早々に無職脱却
「皆様、ラトの町へようこそおいで下さいました。町長のサイゼルと申します」
「こちら、ヤスヒロ様、ミキ様、サクラ様、シロです。わたくしはメイドのアルと申します」
役所に着くや否や応接に通され、そのまま面会となってしまった。慌ただしいなぁ。
「いやはや、驚きました…異邦人の方が四人もいらしたと伺ったもので慌ててしまいまして…申し訳ありません」
「いえ、助かります」
この人が町長か。細面に眼鏡、表情や話し方からは穏やかな印象を受ける。割と若く見えるのに町長ってことはよほど信頼されてるのかな。
隣にいるのは秘書の方だろうか。
取り合えずサイゼルさんを"看破"と。
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【名前】サイゼル・ラト
【種族】ヒューマン
【年齢】38
【性別】♂
【職業】町長/歴史学者
【力】14
【体】18
【技】12
【速】11
【知】123
【精】21
【スキル】
鑑定:中級(Lv3)
古代語:中級(Lv2)
調査:中級(Lv2)
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歴史学者?なるほど、だから色々古そうなものが飾られてるのか。
石板に、あれは古文書かな?随分古びて傷んでいる。あっちは…よく分からんけどなんだろう。人形?やけにあれだけ傷みが少ないな。
「あの、どうかされましたか?」
「ああ、いえ、町長さんとおっしゃるのに随分お若く見えたので。それに、いろいろ古そうなものが並んでいたので気になってしまって」
「ああ、なるほど、以前は歴史学者をしておりまして。前町長だった父が5年前に他界して、私が後を継ぎました。時間のある時は研究もしていまして、今そちらのアーティファクトの調査をしているのですが、これがなかなか難しくて…」
なるほど、学問の方が好きなんだな。こんだけ知力が高いのは研究熱心だからなのかな。
「アーティファクトってその人形みたいなやつですか?」
「はい、つい最近出土したものです。アーティファクトは久々に出たので嬉しくて!…って、すみません…話が逸れましたね」
「こちらこそ不躾にすみません」
「いえいえ、お気になさらないで下さい。父はそれなりに高齢でしたし重い病だったので仕方のないことでした。それにもう5年も前のことです。ところで皆様はつい先程こちらの世界にいらしたとか」
「はい。ですので身分証明書の発行をお願いしたくて。あとはとりあえずギルドに登録をして、これからの身の振り方を考えようかなーと」
「わかりました。アニタ、すまないが担当部署に連絡してくれるかい?」
「はい、町長」
「ギルドにも私から話を通しておきますが、皆さまで行かれますか?」
「というと?」
「荒っぽい者もおりますので、お子様がご一緒されるのはお勧めしかねますね…」
「あぁ…じゃあとりあえず俺だけで行く方がよさそうかな」
「いえ、わたくしも参ります。奥様と咲良様は身分証明書の受け取りのためにお待ち頂くということでいかがでしょうか」
「わかった、そうしよう」
「おいらは?」
「ギルドの登録は成人でないと出来ません。こちらの世界では成人は16からですので」
「じゃあ俺だけでいいか。シロも美希と一緒に待っててくれるか?」
「りょーかいだぞ父ちゃん!」
「何かお困りごとがあればまたいらして下さい。あと、宿をお探しでしたら役所で斡旋しておりますので、一階のカウンターでお尋ね下さい」
「分かりました、ありがとうございます」
「はい、それでは」
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彼らがドアを閉めると同時に、一気に力が抜ける。
「はぁ~…緊張した…」
「大丈夫ですか?」
「いやぁ、まさか異邦人が四人も来るなんて流石に驚いてしまってね」
「そうですね、私も話を聞いた時は驚きました」
「何事も無いといいんだけどねぇ…」
異邦人の伝承や逸話は学者時代にいくつも目にしてきた。
代表的なものとしては古の時代に人魔大戦を集結させた英雄がそうだと言われている。幼い頃に聞かされる、誰もが知っている御伽噺だ。かたやこの世界の文化を激変させるような凄腕の料理人や芸術家だったり、政治や経済を大きく発展させた智慧者の話など、枚挙に暇がない。
共通しているのはいずれも何らかの特別な力を持っていてこの世界に少なからぬ影響を与えた、ということだ。
悪い話は聞かないが、残っていないというだけで悪人がいなかったということではないのかもしれない。真実は現代に生きる我々の誰にも分からないし、もしこれまでがそうでも今回もとは限らない。
それに、放っておいても彼らの存在は誰もが知るところとなるだろう。いずれ取り込もうとする勢力も出てくるかもしれない。早々に公爵家に伝えておく必要があるだろう。
そして、もう一つ…
「町長、どうかされましたか?」
「あぁ、いや、すまない。少し考え事をね。それにしても、あのメイドのアルって人、どこかで見たことがある気がするんだよね…間違いなく初対面なのになぁ」
「はぁ…」
「さてと、公爵家への使者を手配してもらえるかな。さて、いずれにしても、彼らが滞在している間は状況を注視しないといけないね。すまないけど、頼むよ」
「分かりました。手配します」
「うーん、しばらく研究はお預けかなぁ…」
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応接室を出て、階段を降りていく。
「とりあえずは大丈夫そうかな」
「そうですね。問題ないかと」
「大丈夫って何のこと?」
「町長が碌でもないヤツではなさそうってことさ。ひとまずは安心して良さそうだし、しばらくはこの町に滞在できそうだ」
「そっか、面倒なことになりそうなら別の町に行くことも考えないとか」
「んだね」
「それでは身分証明書の発行手続きと、宿を探しましょうか。一階のカウンターですね」
役所の一階はそれなりの人数で賑わっている。受付も忙しそうだ。
「んー、待ちそうだね」
「仕方ありません、後にしましょうか」
「あの、異邦人の皆様ですか?」
「はい?」
「すみません、いきなりお声がけして。私、受付のジニーと言います。皆様のご案内を担当いたします。よろしくお願いします!」
明るくて活発そうな子だな。とりあえず待たずに済みそうだ。
「ああ、それは助かります。じゃあまずは身分証明書の発行をお願いします」
「はい、ではこちらの水晶に手をかざして下さい!」
「手をかざすだけでいいんですか?」
「はい!」
よく分からんけどやってみるか…
「うおっ」
手をかざすと水晶が光を発し、見慣れない文字が浮かび上がってきた。あ、でも読める。こういうことか。
「なるほど、手をかざした人の情報が出るのか」
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【名前】ヤスヒロ・ナカモリ
【種族】ヒューマン
【年齢】19
【性別】♂
【職業】なし
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「はい、これで登録完了です!」
「ステータスの基本情報が出るのか」
「いやー、すごいね泰弘。知らない文字なのに本当に読めるよ」
「気持ち悪いよなー、この感覚」
「どんどん登録しちゃいましょう!お次の方どうぞ!」
「じゃあ次は美紀と…」
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「はい、これで登録完了です!身分証明書は今作成しておりますので、すこしお待ち下さい!」
「じゃあ、後は宿の手配をお願いします」
「いえいえ、大丈夫です。お部屋はいかがいたしましょう?」
「二人部屋を二つお願いします。あんまりお金もないのでそこも考慮してもらえると…」
「わかりました、手配しますね!」
「じゃあ、美紀は咲良とシロはここで待ってて。行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい」
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役所を出てアルの案内に従って歩き始める。
「さっきサイゼルさんが言ってたアーティファクトって何?」
「神話の時代に作られたアイテムの総称です。一度世界が滅びかけたのでほとんど残っておりませんが、稀に遺跡などから出土するようですね」
「ほとんど新品みたいに見えたけど」
「先ほどのものは3000年ほど前に作られた子供向けの玩具です。乱暴に使っても大丈夫なようにコーティングしているのでそのためですね。ちなみに量産品です」
「サイゼルさんには伏せておきたい事実だな…」
「すでに失われている上に今の技術とは天と地ほどの差がありますので、研究する価値は十分にあるかと。さ、着きました。こちらです」
中に入ると役所とはまた違った賑わいを感じる。冒険者ギルドというだけあって和やかさはあまり無いな。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご依頼でしょうか?」
「いえ、冒険者登録をお願いします」
と、その瞬間、笑い声が上がった。
「お前みたいなヒョロいのが冒険者になるってかぁ?」
「まぁまぁ、勘弁してやれよ。…にしても隣の女、上玉だな」
「なぁ姉ちゃんよ。俺らと遊ぼうぜぇ」
「ちょっと!ここでのもめ事は困ります!」
「うるせえ!」
おお、お約束のイベント。ちょっと感動。
「旦那様、黙らせましょうか?」
「いや、いいよ。早く登録しちゃおう」
「おい、てめぇいい度胸だな…俺らを無視出来るとでも思ってんのか?」
「あーあー、怒らせちゃったなぁお前…早く謝ってその女を置いていった方がいいんじゃないか?」
「もう!支部長を呼んで!早く!」
周りの冒険者は我関せずか。まぁ進んで揉め事に首突っ込むやつはいないよね。
にしても、普段ならこんな筋肉ダルマに絡まれたら震え上がっちゃうだろうけど、"不動の精神"のおかげかなんも感じないなぁ。てか後ろの奴もそこそこヒョロいだろうに。性格悪そうな顔してるし…てか目ぇほっそいな。
とりあえず"看破"でステータス見とくか。
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【名前】マルケー
【種族】ヒューマン
【年齢】19
【性別】♂
【職業】戦士
【力】45
【体】48
【技】25
【速】32
【知】3
【精】5
【スキル】
片手斧:下級(Lv4)
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【名前】ベック
【種族】ヒューマン
【年齢】19
【性別】♂
【職業】魔術師
【力】15
【体】12
【技】15
【速】24
【知】51
【精】46
【スキル】
火魔法:下級(Lv3)
土魔法:下級(Lv1)
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タメかよ!どっちも老け顔なんだなぁ…特に筋肉の方なんかどう見たって30代後半じゃん。実は苦労してんのかな…
にしても、このステータスでアルに絡んでは彼らが危ない。止めなくては。
「あのー、すみません」
「は?文句でもあんのか?」
「彼女を誘うのはやめた方がいいかと…」
「てめぇ…ナメてんのか?」
「いや、そういうことではなく、あなた方に身の危険があるので…」
「あぁ!?ふざけてんじゃねぇぞ!?」
「旦那様」
「アル、ちょっと待って。落ち着いて」
「お、なんだねぇちゃん、俺と来る気に…」
「仕方がありませんね」
「あ?」
『黙りなさい』
それほど大きくはないのに、驚くほどよく声が通った。それは周囲の誰もがそのようで、その瞬間に空気が変わった。
静寂、全身が凍るような寒気
「ちょ、ちょっと待ってくれ、悪かった…」
「す、すみませんでした…」
圧倒的な存在感
「た、たのむ、許してくれ…がっ…」
「あぁ、ああぁ…」
これは…何をしてるんだ?普通じゃないぞ…
「は、ぐっ…」
「あ、ひゅっ…」
いかん、呼吸がおかしくなってる。流石に止めないと。
「何の騒ぎだ!!!」
怒号とともに筋骨隆々とした壮年〜中年くらいの男性が姿を現した。
止まった時が動き出したかのように一人、また一人と動き出す。
筋肉と糸目は涙を流しながらその場にへたり込んで…あ、漏らした。きったね。
「支部長、こちらです!」
「俺のシマで喧嘩とはいい度胸だ!どこのバカだ!!」
この人が支部長か。すげー声だったなぁ。
てか喧嘩じゃないんだけど…
「ところでさっきの何したのよ」
「"威圧"です。いい薬かと思いまして」
「スキルってすげーんだな…」
「残念ながら旦那様には効果がないようですから、ご安心下さい」
「残念て何よ、残念て」
「ふふっ」
「…お前らか?」
小声でアルと話していると、支部長に話しかけられた。
「えーと、すみません、騒ぎにしてしまって」
「降りかかった火の粉を払っただけでございます」
「…とりあえず俺の部屋に来い。おい!そいつらはとりあえず地下にブチこんどけ!ったく、きったねぇな…ちゃんと掃除しとけよ!」
「承知しましたぁ!…うう、やだなぁ…」
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「さて、ようこそ異邦人殿。俺がこのギルドの支部長をやってるケネスだ」
「あ、俺が異邦人ってわかるんですね」
「黒髪なんてこの世界にはそういねぇからな。異邦人か、その子孫くらいのもんだ」
「ああ、そういえばそうでしたね」
「で、登録がしたいんだろ?職業は何がいい?」
「…さっきの事は聞かないんですか?」
「あのバカ共は前から色々あってな。むしろ助かった」
「はぁ…そうですか」
「俺としちゃそっちのねーちゃんの強さが気になるわな。ハッハッハ!」
「あなた様もかなりの使い手とお見受けします。まさか相殺されるとは思っていませんでした」
「はっ、ねーちゃんには勝てそうにねぇけどな。まさかあんなレベルの"威圧"を使えるヤツがこんな田舎にいるとは思わなかったぞ。しかも相当手加減してやがったな?」
「あの程度で呼吸を乱すような輩です。全力では命を奪いかねません」
「言うねぇ…是非一度手合わせ願いたいモンだ」
「一度だけでしたらお受け致しましょう」
「お、そうこなくちゃ!よし…って、そうだ、お前名前は?」
「泰弘です」
「よし、じゃあヤスヒロ、就きたい職は何だ?」
「そもそもどんな職業があるのかよく分からないので…」
「あー、そうかそうか、まだこっちに来て間もないんだったな。おい!アレ持ってこい!」
「はい!ただいま!」
「アレって?」
「職業適性を見る道具だよ。役所で登録した時に使った水晶と同じようなモンだ。出てきた中から選んでくれりゃいい」
「便利だなぁ」
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「さて、これがその水晶だ」
「見た目は一緒なんですね」
「詳しいことは知らんが、同じような技術で作られてるって話だ。まぁいいからサッサと済ませようぜ。俺は早くそのねーちゃんと打ち合いてぇんだよ」
「雑にならないで下さいよ…まぁいいや。よっと」
青い光とともに文字が浮かび上がる
「おいおい、多過ぎんぞお前…」
えーと、戦士、剣士、双剣士、槍士、斧士、弓士、格闘家…っていくつあんだよこれ…
「異邦人は普通じゃねえとは聞いていたが、なるほど、納得だ」
「にしたって、多すぎて困りますね。一個一個見てくだけでかなり掛かりそう」
「あー、大丈夫だ、これにしろ」
「ん?何かいいのあります?」
ケネスが示したのは…魔闘士?
「なるほど、いい判断ですね」
「だろ?」
「いや、サッパリ分からんのですが…」
「特殊職でな、なかなかお目にかかれない。俺もかなりの数の冒険者を見てきたが、その職の適性があるやつは少なかった。特徴としては、魔力で身体能力を上げられるってとこだな。しかも魔法も使える」
「へー」
「武器に得手不得手はない。お前の場合はどれでもどの武器にもどの属性にも適性があるから、特化した職業よりはそちらの方がいい。戦闘職では魔法、魔法職では戦闘にマイナス補正がかかるものもあるが、魔闘士はマイナスがない。そのかわり大幅なプラスもないんだがな。まぁ器用貧乏といってしまえばそうなんだが、全てのステータスが高水準なら話は変わる。単騎で戦況を変えることも出来るってわけだ。どうせ異邦人なんだから普通よりは強くなんだろ。ってことでこれにしとけ」
「へー。マイナスが無いってのがいいですね。それにします」
「よし、決まりだ。さーて、んじゃ練武場に行くぞ。付き合えよねーちゃん」
「えーと、妻と子を待たせてるんですが…」
「何?なら迎えを出す。腕も立つし信頼出来るヤツを用意するから心配はいらんぞ」
「あ、そうですか…」
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「よし、ミキさん、ここがギルドだ」
「へー、こんな感じなんだ。なんか雰囲気暗いね」
「そうなんだよなー。こんなんじゃ女性は入りにくいってずっと言ってるんだけどな」
「あれ、リックさん?」
「よう!思ったより早く再会したな!」
「なんだ、お前ら知り合いなのか?」
「ええ、さっき町の入り口で」
「うー!」
「あぁ、咲良様!会いとうございました!」
「1時間も経ってないじゃないか」
「時間の長短ではございません。お傍に居られるかどうかが大事なのです」
「ああ、そう…」
「さてと、じゃあ行くぞ」
「せっかくの咲良様との再会を…仕方ありません、すぐに終わらせて差し上げましょう…!」
「何かあるのか?」
「ケネスさんとアルが手合わせするんですよ」
「はあ?何だってそんなことに」
「んー、まぁ色々と」
「何だかよくわからんが、ケネスのおっさんが手合わせするなんざ見ものじゃないの。俺も行くぜ」
「何か嬉しそうですね」
「あのおっさん、昔は凄腕の冒険者だったからな。勉強させてもらうさ」
「へー」
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「ここが練武場だ。頑丈に作ってあるからそれなりに暴れて問題ないぜ」
「なるほど…床や壁は全て黒鬼岩、しかも魔法でも強化しているのですね」
「その通り。流石だなねーちゃん。一目で分かるか」
「それほどでも。さて、それでは…」
そういうと、アルは腰に下げた剣を抜いた。流麗な動き、寸分の無駄もないように見える。まるで舞を踊るようだ。
「おい、ヤスヒロ…アルさんって何モンだ…?」
「えーと、話せば長いからまたの機会にしましょう」
天使なんて言えるわけないしなぁ。それにしてもアル、あの剣いつ用意したんだろ。さっき持ってなかったよなぁ…
「相当だな、ねーちゃん…」
ギルド長は片刃の大剣を担ぐように構えた。対峙するもの全てをねじ伏せると言わんばかりの圧力を感じる。
「いつでもどうぞ」
「余裕じゃねぇか…じゃあ遠慮なく行くぞ!!」
ケネスさんが踏み込んだその次の瞬間、アルが首元に剣を突きつけていた。え?何が起きたんだ?全く見えなかったんですが。
「…参った。まさかこれ程とはな…」
「恐縮です」
アルは目を閉じ、静かに剣を納めた。たったそれだけの動作にも洗練された美のようなものを感じた。
「アルさん…アンタ何者なんだ?ケネスのおっさんが手も足も出ないなんて…」
「中森家のメイドでございます」
「…いや、そういうことじゃなくて…」
「ハッハッハ!とんでもねぇメイドもいたもんだ!」
「ですよねー」
「よし、ありがとなねーちゃん。いい経験になったわ。んで、ヤスヒロ。お前は明日からしばらくギルドに来い。ギルドが開くのは八刻だから遅れるなよ」
「はい?」
「ギルドでお前を鍛える」
「え、なんで?」
「魔闘士なんておもしれぇ職業を逃すわけねぇだろ」
「お断りしま「ダメだ。来なかったら迎えを寄越すし逃げてもギルド専属のスカウトを全員放ってでも捕まえる」
「いやいやいや、ほら支部長様の貴重な時間をそんなことに割いて頂くなんて悪いですし。」
「本人がやると言っているんだ。問題ない」
「それに…そう!仕事してお金稼がないと家族の生活が!」
「大丈夫です、旦那様。私が適当に仕事を片付けおきますので」
「ちょ、裏切るの!?」
「彼から学ぶことは多いと思いますよ。今後に必要です」
「正論はやめて!」
「よーし、決まりだ。みっちりやるから覚悟しとけよ!ハッハッハ!」
「マジか…だいたいこういうのって薬草採集の依頼とかから始めるモンじゃないのかよ…」
「今どきそんな依頼ねぇよ。いつの時代の話だ」
「え、なぜ」
「栽培してるに決まってるだろ。もし採集の依頼があったら相当特殊なモンが対象になる。最低でもBランクからだぞ。ちなみにお前ら新人はFランクからのスタートだ」
「ぐぬぬ…」
「諦めろ、ヤスヒロ。逃げられん。そういう人だ」
「分かりましたよ…明日からよろしくお願いします」
「よし、んじゃ俺は仕事を片付けるからここでな」
そう言って、ケネスは練武場を後にした。
「さーて、俺たちも行きますかね。あ、そうだ、お前ら宿は?」
「えーと、美希、手配してもらえたんだよね?」
「うん。南東区画にある"木漏れ日の宿"ってとこだって」
「お、同じとこじゃねえか。じゃあこのまま一緒に宿まで行こうぜ」
「ええ、じゃあ行きましょうか。ちなみに他の皆さんは?」
「サンディとミリィは買い物、ガンドは先に宿で飲んでるよ」
「まだ外明るいのに…」
「ははは、そうだな。まぁドワーフはみんな酒好きだからな」
他愛ない話をしながら、俺たちは揃って宿に向かうことにしたのだった