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義理ったら義理なんだから!

作者: 小林久奈

*注意*

恋愛ものではありません。

2月14日 バレンタイン


女の子が好きな男の子にチョコレートを渡して想いを告げる日。

そしてそのチョコレートには”本命”と”義理”の二種類が存在する。





2月13日のお昼休み。

学校の教室でお弁当をつついていた私、佐伯明日香は、親友の清水恵美子に突然、

変な質問を投げつけられた。


「ねえ、明日香。明日のバレンタイン、誰にチョコあげるの?」

「・・・バレンタイン?明日?」

「そうよ。」

「・・・もうそんな時期かー・・・」


なんて呟いたら、恵美子に「年寄りくさい」と呆れられた。ヒドイ・・・


「で、誰にあげるの?バレンタインチョコ。」

「あげないよ?あげる人いないし。」


私の発言に恵美子は大きく口を開けて「はぁ!?」と驚いたような表情を浮かべた。

そんなに変なことを言った覚えがない私は首を傾げるだけなんだけど・・・


「あげる人がいない?あんたふざけてるの!?」


いえ、まったくふざけてませんが?


「高2よ?好きな人の一人や二人いて当然でしょ?」


いや、それは人それぞれで個人差があると思いますが?


「こんな一大イベントに参加しないなんてありえない!」


え、バレンタインってそんなに大げさなものなの?


「よし、今から相手探しに行こう!」

「は?」


何かを決意したように立ち上がった恵美子に私の思考は追いつかず間抜けな声が上がる。

恵美子は今、なんて言った?


「明日のチョコあげる相手を探しに行こう!」

「は・・・い?」


恵美子の言葉に再び間抜けな声を出す私。チョコをあげる相手を探す?それってつまり・・・


「誰か好きな人を見つけろってこと?」

「この際、義理でもいいから誰か見つけよう。」

「それもどうよ・・・」


そんな私の言葉など聞こえないのか、恵美子は私の腕を掴みぐいぐいと引っ張っていく。

あぁ!まだお弁当食べ途中・・・!

名残惜しそうに食べかけの弁当を見つめながら私は恵美子に引っ張られ教室を後にした。


恵美子に引っ張られ連れて来られたのは隣のクラス。

教室にいる一人の男子生徒を指差して恵美子は私に言った。


「彼は小野寺修一、このクラスで一番のイケメンよ。どう?」

「どうって言われても・・・」

「・・・なら次行こう。」


私のハッキリしない返答に、恵美子はそう言って再び私の腕を引っ張っていく。


次にやってきたのはまた別のクラス。

さっきと同じように恵美子が一人の男子生徒を指差し、私に名前を教えてくれる。


「彼は田嶋祐介、スポーツマンの爽やかイケメンよ。これならどう?」

「だからどうって言われても困るんだって・・・」

「仕方ないなぁ・・・じゃあ次!」

「まだやるの!?」


私の言葉に恵美子は「当たり前でしょ!」と言って腕を引っ張りだした。

食べかけのお弁当に想いを馳せながらズルズルと引きずられる私・・・

まさかこれ、私が相手決めるまで続くとか?・・・まさかね・・・


そのまさかでした。


行く先々の教室で男子生徒を遠目で指差しては同じやり取りを毎回する。

そんなことが昼休み終了のチャイムが鳴るまで続き、私と恵美子は校内をほぼ歩き回った。

食べかけのお弁当はもう諦めたけど、それでも私が「いいな」と思える人はいなくて

放課後も探す羽目に・・・。


「そういえば、なんでイケメンばっかなの?」


教室に戻る途中にずっと思っていた疑問を口にした。

恵美子が紹介する男子のほとんどは見た目のいいイケメンばかりだったからだ。

詳しいな、と思いつつなぜイケメンばっか紹介されるのは謎だったが

恵美子はさも当然のように答えた。


「チョコあげるなら、やっぱイケメンでしょ?」


そうなんですか?とはさすがに言えなかったので「さようですか」と返しておいた。

恵美子曰く、イケメンなら沢山のチョコ貰うから気兼ねせずにあげられるでしょ?との

彼女なりの優しさだったようです。なら最初から言って欲しいね。


自分の教室に戻ってきては、食べかけのお弁当に涙と溜息を零しつつ片付ける。

午後の授業を受けながら、私はふと後ろの席の恵美子が気になった。

私にチョコをあげる相手探しをしてくれているけど・・・


恵美子は誰にチョコをあげるんだろう?


「私?私は小野寺君・・・」

「へぇ・・・」

「に、田嶋君に川崎君に宮本君に伊藤君に佐々木君に長谷川君に村田君に・・・」


授業が終わり、恵美子にそう尋ねた私は、恵美子の口から次々と出てくる名前に脱帽した。

何人か知らない名前もあったけど、ほぼ昼休みに紹介されたイケメンの名前だった。


「・・・それは、義理?」

「全部本命。」

「えー・・・。」


恵美子の言葉に驚きと呆れを隠し切れない。

バレンタインにさほど興味ない私だって、本命が多数もあるというのはおかしいと思う。

それとも、恋多き乙女は一人に絞ることが出来ないから全員が本命になる・・・とか?

・・・深く考えるのはやめよう。きっと人それぞれなんだよ。うん。


放課後もチョコをあげる相手を探しに学校を徘徊する私と恵美子。

昼休みと違い、帰宅していく生徒が多いため残っている生徒は少ない。

それでも探すのを止めないあたり恵美子の意思の強さを感じる。

・・・私は正直、帰りたいです・・・


「うーん・・・放課後はやっぱり人少ないねー。」

「そりゃあ、学校も終わったんだからみんな帰るでしょ。」

「まだ明日香がチョコあげる人決まってないのになー。」

「あのさ、義理チョコならクラスメイトの誰かでもいいんじゃない?」

「ダメ!!」


恵美子は私の提案を断固反対した。

別に義理チョコなんだから誰にあげてもいいんじゃないの?と私は思うのだが、

恵美子にはクラスメイトにあげたくない理由でもあるんだろうか?・・・わからん。


「と、とにかく!今日紹介した男子の誰かにチョコあげること。いいね?」

「え~・・・」

「ほら、あげるチョコ買いに行こう。」

「義理だし、10円チョコでもいいかな?」

「馬鹿なこと言ってないで、ちゃんとしたやつ買う!」

「はーい。」


帰り道の途中でお店に寄り、あげるチョコを選ぶ。

お店にいってまず驚いたのはバレンタイン用に作られたチョコの種類の多さ。

定番のハート型から、キャラものやネタと言えそうなものまで多種多様・・・

とりあえず義理ということで、当たり障りのない形をしたチョコをひとつ購入。


「買った?」

「うん。」

「じゃあ、明日はがんばろうね!」

「なにを?」

「チョコを渡すのをがんばるのよ。」

「あー、うん。」


まだ渡す相手も決まってないのに、渡すのをがんばろうね、と言われても・・・。

一体誰にあげればいいんだか・・・家に帰ってから考えよう。



家に帰っても、夕飯を食べ終わっても、お風呂に入っても、ベッドに入っても

次の日になっても、あげる相手が決まりませんでした。

・・・うん。2月14日、バレンタイン当日になっちゃいました。


結局、チョコあげる人が決まらないまま学校に登校。なんだかすれ違う人みんな

妙にそわそわしてて、バレンタインって感じがする。

そして、下駄箱開けてガッカリしてる男子生徒を見かけつつ教室に向かう。

教室に入り自分の席に座る。恵美子はまだ来ていないようだ・・・


「おはよう、佐伯さん。」

「新条君?おはよう。」


突然挨拶をされて驚いた。新条守君、恵美子の隣の席でいつもニコニコしてる人。

イケメンではない。どっちかというと素朴な感じのする男子。


「清水さんならさっき、沢山のチョコを抱えて教室を出てったよ。」

「あ、そうなんだ。」


新条君の情報によると、恵美子はすでにチョコを配り・・・渡しに行ったようだ。

私はまだあげる相手も決まってないし、どうしようかな・・・


「佐伯さんも、誰かにあげるの?」

「ん?」

「チョコをさ、誰かにあげるのかな?って。」

「あー、恵美子には言われたけど、あんまり興味ないんだよねー。」

「そうなんだ?女の子ってそういうの好きそうだけど・・・」

「本命ならともかく、義理だよ?そんなチョコ貰って男は嬉しいの?」


私の疑問に新条君はうーん、と少し考えた。


「義理でもいいから欲しいっていうのはあるかもね。」

「なんで?」

「なんでって・・・やっぱ、女の子からなにか貰えるっていうのは嬉しいから。かな?」

「新条君でも?」

「そうだね・・・。僕も、義理でもいいから欲しいかな。」

「ふーん・・・。」


私は鞄から昨日買ったチョコレートを取り出し、新条君の前に差し出す。

新条君は驚いた顔を浮かべ、私とチョコを交互に見てる。


「あげる。」

「え、でもこれ、他の人にあげるんじゃ?」

「あげる人決まってないし、別にいいよ。100%義理だけどね。」


100%義理って言葉に新条君は吹き出し、笑いながら私のチョコを受け取った。


「ありがとう佐伯さん。なんだか催促したみたいでごめんね。」

「別にいいよ。義理だしね。」

「ずいぶん義理を強調するね。」

「義理だからね。」


そんなことを言いながら笑い合ってると、チョコを渡し終えた恵美子が教室に戻ってきた。

渡しそびれたのかチョコをひとつ抱えて。


「なんで・・・」

「おかえりー恵美子。チョコ渡し終わったの?」

「清水さん、お疲れ様。」


私と新条君の労いの言葉も聞こえないのか、恵美子は一点を見つめたまま動かなかった。

恵美子の視線の先にあるのは、私がさっき新条君にあげたチョコレート。


「なんで、チョコ・・・あるの?」

「あぁ、佐伯さんから貰ったんだよ。義理だけど。」


義理を強調して笑う新条君をよそに恵美子は私を睨みつけた。

え?なんで?


「明日香・・・なんで新条君にチョコあげたの?」

「なんでって・・・」

「昨日紹介した男子にあげてって言ったじゃん!」


怒りを含んだ恵美子の声、そんな声にクラスメイトもこちらを気にして見る。

たしかに昨日、クラスメイトにチョコをあげることは反対されてたけど、

そこまで怒ることなのかな?なにか理由があるのかな・・・?


「僕が佐伯さんに頼んだんだよ。義理チョコくださいって。」

「新条君?」


今にも怒り狂いそうな恵美子に新条君はにっこりと話しかけた。

それはいつもと同じ笑顔で、でも少しだけいたずらっ子のように。


「僕だってチョコのひとつやふたつ欲しいからね。だから怒らないで。」

「ひとつやふたつ・・・」


新条君の言葉に落ち着きを取り戻したのか、恵美子はブツブツと言いながらも

さっきまでの怒りは感じなくなっていた。

そして、抱えていたひとつのチョコをわざとらしく揺らしながら言った。


「・・・しょうがないなぁ!じゃあ、私の義理チョコも新条君にあげよう。」

「ありがとう、清水さん。」


にこやかにチョコを受け取る新条君と、少し頬を赤く染めてそっぽを向く恵美子。

・・・あれ、もしかして・・・


「恵美子の本命って、新条君?」

「なっななな!そんなわけないでしょ!!」

「だって態度が全然ちがう・・・」

「そんなことない!これは義理、義理なの!」

「ふーん・・・。」

「なによ、その顔・・・。」


バレンタインに強制参加させたのも、別のクラスのイケメンを紹介したのも

クラスメイトにチョコをあげるのを反対したのも全部、恵美子の計画だとしたら?

私が別のクラスの男子にチョコをあげてに行ってる間に新条君にチョコを渡す計画。

本命って言ってたイケメンたちへのチョコも全部義理でカモフラージュだったわけだ。


でも、別にそんな計画立てなくても、チョコを渡すのを邪魔したりしないのに・・・


「チョコ渡せてよかったね。本命。」

「ち、違うわよ。新条君のは義理。義理ったら義理なんだから!」

「うん。義理でも嬉しいよ。二人ともありがとう。」


新条君の笑顔に、なんともいえない表情を浮かべる恵美子。さっさと素直になればいいのに。

もしかして、バレンタインチョコに本命と義理の二種類があるのは、

本命を悟られるのが恥ずかしい子のためなのかもしれない。・・・なんてね。


・・・とまぁ、そんな感じで今年のバレンタインは終わりましたよ。


その後?まったく変化はありませんよ。

新条君はいつもどおりニコニコしてるし、恵美子もいつもどおり普通にしてるし。

ただ私は・・・

来年のバレンタインは、誰かあげる人ができたらいいなー・・・なんて思ってます。


2月14日のバレンタインイベント。参加するのも悪くないね。


ようやく体調不良から回復してきたのでリハビリを兼ねて書いてみた。

うん・・・バレンタインをテーマにしたのに、恋愛ものにならないとか

これいかに・・・。

バレンタインはチョコを食べる日です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 不器用な青春ですね~ なんだか、和みます。 [一言] 冷めた女の子、一生懸命な女の子。なんとなく策士っぽそうな男の子の組み合わせは、ある意味リアルな設定でした。 それでも、なんとなく微笑…
2015/02/14 19:43 退会済み
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