Chapter.4「剛拳餓鬼 前 」
この話は「最強陥落」を現場視点から書いたものです。
下衆を始末し、森を抜けたフランツィアの眼前に現れたのは、市街地だった。
「…こんな所に街があるとはな」
そう呟きつつ、街に入っていく。
街からは、あらゆる音が消えさながらゴーストタウンと化していた。店らしき廃屋で、辛うじて残っていた比較的食べられそうな保存食を咀嚼しつつも、フランツィアは警戒を緩めなかった。
すると、近くから悲鳴が聞こえる。フランツィアは声の元へ駆け出した。
フランツィアが声を辿って着いた場所には、洒脱なスーツを着た男が立っていた。フランツィアは、男が自分と同類であることを感覚で感じ取る。
「おぉ、良い女じゃねぇか。何で此処に居んだ?ってのは不粋だな」
男は呵々、と笑う。だが、そうしている男の拳は血に濡れていて、男のすぐ側の壁には、赤い花が3つ咲いていた。
「…3人か?」
「応とも。シマを荒らす奴ぁ〆るのが、俺の流儀だからな。それに、俺は人を壊すのが好きなんだよ」
その言葉を聞いたフランツィアは、直ぐ様、男を敵と認識した。
一息で接近し、男の首筋にナイフを薙ぐ。だが、
「ハンッ、温ィ」
フランツィアの鋭い斬撃は、男の首を断ち切る事はなし得なかった。
男の首は生物の柔らかさでなく、金属質のそれだった。
「…ほう、さしずめ《硬化》と言った所か」
「これはたまげた。ッと言ってもばれた所で問題無いけどなァ!」
男が動く。常人以上の速さで、剛腕が振るわれる。
フランツィアは、ギリギリでそれを躱す。
空を穿ったその拳は、フランツィアの横の建造物にぶつかり、難無く砕く。
「っち、外したのは久しぶりだ。大体は一発で終わる」
そう言って、男は肩を回している。
その瞬間、フランツィアは男に近づき、擦れ違い様に手足の腱を斬り裂く…が斬り裂いた筈のナイフには、手応えも、血もついていなかった。
「…っ!」
自らの能力が効かないことに、フランツィアは一瞬驚愕した。そして、その一瞬は彼女にとって命取りとなる。
目前に残像と風斬り音とを伴い、蹴りが迫る。それは、既にフランツィアが回避する事は不可能な距離だった。
「…ぁがっ…」
男の蹴りが、フランツィアの腹部に叩き込まれる。フランツィアは吹き飛び、壁に激突する。そのまま壁を巻き込み、建物の内部まで飛ばされた。
「…ほぉ、中々巧い」
男は、蹴りが当たる直前に、フランツィアが少し後ろへ下がっていた事を理解した。
「だが、俺の蹴りにそれは悪手だぜ」
そう言って男は、建物に向けて歩き出した。
フランツィアは、男の蹴りの凄まじさに舌を巻いていた。確かに、彼女は、蹴りが当たる直前に後ろへ下がっていた。だが、蹴りの余波で脳が震え、自身も吹き飛ばされたのだ。
「…っ…」
直ぐ様、体に力を入れて立ち上がる。瞬間、体のあちこちから激痛が走る。だが、彼女はそれを無視し走った。
フランツィアが向かったのは、男の元だった。
「ははは!あんた面白ェな。普通逃げる所だぞ?」
「生憎、一度殺すと決めた人間は必ず殺すのが私だ」
「そうか。なら───壊れな」
そう言って両者は同時に駆け出す。フランツィアは、ナイフを的確に相手の急所へ何度も繰り返し薙いだ。
男からは血の一滴も出ない。男の拳と蹴りは、着実にフランツィアを消耗させていった。
そして──────
ついに男の拳がフランツィアに突き刺さる。そして、男は拳を振り抜いた。
フランツィアは、またもや背後の壁にめり込み、意識を失う。
それは、『現代の斬殺魔』の事実上初の敗北だった。




