始まりは突然
初作品、初掲載です。よろしくお願いいたします。
「と、いう訳なんだ」
「うん、私もこの子と一緒に行くよ」
「嬉しいけど、本当にいいの?二度とこっちには戻れないみたいだけど」
「あなたがいない世界で生きていくっていう時点で選択肢に入らないから」
「そっか、ありがとう」
『本当にいいんだね?』
「他に選択肢もないみたいだし、未練になりそうなことは解決したからいいですよ」
『よろしい、では行こうか』
その言葉と同時に、俺たちは光に包まれた。
――――――――――
「はぁ、今日も疲れた」
仕事を終え、家路に着いた泰弘はいつものようにLimeで妻へメッセージを送る。
[終わった。これから帰るよ}
{はーい。玉子だけ買ってきてー]
[はいはい}
{もう咲良は寝たからねー]
[そっか、残念}
中森泰弘は今年29になる。彼は高校の同級生だった妻と結婚して3年が経ち、二人の間に産まれた娘は1歳になった。
フリーランスのシステムエンジニアとして独立して半年、顧客からの評価も上々で、会社員でいたときの倍近い金額の報酬を得ている。
初めて報酬が支払われた日はIT業界というものの歪みを改めて実感したものだ。
彼の家庭は裕福ではなかった。
元々、それほど稼ぎのよくなかった父親は、高校受験の少し前に全ての金を持って女と蒸発した。ご丁寧に学資保険なども全て解約されており、母は打ちひしがれて、途方に暮れていた。
母方は祖父も祖母も亡くなっていたため戻る家もなく、彼は母と歳の離れた妹と三人で必死に生きてきた。
高校では部活はせず、学校が終わればバイトに出て、バイトが終われば勉強に勤しむような面白みのない生活を送った。
容姿も性格も悪い方ではないので、決してモテない方ではなかったが、恋人を作ってどうこうという気持ちにはどうしてもなれなかった。
そんな時間があれば少しでも家計を助けたかったし、付き合ったところでろくにお金も時間を割けないのでは相手に申し訳ないという気持ちにしかならなかった。
ちなみに、彼が通っていた高校は進学校で、卒業生のほぼ全員が進学の道を選ぶが、彼は卒業と同時に社会に出る道を選んだ。
母を助けたかったし、せめて妹には普通の学生のような生活を送らせてあげたかったからだ。
なお、勉強に勤しんでいた理由は進学ではなく、バイトをしていることで成績を落とし、教師に目をつけられたら敵わない、という理由からでしかない。
とはいえ優秀だったことには変わりはないため、事情を知っている担任も初めは進学しないということに
難色を示していた。結局は彼の選択を応援してくれたが。
入社した会社は残念ながらブラック企業だった。
精神を削られながらも必死に食らいつき、暇があれば技術の習得に勤しんだ。
結果、25という若さで新規クライアントの案件の責任者に抜擢された。もちろんブラック企業特有の人の入れ替わりの激しさも手伝ってはいたのだが。
その案件で着任した常駐先で、クライアント側の社員になっていた高校生時代の同級生である美希に偶然再会し、改めて告白され、一年間の交際を経て結婚するに至った。
付き合うことになったと周りに知れた時、男連中からの視線は寒気すら覚えたものだ。嫉妬のオーラを一身に浴びるというのはなかなか堪えた。この時はクライアントも自社も関係なく凄まじい一体感があった。その一体感で仕事をして欲しかったと今でも思う。
思い返せば、彼女は高校の頃はファンクラブが出来るほどの人気ぶりだったし、会社でも相当周りから言い寄られていた。
にも関わらず、なぜ高校の頃から変わらず、しかも一度断ってさえいる泰弘を想っていてくれたのか、当時の彼の中で最大の謎であった。
後ほど彼女本人から聞いた理由も彼にしてみたら些細なことだったため、理解はしたものの納得するまでには至っていない。
そんな過去から比べれば今は幸せそのものだ。
結婚した当初は母と妹を置いて家を出ることに不安を覚えたが、妹はストレートで国立大学を卒業後、名の知れた会社に新卒で入社したため、妹が結婚しない限りは心配するようなこともない。
母のために仕送りもしており、それでも家族三人で十分余裕のある生活が出来ている。
全てが順調だったのだ。今日までは。
たまたまいつも通っている道が通行止めで、回り道をしたら電車が人身事故で運転見合わせになっていて、仕方なしに乗ったタクシーが事故に巻き込まれ、泰弘はあっさりと帰らぬ人となった。
――――――――――
「うぉお!?」
目覚めた俺の目に飛び込んで来たのは、血塗れになったもう一人の俺だった。
「いやいや、待て待て。こんなことがあるはずがない」
『あのー…』
どうやらこのタクシーは天井が床になる機能を擁しているらしい…ってそんな訳ないな。
そんなことより大事なことに気がついた。体が物をすり抜けている。でも周りの音は聞こえるんだよな。サイレンの音が騒がしい。音が聞こえるってことは全く物理的に干渉出来ないってわけでもないのかな。
「状況から察するに、死んで幽霊にでもなったか、幽体離脱でもしたのかな」
『もしもし…』
随分とお気楽な反応だと思われるかもしれないが、こんな状況だと何に驚いていいのか分からないし、飲み込みようもないので落ち着いていられるだけだろう。遅れてくるパターンかな。いや、こんなこと考えてる時点で結構冷静か?
「おい俺、聞こえるか?」
『あの、聞こえてます?』
「あの、そこの救急隊の方!すみません!」
『あの…』
ダメだな、誰も反応がない。てかその関節ってそっちに曲がらないよね。やべーな、やっぱ死んでるのかな。それともこちらの声は聞こえないのか?仮に死んでたとしたら美希が泣いてしまうよな。あ、玉子買ってない。あ、明日の会議の資料をメールで事前展開するの忘れてた。いや、そんなことはどうでもいい。明日から美希と咲良はどうすんだよ。いかん、理解が追いついてくるごとに冷静さが欠けていく。やっぱり遅れてくるパターンだったか。
『すみません!』
「うるせえな!!!今大変なんだよ!!!」
『きゃあ!ごめんなさい!』
「ん?」
何だ?そういやさっきから誰かの声が聞こえてたような気がしないでもない。てか誰だこの人。
「すみません、いきなり怒鳴ったりして。ちょっと色々…って、何ですかその恰好…コスプレ?」
『違います!れっきとした制服です!いや、じゃなくて…』
「?」
『ごめんなさい!アナタが死んだの私のミスなんです!』
「…はぁ?」
いきなり何なんだこの人は。
「えーと、よく分からないんですが」
『そ、そうですよね、えーと、あの、その』
「とりあえず落ち着いて頂いて、ゆっくり話して下さい」
『何でそんなに冷静なんですか!死んでるんですよ!?』
「目の前で慌ててる人がいると冷静になりません?」
『まぁそれはあるかも…じゃなくてですね!』
いや、それより大事なことはこの人は俺が見えているということだ。
さっきから行きかう警察やら消防やら救急の方々は見えていないどころか俺をすり抜けていくし。
「それより、あなたは私が見えているんですね」
『それはまあ、私は天使ですので』
「はぁあ?」
「何言ってんだこいつ…イカれてんのかな。いや、幽霊…って言っても俺か、まぁとにかく存在する以上、もはや非科学的とかいう理屈は成立しないもんな」
『聞こえてます!思考ダダ漏れ!てか誰がイカれてるんですか!!』
「あ、すみません。わざとです。てかやっぱり俺死んだんですか。あぁ…受け止めたくない…」
『う、その…ごめんなさい…』
「そういえばさっき、あなたのせいで死んだって言ってましたよね?どういう意味です?」
『それはその、私の依頼があいまいだったというか…』
「依頼?何の?」
『さっきも言いましたが、私天使なんです。とある文書に従って魂の行く先を決めているというか…』
「はぁ」
『えっとですね、とある人が今日電車で人身事故にあって死ぬって運命だったので、その通りに因果律を操作する部署に依頼書を送ったんです。あ、とある文書っていうのは下界でいうアカシックレコードのことです。過去も未来も何でも書いてあるから天界の誰もが見られるわけではないんですが』
「ああ、アクセス権がある部署にいるってことですかね」
『はい、一応、天界では一流と言われる事業所の花形部署でして、私は昨年新卒で入所出来たんです!』
「ファンタジーに現実の要素ブチこんでくるのやめてもらえないですかね?」
『そう言われましても、実際そうなので…』
「ちなみにアカシックレコードの存在って明かしていいものなんですか?」
『え?…あ。その、えっと…』
「あぁ、ダメなんですね」
『あ、あははは〜…』
「ダメだコイツ…まぁいいです、続きを」
『あ、はい、対象の方は定められた通り、事故で死亡しました』
「それはそれで嫌な話だなぁ…」
『問題はそこではなくて…今日、スムーズに帰れなかったですよね?』
「あぁ、そうでしたね。そのせいでタクシーなんか乗ったら事故に遭ったんでした」
『要は、本来死なないはずだったあなたが死んだのは、依頼書にあなたが死なないような方法を取るように書くべきだったんですけど、漏らしたと言いますか』
「それは何でまたそんなことに?」
『あなたが残業すると思ってなかったんです。今の仕事場って割とホワイトなところでしたよね。周りの方もほぼ定時で帰られていましたし、こんなに遅い時間に帰る方はいなかったので、要はあなたがこの場にいることを認識出来ていなかったんです…』
「なるほど。ちなみにあのタクシーの運転手さんも今日で死ぬ運命だったとか?」
『いえ、あの方は生きてます。大怪我って運命だったみたいですが、怪我などは担当係が違いまして』
「つまりあなたの確認漏れと、他部署との連携不足で起きたケアレスミスってことですね」
『あの、まぁ…そういうことです…』
新卒が憧れの会社に入って浮かれてミスったってことか。ありがちな話だけど冗談じゃない。
「とりあえず状況は理解した。つまり俺は君のテキトーな仕事のせいで死んだということだな」
『うぅ、そうですけど、まさかいつも残業しない方が今日に限って…』
「仕事が出来ないヤツほど人のせいにするんだよ。そもそも君は自分の仕事の重要性を認識出来ていない。魂の行く先を決める、なんてミスが許される仕事じゃないだろう」
『あぅ…』
「で、俺は当然生き返れるんだよね?」
『あー、その、えぇと…』
「ん?」
『生き返るのはちょっと…』
「ちょっと?」
『何と言いますか、その、難しいというか…』
「何か難しい条件でもあるの?俺には妻も子供もいるし、生き返らせてもらわないと困るんだけど」
『……です…』
「え?何?」
『む……です…』
「聞こえないよ、何?」
『すみません、無理なんです!』
「………」
『………』
終わったか…いや、待て待て、まだだ。コイツは下っ端じゃないか。
「責任者を呼べ」
『…え?』
「お前の上司だよ!早くしろ!」
『ははははい!ちょっとお待ち下さい!』
コイツはもちろんだけど、俺も頭が回ってないな。さっきの話だとコイツは何らかの組織に属していて、新卒のペーペーだ。まともな回答など得られないと思っていいだろう。上司なら解決策を知ってるはずだ。知っててくれ。
『あの、すぐにこちらに向かうとのことでした…』
「わかった。それよりお前には説教だ」
――――――――――
『…遅くなって大変申し訳ない、あなたが中森泰弘殿で間違いないかな?』
目の前の天使を詰めに詰めてしばらく経ったころ、低くよく通る声がしたので、ボロ泣きになっている天使を放置して振り返る。
『うっ、ひぐっ……オェ゛ッ』
流石にえづくほど泣かせたのは不味かったか?まあいいや。ほっとこ。
改めて、おそらくはコイツの上司であろうナイスミドルに声をかける。
「待ってましたよ。あなた方がここまでどうやって来るのかが分からないから早いのか遅いのかはさっぱりですが、あなたが彼女の上司ですか?」
『直接の上司というわけではありませんが…それより、この度は大変に申し訳ないことをしました。お詫びしたい』
「ところで、あなたは?」
『そうですな、所謂、あなた方が神と呼ぶ存在です」
「なるほど」
『…えっ?…あ、ああ…』
「何だよ、どうした?」
『か、神様がどうしてここに…?』
「お前が呼んだからだろうが」
『ち、違います!私は課長を呼んだんです!』
「この方は課長じゃないの?」
『全然違います!!』
「なら社長が出てきたみたいなものか」
『分かりやすく言えばそうですけど、社長程度の肩書きで表現するような方ではないんです!私だって遠目からチラッと見たことくらいしかないんですよ!』
「急に元気になったなお前…ってか、つまりトップが出張ってくるような事ってことなのか…」
嫌な予感しかしない。おそらくは悪い方面で重大な事態なんだろうな…
『中森殿、今回は申し訳ないことをした。改めてお詫びを申し上げる』
「はい。とはいえあなたのせいではないですから」
『いや、組織の不始末は全て私の責任だ。本当にすまない』
「おい、これが働く者の正しい姿だぞ、無能小娘」
『むのっ、う、はい…』
『君が今回の事態を起こした天使だね?』
『は、はい!その、すみませんでした!』
『とんでもないことをしでかしてくれたものだ…前代未聞だよ…』
「ということは過去に同事象は?」
『一度も。むしろ絶対に起こしてはならないことですからな』
「あー、まぁそらそうですよね」
『では、補償の話をまずさせて頂きたい。出来る限り希望に沿うようにしたいので、聞かせてもらいたい』
「いや、蘇生させてもらえればそれで」
『申し訳ない、蘇生は難しい』
「…マジすか」
『厳密に言えば、出来ない訳ではないのだが…一度死んだ人間を蘇らせるには肉体という器が生きている必要がある。中森殿の肉体はもう機能を停止してしまっているので、魂を戻したら肉体とともに滅びるのみだ』
「因果律を操作して修復させることは出来ないんですか?」
『なぜ因果律のことを…ああ、なるほど』
『すっ、すみません!』
『もしかして他にも機密事項を話してはいないだろうね?』
『は、はい、それだけで…「アカシックレコードの存在は聞きました」
『あぁっ!何故言ってしまうんですか!?』
「反省が足りない。隠すな」
『…はぁ…何という…』
『うう…』
『君の処分は後程として、話を戻そう。我々の言う因果律操作は僅かでも起こり得ること、つまり0.01%を100%には出来るが0を1には出来ないのだ。魔法が行使できればまだ可能性はあったが、君たちが住まうこの世界には魔素がないから魔法での肉体修復も出来ない。もう手段がないのだ』
「そうですか…」
これは絶望的か…参ったな…
「家族と一緒に居られないのであれば、せめて妻と子供が今後生活に困らないようにしてもらえないですかね。妻が一念発起してなんかの事業に成功するとか、そんな感じで」
『それなら簡単だ。なんなら大富豪にすることも可能だが』
「いや、それはいいです。過ぎた金を持つのは怖いって普段から言ってるようなやつなんで」
『ふむ…後はそうだな、別世界へ魂を転移させることは出来る』
「最近の流行りですかねそういうの」
『言いたいことは分かるが、現実として取れる手段なのでな。ちなみに君の家族を転移させてあげることも可能だ』
マジか。世界は変われど一緒にはいられるのか。しかしなぁ…
「なかなか魅力的な提案ですが、それって何とか妻に意思確認出来ないですかね?」
『本来ならば人前に姿を見せることは出来ないのだが、今回は例外だ』
「じゃあ、行きましょう。恐らくですが、妻は病院で泣いていると思うので」
――――――――――
娘とともに向かった病院で、私は絶望した。
さっき、これから帰ると私に連絡してきた泰弘が、もう帰らぬ人になってしまったという事実を受け入れなくてはならないからだ。
これから、共に愛しい娘を育てて、送り出して、歳を重ねて…
「一緒に歳を重ねて、一緒に死のうって言ってたじゃない…約束したじゃない…」
どうして泰弘が。
早めに帰って来るように言っておけば…
今朝風邪気味って言ってたし、あの時止めておけば…
後悔の念が止まらない。何とかして防げたのではないか。おこがましい考えだが、思わずにはいられない。
「美希さん…」
「お姉さん…」
声を掛けられて振り向くと、いつの間にかお義母さんと真緒さんがいた。
「すみません、気づかなくて…」
「いいのよそんなこと。それよりウチのがごめんね…」
「ホントだよ。みんなを遺して先に死んじゃうなんて…バカ兄貴…まだ恩返し出来てないのに…!」
「はい…うぅ…」
ダメだ、涙が止まらない。明日からどうやって生きていけばいいのかも分からない。
「うー」
咲良はいつもと変わらない。まだ死ぬということが何なのか分からないのだから当たり前だけど。
「私がしっかりしないといけないのよね…」
「私もお母さんも手伝うから。いつでも言って下さいね!」
「いっそのこと、ウチに来てもいいのよ。どうせ二人暮らしだし、しばらくあなたの面倒を見ることくらい出来るから」
「いえ、それは流石に…でもありがとうございます」
私の両親は既に他界しており、兄弟もいないため、お義母さんと真緒さんには本当にお世話になりっぱなしだ。それから少しの間、私たちは三人で泣きながらとりとめのない話をした。
――――――――――
「ちなみに、母と妹にも事情説明って出来ます?」
『説明は構わないが、あまりに大人数での転移は出来かねるぞ』
「いや、あの状態で美希と咲良が消えたら悲しむから説明だけはしたいなと。あの二人の転移はさせるつもりはないですよ」
『そうか、あいわかった。では姿を現わすぞ』
「で、その時に泰弘が…」
「うっす」
「…へ?」
「ん?」
「「「ええぇ!!!??」」」
「あ、ごめん、驚いた?」
「あ、え、や…」
「はい、泰弘です。ども」
「ちょっ、マジでバカ兄貴なの?死んだんだよね?」
「まぁそうね、死んでる」
「どういうことよ、このバカ息子…」
「いや、まぁ色々と」
『あー、申し訳ない、私から説明しよう』
「…えっと、泰弘、どちら様?」
「ああうん、そうだよな母さん。ご尤もな疑問だ。こちら、神様」
「はい?」
『左様。よろしいかな?』
「よくないわ!理解が追いつかんわ!」
「まぁまぁ、落ち着けよ真緒」
「うっさいわアホ!落ち着けるか!」
「うん、そりゃそうだよね」
「泰弘」
「…ん」
「本当に泰弘なんだよね?」
「もちろん。まぁ魂だけでそこの肉体はもう死んでるらしいけど」
「それでもまた話が出来て、本当に嬉しい。よかった…よかったよ…」
「ごめん、悪かったから泣かないで」
「そりゃ泣くわ。私はもう驚きで引っ込んだけど」
「死んだのにまた出てくるとか呆れるわ。バカ息子が」
「おーい、酷いな」
『あー、もういいかね?』
「あ、すみません。もう大丈夫です」
『では説明しよう』
――――――――――
「つまり、そこでカワイイ顔を絶望で歪めてるのがアンタが死んだ原因って訳ね」
「ついでに言えば俺と神の説教も顔色が悪い原因の一つだね」
「可哀想だけど自業自得だね」
『すみません…』
「と、いう訳なんだ」
「もちろん私もこの子と一緒に行くよ。もちろんシロも」
「ちょ、美希さん、決断早いな!」
「本当にそれでいいの?よく考えた?」
「そうだなぁ。嬉しいけど、本当にいいの?二度とこっちには戻れないみたいだけど」
「あなたがいない世界っていう時点で選択肢に入らないから」
「そっか、ありがとう」
「おーおー、愛されてるねぇ…」
「親としては二度と会えないのは複雑だけどね」
「本当にすまん」
「まぁ、最後に話せてよかったよ。どんな世界だか知らないけど、家族みんなで頑張って生きていきな。こっちは何とかなるから」
「あ、母さんと真緒の生活は保障されるから大丈夫。神様の権限で金銭的にサポートしてくれるようにお願いしたから」
「あら、そうなの?」
「保険金みたいなもんだ。遠慮なく使ってくれ」
「変なとこ気をつかうわね、相変わらず。でも助かるわ」
『さて、改めて聞くが本当にいいんだね?』
「他に選択肢もないみたいだし、未練になりそうなことは解決したからいいですよ」
『よろしい、では行こうか』
「じゃあな、母さん、真緒」
「元気でね、泰弘、美希さん」
「幸せになってよね!今度こそ死ぬなよ!」
「おう」
「お義母さん、真緒さん、お世話になりました。ありがとうございます!」
その言葉と同時に、俺たちは光に包まれた。