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66話

「あっ! こら、そんなに興奮させたら味が落ちるやんけ!!」

「おまっ! キツネ!! こんな時に味の心配なんてしてないで、俺を心配しろよ!!」

 何故か俺は、エジプトまで来て高級食材と戦っていた。

 ギザの南東にある海、過去の知識に合わせると紅海という、かの有名なスエズ運河にほど近い海で何故か迷いこんでいたニンゲンと必死に生存競争を繰り広げていた。


 神様は基本的に知恵は出すけど、行動では寵愛を示してくれない。

 何故なら、神が人の生き死に関わることはタブーとされている。

 なので、現在ニンゲンと戦っているのは俺一人。

 桐山?

 それを説明するには、少し時間を巻き戻す必要がある。


 え? 良いから戦いに集中しろ?

 まあ、そう言わずに聞いてくれよ。

 

 ◇ ◇ ◇ 


 あれは、蛇の女神様と遭遇した直後。

 蛇の女神様から、遺跡の場所と遺跡の効力を話してくれた時だった。

「へ? 依代?」

「そうなのです、かの遺跡に私が行くには人の子の依代が必要なのです」

 そう、自分の創った遺跡に自分が容易に近寄ることのないように、遺跡と自分に制約をつけて遺跡を創造したのだという。

 しかもだ、その依代は誰でも良いわけではなく。

「使徒の子孫が必要なのです、なるべく血の濃い子孫が」

 

 もちろん、エジプトにも使徒の子孫は存在する。

 過去に管理神が行った、人類の知恵と文化に刺激を与えるためになされた異世界人大量流入の末柄が、世界各国に存在する。

 しかし、素性を探ろうとすると人類史を紐解かなくてならないほど途方もない時間が経過してしまっており、もう元々この世界にいた人々となんら遜色のないぐらいに混血が進んでいる。

 蛇の女神様が言うには、彼らでは自分の依代になった場合、最悪神の力に耐えられず存在すら消失しかねない大事件になってしまうらしい。

 

「なので、キツネ様に頼み込んで依代を御用意いただいたのです」

 まあ、人一人を用意っていう言葉を使うのに違和感を感じないでもないが、何せ相手はこの世界の管理神と同じぐらい、もしくは遥かに古い神様なので人間に対する認識なんてそんなものだろう。

 そして、キツネが連れて来たのが桐山ということになる。

 コイツ、随分と近場で調達してきたな。

「依代に危険はないんですか?」

「ええ、一時的とはいえ神になる訳ですから神が攻撃してこない限り危険はありませんよ」

 確かに修行と称する地獄めぐりでも、いくら殺す気で攻撃を行ってもキツネたち神様には指一本届かない。

 であるなら、桐山の安全は保障されていると言って良い。

 

 そして調達されてきた桐山が、ここいいる理由。

「え? お金のためだけど?」

 などと、さも当然だと言わんばかりの表情で答えやがった。

 あの俺の名前の領収書。あれは以前、桐山が俺に請求していた遺跡の金額に色を付けて魔術教会から支払われた物だったという。

 あれほど憎んでいたような相手でも、金額によっては客として対応する。

 本当にプロの盗掘師なんだな、桐山って。

 

 そして問題の遺跡の効力。

 ようやく知ることが出来た、謎の蛇の女神さまの遺跡。

 それはどこかで聞いたような、遺跡だった。

「海産物の増産?」

「ええ、大昔はこの地の民に恩恵や試練を与える遺跡だったのですが、ここ最近は良くない物も呼び込んでしまうようで・・・・・・。なんとかしなくてはと思っていたのです」

 一見、有用な遺跡にも思えるが、そうでもないらしい。

 神様にとって、海産物とは何も食べれるものだけに限らない。

 赤潮を引き起こすプランクトンや水産資源を減少させる諸々も、その遺跡で増産されてしまう。

 なぜそんな遺跡を創ったのか?

 この蛇の女神様は、明確に人の味方という立場をとってはいない。

 どちらかと言えば、日本人になじみのある神様的立ち位置にいる。

 恩恵と試練。

 それに対応する思考と行動を、人間に求める神様だ。


 しかし、他の新しい神様の中には自身への信仰を集めるために恩恵しか示さない神様もいる。

 そんな神様により、蛇の女神さまの遺跡は蛇の女神さまの意志を完全に果たせなくなっていた。

 しかし、その効力は未だに消えることなくこの海域を育んでいる。

 水産資源が豊富ということは、とある存在を呼び込んでしまうことに繫がる。

 話に聞いた、海の覇者。

 口に入るものなら、何でも食してしまう極度の悪食。

 海は人間のものに非ず、正確にはアイツ等のテリトリーだ。

 そう、ニンゲン。

 海産物の増産と言う事は、この海域は餌が豊富ということにもなる。

 しかも、スエズ運河という海路の要所も近くにある。


 ニンゲン狩りに一番出資しているのは、この近辺の国家だ。

 

 神様は遺跡や知恵は貸してくれる。しかし、人の生き死にには直接の関与はしない。

 ということは、依代として召し上げられた桐山は、ニンゲンと遭遇しても共に戦ってはくれない。

 そして、キツネも神様だから、俺に手助けはしてくれない。

 そんな中、万に一つの可能性もない。はぐれニンゲンは完全に把握できていると言われているにもかかわらず、はぐれニンゲンに遭遇してしまったら?


 そうして、最初の出来事に帰結する。

 死にたくはない俺と、餌を横取りする小さな人間に敵意むき出しのニンゲン。そしてそのニンゲンで一杯やりたいキツネの構図。

 普通、大勢の人間が集い、その命を賭けて戦うニンゲンとタイマンしなくてはいけない俺。

 こうして脳内で語り掛ける風を装って、愚痴を吐くぐらいは許して欲しいものだ。

 

 興奮するキツネとは違い、桐山に乗り移った蛇の女神様は俺とニンゲンの戦いを苦悶の表情で見つめている。

 海に関する遺跡を創った神様は、もしかしたらこの海の覇者に対しても慈愛を向けているのかもしれない。

 その姿かたちとは違い、とても慈悲深い女神さまのようだ。

 そんな女神さまの願いのため、海の覇者との一騎打ち・・・・・・負けるわけにはいかない!

次回投稿は01/09を予定しております。

では、次回投稿で。

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