2話
拝啓
もしかしたら読んでいるかもしれない、もう一人の僕へ。
君は、突然のことにとても困惑しているかもしれないね。
何故こんなことに巻き込まれたのか?そう疑問に思っていることと思う。
これは全部僕の我がままで始めたことなんだ。
大変申し訳なく思っている。これは本心からの言葉だ。
でも、君に迷惑をかけてでもなさないといけない目的が僕にはできてしまった。
彼女が愛しくて、愛しくて愛しくて愛しくて、彼女の傍に何を置いても駆けつけたい。
でも、僕が彼女の下に行くことを、この世界は認めてくれない。おかしいじゃないか? ただそばに行きたいだけなのに!
そんな訳で、正攻法が存在しないなら彼女の言う通り僕は君と言う存在自体を取り込むことで、人を超える魔力を手にしないといけないみたいだ。
そして、この世界を飛び出して、彼女と僕の楽園を探し出さないといけないみたいなんだ。
そのためには、魔術教会の魔術師よりも強く、強くならないといけない。
強くならないと、彼女を独占できないしね。君は女性を独占する方法を知っているかい?
僕には一つしか思い浮かばなかったんだ。
だから、何よりも強くならないといけない。彼女よりもね。
それが彼女の望みでもあり、僕が求めた最良の結果につながる唯一の手段だから。
そのための対価は、残念ながら僕は僕自身しか持ち合わせていなかった。存在を共有している君には申し訳ないけど、君を使わせてもらうことにした。
恐らくこの賭けには勝つと僕は思っているけれど、何事にも完璧と言う言葉はない。
万が一、異世界から来た君がこの身体の持主になっていらのなら君の好きに行動するといい。
僕の遺志を継いでほしいという気持ちもあるけれど、例え君でも僕の計画の全容を知らせることは出来ない。
彼女が君を有用だと考えれば、恐らく向こうから迎えが来るだろうから。
さて、僕からの話はこれでおしまいだ。
これからの君の未来に■■■■の祝福がありますように。
斉藤達夫
キツネから渡された手紙は、これだけしか書かれていなかった。
「これ、検閲とかは?」
「してないと思うで、多分な」
彼の手紙、これは謝罪のつもりなのかな?
出だしは確かに謝罪しているけど、全体的に一応俺を気遣っているような言葉もあるけど、これほとんどラブレターだよね? 病んでそうだけど。
もう、読んでるのがキツイよぉ~。
それでも彼にとっては精一杯の謝罪なんだろう。
希望と絶望を抱えながら、それでも前に進もうというその心意気は立派だ。
しかし、その手段は最低の一言だ。しかも女の入れ知恵らしいことが書かれている。
でも、自分はどうだっただろう。夢描いた道を進めないその絶望は多くの人が味わう苦い思い出だ。
かくいう俺も、望んだ道から外れ、妥協と自己弁護で生きてきた。
そんな俺に彼を責める権利があるのだろうか? 手段は褒められないが、彼は最期の瞬間まで夢を諦めず足掻いて、足掻き切った。
きっと、誰も褒めはしないだろうけど、俺だけは彼を褒め称えてもいいのかもしれない。
この件の被害者である俺だけは、夢を諦めきれずわずかな可能性を模索しきった彼を誉めたいと思った。
「何書いてあったん?」
「い、いや、なんか? 彼女がどうとか? 自分を変えたいとか? そんな感じ」
「彼女? おかしいな・・・・・・ちょっと見せてくれん?」
「え?」
これ、見せてもいいのかな? 俺まで変な目で見られないか?
ん~、でもなんか大事になってるみたいだし、この手紙もそこそこ重要な証拠になるのか・・・・・・。
俺の保身を考えれば、見せない選択はないよな。
意を決した俺は、なぜか赤面したように顔に熱を感じながら手紙をキツネに渡した。
「うわぁ、マジなん? キッツイわぁ~、ん? 何んやこれ? まぁ、いいか・・・・・・?」
世にも珍しいキツネの百面相を見ながら、なぜか自分が恥ずかしく思える不思議。
やっぱり見せるんじゃなかった。
「そんで、自分これからどうする?」
「これから?」
「きっとな、この世界から元の世界には帰ることは出来ないと思うんよ。前例もないし、で、ここで生きていくにも仕事とかどうするんかと思って」
「珍しい症例だから国が保護して、悠々自適とかは?」
「おお、研究に協力してくれるん? それなら生活は保障できるか、・・・・・・生活だけなら」
おいおい、語尾が恐ろしい感じに聞こえるけど? えーっと、他は・・・・・・。
「なんか、冒険者的な? そう言う感じで世界を渡り歩くとかは?」
「世界情勢も知らん世界で? どこが危険か分からんのに?」
マジで? そういえばどうすればいい?
常識も何もかもわからない土地で、ましてやファンタジー世界なのに前の世界と同じくらいの文明レベルの時ってどうやって生きていくんだ?
仕事? 経済の違いも理解できない世界で、何が稼げるとかも知らないのに?
翌々考えれば、俺かなり追い込まれてないか?
何が好きに生きればいいだよ! 何にもできないよこれ!?
「冒険者ってわけではないけど、まぁ、アレがあるか・・・・・・しゃーないな、じゃぁついて来てくれるか?」
「どこに連れて行く気だ?」
「そんなに怯えんでもいいよ。なに、よくあるやろ。神様からの贈り物や。この世界のどこでも生きていける力をキミに授けてあげよ思ったんよ。優しいやろ?」
いや、自分で言うんかい! それにしても神様の贈り物? あ! 都合のいい能力や道具をくれる、あれ!!
「んー・・・・・・そんなに時間もとらせんし、はよ来て」
地獄に仏とはこのことだ!
「ここでいいかな? 入ってきて」
俺が部屋に入ると、ひとりでに扉が閉まる。
え? なに??
「さっき、地獄に仏とか考えてたやろ? 安心しい、地獄はこれからや」
キツネの無いはずの表情筋が盛大に歪む。
扉が閉まると、そこには部屋はなく大自然が広がり、閉まったはずの扉も無くなっていた。
そこから数年、俺には地獄の日々が与えられた。
そして、俺はこの世界の情勢、魔法、常識などを徹底的に叩き込まれた。
さらに、本当に必要なのか疑問に感じるサバイバル技術も全て実地で教え込まされた。
途中どこからか現れた神を自称する男女に
「魔法を使うには、先ず体術が出来ないとね!」
と意味不明な発言の下、見たこともない体術も叩き込まれた。
扉が開いた時には、どこぞのエージェント並みの動きが取れるまでなっていた。
「嘘つき・・・・・・」
「はぁ? なにが?」
「何が時間は取らせないだよ!! 3年以上かかったじゃないか!!」
「あ~、大丈夫。1時間しか経ってないし」
え? 1時間? そんな訳あるか!!
「ホンマやって、扉が開かんかったのは隔離して、時間を加速してたからやし」
「マジ?」
「マジマジ」
まぁ、入る時の日付を知っている訳でもないし、確認はできないんだけど。
このキツネの話を信じておくことにしよう。
「これで、どこに行っても生活出るようになったな!」
「いや、軍隊ぐらいしか入れないような?」
嫌だけど。
「だって、冒険者的なお仕事したいんやろ? そしたらこの世界じゃ魔術師になるしかなんよ」
「魔術師?」
そう言えば、手紙にも書いてあったな。魔術師になりたいって。
「どんな職業なんだ?」
「あれ? 分からん? また加速空間の出番かな?」
「いやいい! ここで説明してくれ」
「しょうがないなぁ~、簡単に言えば魔法を上手に扱う人やな」
「それは分かる。そうじゃなくって――」
「アレ覚えてるか?」
あれ? あれってなんだ?