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20話

「キツネ・・・・・・」

「はよ、おいで」 

 神妙な面持ちで俺を促すキツネ。俺が立ちあがるとガチャリと重い音を立てて格子が開く。

 キツネの先導で歩いていくと、ここが魔術教会の中であったことに気が付く。

 この世界に来た時も、こうしてキツネの先導で案内を受けたが、今日はやけにキツネのシタシタという足音が耳に付く。何故かキツネの足音を初めて聞く気がする。

 自分の足音もやけに響いているような気がする。


 ああ、そうか。キツネが終始無言だからだ。

 この世界に来て初めて会った神様は、この教会内で事あるごとに俺に話しかけてきてくれた。

 いつも会話があったんだな。だから、キツネのキツネの足音を初めて聞いた気になったんだ。

 そう考えると、現状がいかに芳しくないのかを俺に教えてくれているように思えてくる。

 神様が保護した男が、神様に刃を向けた。

 しかも、この世界の魔法とは毛色が違う魔法のような力で。なにより、この世界にとってお客様といえる神様相手に。

 事は俺一人では済まないのかもしれない。

 この世界群を管理している神や、何より、俺を保護してしまった目の前を歩く神様は、さぞかし相手側からキツイ追及をされるのだろう。

 

 そう考えると、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 俺自身、巻き込まれたと言う被害者意識がこの世界に対して強いが、今回のことに限定して言えば俺という異分子のお陰で巻き込まれてしまったのは、この世界の方だ。

 俺がもっと、この世界に順応していたら。俺がこの世界の住人の様に、神様たちを崇拝できていれば。

 こんなことにはならなかったのかもしれない。

 

「ついたで、入り」

「あ、ああ」

 案内されたいつもの瑠璃男さんの部屋。魔術教会の支部長室。

 今日はいつもよりその扉が重苦しく思える。

 でも、俺はそれを受け入れなければならない。

 どんな罰も。自分がしたことなんだから。

 そして、これは俺が巻き込んでしまったことなんだから。


 意を決して扉を開き、中に入る。

 中には疲れた表情の瑠璃男さんと、ソファに横になり寝ている少女の神様。

 黒い炎を手にはしゃいでいる男の子の神様。

 そしてなぜかいる、山の女神様。

「おい! ####。うっさいねん。部屋の主は徹夜明けやど、ちょっとは気ぃつかえ」

「だって! 見ろよこれ、こんなにも禍々しい炎が攻撃能力ないとか! しかもこれが基礎における最重要魔法とか。ウケる!」

「あーもう! お前のせいでせっかく作った雰囲気台無しや! 見ろ哲夫君の表情を、どう処理して良いのか困ってるやんけ」

 ・・・・・・。

 扉の中は、俺が思ったよりも少し、いや、大分和やかな雰囲気で満たされていた。


 和やかな雰囲気のまま着席を促される。処遇に心配のある俺は、言われた通り座る。座るけど・・・・・・。

 処罰は? 責任の追及は?

「ないない。そんなん」

「神様に刃を向けたせいで、向こうの神様から抗議とかは?」

「そんなん、あちらのお母さんの躾のせいやん。なんや言ってきたけど、大元の責任はワシらや無くってアチラさんだし」

 え、そうなの?


「そうやで! だいたいな、この世界は持ちつ持たれつなんや。一方的に言われても知らんいう話やな」

「なんだよ~! マジで懲役的な罰まで覚悟してたよ。良かった~」

「けどな、哲也君や。今回はあっちが引き下がってくれたけど、女の神様、特に母神言うんは気を付けなアカンよ?」

「母神? どうして?」

「母神言うんは、子供さんに大分思い入れの強い方が多いんや。下手に怪我でもさせたら殺させるだけじゃ済まんからね」


 あ~、確かに神話だと子供を産む状況が特殊なことが多いもんな。死んだ父神の身体を集めて一人で生んだり、変な予言で子供を産むことが許されないとか。・・・・・・今度からは気を付けて対応しないとな。

「ま、人間が神様傷つけられること自体あり得んから、大丈夫やろけど」

「え、でも神殺しとか神話的に多いじゃん」

「ま、ほぼ全部創作やな。特にお父はんの世界じゃ可能性は皆無やな、それらしいのはあるにはあるけど。キミが気にしても仕方がない方法(こと)やし」


 まあ、気にしなくていい問題っていうならそれでいいか。

 それにしても全部問題なしで良かったー!

 この世界ともお別れしなくて済みそうだし、ちょっと変なの見えるけど日常生活に問題もないし。

「そう、それ! それはね、問題なの」

「どうした? それって何?」

「キミの見てる物。それは問題ちょっとあるねん」


 俺が見ている空間に存在だけが確認できる武器たち。

 それのどこに問題がある? 今後の仕事に役立つだろうし、あるだけなら何も問題ないじゃないか。

「んー、ある事が問題じゃないねん。なんで見えるかが問題やねん」

 見えることが問題? まあ、突然だったけど慣れちゃえば、何の問題もないと思うけどな。

「ん、ん、ん、だから、誰のせいで見えるのか? そこが問題なんよ」

 あー、確かに。俺自身は元々そんな超能力無かったし、この身体の子は・・・・・・何があっても不思議じゃないとは言え、検査してたからこの身体由来なら分かってて当然だよな。

 あと、考えられるのは・・・・・・あ! 黒幕かもしれない女か!

 この身体に遺跡使用させた奴なら、こんな不思議の原因もそいつかも!


「ちゃうねん。もう一柱(ひとり)キミに何かやった(ひと)いるやろ?」

 覚えがないけどな。

「あ、そう言えば山の女神様! って、なんでここにいるの?」

「ハイ正解。キミに何かやった神様で、その見えちゃってる物の原因を創った張本人がこの方です。なのでご側路いただいた訳やな」

 

 キツネの言葉には、どこか棘みたいなものを感じる。

 そしてそれを隣で聴いている山の女神様は、恐縮したように小さくなっていた。

「キミに祝福くれたやろ? それが今回の原因やな。もちろん、キミが望んだせいでもあるんやけどな!」

 どうやら、キツネの棘は山の女神様だけではなく、俺にも向けられていたようだ。

「ちょっと待って、俺はそんなの望んでないよ?」

「それ、説明するから座ってくれるか?」

「いや、座ってるけど?」

「なんで、椅子に座ってるん? 地べたや、地べた座り!」


 今回の件、何も問題にはならなかったけど・・・・・・キツネ的にはそれなりの問題があったようだ。

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