地獄の始まり
長らく空きました。仕事が忙しいという言い訳だけさせて下さい…
「やー、それにしてもご愁傷だなヤスヒロ」
楽しそうだが、若干の憐れみを孕んだような目をするリック。
「と、いいますと?」
「明後日から地獄のような毎日が待ってるぞ。あのおっさん容赦ないからな」
「脅さないで下さいよ…というか、何故に明日ではなく明後日からなんですか?」
「確か、初日は測定だからな。そこで限界を見極められて、翌日からは常に限界まで追い込まれるって感じだな」
「なんか、随分詳しいですね」
「経験者は語るってやつだ。ま、頑張ってくれ。幸運を祈るぜ。ちなみに死ぬことはないから安心しな」
そう言って、リックは遠い目をした。
「…嫌な予感しかしないですが…まぁでも、せっかく経験豊富な人に鍛えてもらえるチャンスですし、切り替えてありがたく享受します」
「おう、頑張れや。ちなみに逃げ出す奴の方が多いからな」
「なんでワザワザ心を折りにくるんですかね」
「ははは、ま、お前さんは大丈夫なんじゃないか?異邦人なんだしな」
「どうですかね…訓練なんてしたことないですし」
「訓練したことがない、って…お前さん、どんな暮らしをしてたんだよ」
「いや、僕らの世界…というか僕のいた国では訓練を受けてる方が珍しいです。治安は良かったですから。武器を持ち歩くなんて許されないし、それが当たり前でした。ナイフを携帯するだけでも警察…えーと、要は国が保有する治安維持組織に捕まりますし、他人に暴力を振るったら法で罰せられます。ちなみに、戦争なんてものも無縁でした。だから、人々が武器を持って歩いてるこの状況の方が違和感がありますね」
「へー…それが本当なら、いい世界だな」
「どうでしょう。直接殴ったりはしないけど、大勢で一人を寄ってたかって精神的に追い詰めるようなことは多かったですが」
「いやらしいな」
「ええ、そうですね。しかも上の立場の人間まで見て見ぬ振りをしたり、酷い時は攻撃の輪に加わって一緒に詰ったりします。追い詰められた人はそのまま自ら命を絶つようなこともありました」
「その前に戦わないのか?普通、死ぬくらいならそうするだろう」
「一対一ならまだ何とかなるかもしれませんね。大抵のケースは一対多ですから、まず勝ち目はないです。稀に戦う人もいますが、そういう人は爪弾きにされて、組織にいられなくなったりしますね」
「…前言撤回だ。そんな世界、たまったもんじゃない」
「ええ、自分がいた世界ながら、あまり綺麗なところではなかったと思いますよ」
とはいえ剣で斬られて人生終わり、なんてのは避けたいけどね。
「なーなー、父ちゃん、明日俺も一緒に行ってもいいか?」
「え、お前もか?」
「待ってるだけじゃ退屈だ!」
「んー、まぁいいけど…ケネスさんに確認しないとだな」
「旦那様、着きました」
「おっと、ここか」
三階建の石造りの建物には木漏れ日亭と書かれた看板が掛けられている。
「おう、遅かったじゃないか!」
中に入るとドワーフのガンドから声を掛けられた。空いたコップの数から察するにだいぶ飲んでるみたいだけど、あまり酔ってる様には見えないな。やっぱりドワーフって酒に強いのか。
「面白いモンが見られてな。残念ながらアルさんには手出ししない方が賢明ってことが分かったぜ。ケネスのおっさんが負けたんだ」
「ケネスが負けた?」
「ああ、しかもただの負けなんて優しいモンじゃない。まさに赤子の手をひねるって感じだったぞ」
「…なんだって?ハッハッハ!アンタ相当だな、お嬢さん!」
「恐縮です」
「よし、それを肴に飲もうじゃないか。お嬢さん、アンタイケる口か?」
「申し訳ございませんがお酒は遠慮させて下さい。使用人たるもの常に万全の体調でおらねばなりません」
「なんじゃ、つまらん…ヤスヒロ殿、アンタは?」
「いやー、平均的なヒューマンと考えて頂いた方が。それに明日から朝早いですし、あまりたくさんは…」
「真面目だねぇ。さっきも言ったけど明日は問題ないから安心しろって。夜はこれからだろ?」
「私はご飯食べたら部屋に戻るよ。咲良を寝かしつけないとだし。あ、お風呂あるのかな?」
「いらっしゃいませー!お風呂でしたらすぐにお入り頂けますよ!」
「あれ?役所にいた…」
「はい!受付のジニーです!ここ私の実家なんですよ、えへへ」
「実家を斡旋とは…職権濫用だなぁ」
「しょっけ…なんですか?」
「いや、何でも。申し訳ないけど夕飯をお願いします。その後は女性陣はすぐに風呂に入るだろうからタオルとかあれば借りたいんですが、あります?」
「はい、お部屋に準備してあります。鍵はこちらです。お部屋代は出立の日にまとめて頂いてます。お食事代はその都度お支払い頂いてますので、よろしくお願いします」
「分かりました。ちなみに一歳の子の食べ物とか出来ますか?」
「大丈夫ですよ!パン粥と野菜スープを準備しますね!」
「助かります」
「それにしても、妻子連れの異邦人とはの…改めて考えると何とも珍しいな」
「そうみたいですね。普通は一人だとか」
「実際どうだったのかは分からんが言い伝えではそうだな。一人でも大騒ぎなのに三人となったら大変なことだ」
「特に何か出来る訳じゃないんですけどね…異邦人だ、っていうことだけが先行して振り回されそうで怖いなぁ」
「あ、戻ってたんだ?」
「……ども」
サンディとミリィが上の階から降りてきた。そういや買い物に行ってたんだったっけ。
「おう、ついさっきな。お前らは?」
「私たちもちょっと前だよ。荷物を部屋に置いてきただけ」
「んじゃ飯だな。ジニーちゃん、こいつらの分も頼むわ!」
「はーい!」
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しばらくすると料理が運ばれてきた。
「お待たせしましたー!ホロ鳥の串焼きに、サモーナの炊き込みご飯、野菜スープです!ごゆっくりどうぞ!」
なかなか美味そうだ。焼き鳥に、サモーナってこれもう鮭だよな。野菜スープはコンソメっぽい。にしても…
「米あるんだね。勝手にパンだと思ってたよ」
「ホントだよねー。よかったよかった。日本の心だよねぇ」
「昔、異邦人が持ち込んだって話ですよ。お米だけではなく、様々な農法を広めたので、農業の父と言われていますよ」
「へー、そうなんだ」
得意げな表情でそう教えてくれたのはサンディだった。
「なーにを偉そうに。誰もが知ってる話だろ」
「うっさいなバカリック!」
「へーへー、すいませんね」
「堂に入った夫婦漫才だ」
「「誰が夫婦だ(よ)!」」
「さすが息ピッタリ」
「泰弘、私たちもやる?」
「え、なんでよ」
「こっちは実際に夫婦だし、負けてられないよ?」
「争うとこではないと思うの…」
まずは串焼きを一口。いい焼き加減だし、ハーブと塩が効いてて美味い。
「おいしーね、泰弘」
「だね。飯は心配事の一つだったけど、これなら大丈夫だわ」
「異世界転生モノだと大抵こういうシーンで主人公が料理を教えて驚かれたり感謝されたりしてるよね」
「やめときなさいね、そういう発言は。今後実際にそういうシチュエーションもあるかもしれないだろ?」
「…私は料理はパスだよ?」
「じゃあ掃除とか」
「それは頑張る!」
「とはいえ魔法で何とでもなっちゃいそうだけど」
「それはそれで覚えればよし!あ、ねーねーアル、お掃除魔法ってあるの?」
「例えば水を生成して雑巾を洗うですとか、そういった形で掃除に用いているのではないでしょうか。掃除に特化した魔法というのは私が知る限りはないですね。ただ、無ければ作ればよろしいかと」
「魔法って作れるのか?」
「正確に申し上げますと、決まった魔法はないんです。例えば火を生み出し、球状にして飛ばす、という一連の魔力操作にファイアボールと名前をつけています。生成して、整形して、操作する…と基本的な要素が含まれていますので基本の火の攻撃魔法とされています。後は術者がアレンジして、小さく連射する、消費魔力をあげて威力もあげる、追尾する…と、ある意味では無限に派生します」
「それはいいことを聞いた。発想次第か、面白そうだ」
「風、水、火を組み合わせれば大抵のお掃除は出来そうだね。よーし、私もギルドに通って魔法の勉強してお掃除マスターになるぞー!」
「結局みんな行くのか…」
「でしたら私は咲良様のお世話をしております」
「助かる!アルありがとうね!」
「お任せください。…咲良様と二人きり…フフ、フフフフフ…」
「この時ばかりはアブねー奴にしか見えない」
「大丈夫だいじょーぶ、愛故にだよ」
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「うめえ!すげー美味いぞこの肉!」
ふと目をやるとシロはひたすらホロ鳥を食べている。見てるこっちまで幸せになるような食いっぷり。これも才能か。
「落ち着いて食べなさいよもう…」
「だってうめえんだもん!おかわり!」
「ちょっと、あぁもう…こぼしてるじゃない」
で、何故かミリィがシロの世話をしてくれている。いや、リックの表情を見れば理由に察しはつくんだけど。
「リックさん」
「あー、一緒のテーブルを囲ってるんだし、そろそろ敬語はやめようぜ。な?」
「え?あぁ、はい…じゃないか。わかった。ありがとう」
「で、なんだい?」
「からかって楽しむ気だろ?」
「…分かるか?」
「そんな顔してたら嫌でも分かるよ。やめといてあげなね?」
「こんな楽しそうなイベントをほっとけるかって」
「じゃあ俺はリックとサンディの関係を掘り下げてみようかな」
「待て待て待て、何でそうなる。それにアイツとは何もないって」
「ほー」
「いや、マジで」
「何もない割には少し慌ててるし不機嫌になってるじゃないか。な?嫌な気分になるだろ?だからやめといてやってよ」
「う…分かったよ…」
「俺も悪かったよ。すまないなリック」
「ちなみにヤスヒロ、お前歳はいくつだっけ?」
「一応19だよ。リックは?」
「23だ。お前、なんか歳の割に落ち着きすぎじゃないか?」
「まぁ、こっちに来る前は29だったからね。でも今は19だから“一応”19って答えた」
「はぁ?どういうことだ?」
「最初に会った時に死んだって言ったろ?元々の肉体はダメになって、今は別の肉体なんだよね」
「…冗談だろ?御伽噺にしか聞こえないんだが…」
「俺もそう思う。正直、実際にその体験をしてなければただの頭の変な人だよな、こんな話」
「じゃあ、美希さんも?」
「いや、美希は元々の肉体だけど若返った」
「娘さんは?」
「あの子は正真正銘そのまま。ちなみにシロはもともとただの猫だったけどデミヒューマンになった。ま、深く考えるのはやめた方がいいよ。要は19歳の夫婦で1歳の子供と13歳のデミヒューマンの養子がいるってことで」
「…そうだな、ありえないことが沢山ありすぎて訳が分からないしそういうものだと思っておく」
「話が早くて助かるよ」
「理解を放棄したともいうがな」
「それでいいよ。俺もまだ実感ないし」
「…まぁ、とりあえず飲もうや」
「そうね、少し酔おうかな…」
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「かわいい…」
「咲良様の魅力、サンディ様もお分かりになるようですね」
「うん、まるで天使ね」
「…サンディ様。今、何と?」
「えっ?まるで天使、って」
「咲良様を天使程度と比較するなど…言語道断です!」
「えっ?」
「咲良様は主神をも超える存在なのです!」
「えっ?えっ?」
「サンディさん、アルちゃんは咲良を溺愛してるみたいだからあんまり気にしないで」
「溺愛ってレベルなのかな?もはや崇拝してるみたいな雰囲気だけど」
「細かいことは気にしない!」
「えぇ…」
「そんなことより、サンディさんたちは明日からどうするの?」
「サンディでいいよ。依頼もいくつかあるし、しばらくはこの町にいるつもり」
「そっか。じゃあしばらくよろしくねー」
「ええ、こちらこそ。と言っても、日中は依頼で町にいないことが多いんだけど」
「んー、それもそっか。でもまぁ、都合が合えばまた一緒にご飯でも食べようよ。よーし、じゃあ異世界での最初のお友達ということで、よろしくね!」
「うん、よろしく」
そうして、夜は更けていく。
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翌朝、中森家一行はギルドの前に居た。
「…」
「…」
「…」
泰弘、美希、シロの誰も言葉を発することもなく、全員が鋭い眼光でギルドの門を睨みつけている。
「旦那様、奥様、シロ様、大丈夫ですか?」
「…」
「…」
「…」
誰も言葉を発さない。いや、それを拒否しているのだ。
「あの、皆さま」
「…ねみぃ」
「頑張りましょう旦那様」
「まだ早くない…?」
「奥様、元の世界で言う8時です。そこまで早くはないかと」
「zzz…」
「シロ様、起きて下さい。立ちながら寝てはいけません」
中森家は朝に弱いのだ。例外なく全員が。アルが居なければ確実に寝坊していただろう。元の世界にいた頃は目覚ましを数個セットして1時間かけてやっと起きていたのだ。
シロは猫であるため、当然ながら気の済むまで寝るのが日課だった。
そんな三人が問答無用で起こされたら不機嫌にもなろうというものだ。
「明日からは開始時間を遅くしてもらおう。少なくとも後二時間」
「こちらの世界では八刻に始業というのが普通ですので…」
「じゃあこの世界は俺らには合わない!」
「そーだそーだ!」
「我侭を仰らないで下さい。というより、咲良様がいらっしゃるのにこの時間まで寝ていたというのはどうかと思いますよ…」
「そうだね、うん、分かってるよ」
「耳が痛い…」
「オイラ関係ない」
「はぁ…困った方達です。そもそもわたくしは本日お供する予定ではなかったのですよ?さぁ、参りますよ」
ギルドに足を踏み入れると、朝も早いというのにもう活気が溢れている。雑談であったり、今日の予定の確認であったり、どの依頼を受けるかだったり、そんな話をしていたのだろう。
そんな場が一瞬静まった。ほぼ全員が、視線の先に異邦人一行を捉えた。ほんの僅かな時間ではあったが。
「おい、アレ」
「ああ、昨日の奴らだろ」
「何で子連れなんだよ…」
異邦人に加えて昨日の騒ぎだ。仕方のないことだろう。が、やはりどうしたって居辛さは感じるものだ。
ただ、子連れはまぁそら浮くよね。当たり前だけど。そのまま寝ててくれ。
「ねぇ、泰弘。めっちゃ見られてない…?」
「昨日一悶着あったんだし、仕方ないよ」
「腹減ったぞかあちゃん」
「え、気にしてるの私だけ?」
「スキルのせいか、特に気にならないんだよね…これはこれでどうかと我ながら思う」
「オイラよく分かんね!」
「小心者の私にはなかなか辛いなぁ…」
「奥様、今後も同じような状況になることはあるかと思います。徐々に慣れていって下さい」
「がんばります…」
「おう、来たか!」
ケネスがこちらを見つけ歩いてきた。
「どうも、おはようございます」
「んじゃ早速行くぞ。ついて来い」
「支部長、説明もなしに行かないで下さい」
「ん、ああ…じゃあシャロン、お前も来い。測定しながら説明だ」
「はいはい、分かりましたよ。またそうやって段取りを無視するんですね…」
「はっはっは!分かってるじゃねえか!」
「…はぁ…」
「あれ、シャロンちゃん怒ってる?」
「毎回同じことされればこうもなります」
「はっはっは!いい加減慣れろ!」
自由気ままなケネスさんに振り回される職員さんか。大変だなぁ。
「…チッ」
舌打ちしたね、うん。
「ご苦労様です」
「あ…その、失礼しました」
「いえいえ、お察しします。上がああいう人だと大変ですよね」
「分かって頂けますか!?」
「うおっ」
圧が凄い。これは余程苦労してきてるな。
「あの人はいっつもそうなんですよ。今回だって、普段はめんどくさいとか言って新人研修なんかやらないくせに面白い奴がいるからとかで講師の方に別の仕事押し付けて!今回だけじゃないです、毎回毎回予定を無視して勝手に話を進めて!支部長決済が必要な時も任せるとか言ってどっかいなくなるし!あぁもう腹立つ!!!」
地雷でした。
「さて、今日はお前らの能力を測定する。済んだら適正に応じて訓練だからな」
「え、今日は測定だけじゃないんですか?」
「ん?あぁ、リックから聞いたのか。残念ながら訓練もやるぞ。わざわざ日を空ける必要もねぇからな」
「ちょっと、支部長、規定で翌日からとなっているじゃないですか」
「シャロン、俺はそんなことに囚われて無駄な時間をこいつらに過ごさせたくないんだ」
「…あなたが早く訓練に入りたいだけですよね?今回こそは…」
「さ、行くぞ!」
言うと同時に走り出す支部長。
「支部長!待ってください!上に知られたら私がまた始末書書かされるんですよ!」
読んでいたとばかりに追いかけるシャロンさん。
「あれで責任者なんだし、相当な人物なんだろな」
「これで実務もダメなら普通はクビだよね」
「ただのヒューマンにしてはかなり強い部類でしたから、叩き上げなのでしょう」
「あんなにあっさり勝っといてよく言うよ…」
「あの時はステータス以上の動きをしましたので。恐らく彼もわたくしが普通ではないことは分かっているはずですが敢えて追求はしてこないですし、ある程度は頭も切れる人物だと思います」
「非常時だけ大活躍して普段は下に苦労させるタイプかぁ。目をつけられるようなことしてるのもワザとなんだろうな。下は育つけど大変だよね」
「全くです」
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「さて、それじゃあ測定といこうか。まずはステータスを見せてもらう」
「え」
「え、って何だよ」
「スキルとか知られちゃうワケですよね?」
「心配はもっともだが大丈夫だ。スキルは見えないようになってる。純粋にステータスの数値だけ確認する」
「じゃあ、先にケネスさんのを見せて下さい」
「あぁ?仕方ねぇな…」
ケネスが水晶球に触れると光と共にステータス値が浮かび上がる。
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【名前】ケネス・オルドア
【種族】ヒューマン
【力】194
【体】172
【技】185
【速】152
【知】94
【精】143
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「強っ!」
「これでいいか?」
「恐ろしい数値ですね」
「全盛期に比べりゃだいぶ落ちてるけどな」
「ありがとうございます。よく分かりました」
じゃあ"看破"と。
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【名前】ケネス・オルドア
【種族】ヒューマン
【年齢】46
【性別】♂
【職業】重戦士/ギルドマスター
【力】194
【体】172
【技】185
【速】152
【知】94
【精】143
【固有スキル】
剛剣
【スキル】
剣:上級(Lv9)
斧:上級(Lv8)
槍:上級(Lv8)
格闘:上級(Lv6)
武器防御:上級(Lv6)
土魔法:上級(Lv4)
水魔法:中級(Lv5)
精神攻撃耐性
指揮
戦意高揚
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うん、偽装はされてないな。本当に絞られた情報しか出てないみたいだ。実はケネスさんが触った時だけ情報がフィルタリングされるって可能性もあるけど、流石に考えすぎだろう。
「で、先に進めていいか?」
「はい、お待たせしてすみません。俺からお願いします」
「では、水晶に手を」
「はい」
泰弘が水晶に手をかざすと先程よりも強い光を発し、ステータス値が浮かび上がる。
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【名前】ヤスヒロ・ナカモリ
【種族】ヒューマン
【力】33
【体】33
【技】33
【速】33
【知】33
【精】33
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ん?増えてる?
ステータス確認、と。
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【名前】ヤスヒロ・ナカモリ
【種族】ヒューマン
【年齢】19
【性別】♂
【職業】魔闘士
【力】33(30+3)
【体】33(30+3)
【技】33(30+3)
【速】33(30+3)
【知】33(30+3)
【精】33(30+3)
【固有スキル】
武の才能
魔法の才能
不動の精神
魔の深淵
看破(Lv2)
【スキル】
なし
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あれ、見え方が変わってる。スキルがLv2になったからかな。まずは無職脱却おめでとう俺!
で、このカッコは基礎ステータスと補正なんだろう。恐らく魔闘士の職業補正だろうな。
「なんだこりゃ…こんなに揃ったステータス見たことねぇぞ」
「あー、やっぱりそうなんですね」
「にしても、お前何か武術や魔法の心得でもあるのか?」
「いえ、全く」
「だとしたら何もせずにこの数値ってことか。こりゃ楽しくなりそうだ」
「あ、普通の訓練メニューでいいです」
「バカいうな。何のために俺自らやると思ってんだ」
「いや、俺素人ですよ?」
「だからこそみっちりやってやるから安心しろ」
「あ、はい…」
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その後、美希、シロの測定も終わり、それぞれ講師がつきマンツーマンでの訓練を行うことになった。どうやらケネスが手配済みだったようだ。
「それではミキ様は私、シャロンが担当致します。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「君がシロだね。僕が担当のゲイルです。よろしくね」
「おう!よろしく!」
「シロー、目上の人にそういう言葉遣いしないの」
「う、わかったよとうちゃん…」
「ははは、気にされないで大丈夫ですよ。冒険者に上も下もありませんから」
「恐れ入ります」
「あんたいい人だな!」
…シロに敬語は無理そうだな。まぁ、いいと言ってくれているし甘えよう。
「あ、そうだ、ちなみに咲良も試しに測定してもいいですか?」
「ん?別に構いやしねぇが赤子を測定してもまとまな結果なんか出ないぞ?」
「大丈夫です、ただの興味本位なので。咲良〜、おいで〜」
「ぱっぱ!」
「よーし、ほれ、これにおててをかざしてー、と」
カッ!!
「うおっ!」
「何だ!?」
咲良が水晶に手をかざした瞬間に部屋全体に凄まじい閃光が迸り、水晶が粉々に砕け散った。
「何だと…」
「水晶が砕けるなんて今まで起きたことがありません…何という…」
「…アル、どういうこと?」
「あの水晶は潜在能力によって光り方が違いますね。旦那様も奥様も相当な強さの光でしたが、咲良様は規格外だということでしょう。つまりは水晶が測定できる上限を遙かに超えていたということです。流石は咲良様…!」
「うー!」
少しは面白い結果になるだろうとは思ったけど、ここまでエライことになるとは…
とにかく、ここは…
「ケネスさん」
「あ、ああ…何だ?」
「壊しちゃって、すみませんでした…」
「いや、俺も壊れるとは思ってもみなかったからな…予備もあるし別に構わん」
「それは良かったです」
「にしても、何つー潜在能力だ。お前、その子がデカくなったら絶対連れてこいよ」
「それには及びません。咲良様はわたくしが指導いたしますので」
「なんだよ、だったら一度手合わせさせろよな。頼むぜヤスヒロ」
「まぁ…善処します」
「よーし、じゃあ気を取り直して訓練と行こうか」
この日からしばらく、泰弘は死んだ目になるのであった。