10 結ばれた二人
お楽しみください。
二人はカラメ老の家に着いた。二人共両手に荷物を持っている。
「老師、ただいま帰りました!」
アラデスが元気良く言うと、家の奥からカラメ老が出て来た。
「おお、帰って来たか。ん、あまり疲れとらんな。荷物が多かったじゃろ? ……どわー!」
いつも通りにアラデスを迎えたカラメ老がいきなり大きな声を出す。
「ど、どうしたんですか? 急に大きい声を出して」
カラメ老の声に驚くアラデス。七十歳の老人の割に声が大きく、迫力がある。隣でマリンも驚きに目を大きくしている。
「あっ……、あっ……」
カラメ老は声にならない声を出して指をさしている。指の先にはマリンがいた。
「あ、あの、私はアラデスの同僚のマリンといいます」
自分が指をさされている事に気付いたマリンが自己紹介をする。
「あの、老師。彼女は俺と一緒に……」
マリンに続いてアラデスも口を開いたが、アラデスの言葉が終わらない内にまたカラメ老が声を上げた。
「うわ〜、アラデスが彼女を連れて来たー!」
「「えー!!」」
カラメ老からの思い掛け無い言葉に、アラデスとマリンは同時に驚きの声を上げる。カラメ老はアラデスとマリンを交互に見て言った。
「アラデス、まだ来て一週間ぐらいなのにもう彼女を見つけるとはな。……ん、君は姫様の側近の娘じゃないか? 城内でもトッブスリーに入る美人で有名な。そうか、アラデスは君を射止めたのか。なかなかやるな〜」
年甲斐も無くベラベラ喋るカラメ老。カラメ老はアラデスを引き取ったのはいいが、少し心配もあった。ベルカン以外の町出身の騎士団の若い兵は城の周りにある寮に住むのが一般的である。そこで友人を作ったりして周囲との関係を深めるのだ。
アラデスはカラメ老が引き取った。アラデスは他の人とは違う。他の国では差別の対象である獣人族である。そんな者が騎士団に入り、さらに姫の側近になったとなれば周囲からの妬みに晒されるかもしれない。国王もそれを危惧してアラデスをカラメ老に預けたのだ。
カラメ老はそんなアラデスを心配していた。周りからの嫌がらせは無いか? 友人は出来るだろうか?
しかし、その心配がいま払拭された。
「いや〜、まさかアラデスがこんなに早く女の子を連れてくるとはな。隅に置けない男じゃな。フォフォフォ」
捲くし立てるカラメ老にアラデスとマリンが言う。
「ろ、老師、マリンはたまたま商店街で会って、買い物を手伝ってくれただけです」
「カラメ老、アラデスの言った通りに私達は偶然に商店街で会っただけですよ。荷物が多そうだからここまで運ぶのを手伝ったのです」
アラデスとマリンの言う事なんか聞かずにカラメ老はご機嫌だ。
「さあ、マリンちゃん家に上がりなさい。一緒に昼飯を食べよう。アラデス、案内してあげるのじゃ」
「は、はい。おじゃまします」
マリンは断れずに家にお邪魔する事にした。カラメ老は先代国王の頃からこの国の騎士団で名を馳せていた有名人である。そんな人物の普段は見れない一面を見た。まだ預かって一週間のアラデスにまるで孫の様に接するのだ。カラメ老の人柄を見た気がした。
「いや、マリンちゃんの料理は絶品だったな〜。家内が死んでマトモな物を食べてなかったから美味しかったわい」
家に上がったマリンは、アラデスとカラメ老が大した料理が出来ないと知り、自分が料理を作ると言った。カラメ老は客に悪いからと断ってきたが、栄養があるものを食べた方がいいからと、半ば無理矢理に台所に立ち、料理を行った。
「ああ、美味しかったよ。お腹いっぱいだ。あんな材料でこんな料理が出来るなんて。獣人族の村にも広めたいよ」
アラデスは満腹に膨れたお腹をさすりながら言った。カラメ老は歳のせいか、量はあまり食べてない。元気な割には。
「あんなに沢山作ったのに全部食べちゃったんですね。ふふっ、嬉しいわ〜」
マリンはカラメ老の事を考えて、明日や明後日も食べれるように多めに作ったが、全部食べてしまった。
マリンは食器の片付けを始めた。久しぶりに他人に料理を作り、楽しくて鼻歌も出ていた。
「すまんな〜、マリンちゃん。片付けまでやってもらって。もう、わしは腹一杯で動けないんじゃ」
「いいんですよ、カラメ老。久しぶりに料理が出来て楽しかったですし」
「そうか〜。それよりもマリンちゃん、わしの事はじいちゃんと呼んでくれ」
国の重鎮からの要望に驚いたマリンだが、素直に受け入れた。
「うん、分かったわ、おじいちゃん。じゃあ、片付けするわね」
カラメ老と仲良くなったマリンは、ちょくちょくカラメ老邸を訪れる様になった。
「くっそ〜、当たらない!」
「まだまだじゃな、アラデス。いつになったらわしに攻撃を当てられる様になるのかの〜」
一ヶ月が経ったが、まだアラデスはカラメ老に攻撃を当てられない。
「二人共、昼食出来たわよ。ご飯にしたら? ふふっ、アラデス、また当てられなかったのね」
「くそ〜、なんてじいさんだ。腰が曲がっているのに、いざという時にすごく速いんだ」
アラデスが悔しがりながら言う。そんなアラデスにマリンはタオルを渡している。
「アラデス、誰がじいさんじゃ。今度からわしに負けたらマリンちゃんの昼食を抜きにするぞ」
カラメ老が膨れながら言う。
「あっ、おじいちゃん、それはいい考えね。そうしましょうか?」
マリンも意地悪そうに笑いながら、同意する。
「今日も美味かったな。マリン、料理のバリエーション多いんだな」
アラデスは満腹になったお腹をまたさすりながら言った。
「全くじゃな。マリンちゃんは凄いな。わしは幸せ者じゃ」
「ふふっ、二人共大袈裟よ」
マリンは鼻歌交じりに片付けを始めた。
「いや〜、そんな事ないわい。アラデス、マリンちゃん、これで二人が恋人通しになってくれればわしは安心してばあさんの所に行けるんじゃがな」
「「えー!!」」
カラメ老の言葉に同時に声を出すアラデスとマリン。
「なんじゃ、お前達、息ピッタリじゃないか。わしは本気じゃぞ」
これと言ってお互いを意識していなかった二人だが、カラメ老は二人をくっつけようとした。
このカラメ老の企みはケテーナの耳にも入った。ケテーナはお城にカラメ老を呼び出し、二人で秘密会議を開いた。
「カラメ老、これはいい考えですね。二人共午後は私についているので、ほぼ毎日顔を合わせています。そういえば、二人は最近、雰囲気がおかしいと思っていたのです」
「二人共最初は何も思ってなかったみたいだけど、最近はお互いを意識しているようですじゃ」
ケテーナも二人の変化に気付いていた。カラメ老に言われてからアラデスもマリンもお互いを意識する様になっていたのだ。
「じゃあ、あと一押しね。あたしも色々やってみるから、カラメ老もお願いします。それにしてもマリンを射止めるのがアラデスとはね〜。場内の男の嫉妬を集めそう。それでなくても獣人族だからね」
ケテーナが言うと、カラメ老も同意する。
「そうですな。二人が安心して付き合える様にわし達が助けてやらないといけませんでしょうな」
ケテーナとカラメ老は、すでにお互いを意識しているアラデスとマリンをくっ付ける為に色々な手を打つ事にした。
しかし、元々想い合っていた二人はすぐに付き合う事になった。
獣人族と美人女性騎士カップル成立はすぐに首都ベルカン中に広まった。勿論、城内でもトップクラスの美人だったマリンを取られた事に男性騎士団員は嫉妬を燃やしたが、そこはケテーナとカラメ老が関わっているという事もあり、とりあえずは収まった。
騎士団に入って一ヶ月で色々あったが、アラデスとマリンはカップルになった。二人は仲が非常に良く、周りからは結婚待望論まで出始めた。
しかし、結婚待望論の一番の提唱者であったカラメ老が病で倒れた。不治の病いであった。
カラメ老の為にアラデスとマリンは結婚を決意する。カラメ老の安心した顔を見せたかったというのもあるが、二人は本当に結婚を考えていたのだ。
そして、二人は結婚した。
カラメ老はそれを見ると、安心した様に、次の日に息を引き取った。
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