チュートリアル的な?
光が消えた。どうやら小屋の中のようだが…
「えーと、ここは?」
「はい、旦那様。ここは中央大陸西部にあるアリティア公国の外れの森の中にある小屋でございます。アリティア公国は中央大陸最大の国であるグランクライス王国の従国で、公爵であるルイーゼ・アリティアは名君で知られています。皆様はこの世界では異邦人と称されますが、公国は異邦人に非常に好意的ですので、転移先としては最適かと」
「なるほど、ちなみにグランクライス王国ってどんな国でしょ?」
「先ほども申し上げました通り、中央大陸最大の国家です。経済の中心地ですね。現国王は大国の王に恥じぬ傑物です。特に政治手腕、外交においてはこの世界では類を見ないかと。ただ、もう高齢のため後継者争いが水面下で進んでいます。第一王子は非常に野心的で、あまり能力が高いとは言えません。我欲のために皆様の力を取り込もうとしてくるかもしれません。その点は多少ご留意ください。第二王子は能力はあるのですが争いを好まない穏やかな人物のため、王に向いているかというと難しいところです。第三王子は所謂放蕩息子という噂ですね」
「ありがとうございます。さてと、これからどうしようかな。この小屋は自由に使っていいんですかね?」
「いえ、こちらは個人のものというよりは森仕事をするものが共用で使うものですので、長期滞在は難しいかと。まずは近隣の町に行って役所で身分証明書を発行してもらいましょう。後はお金の問題もありますし、ひとまず冒険者ギルドへ登録して当面の仕事を探してはいかがでしょうか。神からお渡しした換金アイテムはそれほど高価なものではないので、いつまでも持つものではございませんし」
「了解です。じゃあアルテアさん、案内をお願いしてもいいですか?」
「かしこまりました。…それと旦那様、あるとお呼びください。そして敬語は不要です。わたくしは中森家にお仕えするメイドですので」
「いやー、普通の生活をしてきた小市民なのでメイドとかそういうの慣れないんですが…」
「そうだね、普通の人はメイド喫茶くらいだよねー」
「この世界でメイドに敬語を使う方はおりませんので、大変かとは存じますが慣れていただくしかございません。それに、アルテアと呼ばれるのは流石に不味いのです。わたくしを信仰する国もございますので」
「あー…それはまずそうですね」
「メイドさんだと思うからいけないんじゃないかな。友達ってことでいいんじゃない?」
「あぁ、それは確かに」
「そういうことで、改めてよろしくね、アルちゃん」
「はい、よろしくお願いいたします」
「おいらもよろしくな!」
「ええ、シロ、よろしくね」
「うー!」
「はいっ!咲良様!よろしくお願いいたします!!」
きゃっきゃっ
うふふふふ
「うーん、すごい人なんだろうけど咲良が絡むとアレだね」
「そうだねぇ…好いてくれるのはとてもありがたいんだけど」
「父ちゃん、腹減った!」
「ああ、そうか、シロ何も食ってないのか。とりあえず移動前に腹ごしらえかな。アル、何か食べ物は?」
「収納袋に数日分は入っております」
「ほうほう」
手を入れようとすると収納袋からウインドウが浮かび上がり、内容物が表示された。
「うお、びっくりした」
「へー、中身が確認できるんだ。すごいねこれ」
「無駄に凝ってるなぁ。で、食料は…とりあえずサンドイッチと水でいいか。だけど、シロこれ食って大丈夫なのか?」
「シロはデミヒューマンになっていますからヒューマンと同じものが食べられますよ」
「そうなんだ、そりゃよかった。ほれ」
タップで取り出せるってのもすごいな。現実感の欠片もないけどこれが今の俺らには現実なんだよなー。
「ありがと父ちゃん!…うめぇ!父ちゃんいつもこんなに美味いもの食ってたのか!」
「いつもキャットフードだったもんなぁ。すまんね」
「あれはあれでイケるぞ!毎日ご飯があるだけで幸せだったしな!」
「あー、拾ったときガリガリで死にかけてたもんなお前」
「それに、おやつのちゅー…」
「それ以上はやめるんだ、シロ。固有名詞は色々と良くない。さて、美紀も食べようぜ」
「そうだね。…あ、タマゴサンドおいしい」
「高級感あるなーこれ。流行りのカフェで売ってそうなクオリティ」
「お気に召して頂いたようで何よりです。作った甲斐がありました」
「え、これアルが作ったの?」
「はい。申し上げました通り、料理もお任せ下さい」
「すげー。プロだなぁ」
「よかったー、料理はお任せしよっと」
「お、おう…」
「なに?」
「いえ、何でも…」
「料理してるのいっつも父ちゃんだもんな!」
「…何か言った?シロ」
「…い、いや、何でもないよ母ちゃん…目が怖いよ…」
さて、今のうちに簡単な確認をしておこうかな。
「アル、自分のステータスってどう見るの?」
「念じれば目の前に表示されますので、お試しください」
「スキルはどうやって使うの?」
「同じく念じれば使用できますが、慣れれば無意識にでも発動出来ますね。まずは対象のスキルが発動するように意識してみて下さい」
じゃあまずは自分のステータス、と。
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【名前】ヤスヒロ・ナカモリ
【種族】ヒューマン
【年齢】19
【性別】♂
【職業】なし
【力】30
【体】30
【技】30
【速】30
【知】30
【精】30
【固有スキル】
武の才能
魔法の才能
不動の精神
魔の深淵
看破(Lv1)
【スキル】
なし
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「お、出た出た」
うーん、比較対象がないから強いのか分からんけど、とりあえず確認は出来た。
てか年齢が19ってなんだ。俺は29だぞ。
あとこれ、職業なしって…要は無職だよな。嫌だなぁ。
それに、数値がすべて30ってのもなんか違和感ある。
じゃあ次にスキルだな。意識的に使えそうなのは"看破"かな。じゃあ最初は美希に発動、と。
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【名前】ミキ・ナカモリ
【種族】ヒューマン
【年齢】19
【性別】♀
【職業】治癒術師
【力】12
【体】13
【技】21
【速】18
【知】38
【精】49
【固有スキル】
絶対障壁
治癒術の才能
悪意感知
真眼(Lv1)
スマホ
【スキル】
なし
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「なるほど、結構簡単に使えるんだな」
美希の年齢も19になってる。なんでやねん。
ステータスの数値はばらつきがあるか。この方が自然な気はする。
そしてなぜ美希には職があるのだ…
じゃあ咲良は…
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【名前】サクラ・ナカモリ
【種族】ヒューマン
【年齢】1
【性別】♀
【職業】なし
【力】2
【体】2
【技】2
【速】2
【知】3
【精】3
【固有スキル】
寵愛
成長率上昇(Lv1)
能力上昇(Lv1)
天才
重複発動
限界突破
【スキル】
なし
【祝福】
熾天使の守護
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数値低いな!祝福って俺らにはなかったよな。熾天使の守護、っていつ付与されたんだ?詳細表示と。
"熾天使の守護" … 熾天使アルテアによる祝福。全てのダメージをアルテアが肩代わりする。
何してんのアルテアさん…てか熾天使て。上級天使第一柱はマジだったのね。
まぁいいや、質問は後でまとめてしよう。次はシロだ。
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【名前】シロ
【種族】デミヒューマン(猫)
【年齢】13
【性別】♂
【職業】なし
【力】24
【体】21
【技】21
【速】58
【知】9
【精】18
【固有スキル】
変化
【スキル】
気配遮断(Lv3)
気配感知(Lv3)
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速度が高いのは実に猫らしいな。知力が低いのも実にこいつらしい。
最後にアルは、と…
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※偽装※
【名前】アル
【種族】ヒューマン
【年齢】21
【性別】♀
【職業】魔法剣士/メイド
【力】121
【体】98
【技】138
【速】152
【知】148
【精】137
【スキル】
剣聖(Lv3)
風魔法:中級(Lv6)
威圧:中級(Lv5)
家事:上級(Lv7)
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これってかなり強いんじゃ…けど、偽装?ああ、そうか、"看破"スキルの説明にあったな。
それに職業二つあるのはなんでなんだろう。
まぁいい、とにかく真のステータスを表示!
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※真※
【名前】アルテア
【種族】上級天使
【年齢】-
【性別】♀
【職業】熾天使/メイド
【力】5000
【体】5000
【技】5000
【速】5000
【知】5000
【精】5000
【固有スキル】
神技
守護者
【スキル】
剣神
風魔法:超級(Lv9)
光魔法:超級(Lv9)
能力強化:超級(Lv9)
家事:超級(Lv9)
威圧:超級(Lv9)
隠蔽:超級(Lv9)
隠密:超級(Lv9)
偽装:超級(Lv9)
交渉:超級(Lv9)
etc…
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oh...
「なあ、アル。ステータスについていくつか質問があるんだけど」
「はい、旦那様。"看破"を試されたのですね」
「うん。まず俺と美希の年齢が19になってんだけど。あとシロも13って何で?」
「え、何それ!?私19歳なの!?」
「旦那様はそもそも別の肉体です。奥様については若返らせておりまして、旦那様の年齢はそれに合わせています。若い方が何かと都合がよろしいので」
「ホントに!?嬉しい!!ありがとアルちゃん!!」
「奥様、わたくしがやったわけでは…」
「細かいことはいいのいいの。やー、最高の気分だわ…三十路の影におびえていた私が、ハタチ手前…!よし、私もステータス見てみよ…うおー!本当に19って出てるー!」
「めちゃくちゃ嬉しそうね…」
「当たり前じゃん!誰だって若返りたいって夢見るでしょ!!」
「ちなみにシロはヒューマンに換算した年齢になっています」
「なるほど。にしても、そうか…俺の肉体って別物なんだよなぁ。何の違和感もなかったから忘れてたわ」
「ほぼ同等に再現しておりますので」
「元の世界でそうしてくれればよかったんじゃ…」
「残念ながら、魔素がない世界では器だけの肉体を作ることが出来ないのです」
「まぁ、出来たらやってるか…」
「申し訳ございません…」
「いや、アルのせいではないし。じゃあ次。俺のステータス、数値がキレイ過ぎて違和感があるんだけど」
「肉体を作った際にそのような数値に設定しております」
「数値を見ると改めて不自然な存在だって認識せざるを得ないね」
「あくまで初期値がそうというだけで、ボーナスのようなものだとお考え下さい。旦那様の固有スキルから鑑みて、直接戦闘も魔法もどちらも適正があるため、特定の数値に偏らせないほうがいいという側面もあります。また、奥様とシロについてですが、異邦人として招かれた方は、魔素を吸収した際にステータスが底上げされます。通常はヒューマンですと、全く鍛えていない場合は10前後の数値が平均的ですので、お二人はかなり高い数値だとご理解頂ければと。ちなみにデミヒューマンは種族特性上、ヒューマンより身体能力が高い傾向にあります」
「それなりに鍛えた程度の力はあるってことかな」
「はい。ですがもっと強い者はいくらでもおりますので、能力が低いうちは無茶はされないで下さい。また、基礎能力が高くても皆様はシロを除いて通常のスキルがひとつもありません。つまりは能力は高いけど素人、ということになります。その点もご注意を」
「あー、なるほど。じゃあスキルはどうやって習得するの?」
「基本的には書物を読んだり誰かに習ったりすることで身に着けることが出来ます。後は経験を積むことで成長したり、新たに覚えたりもします」
「あいよ。あとは咲良のステータスを見たんだけど、妙に低いのはなんで?」
「赤子のうちはそれが通常です。1歳で大人と同じように動ける子はおりません」
「それはご尤も。で、咲良に付与されてる"熾天使の守護"って…」
「ご覧いただいた通りです。僭越ながら咲良様にはわたくしから祝福を付与させて頂きました」
「さいですか…で、えーと、祝福ってのは?」
「上位存在から加護を与えられたり、契約を結ぶと付与されます」
「…簡単に与えていいものなの?これ」
「わたくしが祝福を付与したのは初めてのことですね。そもそも過去に天使から祝福を与えられた者など、そう多くありません。上位天使のものとなるとこれまでの歴史の中でも三名のみです。いずれもこの世界の神話に登場する英雄と呼ばれる者たちです」
「うん、ってことは簡単に付与したらダメじゃない?」
「わたくしの祝福ですから、当然ながらわたくしの意志で付与して問題ないものでございますよ?」
「そういう問題なのかね…」
「咲良様が成人する前に万が一のことが起こらぬよう万全を期したとご理解下さい」
「うーん、完全に納得した訳ではないけど、わかった。娘のためにありがとう」
「何より、これでわたくしはいつでも咲良様の存在を感じられます…!」
「お、おう…発想がストーカーのそれだぞ…」
「何を仰いますか。私は咲良様を身命を賭してお守りすると誓ったのです。まぁ天使に命という概念は存在しませんが…ともかく、この身は咲良様に捧げたのです」
「わかったわかった、もういいよ…あと、職業ってどうしたら就けるの?」
「基本的には職業を司る機関に認められれば付与されます。冒険者ギルドでも戦闘系の基礎的な職業には就けますし、魔法系は魔法協会、神職は教会ですね。他にも色々ありますが、職業はメインとサブの2つまで就くことが可能です。また、経験によって上級職に変化することもあります」
「ちなみに、何で俺が無職で美希には職があるの?穀潰しっぽくて嫌なんだけど…」
「治癒術師は神職です。そしてわたくしは天使ですので、わたくしの権限で付与可能です。わたくしが教会に行くと何かと面倒ですし。ちなみに旦那様は神職の適性はお持ちでないので、残念ですがそのままとさせて頂きました」
「理解したけど納得したくない…無職…」
「今だけですし、大した問題ではございません」
「へーい…ちなみに、アルはメインが戦闘職、サブがメイドなのね。で、最後にアルについてだけど…強すぎない?」
「これでも上級天使のトップです。神に次ぐ力を持たされているのですから弱いわけはございません」
「それはまあそうか…このステータス偽装は正体を隠すためなんだよね」
「はい、そうです。ついでに申しますと、偽装ステータスもヒューマンとしては相当上位の強さに設定しています」
「それは何でまた」
「端的に申しますと周囲への抑止力です。皆様を取り込もうとすることがどれだけ困難かを周囲に知らしめるためです」
「なるほど。あ、そうだ、強さの基準みたいなものを簡単に教えてくれる?」
「ヒューマンなどの通常の種族ではいずれかの数値が100になると第一線級です。150で超一流、200だと世界で五本の指に入る、というように考えて下さい」
「そう聞くと偽装の方でも結構ヤバい数値だな。わかった、いろいろありがとう」
「お役に立てて何よりです。何かございましたらまたお尋ねください」
「ちなみにだけど、咲良ってどの程度強くなっちゃうのかね」
「咲良様はわたくしなど容易に超えて、遥かな高みに到達することでしょう」
「うん、頭痛になりそう」
「大丈夫ですか?休んでからにしますか?」
「比喩だよ比喩。娘が神に迫るってことだろ。どうなっちゃうんだよ」
「旦那様、迫るどころか超えることも夢ではございません」
「うん、もういいや。考えないことにするわ…」
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「さて、腹ごしらえも済んだし、行くか」
「ではご案内します。ついていらして下さい。ちなみにこの辺りは凶暴なモンスターはほとんど出ませんので、そこまで警戒されなくても大丈夫かと」
「そうなんだ。よし、行こうか」
「咲良様はわたくしにお任せ下さい!」
「ありがと。よろしくね、アルちゃん」
「さぁ咲良様!わたくしの腕へ!」
「うー!」
たかいたかーい
きゃきゃー!
うふふふふ
「何度目だこのやり取り」
「そうだねぇ。でも助かるよ…」
「それはそうね。長時間の抱っこは疲れるからなぁ」
「わたくしは疲労などしませんので、お任せを!」
「お、おう…ありがとう…」
小屋を出てみると、幻想的と言って差し支えのない風景が目に飛び込んできた。
「これは…すごいな」
「きれいだねー…」
美しい木々、花、優しい木漏れ日。澄んだ空気。
「では参りましょう。そう深い位置ではありませんので、十分も歩けば出られるかと」
「うーん、見たこともない動物ばっかだな」
「生態系が違いますので。ただ、皆様がいらした世界と似たような生物も数多く存在しておりますよ」
「あ、本当だ。リスっぽいのいる」
「父ちゃん、あれ捕まえていいか!?」
「ダーメ、無闇にそういうことしないの」
「ちぇー…」
「ぴっぴ!」
「うん、鳥さんいるねー」
「わんわん!」
「わんわんはいないなー」
「にゃんにゃ!」
「にゃんにゃはシロだねー」
「おう!」
「あぁ、咲良様…なんて愛らしい…!」
「ほれほれ、進んだ進んだ」
そのまま進んでいくと、だんだんと空が広くなってきた。森から出られそうだ。
「森から出ますと、すぐ近くに町が見えるはずです。この近辺では一番大きな町ですが、田舎の方ですので規模はそれほどではございません」
「何か注意点はある?」
「いえ、特にはございません。穏やかな気質の方が多い国ですので。ちなみに言葉は自動で変換されます。便利な翻訳機能があると思って下さい。知らない文字なのに読める、という不思議な体験が出来ますよ。さすがに書けはしませんが」
「そら面白そうだ」
「見えました。あれがラトの町です」
アルが示す方向に石垣に囲まれた町が見える。
「すごいね、本当にファンタジーの世界だ」
「だなぁ…」
一際高い建物を中心に、円を描くように町が広がっているようだ。屋根は赤茶、壁面はベージュ色で統一された建物が建ち並んでいる。
外側には整備された農地があり、牧歌的な風景だ。
「中心の建物は教会かな」
「はい、その通りです。その近隣に町の機能が集中していますので、まずはそちらを目指しましょう。役所もギルドもその辺りだったはずですので」
「町に入るのに手続きとかは?」
「ご心配なく。どちらにせよ通常の手続きにはならないでしょうから」
「あ、そう…よくわからないし任せるよ」
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町の入り口に着くと詰所の横に門番であろう男性が二人と、入場手続き中と思わしき人たちが数名いた。
「やあ、ラトの町へようこそ。旅の人かい?」
「いえ、こちらは異邦人の方々、わたくしはそのメイドでございます。つい先程こちらの世界に参りましたので、身分証明書の発行をしたく、役所へ伺おうと」
「異邦人!?確かに髪の色はそうだな…もしかしてあなた方全員が?」
「わたくしを除いて皆様そうなります。お手数ですが町長様へのお取次ぎをお願いいたします」
「しょ、少々お待ちを。おい、町長に連絡だ!急げ!最優先だ!」
「はい!」
「えーと…いきなり目立ってない?」
「異邦人はおおよそ百年に一人しか現れませんので、現れることそのものが事件なのです。しかも通常は一人なのに四人ですから、慌てもするというものです」
「にしても初っ端からなぁ」
「こればかりは致し方ありません。否が応でも目立つ存在ですので」
「はぁ…」
先が思いやられるなぁ。小市民の自分には耐えがたいものがあるよ。
「なあなあ、あんたら本当に異邦人なのか?」
声の方向を見ると、背の高い金髪の男がいた。さっき手続きをしていた人だな。
整った顔によく鍛えられた身体をしている。見た目からすると剣士っぽい。後ろの三人は仲間だろうか。
「あ、えぇ、そうみたいです。つい先ほど死んでこちらの世界に来まして」
「ははは、いきなり冗談キツいな。俺はアンデッドと話してるのか?俺はリック。冒険者だ」
「これはご丁寧に。泰弘といいます」
「ヤスヒロだな、覚えとくぜ。お連れの美人さんも紹介してくれよ」
「ちょっと、リック!失礼でしょ!」
「全く、お前は少し遠慮というものをだな…」
「いえいえ、お気になさらず。妻の美希と、娘の咲良、こっちはシロ、彼女はメイドのアルです」
「妻の美希です。よろしくお願いします」
「シロだ!よろしくな!」
「メイドのアルでございます。お見知り置きを」
「なんだよー、ミキさんは既婚者でしかも子持ちかぁ…アルさんは独身?」
「申し訳ございませんが、お答えしかねます」
「つれないなぁ。にしてもヤスヒロ、あんたうらやましいな。美人の嫁さんとメイドさんか…異邦人って恵まれてるなぁ!」
「いや、異邦人だからというわけでは…」
「まぁいいか、俺らもついさっき着いたとこでね。この生意気なヤツがサンディ、ドワーフのおっさんがガンド、あっちのデミヒューマンがミリィだ」
「誰が生意気よ!すみません、ほんと失礼なヤツで…改めましてサンディです!よろしくお願いします!」
「ガンドだ。よろしく頼むわい。おいミリィ、どうした?挨拶せんか」
「…え、あぁ、よ、よろしく…」
「どうしたー?ねぇちゃん、調子でも悪いのか?」
「ふぇっ!?…い、いえ、何でもないわ」
「そっか、よくわかんないけど元気だせよ!」
「え、えぇ…」
「こらシロ!初対面の人の顔を覗き込むんじゃない!…すみません、いきなり」
「い、いえ、大丈夫でしゅ…です」
「「「……」」」
噛んだな…
「な、なによ!?」
「いや、何でも…」
「異邦人の皆様、お待たせしました!馬車が参りましたのでお乗り下さい!」
「え、馬車って」
「いいなぁヤスヒロ、うらやましいぜ」
「なんかすみません」
「いやいや、冗談だよジョーダン。しばらくはこの町にいるから、また後で会おうぜ」
「ええ、ではまたその時に」
俺たちは馬車に乗り、その場を後にした。