チャプター14-2「採用通知」
暫くの沈黙が流れた
部屋の空気はとても重く
今も直、マーキスは鋭い目つきで俺達を睨みつけていた
そんな重い空気を断ち切るように
今までずっと沈黙を守っていた白衣の女性が喋りだす
「マーキス中将、報告し忘れていた事があるのですが」
一瞬煙たそうな顔をしたマーキスはその報告を聞く事にしたらしく
女性の方を向き、鋭い眼光を飛ばすと言った
「なんだ?」
マーキスは今更という感じだろう
顔を少し顰めて女性の話を聞いている
「萩原品介が不採用になった理由に、会話に参加しなかったという原因を挙げるのなら考えを改めるべきだと思います」
女性の言葉を聞いて一同が一斉に女性の顔を見つめていた
マーキスが顔に疑問の色を浮かべながらその女性へと言い返す
「どういう事だね?」
動揺しているマーキスに今だとばかりに女性は畳み掛けた
「えっとですね、先ほどわかった事なのですが、通信ボタンが壊れていたんです。03号機が音信普通になったのもその為だと思うんですね、エラーがあったというか、、。」
正直なぜこの女性がそんな事を言うのか疑問に思った
俺達は試験終了後に萩原が音信不通にしていた理由を確認ずみだし
今この時点で女性が俺達をかばうメリットがまるでわからない
マーキスはなんだ、そんな事かという感じに顔を表情を戻すと言った
「私は技術者からそんな報告は受けていない」
そして、少しばかりか勝ち誇った表情をした
だがそんな表情を崩すかのように今まで静観していた高島が話に割り込んで来る
というよりは自分の部下の発言にフォーローをしようとしている感じだ
「私は報告を受けているよ、君も聞いているものだと思っていたのだがね」
「なんだと、しれは本当か高島!?」
高島の意外な発言に、今度はマーキスから驚きの声が上がった
「ああ、それに私の助手が言うのだから間違いないよ。私が彼女に調べるように言った事だし」
仲間から背中を刺され、急にマーキスはアタフタし始めた
何がなんだか、分からないのは俺達も同じだ
暫く考え込なんだ後、頭の整理がついたのだろう
マーキスが喋りだす
「だが、それでは通信したかどうかは分からないではないか。仮に連絡機能を使っていなかったかもしれないだろ?」
マーキスはそう言い終えると、高島へと視線をやった
自分の発言に対しての答えを聞きたいといった感じだろうか
だが、当の高島はというとマーキスの視線には気付いていたものの
視線を返さずに、常に一点
萩原をじっと見つめていた
どうやら萩原の意見を聞きたいらしい
だが、萩原はというと、ずっと府いていてじっと話の行方を見守っている
その視線に気がついた俺は隣に居る萩原を肘で少し叩いた
やがて顔を上げて前方の視線に驚くと萩原は、その合図を読み取ったらしく、やっと重い口を開いた
「あの、僕、右手小指のボタンを押したんですけど反応が全くなくって」
萩原の一言はマーキスへとトドメを刺した
高島の意見も待たずマーキスは凍りついていた
今やマーキス一人が道化人と化している
助手からまた声があがる
「無線を使えない状況下で仲間への通信方法を見つけ出した彼のポテンシャルは素晴ら
しいと私は思うのですが」
その言葉が決めてと言っていいだろう
萩原は無線以外の連絡方法を確かに見つけており
戦闘中に首を縦に振ったりする事で気がつかないうちに指示を受け取っていた事を知ら
せていたのだから、あの女性の言う事には正しいものがあった
やがてマーキスが顔を上げると仕方ないと言った具合に
採用通知を3枚奥から取り出して、俺達へと手渡した
その通知を受け取ると俺達は重たい空気の流れる
応接室を後にする事にした
一礼してやがて廊下へとでる
マーキスの話では、後ほど集会らしいものがあるので参加するようにとの事だったけど
また自衛官が呼びにくるのかな?
長い廊下を半分くらい進んだ時だろうか
川辺が喋りだした
「いや〜、一時はどうなるものかと思ったわ、結局3人採用になったのはいいものの。あのネーちゃんはいったいなんやったんやろか?。」
確かに川辺のいう通りだ、あの状況で上官に楯突く事であの女性になんのメリットがあったのだろう
それは俺達も同じ話だ、萩原の事を変に弁解したせいで不採用になっていてもおかしくないのだ
そんな中自分の身を呈して弁解するほどの義理が彼女にあったのだろうか?
それにしてもあの助手の声どっかで聞いた事があるような
そんな疑問が萩原の一言で吹き飛んだ
「あの人、隊長と同じ声してませんでしたか?」
「そうだ、隊長だ!!」
思わず叫んでいた
川辺も驚きの顔を隠せない様子だ
「それに、隊長、実際は運営責任者の助手をやってるって言ってましたよね」
マーキスの影に隠れてはいるが、多分施設内ではレイブンより強い権力を高島は持っているのだろう
それなら辻褄があう
作戦で俺達の足を引っ張ったせめてもの償いだったのだろうか
隊長は萩原の為に嘘をついたのだ
「あの隊長も良い所あるんやけ〜、見直したで〜」
やがて自分の部屋についた俺達はまた暫く待機する事になった