェクトブラウザらしきものが存在する。これはありがたかった。しかも用例まで参照出来る。参考書が組み込まれた開発環境と言っていい。かなりの親切設計だ。


そして、一度作成した魔法は念じるだけで実行される。


また、魔法そのものをコピーして増やすことも削除することも出来た。


ちなみに作成した魔法をストック出来る上限は不明。というより、倍々にコピーして128個になったところでやめた。そんなにストックしても使い分けられる気がしないから無意味だし、捨てることも出来るから上限は考えなくて良さそうだ。


後は…機能解放されていないけど作成した魔法を魔石として出力出来るようだ。これを使えば他人に魔法を譲渡出来るらしい。かなり使えるスキルだと思う。


うーん、魔法の開発が趣味になりそうだ。


ちなみにこれを作ったのは神らしい。ヘルプの中に、よく参考書の最初の方にある著者挨拶のようなものが入っていた。それによると作者への要望も受け付けているらしい。俺しか見えないからって好き勝手やり過ぎではないのか…?


でもまぁ、神とのコンタクト手段が見つかったのは助かる。とりあえず全然関係ない要望でも送ってやろう。


ちなみに俺が色々試してる間、シャロンは興味深そうに俺を観察していたが、何をやってるか見えないからか途中から魔法の開発を始めた。私も新しいのを開発したいとか何とか。


こんな便利スキルもらっといてそんなこと言うのも何だけど、実は感覚だけで魔法を作れるこの世界の人達の方が凄いんじゃないだろうか。職人芸というか何というか。


そういえば忘れてたけど、どの属性魔法に適性があるかを測定する道具もあったらしく念のため測定したところ、治癒術を除いてどの属性にも高い適正があるとのこと。


美希は闇属性の適正が全くなく、治癒と光が最適性で後は使えなくもないということらしい。

本人は回復とお掃除さえできればそれでいいとのことなので満足している模様。


シロは闇に適正があり、風と土がそれなりに使えるらしい。


咲良は測定するのが怖いのでやってないとのことだけど、やらなくていいです。また道具壊してもやだし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ