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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第五章 北東大陸と北西大陸へ
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13 事件

お楽しみください。

「久しぶりだな、アラデス。歓迎するぞ。しかし、お互いに年を取ったな〜」


 国王ヘンリーはアラデスを見るとそう言った。まるで旧友に久しぶり会った様な言い方だ。


「お久ぶりです、ヘンリー国王。此度は我々獣人族を騎士団に雇い入れてくれるとの事で参りました。我ら十名をよろしくお願いします」


 アラデスの言葉にヘンリーはうーむ、と十人の獣人族を見回す。


「ふむ、皆いい面構えをしているな。期待しておるぞ」


 簡単な挨拶のみで謁見は終わった。その後、三人部屋が三部屋割り当てられ、アラデスのみ一人部屋になった。


 アラデス達獣人族は、《特別小隊》として騎士団に所属する事になり、その隊長にアラデスが付く事になった。





 それから一ヶ月後に、騎士団の特別演習と植物学者による現地調査が行われる事になった。場所は国の北に広がる《ノースイースト雪原》である。


 ノースイースト雪原は一年中雪に覆われていて、草木も生えずに、動植物も生存出来ない気候だと考えられていたが、最近になって北方で暮らす住人達から動物の目撃情報が相次いだ。それは《スノーベア》と名付けられた。


 さらに植物も確認された。目撃者からの情報を専門家が詳しく調べた所、特徴が《ヒーリングフラワー》と酷似している事が分かった。


 ヒーリングフラワーは病気や怪我に何でも効くとされ、世界一の万能薬と言われている。しかし、採取量が少なく世界の王家や大富豪でもなかなか手に入らない事で有名だった。


 勿論、ベルマでの発見例は初めてだった為、植物学者は国王に現地調査を願い出た。国王は了承すると共に、スノーベアがいるからと、学者の護衛として騎士団の派遣も決めた。極寒の地では良い軍事演習にもなると考えた。《特別演習隊》が組まれた。


 アラデス達も特別演習隊に参加する事になった。アラデスがヘンリーに立候補したのだ。アラデスは厳しい環境に身を置いた方が皆の良い訓練になると考えたのだ。


 ノースイースト雪原には総勢五十人が派遣された。科学者は五人が入った。極寒の地での調査が始まった。





 初めは調査が難航した。なかなかヒーリングフラワーが見つからなかったのだ。見つける為にどんどんノースイースト雪原の奥へと入って行った。


 数日進んだ所で、ようやくヒーリングフラワーを発見した。それも、かなりの量だった。科学者達は信じられない光景に一喜一憂した。そして、枯らさない様に慎重に採取が始まった。


 皆が歓喜に沸く中でアラデスはある気配に気付いた。数はかなり多い。四方八方からする。


 しばらくすると、他の騎士団達も異変に気付き出した。少し前から吹雪いていた為に周囲は見渡せない。


 そうしていると、スノーベアが姿を現した。その姿を見て、一同は驚愕した。大きさはリーマ深林にいるビッグベアの倍近くある。ビッグベアは大きさは二メートル程度で、鍛えた者なら互角ぐらいには戦えるだろう。アラデスもまだ未熟だった若い頃はある程度は戦えていた。


 しかし、スノーベアは違う。見るからに体が大きく、筋肉も厚い。腕力はとてつもないだろう。そんなスノーベア約三十体に四方八方を囲まれてしまった。


 特別演習隊の隊長は、すぐに敵わないと悟り撤退の指示を出した。この過酷な寒さでは、怪我人が出たら戦いながらの治療は出来ないと判断したのだ。しかし、周りを完全に囲まれている為に行動を起こせないでいた。


 スノーベアは徐々に包囲を狭めていく。近付くにつれて、その大きさが際立っていき、皆を震え上がらせた。


 そこで、アラデス達獣人族がスノーベアに向かって行った。アラデスは叫ぶ。


「私達が注意を引きます! 今の内に突破して下さい!」


 アラデスの声を聞いた隊長の行動は早かった。隊長の声を聞き、必要最低限の荷物だけを持つと、騎士団員達は一斉に走り出した。自分達の命を最優先にする様にと命令が出た為に一目散に走った。





 約三十分が経った。騎士団員達は上手く突破出来た様だ。しかし、獣人族十名の内、五名がスノーベアにやられて命を落としていた。一方、討ち取ったスノーベアは十体。二十体のスノーベアに残り五人の獣人族は追い詰められていた。


 そこでアラデスは撤退する事に決めた。このままでは全滅である。しかし、囲まれている為にそう簡単には逃げれない。そこで、自分が犠牲になって皆を逃す事にした。


「みんな、もういい! 逃げるんだ! 俺が足止めする!」


 アラデスの声を聞いても生き残った獣人族は逃げようとしなかった。皆のリーダー的存在で、剣の師匠で、ずっと世話になっているアラデスを置いて逃げる事なんて出来なかったのだ。


 なかなか逃げないのを見て、アラデスは一人の獣人族を持ち上げると投げ飛ばした。一番若く、運動能力も高いランスだ。ランスは空中で体制を立て直し着地した。着地点はスノーベアの包囲の外だった。


「ランス、逃げろ!」


 アラデスの声が響き渡る。アラデス以外の三人もランスを逃がす為にスノーベアの注意を引く。アラデスは他の三人もスノーベアの包囲の外に投げ飛ばしたかったが、ランス一人が減るだけで残りの負担が増え、余裕が無くなってしまった。


 そこで、一人の獣人族がやられてしまった。最後にランスに逃げる様にと叫んで。他の生き残った者もランスに逃げる様に叫ぶ。そして、もう一人がやられた所でようやくランスは走り出した。ノースイースト雪原の出口である南に向かって。





 ランスは極寒の雪原を全力で走った。寒さに慣れていない獣人族からすれば、かなり辛い。スノーベアは巻けただろう。しかし、全力で走り続ける。


 気付けば、いつの間にかノースイースト雪原は抜けていた。ランスは凍傷に掛かっている体にムチを打って歩き続けた。


 ランスの足は首都ベルカンに向いていなかった。自然とリーマ村を目指していた。ランスはベルマ国外の獣人族の村出身だ。幼い頃から差別や迫害を受けて来た。仲間がいなくなった今、人間ばかりの首都に帰るつもりにはなれなかった。


 しかし、極寒の地からボロボロになって逃げて来た。リーマ村まではとてもじゃないが歩いては帰れない。食事もまともに取ってない。ランスは、民家に繋がれている馬を盗んでそれに乗って村を目指した。


 馬は丸一日走りっ放しだ。川を見つけたら一旦止めて、水を飲む。ちょっとした草木や木の実を見つけたら食べる。こんな事を続けていたせいでランスは凍傷に栄養失調まで引き起こし、馬はすぐに潰れる。馬が潰れるとまた新しく馬を盗んで走った。






 ランスは半月でリーマ深林に着いた。馬から降り、フラフラになりながらリーマ深林を歩き始めた。しかし、ランスは他国出身だ。リーマ村の住人と違ってリーマ深林に慣れていない為に、すぐに道に迷ってしまった。


 ランスはフラフラになりながらリーマ深林を歩いている。しかし、凍傷に栄養失調で倒れてしまった。そして意識が朦朧としてきた。眠気が襲う。もうこのまま寝てしまおうかと考えた時だった。


「だ、大丈夫ですか! あなたは……確か父さんとベルカンに行ったランスさんですよね!? 何があったんですか!?」


 アラデスの息子であるアドラだ。偶然リーマ深林に薬草を取りに来ていた。ランスはアドラに抱えられてリーマ村に運ばれた。



お読みいただきありがとうございます。

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