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1話 

 受け入れがたい現実と数回の嘔吐により疲労しきった体が、何者かに運ばれる感覚があった。

 次に目を覚ましたのは、ベッドの置かれた取調室のような部屋だった。

 もちろん、俺は実際の取調室なんて知らない。だけれども、この部屋を表現するとそう表現するしかなかった。薄暗い、窓に格子が掛かった部屋を俺は、それとしか認識できなかった。

 前科ついたら再就職がなぁ~。

 

 よく見ると、この部屋にいるのは俺だけではないようだ。

 目を覚ましてそばに居たのは、母親のようなあの人ではなく、ましてや医者でもなかった。

 黒いスーツにモノアイに見えるメガネらしき物を装着した男性が数人。

 見るからに、どこぞのエージェントです。と、名乗っているかのようないで立ちだった。


 その中の一人が、腕の中にキツネを抱いて俺の前に立つ。

 場違い感で言えば、俺がこうしていることも場違いに思えるんだが、この男も相当な場違いだ。

「斉藤達夫君だね?」

「いや、自分は斉藤哲夫ですけど」

「なるほど、同一存在の君が主人格になってしまったんだね。さぞかし混乱していることと思う」

「ここは、どこなんですか? 同一存在? あなたは何を言っているんですか?」


 確かに混乱している。だけど、どこかでこの状況を受け入れやすいように、整理し始めた自分がいた。

 俺の知る日常とは違う世界、そして同一存在と言うフレーズ。

 その言葉を呼び水に、並行世界、異世界転移、憑依というフレーズが呼び起こされる。

 どれも俺の知る漫画やラノベ、アニメなんかでは使い古され、手垢がついていると言ってもいい題材だ。


「あー、意外と冷静やね? もっと混乱しててもいいと思ったのに」

 どこからか聞こえてくる関西弁。

 目の前の男の口は、開いてはいない。

 周囲に居る男達も、口を開いてはいない。


「ちょっと怒ったろ思たんやけど、ちょっと酷か」

 どこからだ?

 ただでさえ、混乱する状況で聞こえてくる声。

「誰だ? どこにいるんだ?」

 思わず声に出して、声の主を探す。


 目の前の男がキツネをグイッと目の前に差しだしてくる。

「ああ、こんな姿で済まんな。キミを保護に来た神様ですわ。ま、身体は借りもんやけど」

 抱えられて空いている前足をあげながら、キツネは自己紹介を始めた。

  

「神様? キツネが? って言うか、キツネが喋ってる!!」

 もう、目の前で起きる何もかもが俺には不可思議に思えてならなかった。

 何せ異世界だ。何が起きてもありなんじゃないかと思えてくる。

「この世界のキツネはしゃべるのか!? なぁ答えてくれ!」


 混乱から目の前の男に食って掛かる俺を、キツネが冷ややかな目で見ている。

 この世界のキツネは、表情筋も発達してるのか?

「ああ、やっぱりそれなりに混乱してるのね。キミ等、席外してくれるか?」

「はっ!」

 キツネの声に敬礼で答え、男たちは部屋から出て行く。

 この世界では、キツネの方が偉いのか?

「もうええっちゅうんじゃ!!」

 キツネにどつかれた・・・・・・。


 殴られて冷静を取り戻す俺も大概漫画しているとは思うが、冷静に考えれば神様の使いがしゃべった所で不思議はないのだろう。・・・・・・神様がいる時点で十分不思議なんだから。

 そりゃ、キツネもしゃべりますわ。

「あ、うん、あの子とは違う意味で、やりにくいな」

「なにか?」

「いや、こっちの話」

「で? ここはどこで、何が起きたんですか?」


「言いにくいことなんやけど、不慮の事故といいますかぁ・・・・・・人災? いや、天災? 本来なら起きないはずの事が起きてしもたんやなぁ~」

 歯切れが悪いなこのキツネ。

 いや、冷静に考えてなんでキツネ? 犬でも兎でもいいじゃん。

「え? そこ疑問? 何でか言えば、神様の使い言うたらキツネがしっくりくるやろ」

 ナチュラルに思考を読まれているようだけど、もうそんな事で驚いていられない。

「そんな理由で?」

「まぁ、突然のことでこっちも急いでたいうことや。良い依代が見つからんでな」

 依代がなくっても、良いような気がするんだけど? 大体、表情筋がない動物で来られたら伝わるものも伝わらないと思うんだけど。けど、いいモフモフ具合だ。


「へー、それでこんなモフモフなんだ」

「そうそう・・・・・・って違うわ!! そうじゃなくて事の経緯を知りたいんでしょ!?」

「ああ、そう! それ!!」

「ああ、君ボケやな。道理でやりにくいはずや」

「そんな年じゃないないからな!」

「そう言う古典的なのは、趣味じゃないかな」

「あ、ごめんなさい」

「じゃぁ、説明するで?」


 この世界の俺の同一存在である斉藤達夫君が、禁忌とされている世界移動の魔法を使ったことが始まりのようだ。

 なんでも、一般人に異世界がある事は知られてはいない。ある程度、情報規制はせれているようだ。

 しかし、現実には異世界は認識され、これまた知るはずのない異世界召喚魔法をベースに、人間一人を存在ごと魔力に変える新方式の魔法を行使されてしまたと言う訳らしい。


 それに巻き込まれる形で、こうしてこの世界に俺はやってきたそうだ。

 って言うか、魔法? さっきのモノアイは? あれも魔法? 駄目だ、理解が追いついていかない。


 話が進むと、過去にこの世界に飛ばされる、または別の世界に飛ばされる事例はいくつか観測されているらしい。

 しかし、身体はこちらのもの精神は別世界のものといった事例は、そう多くないということだ。


「悪いと思たんやけど、キミの身体・・・・・・で良いのかな? ややこしいけど。調べさせてもろたんや。それと達也君の部屋も家宅捜索させてもろて、色々と分かったんやけど」

 達也と言う俺の同一存在は、並行世界における俺と言う人間の存在を魔法的に取り込むことで人間として持つことのできる魔法力を強制的に上限一杯まで引き上げる術式を構築、使用したらしい。


「そんで、達夫君は目論見通りにバカでかっかい魔力を手にした代償に精神の死を迎えた訳やな」

 唯一の誤算は、俺の意識がこうして存在していること、そう告げられた。

 世界移動ね・・・・・・言葉の響きとしては、とてつもなく大がかりで、例え魔法だとしてもちっぽけな魔力で出来そうな印象ではない。


 そんなことが出来る人間が、それほどのリスクを負ってでも欲しがった魔力ってどれだけ膨大なんだろうか?

 そもそも、そこまでして何を成したかったのだろう?

 自分の同一存在の考えに俄然興味が湧いた。


 でも、それも今となっては分からない。

 何せ俺がこうして、思考していることが彼の死を現実足らしめているのだから。


「いや、分かるちゃ分かるで?」

 キツネを見ると、どこから出したのか? 便箋をくわえていた。

 便箋を俺の前に置き

「達夫君の遺書で、ええのかな? 取り敢えずキミ宛てや」

 遺書? 俺宛て?


 別世界の自分の遺書を読むって、どんな拷問なの? それ。

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