Night Road
夜。雨。
左にも右にも、誰もいない。ハンドルを切る。雨。フロントガラスを打ち付ける音は、聞こえない。
曲がった先にも、誰もいない。対向車はおろか、ヘッドライトの光さえ見つからない。暗闇。
「夢か」
呟く声も、どこか遠い。
よくあることだった。自分が会心のレースを走った夜などは、何度も夢のなかで同じレースを走ったりしている。
何か、あっただろうか。思い出せない。
夢のなかでは、よくあることだ。現実のことが思い出せなくなる。同じように、醒めれば夢のことも朧気になる。
メータを見、いつも乗っている車ではない事に気付いた。私の愛車は、夜になると計器が赤く輝く。
ライトをつけていない事に気付き、ライトを点けた。ライムグリーンのライト。アンダーグローネオンも、ライムグリーン。見覚えがあるような気がしたが、やはり思い出せない。
左カーブ。速度を落とさずに入る。Gを感じながら、ハンドルを切る。コーナーの際で、アクセルを踏む。急加速と同時に、カーブを抜ける。やはり、目の前は暗闇。ライムグリーンのライトだけが、行先を照らしている。
直線。計器に軽く目を通し、加速していく。思ったよりも剛情な車らしい。車体を揺らさず、まともに加速していく。
「面白い」
さらに加速していく。雨音が耳を叩くはずだが、それも聞こえない。むかし、そんな車に乗った気がする。
エンジンの感触が、なかなか伝わってこない。微かにタイヤのグリップ感だけが、掌に伝わってくる。さらに加速した。そして、ブレーキ。エンジンの震える感触が、戻ってくる。再びアクセル。さっきよりも伸びる。
夜の街。醒めるまで、走り続けてやる。