12話
俺の今立っているこの地、奈羅県(誤字ではない)には霊薬と密接な関係を持つ遺跡がある。
元の世界でもとある漫画により、世間に認知され何が作られ、どのように使用されていたのか一切の謎に包まれた有名な遺跡が存在した。
その名を酒船石。遠く平安の世に使用されていたと言われるこの奇妙な石。
表面に掘られた皿や溝に、何を入れ何を行い、何を製造してたのか? オカルトフリークでなくとも一度は疑問を抱き、その製造品に胸躍らせたことがあるに違いない。
そしてそんな有名な遺跡の完全版があるとしたら? 胸躍るし夢が広がることだろう。
俺の様に霊薬に興味が無くてもだ。まあ、これまで色々な考察の中で不死の霊薬の可能性も十分に語られてきたと思う。
正直、予想通りでいささか不満がないと言い切れないが、それでも知っている遺跡が完全に保全され機能すると言う事実。それは俺の頬を緩ませるには十分な情報だった。
しかし、笑えない事実も同時に知らされた。
酒船石。何を考えたかそれを製作した神様は、魔法と言う世界の法則と、管理神の蘇生は出来ないと言うルールを使い本当に、完全に機能する不老不死の作成に成功していた。
一つ世界で一つの生を全うする。その願いが組み込まれているため、使用者の精神は十全に機能することになる。即ち、狂えないし死なない。精神的死もその生を終えるまで迎えることが出来ない。
何時まで経っても人間性を失うことなく、社会性も失えず集団として生きる人間であり続ける。
何年も何十年も、何百年も何千年も人の中で生き続けなくてはいけない。
見知った人たちが老い、死に、幾つ世代を変えてもその集団の中に生き続けなくてはならない地獄。
その話を聞き、俺はその地獄を想像し、耐えきれず吐いた。
神様自体は、自分の力を示すと同時に人間に慈悲を与えたのかもしれない。けれど、その死ねない人間を見続けなくてはいけない責任について深く考えてはいなかったようだ。
使用者を自らの世界に連れ帰り、その神様はそれ以降この世界に寄りつくことが無い。
自分の創造した世界に引きこもり、その使用者への贖罪をしていると聞いた。
そして、一番厄介なのはその霊薬製造に関するレシピだ。
霊薬のレシピと聞いて何を思い浮かべるだろうか? 前人未到の霊峰にある植物? 伝説にある今は入手困難な物質? 残念なことにそうでは無い。
ごくありふれた一般家庭で入手可能な、日常で使用しているような食材で製造可能という極悪使用なんだ。
誰にでも製作可能な霊薬、一般流通していないのが不思議でしかたがないぐらい素材入手が容易であるという霊薬の言葉の意味を考えてほしいぐらい容易な霊薬。
この世界の魔術師たちはそれを隠し通せるぐらい優秀な人材しかいなかったのだろう。
時にデマを流し、現地を整備し観光地化して人の目を多くしてみたりありとあらゆる方法で、この遺跡を守り通してきた先達たちには、尊敬の念しか出てこない。
しかし、どんなに優れた方法であってもどこかに穴があるもの。人の行うことに完璧というシステムはない。時代が経ち、人が、道具が変化すると完璧に思えた物でも容易に突破が出来る。
そして、それが今であるという不運。
もう俺には嫌な予感しかしない。
唯一の救いは、製造には時間が必要だと言う事。
自らが神の末席に収まろうと、この世界の人間にあるまじき欲望をもった集団に酒船石か占拠されて丸一日。通常であれば三日はかかる製造工程に今は救われていると言う現状だ。
あと二日、それだけの時間で場所と規模が分かっている集団と戦闘を行う。
しかも今回は、バックアップ付きだ。何にも分からなかった前回の任務に比べれば楽な仕事かもしれない。
俺を含めた、現場担当者と綿密な打ち合わせが行われている。
欲を言えば、この席にベテランの魔術師がいれば言うことが無い。でも、今は俺だけだ。
周りを固めるのは魔術教会の魔法使いと呼ばれる戦闘集団。要するに教会の私兵だ。
もちろん組織戦闘のプロであるし、対魔法戦闘においても十分に訓練を行っている。
今回の主役は彼等たちだ。狂集団の眼前に立ちその害を一身に受け陽動と実質的制圧を担当する。
俺は、彼らに注意が向いている間に酒船石の遺跡核を破壊する。製造途中の霊薬が無に帰すという動揺を与えその隙に制圧を試みる作戦となった。
不安はある、しかし彼らの命を賭けた神様への献身にすがるしかない。
俺自身は魔術師を名乗っているが、集団戦闘に関しては素人であるし、もっと言えばこの世界に対して初心者なんだから。出来ることに集中しよう。
「それにしても、魔術師殿の装備・・・・・・些か戦闘に不向きに見えるのですが」
打ち合わせの終わり、部隊の指揮官が申し訳なさそうに俺に話を振る。
装備と言われて目線を自分の体に向ける。
確かに、指揮官の発言は最もだろう。キツネや瑠璃男さんにも考え直すようにさんざん言われたしな。
「いや、大丈夫ですよ。色々考えてこれにしたんで」
その言葉を聞いてなお、指揮官は俺に怪訝な表情を向ける。
うん、そうなるよね。でもこれはこれでもかってくらい機能を盛り込んだ装備なんだけどなぁ~。
まず、前回の反省からギミックが多い機械的なものは故障が怖い。前回は任務中は作動できたけど、万が一任務中に故障すると俺に攻撃手段がほぼなくなる。裸も同然だ。
なので、機械的な装備はだめ。
次に対魔法戦闘に対する対策。この世界が魔法有きの世界で、その魔法は人を容易に殺傷することができる。そんなものに対策をしないのはアホのすることだ。
要するに俺はアホだったと言うことだ。だが学んだ。発動前の魔法、祈っている間であれば俺でも阻害は出来る。しかし、発動してしまった魔法はレジスト出来ない。
では? 耐性をつければいい。魔法に対する耐性魔法と言うのは存在はする。存在するんだけど、それを使うには30分という長い間祈りというダンスを踊らないといけない。
そもそも、俺に神様に祈るという意味が理解できないから、魔法が使えないって話なんだけど。
でも、それも管理神の権能を用いれば、使える・・・・・・いや、発動だけならできる。
何より、帰りの心配も必要だ。逆さに生えたタケノコを掘り進める労力。人力ではとてもとても。
けれど、この世界には身体強化魔法という便利な魔法が存在する。
作戦行動も戦闘も、帰還のための穴掘りも一気に解決できる。
そんな夢を満載した装備が、俺の来ているスーツだ。
機械的な要素がない。常時発動している必要がある魔法たちをスーツに付与して着ているだけで扱うことのできる、正に魔法の服だ。
恰好的には子供がリクルートスーツを着ている様相になってしまったが、服であれば壊れる心配もない。
名付けて『マジカル・マッスル・スーツ』
この服を使い倒して、目指せ借金返済! ってね。
さあ! 仕事に取り掛かるか!




