最後の君
誰も居ない放課後の教室。
「ずっと此処に居てね?」
普段は言わない様な意味深な言葉に振り返る。
「どうしたんだよ。」
軽く笑いながら、俯く君の顔を覗き込む。
ちらっとこっちを見る君の瞳は、少し濡れていた。
「え、な、何、どした。」
焦る俺から視線を逸らして、帰る準備をしていた手を早める君。
「何ともないよ、大丈夫。」
` 大丈夫じゃないだろ `
分かっていたのに、言わなかった。
いや、言えなかったんだ。
ぼーっと見つめる俺から逃れる様に帰ろうとする君を、思わず呼びかけた。
「ま、また明日な!」
どうしてこんな言葉しか言えなかったのか。
昔の俺を叱ってやりたい。
だけどこれが俺の精一杯だった。
明日の約束をしておかないと、君が今にも消えてしまいそうで。
それくらい、切ない顔をしていたから。
半分だけ振り向いていた君が薄く笑みを浮かべて、こっちを向いた。
堪えていたのであろう涙が、君の大きな瞳からぼろっと落ちた。
無理な笑顔を貼り付けた君は、
「ばいばい。」
と明るく手を振った。
ねえ 、どうしたの?
走り去る君をすぐに追いかけて、引き止めていれば。
話を聞いていれば。
君は今も俺のそばに居てくれた?
しんと静まり返った教室で、大きな後悔。
言えば良かった。
` 君がすきだ。 `
初めて自分から恋に気付いた中学2年生の秋。
次の日から君が登校して来る事は1度もなかった。