Chapter.6「因縁の刃 前」
皆さん、お久しぶりです。これからは(可能なら)週に一回のペースで更新していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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斬裂魔の左腕を奪い、紫眼の青年が現れた。
「あれ?ひょっとして気づいてなかったのかい?やっぱり弱くなったなぁ、ね・え・さ・ん」
眩く輝く銀髪、紫色に染まった瞳。白く透き通った肌を持つコート姿の青年はフランツィアにとって、因縁のある相手だった。
「ああ。久しぶりだな、シュヴェルト。相変わらずのいけ好かない笑顔だな」
奪われた左腕を気にも留めず、何事もないように話しながら少し後退りするフランツィア。それを見て、シュヴェルトは嗜虐性溢れる笑みを浮かべた。
「姉さんも変わらないね。利き腕を失って出血も酷いのによく平然と喋ってられるよ」
幅の広い、長さのあるマチェットを手の平で弄びつつ、フランツィアの元へと歩み寄っていく。
見る人が見れば、その足運び、その視線には一切の無駄がない。
「どうやら、このまま帰してはくれないようだな」
「ああ、勿論だとも。このまま返すなんて勿体ない、まだまだ前座だよ?本番をじっくりと斬り刻んで欲しいね」
フランツィアは内心で舌打ちをした。過去の彼の嗜虐性は常軌を逸していたが、今は更にあの状態になっている。
「万事休す、だね。今なら命乞いすれば助かるかもよ?」
「思ってもいないことを言うな。それに、この程度なら問題ない。確かに私は左利きだが、右もある程度は使えるようにしてある」
そう掛け合いを続けながら、フランツィアは周囲を確認し、内心微笑んだ。
「………少し詰めが甘いな。”人殺し”を楽しんで周りが見えていないようだぞ」
そう言った瞬間、落ちていた切断された左手を拾い上げ、シュヴェルトに投げつけた。それは、大量出血間際の人間が投げたものとは思えない確かな速度を持ち、シュヴェルトの気を逸らすのに十分だった。
「ハッッッ、それが策とは………笑わせてくれるね!」
投げられた左手を躊躇無く、一息で二十一の肉片に変えた。だが、それがフランツィアの狙いであり、命をチップにかけた最低の賭けだった。
一瞬で、シュヴェルトの背後に回り、そのままコンクリートジャングルを逃走し密林側へと向かった。
シュヴェルトは、何故かその場から動かない。否、正確には動けなかった。その理由は、右足が赤く染められていたことが全てを物語っていた。
「成る程ね、流石姉さん。あれが本気、か。」
彼は気づいていた。背後に回り、右足をすれ違いざまに斬り裂いていった彼女の瞳が紅から”紫色”に変化していたのを。
「………ァッ………!く、もう時間、なのか………」
再戦で彼女を楽しく切り刻むことを考えていたシュヴェルトだったが、突然頭を押さえ倒れむ。そしてポケットから、円柱状のものを取り出し、コートを脱ぎ、その腕にそれをねじ込むように押し込んだ。何かの噴出音が少し響く。数分後、紅眼で銀髪の青年は立ち上がり、止血の為に背後の市街地へと戻っていった。
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「どういうことですか?!主任!彼は一体!」
研究員の1人の一言に答えられる人物は、この場では紙袋を於いて他にはいない。だが、
「………どういうことだ?………彼のコードは”Unknown”だと………?誰か、事実確認の為に上に連絡を………」
「その必要はありませんよ?主任、いえ―――――――透」
事情を知らない透だったが、その言葉を遮り、代わりに答える者がいた。
「どういうことだ、静。彼を知っているのか?」
「ええ、”プロジェクトCELL”は最終段階に入りました。なので、『我々』が介入します」
静はいつもの笑顔で笑いながら、紙袋、いや透の首にナイフを押し当てる。
「皆さんも動かない方が良いですよ。私、ここを血の海に変えるのなんて朝飯前ですから」
「あはは、静さん。嘘ですよね?」
研究員の中でも若い男が、冗談と捉えて彼女に近づく。しかし、男が彼女の元へと辿り着くことは永遠にない。男が幸せだったのは、痛みを感じることなく逝けたことであろう。
それは、もはや死体ではない。赤い水を周囲にばらまく、噴水のようだった。
「…………………イヤァァァァァァァァァァァァァァァアァ!」
女性の研究員が悲鳴を上げる。その悲鳴で、ようやくそこにいた全員が状況を飲み込んだ。だが、透は気づいていた。彼女の瞳もまた、”彼”や”斬裂魔”のように紫色に染まっていたからだ。
「まさか、今のは君が…………君もなのか?」
「ええ、そうです。わたしの能力ちなみに、ここの所長はもうこの世にはいません。この計画に関わっている者たちで残っているのは、あなた方だけですよ?」
この場で冷静でいられているのは、透と静だけだった。他の研究員は不安な表情で、2人を見つめている。
「私たちも、証拠隠滅で殺すのかい?」
「正確には、研究は本部で行うので用済みになっただけですよ?ですが、『我々』は最後の温情で真実を話しましょう。退職金代わりに受け取ってくださいね」
そう言うと、静は穏やかな表情で語り始める。
「そもそも、この”プロジェクトCELL”は『細胞の隠された機能により発現した異能力を研究するプロジェクト』では少し事実が異なります。この計画、いや、『我々』が生まれたきっかけは、ある脳科学者が見つけた、一つの細胞が始まりでした」
次回は閑話(設定回)を挟みたいと思っております。それでは、また次回で会いましょう!




