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94話

「達夫!!! 答えろ! 達夫!!!」

 薄暗い地下空間に俺の声だけがこだます。

 マネキンを含め、俺の声に応えてくれる声は聞こえない。

 聞こえるのは俺の手の中で空ろな目をしている女の吐息だけ。

 この身体に同居している達夫のことが、まったく理解できない。

 いや、俺は一度でも達夫を理解しようとしたことがあっただろうか?

 いや、他人と理解し合えるなんて詭弁だ。

 でも、知らないといけないのかもしれない。

 斉藤達夫と言う人間を。


 帰ったらどうにか調べてみることにしたけど、まずは今回の任務をこなしておかないと。

 多分、この女が福の神様の遺跡を持ちだしたと見て間違いないだろう。

 制御室の真下にこの部屋があったんだから、何かしらの準備が整ったらすぐに使用できるように潜んでいたんだろうし。

 ということは、この女が持っているのか?

 意識のない女性を調べるという、少し気の退けてほんの少しだけ背徳的な行為を行ってみる。

 意識を取り戻したら完全に敵認定されるよな。

 ・・・・・・ああ、元からか。

 

「ない、どこにもない」

 思いつく限りの場所を探しても見つからない。

 薄暗い部屋に範囲を広げても、どこにも遺跡核は見つからない。

 多分、形はこの女が仕掛けた罠と同じ形をしてるはず。

 だったら、真球状の石ころのはず。

 大事なものなんだから、隠すこともあるだろうし。でも、意外とぞんざいに扱ってる可能性も否定できないだろうし。

 どこだろう? 知らない人間の行動を予測することがこんなにも難しいことだなんて、思いもしなかった。こんな状態じゃ問い詰めるわけにもいかないし。

 本当に持ってないのかな? もう一度調べみるか、隅々まで。

 ・・・・・・いやいや、遺跡核の捜索だから! 任務の一環だから!!

 は! 任務ならどんな犯罪行為も・・・・・・いやいやいや!!! それは男として、人として終わってるぞ! でも、少しぐらいなら・・・・・・。


 女に歩み寄ろうかと思案していると、何故か視線を感じる気がする。

 この空間に人は隠れていないはずなのに、視線だけを感じる。

 周りを見ると、マネキンと目が合った気がした。

 ・・・・・・まったく、大した彼氏様だよ。

 動けなくても彼女を守るつもりのようだ。

 さて、女自身は後でもいいか。

 それより、後探していないのは・・・・・・。


 もう一度マネキンと目が合う。

 ・・・・・・まさか、そこか?

 マネキンに取り付くと、服を剥いでいく。

 頭や腹などを叩いて確かめていく。

 胸の部分だけ反響音が聞こえる。

 目を凝らして胸の部分を確認すると、丁寧に処理しているが接合部らしき痕が見える。

 ナイフを鍛造し、痕にそって刃を突き立てる。

 

 あった、あった!

 マネキンの心臓の位置に遺跡核が収められている。

 何だろう、やっぱりこの女・・・・・・怖いな。

 どういう意味があるのか分からないが、多分何かしらの意味が有ってのことだろう。

 出来れば、たまたまそこに隠したと言う話だったらいいな。

 さてと、さっさと壊しますか。

 

 手を刺し込もうとして、ふと思いとどまる。

 後ろに横たわっている女の顔を見る。

 視線を戻してマネキン。

 ・・・・・・なにか、トラップ的な魔法掛けてないだろうな?

 動きだしたりしないよね? まさかだよね?

 彼氏だって言ってたもんね、まさかそんな訳ないよ。

 けどなぁ~。一応、確認はしておくか。

 

 足元に置いてあったナイフをマネキンの胸に突き立て、少し距離を取って消してみる。

 魔力が立ち上るけど、マネキンはマネキンだった。

 動いたり、しゃべったりは無かった。

 アレだな、怖いと思えるシチュエーションに弱いのかもしれないな、俺。

 

 遺跡核を壊した後も特に何も起きなかった。

 一安心で帰ろうかと思うのだが、・・・・・・この女は、置いて行っていいのかな?

 一応敵なんだから、連れて帰る必要はないと思うんだ。

 でも、置き去りにしちゃうのもそれはそれでなぁ~。

 途中で目を覚まして、再戦とかやめてほしいしなぁ~。

 ・・・・・・はぁ~、非情になれない俺はこの仕事向いてないのかもしれない。


 女を連れて地上を目指す。

 どれぐらい遠いんだろうか? そもそも入口ってあるのか?

 いや、落とし穴を出入り口にはしないだろう。

 常識的に上り下りの何かしらがある・・・・・・よね?

 そんな心配をよそに割と簡単に階段を発見し、二人分の体重を感じながら上を目指す。


「ん・・・・・・ん、・・・・・・あ、あの・・・・・・ここは?」

 階段を上がっていると、女が目を覚ます。

 声に釣られて目を向けると、最初に逢った時のような険の強い瞳ではなく、逆におっとりとした瞳がそこにあった。

「目が覚めた? ここがどこか覚えてる?」

 担いでいる手に、ナイフを隠し声をかける。

「いえ、どこでしょうか? それに何で私はあなたに天秤棒の様に担がれているのでしょう?」

「いや、それはこっちの精神的安定感を重視した結果というか。・・・・・・覚えていないのか?」

「はい、あのもう一つだけ・・・・・・私の名前、ご存知ですか?」

「あんた、もしかして記憶が・・・・・・?」

「どうやら・・・・・・そのようですね!」

 状況とは裏腹に、明るい笑顔を俺に向ける女。

 

 いったいどういうことなんだ?

 これ、もしかして・・・・・・アルカナを失った影響か?

 だとしたら、この世界のアルカナって何なんだ・・・・・・?

次回投稿は03/06を予定しております。

では、次回投稿で。

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