チャプター4「徴兵」
俺は家に帰り、PCの電源を入れた
ブゥン
PCの起動音が鳴りディスプレイの画面はバイオス表示からPS入力画面へと移行する
しばらくPCをそのまま放置し
先ほどスーパーで買った商品を冷蔵庫へと仕舞う事にした
リンゴ、ジャガイモ、ニンジン、玉葱といった感じにどんどん冷蔵庫へと納めていく
そんな作業中だったか、ズボンのポケットに入れていた携帯が激しく振動したのだ
俺は普段から携帯はマナーモードにしていた
正直、着信音なんて迷惑なものだ
それ以前に一々設定するのが面倒臭い
電話かメールかも携帯のバイブレーションのリズムでだいたいわかってしまうのだから必要ないと言った方が良いだろう
今回の振動のしかた、メールだ!!
一体誰からだろう、少しワクワクしながら携帯のメールを確認した
差出人は島根の隊長だった
島根の隊長(以下島根)
島根とは長いネットゲーム仲間だ、知り合って4年くらいだろうか
特に軍隊関係物には目がないらしい
良く一緒にゲームをしている
いまやっているネットゲームだって島根に誘われて始めたものだ
仮想の戦争世界を良く2人で走りまわったっけ
島根は良く仕切りたがるので、仲間が望んでいようが、いなかろうが指示を出してたっけ
最近では2人でクランを作ろうかという話も上がっていたくらいだ
だからといって、メールのやり取りをする仲ではない
今まで島根からメールが来たのは数えるほどしかなかった
いや、その必要がなかったと言った方が良いだろうか
PCをつければメッセンジャーを通じて島根側から話かけてくるのだから
メールでのやり取りをする必要があまりなかったのだ
そんな事を考えながら、メールの内容を確認する事にした
以下メール内容
差出人:島根
件名 :人生オワタ\(^o^)/
本文:ちょ、おま
今、家のポスト確認したら
赤紙が入ってたんだが
('A`)ウゼッ
おまえんちどうよ?
書いている本文を読んで、内容をいまいち把握できなかった俺は迷った末島根に返信しなかった
結局の所、冗談だと思ったのだ
PCを立ち上げればいつも通りメッセンジャーで勝手に話かけてくるだろうし
やがて買い出した商品を仕舞い終え
PCにパスワードを入力する
いつも通りの効果音が流れ、自分のプロファイルが表示された
その後しばらくして
案の定島根がメッセンジャーで話かけてきた
以下島根とのメッセンジャーである
島根「おい、メール見たんか!!」
Ore「ん?」
島根「メールみたんか?」
Ore「ん?」
島根「('A`)」
Ore「ああ、ごめん、見たよ見た見た」
島根「俺の青春を返せorz」
Ore「そういえば赤紙ってなんなの?」
島根「('A`)ハッ それは徴兵だろ」
Ore「は〜っ?徴兵!?、遂に脳みそまでやられたか、、、。」
島根「http://www.**********.news ←ソース」
島根「そういえばお前何県?」
Ore「出身は茨城、今東京」
島根「あー、俺は北海道だから駐屯地は別の場所になるな」
Ore「ほむ?」
島根「それじゃ、親とかに連絡せなあかんから次は戦場であおうぜ」
島根様がオフライン状態になりました
島根がオフライン状態になった後も俺は島根の言った事が信用できなかった
何かのイベントに浮かれているのだろ
変な冗談も体外にしてもらいもんだよね、まあそんな感じだ
そんな事を考えながら島根の残したURLの先を確認する事にした
たぶんニュースサイトに繋がっているのだろう
俺の思惑は的中してネットでメジャーな普通のニュースサイトが表示された
そのサイトに書いてある事を瞬時に確認する
いや、脳が勝手に働いたといっていいだろう
3秒ほど時間が流れてからだろうか
書いてある内容を思わず口にだしてしまった
「あー、国会が自衛隊を急遽自衛軍へと変更
それに伴い徴兵制度を開始、アメリカの要請を鵜呑みにする形に、、、。」
ニュースの日付を確認すると、発表されたのは今日の午前中になっていた
はっ、徴兵だって!!
この国はそもそも自衛隊で間に合ってたではないか
それをいきなり軍に格上げして、徴兵制度を開始するなんて
何を考えているんだ、国会は!?
俺は急な不安に駆られ、さらに情報を仕入れるためにテレビの電源を付ける事にした
チャンネルをコロコロ変えていく、どこもかしこも
徴兵の話をやっていた
やがて特番という文字をテレビ画面で確認してチャンネルを変えるのをやめる
特番は自衛隊が軍になった経緯やら、徴兵についての話を詳しくやっていた
特番の内容が
テレビの音声が嫌でも耳に入ってくる
テレビの向こうでは、出演しているアナウンサーと、軍事ジャーナリストとの会話が淡々と繰り広げられていた
「いやー大変な事になりましたね、古河さん」
どうやら軍事ジャーナリストの方は古河というらしい
ビシツっと着込んだ黒のスーツに赤いネクタイが印象的だ
「いやね、柳川さん、大変な事じゃないんですよ」
古賀は少し早口な喋りで柳川に言った
それほど低くない声は、とても聞き取りやすく
それ自体が今の俺にはとても痛く聞こえた
「日本が徴兵制度を開始だなんて、一体何所にそんな資金があったのだか、今の状態では一瞬にして破産ですよ」
「いやね、古賀さん、一説にはですよ、アメリカからの莫大な資金援助があったとか噂されていますけど」
柳川が古賀へと問いかける
「ええ、聞いていますよ、ですがあくまでも噂です、アメリカの情勢は今とても苦しいですからね、、、。」
どうやら古賀の方は少し御立腹の様子だ
今までの軍事ジャーナリストとして活動してきた中で起こった時代の大事件が許せない様子だった
それに古賀本人からしてみれば長年の軍事分析を台無しにされ、顔に泥を塗られたと言っていい状況なのだから仕方のない話だろう
「古賀さん、少し話を変えましょう」
柳川が古賀へと振る
「ええ、いいですよ、私が答えられる事でしたら何でも」
「では質問します、何故今になって自衛隊を軍へと変更したのでしょう?
この徴兵制度の意味するものはなんだと思いますか?」
柳川のキラーパスが古賀へと飛ばされた
それの質問は誰もが気になる事だった
「それもただの徴兵制度ではないですよね?
なぜこれほどまで年齢の制限幅が広いのでしょうか?」
少し喋って、柳川が黙り込む
そして古賀の返答を待つ
しばらく考え混んだ後古賀が喋り始めた
「まず、今まで徴兵制度を導入しなかったのが不思議なくらいです」
古賀は重い口を開くと
先ほどの意見から一転して徴兵制度を肯定し始めた
「日本は世界でも有数の軍事大国に囲まれています
特に中国、北朝鮮は要注意と言っても良いでしょう
そんな中で日本には軍隊というべき存在がないのです
いざ戦争にでもなってしまったら、一瞬にして植民地になってしまうでしょう」
柳川が割り込むような形で答えた
「といいますと、近々大きな動きがあると?
たとえば戦争とか・・・。」
「戦争だって!!」
俺は思わず叫んでいた
テレビを掴み、その奥を見つめる事しかできなくなっていた
俺と同じ用にほとんどの人が今テレビへと釘付けになっているだろう
テレビの中の会話はあまりにもバカバカしく
とても信用できるようなものではなかったのだが
全テレビで放送されているその事実はどうしようのない事だった
ガサ ガサ コトン
俺はしばらくテレビを両手で掴んでいたのだが
扉に設置されているポストに何かが入ってきたため
配達物を確認するために玄関へと移動する事にとなった
俺がテレビの前から立ち上がると同時に
テレビの向こう側の軍事ジャーナリストがまた喋りはじめた
「それも可能性の一つです、まあ、世界への牽制、高まるアジア不信への抑止力といった所でしょう」
アジア不審?
そういえば原油の高騰で、各国はエネルギーの確保に躍起になっているんだっけ
その1つが武力による威嚇だったような
そんな事を考えながら送られて来た物を確認する
案の定、ポストの中に赤い紙が入っていた
赤紙とは聞いていたものの、まさにこの絶妙なタイミングで本当に来るもんなんだな、、、。
俺は玄関で赤紙を手に持ったまま、しばらく唖然と立ち尽くしていた
動く事ができない
PCの置いてある六畳一間に戻る事が出来なかった
部屋の奥のテレビからは今も柳川と古賀の会話が流れていた
それにこの赤紙は少し変だった
赤紙というくらいだから、薄っぺらなペラ一枚とばかり思っていたのだが
少しばかりの厚みがあり
パンフレットに近い代物になっていた
恐る恐る中を覗いて見ると
表紙のちょうど裏側に軍隊への入隊届と書かれていた
指名や住所を記入する欄があった
対象年齢の幅はがやはり広かった
テレビでも少し
取り上げていたのだが、そこまで詳しい話はしてなかったので気にはなっていた部分である
どうやら、赤紙によると今回徴兵を受けた対象者は「18歳以上〜35歳」高校卒業以上の尚且つ学生に限るとの事らしい
まあ、当たり前か
急に無対象に人を搔き集めたら、日本の企業が大打撃なのだから
とはいえ、新入社員が一時的に雇えない状況は十分企業にとって痛手になるかな
次に目に入ってきたのは軍隊区分である
対象学校表という物が一緒に織り込まれていた
その表には東京23区すべての学校名(大学・短大・専門)が羅列されており
隅っこの方に軍隊名と配属部隊が記入されていた
俺は直様自分の学校を目で探した
「えっと、海王学園はっと」
やがて自分の学校を見つけて確認すると
配属は陸軍、特殊部隊と書かれていた
まあ野戦部隊に配属しなかったのは不幸中の幸いだったと思う
そんな事を考えながら中国の軍隊の映像なんかを思い返していた
やがて赤紙を読んでいくと愈々最後のページへと差し掛かった
今までのページはというと、訓練内容やら給料やらが書かれているだけで
肝心の徴兵日が書かれていないのだ
この様子だと俺はいつ何所へいって不服を申し立てれば良いのかもわからなくなる
そんな事を考えながら最後のページをめくった俺はまた叫んでいた
「明日!!」
ちょっと待て、いくら何でも急すぎるんじゃないのか、、。
明日って学校はどうなるんだよ
心の中で色々な事を考えていただろうか
一瞬、明日のスケジュールの読む俺の目がある数字を見て止まる
「6時45分」
その数字は明日の朝の始まりを意味していた
バックれた方が良いのでは?
このまま実家に帰った方が無難なんじゃないのか
そんあ事を考える俺に追い打ちをかけるように
注意書きには
「逃げた場合全国指名手配になります」
さらにその下に
「明日の朝迎えに行きます」
と書かれていた
次にその隣の軍隊新規開発兵器の欄があり
デカデカとガン○ムを作ると書かれていた、、、。
こんなふざけた奴らが明日来るのか
急に疲れが噴き出して来た俺は、部屋の奥にある自分のベッドで少し横になる事にした
PCの電源もテレビも付けたままだ
テレビの向こうでは今も尚自衛隊の異常行動を報道し続けている
PCからはいつもと変わらない起動音が流れていた
そういえば島根の隊長って島根出身じゃなかったんだ、、、。
そんな事を考えながらベッドで目をつぶると急に睡魔に襲われたため
今日はそのまま眠る事にした