チャプター3「水面下」
アメリカ −ホワイトハウス−
1人の屈強な男が颯爽と廊下を歩く
歩いて行く先の一室の前で足を止めた
コン コン
男は扉に向かってノックをすると
扉の向こうからスグサマ返事が返ってきた
「入って」
その声を聞いて、1人の屈強な男が室内へと入っていく
それほど若くはない
「失礼します」
男は部屋に入って一礼すると、ハキハキした口調で言った
「例のシステムが完成しました」
部屋の机に座っている女性へと声をかける
この女性もそれほど若くはない
年の頃60歳といった所だろうか?
結構な歳をとっているようだ
「思ったよりも早く完成したのね」
女性はシタタカな口調で男の質問に答えた
「それで、運用は何時頃になるのかしら」
今度は女性の質問に屈強な男が答える
「今月中にでも、日本の自衛軍と共同演習を行い、実戦投入は来年以降になると思われます!」
男は変わらぬ口調で
淡々と答える
「そう、今回のシステムには期待しているわ」
女性は変わらぬしたたかさで男へと問いただす
「先代の大統領はやってくれたわね、環境の事をまるで考えず
自分の任期間近でイラン空爆だなんて、私達への当て付けだったのかしら」
男はその質問に困惑の色を隠せなかった
発言にあまり自信が感じられない
「それは、、わかりませんが、彼にも彼なりの思惑があったのでしょう」
女性の表情はあまり明るくないだろう、今の現状に幻滅しているのは明らかだ
「予定通り例のシステムの運用に移ってちょうだい、期待してるわよ」
「はっ、かしこまりましたキアリー大統領」
男は腕を直角に曲げ手の平を水平に額に付けて言った
軍隊でいう敬礼のポーズだ
少しの間の後、男は大統領に背を向けて足早にホワイトハウスの大統領室を後にした
日本−某所−
そこは地下にある隠された研究施設の一室
1人の科学者と1人の助手が居る
科学者はイスに座り、アシスタントは立った状態で机に手を付いて科学者に話かけている
「教授、AIの搭載までは行きませんでしたけど大丈夫でしょうか?」
助手の発言に科学者が耳を傾けて答える
助手の年齢は20代後半といった所だろうか
科学者の年齢は50代前半だ
「まあいいさ、今回の1件でAIは使えないにせよ、それ以上の性能を持つ物が使えるのだから何も問題ない」
少しの間が流れ、科学者がまた喋りだす
「むしろ良すぎるくらいだ、AIのレベルなんてたかが知れている、所詮人間には叶わないからね」
隣の助手は少し残念そうな表情をしているみたいだ
「そうでしょうか、私は思うんです、このようなシステムに人間を起用するなんて
馬鹿げていると、、、。」
その発言を聞いて科学者の耳が少し動いただろうか
その瞬間的な動作は科学者の心の動揺を映し出していた
だが暫くしてまた淡々と会話を続ける
「科学の発展に犠牲は付き物なのだよ、それがわからない内は君もまだまだ科学者とは言えないね」
その発言に答えるように助手が喋り出す
「こんな形でこのシステムを、彼らを使いたくはありませんでした
もっと別の方法が、、、あったと、、思います」
助手の口ぶりはとても残念そうで
最後の方はかなり声のトーンが下がっていただろう
そして少しの会話の後
助手が部屋のドアを開けようとした時
科学者の声で足を止める
「私はもう君の教授じゃないんだ、同業者として名前で呼んでもらいたいんだがね」
それは、とても無機質な口調だった
そして助手が答える
「ええ、失礼しました高島さん、それでは失礼します」
「ああ、期待しているよ鈴木君」
キィッ ガタン
科学者の少し後ろで扉の閉まる音がした
「ふう」
科学者は助手のいなくなった室内で独り言を呟いている
「若いっていうものは良いものだな」
研究施設の一室には科学者が一人、イスに深くもたれかかって
PCの画面をぼんやり眺めている
PCの画面には乱雑なパラメーターが表示され、それを眺めながらまた呟く
「私だって平和利用のために使いたかったさ」
、
、
、
「それよりも明日の演説はどうしたものかね、、、」