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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第五章 北東大陸と北西大陸へ
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12 国王からの書状

お楽しみください。

 約一年振りに村に戻って来た。リーマ深林を抜けると懐かしい景色が飛び込んで来る。一年前と全く変わってない。首都に比べれば何も無い。あるのは簡素な造りの家と田畑ぐらいだ。


 数人の村人がアラデスとマリンに気付いた。リーマ深林の方向から急に人が来たから驚いた様だが、それがアラデスと人間の女性と分かってさらに驚いた。村人が長老を呼びに行き、すぐに長老が飛んで来た。


「あ、アラデスじゃないか! 生きておったのか。急にいなくなって心配したのじゃぞ。てっきり森でビッグベアの餌にされたのかと思っておったわ」


 村人はアラデスがビッグベアと修行している事を勿論知っていた。稀に怪我をして帰ってくるからだ。ちなみに、さっきもリーマ深林を通った時にビッグベアに遭遇したが、襲って来なかった。目を見ると久しぶりだな、と言っているような気がした。


「長老、ただいま。心配かけて悪かったよ」


 アラデスがぺこりと頭を下げる。長老は頷いた。


 しかし、周りはザワザワしている。村人の目線はアラデスの隣にいるマリンと背負っているアドラだ。


「村長、みんな、紹介するよ。俺の妻で、マリン。そして、こっちがアドラだ」


 マリンが頭を下げながら言った。


「皆さん、初めまして。マリンといいます。よろしくお願いします」


 妻という言葉で、集まった村人達がわぁ〜っと湧いた。そして、村長が言った。


「わっはっは、まさかアラデスが女房を見つけて帰って来るとは思わなんだな。それに、君は人間だろう? 結構結構。歓迎するぞ。なっ、皆の者」


 勿論さ! と答える村人達。マリンとアラデスは無事に村に歓迎された。




 アラデスは村に二冊の本を持って帰っていた。一冊は剣術書。獣人族には剣術の流派という物が無かった。


 アラデスは騎士団時代にベルマ流剣術書をカラメ老から習っており、カラメ老が亡くなってからは、騎士団員と訓練をしていた。


 村に戻るに当たって、剣術書を持って帰り、他の獣人族にベルマ流剣術を教えようと思ったのである。


 もう一冊は、子供が文字を覚える時に使う辞書だ。獣人族は文字を扱えなかった為に、教えようと考えた。


 アラデスとマリンは文字とベルマ流剣術を村人に教え始めた。


 この事は他国の獣人族の隠れ里にも無償で文字と剣術を教えると、村長が使いを出した。


 すると、リーマ村には他国から獣人族が訪れる様になった。講師は勿論、アラデスとマリンだ。


 アドラもスクスクと育った。人間であるマリンと、獣人族と人間のハーフであるアドラは村に快く受け入れられ、幸せに暮らした。




 しかし、悲劇が起こった。マリンが病気に掛かり、亡くなったのである。アラデスは悲しみに暮れた。村人も、ベルマ流剣術や文字を丁寧に親切に教えてくれるマリンを受け入れていた為、深く悲しんだ。


 アラデスはマリンとの思い出を胸に、アドラと強く生きていく事を誓った。





 それから十八年の時が流れたある日、リーマ深林を抜けてベルカンから使者がやって来た。迷いの森であるリーマ深林を人間が抜けたのは初めての事だった。もっとも、アラデスが騎士団に入るまで、迷いの森の奥に獣人族の隠れ里があるなんて誰も知らなかったのだが。


 使者はリーマ村長に国王からの書状を渡した。書状にはこうあった。


『獣人族を騎士団に雇い入れようと思う。その昔、騎士団にいたアラデスは優秀な剣士であった。我が国は人種の差別なく優秀な人材を探している。我こそはと思う者は名乗りあげるように』


 それを読んだ村長は悩んだ。兵士になれば、収入が安定し、苦労しなくなる。でも、やはり怖いのは獣人族に対する差別だ。


 使者が言うには現国王は今から五年前に即位したらしい。前国王が崩御しその長男である現国王が即位した。アラデスは、ケテーナの兄である《ヘンリー》だとすぐにピンと来た。


 アラデスとマリンは、ケテーナの側付きだった為、ヘンリーとも良く顔を合わせた。ヘンリーもケテーナと同じく、珍しいもの好きで、アラデスが獣人族だと知ると色々と質問をされた物だった。


 木刀で剣の模擬戦もした事がある。アラデスは騎士団に入って間もなかった為に、ベルマ流剣術を自在に操るヘンリーにボロ負けしてしまった。


 騎士団勧誘の話しに村長を含め、村人は迷っている様だった。アラデスの前例があったからだ。


 使者は返事は急がないと言った。騎士団に入りたい者がいたらいつでも首都ベルカンに来るようにと国王ヘンリーが言っていたと言う。それだけを伝えて使者は帰った。迷わずに帰れる様にとアラデスがリーマ深林の中を案内した。





 ベルマ王国が獣人族を騎士団に雇い入れるという話しは、世界中の獣人族の隠れ里に知れ渡った。


 リーマ村ではアラデスが剣術の稽古をしている為、しばしば他国の獣人族が訪れる。村に来ると、アラデスや村長にベルマ騎士団の事を聞いていた。田舎の村で暮らしている者からすれば、騎士団の給料は魅力的なのだ。


 結果的に他国の獣人族の隠れ里から九人の立候補があった。リーマ村からは出なかった。リーマ村では少なからず人間への反感があった。ベルカンでのアラデスの仕打ちを知っているからだ。


 特にアドラは人間を嫌っていた。母であるマリンは人間だが、物心が付く前に亡くなっていて、周りは獣人族だらけで育てられた為に人間に馴染みは全く無かった。





 村長は九人の意思を尊重して騎士団入りを認めた。そして、騎士団に所属経験があるアラデスも一緒に行く事になった。アラデスや村長は、いつまでも隠れ里に篭ってないで人間社会に出て行く事がこれからの獣人族にとっていい事だと考えていた。


 幸いに、獣人族にはアラデスの稽古を受けて剣術が出来る者が多くいた。その中でも父親譲りの達人がアドラである。アドラは母であるマリンも騎士団に所属する剣士であり、両親から剣術の才能を受け継いだ。


 しかし、アドラは人間への嫌悪感でアラデスには付いて行かなかった。アラデスも村長もアドラの人生の為に騎士団入りを勧めたが頑なに断った。





 アラデス率いる十人の獣人族は首都ベルカンに着いた。道中は大柄な男達を物珍しそうに見てくる人がいたが、国王ヘンリーの獣人族への騎士団勧誘を国民はほとんど皆なが知っている為に、すぐに事情を察知した。アラデス達はオッドアイの片目も隠さずに堂々と歩いた。


 途中には普通の宿にも泊まった。国王からの使者はリーマ村から首都ベルカンまでの交通費も持参していた。宿では怪訝な目で見てくる宿泊客もいたが、宿の主人や女将は何事も無いように接していた。


 アラデスはベルカンに着くと、早速国王への謁見わ申し出た。申し出はあっさりと受諾され、国王ヘンリーと謁見が実現した。


 約十八年振りの再会だった。




お読みいただきありがとうございます。

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