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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第五章 北東大陸と北西大陸へ
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9 買い物

お楽しみ下さい。

 アラデスはベルマ国宿老のベルマ老宅に住む事になった。


 元騎士団員のカラメ老は、昔は騎士団長候補にもなった事がある剣豪であった。今は妻を亡くし、一人暮らしをしていた。


 一週間が経った。毎日の午前中はカラメ老との修行だ。


「甘ーい!」


「うわっ、痛っ」


 カラメ老の容赦ない一撃をアラデスは食らう。もっとも、アラデスはガッチリとプロテクターを着ており、カラメ老は竹刀で打ち込んでいるからダメージ自体は無い。


「わはは、今日もわしの勝ちじゃな。全く、七十歳のじじいに勝てるようになるのはいつになるのかの」


 腰も少し曲がり、頭も禿げ上がり、真っ白なヒゲを摩りながらカラメ老が笑う。


「くそう、また当てられなかった! 老師、強すぎですよ」


「さて、わしの勝ちじゃから今日は買い物に行ってもらおう。この紙に書いている物を買って来てくれ」


 アラデスはカラメ老の事を老師と呼んでいた。アラデスからすれば、人から剣を習うのは初めてであり、それが楽しく、嬉しくもあった。


 修行の最後の試合に負けると、カラメ老はアラデスに一つ言いつける。家の掃除であったり、家の修理であったり。今回は買い物だ。


 紙を見るアラデス。アラデスを含むベルマのリーマ村の獣人族はこの世界マルスカの字を読めない。獣人族は魔界から来ている為、魔界の字は読めるがマルスカの字は読めないのだ。


 それを知ったカラメ老はアラデスに字も教えている。紙を見ると、食材や生活用品が書いてあるのだが、アラデスはイマイチ理解出来ない。


 また、お金の使い方も分からない。リーマ村ではお金で買い物なんてした事が無かったからだ。


 しかし、カラメ老は全ては勉強だとアラデスを送り出した。




 アラデスは商店街に来た。商店街に来るのは二回目だ。前回はカラメ老と一緒に来た。世間に疎いアラデスは商店街に来たものの、どこに行けばいいか分からない為、トボトボと歩いていた。このままでは埒があかないから思い切って誰かに聞こうとした時、アラデスはある声に呼び止められた。


「あら、アラデスじゃない。なにやってるの? カラメ老は一緒じゃないの?」


 振り返るとマリンがいた。


 アラデスは午前中はカラメ老との修行を行っているが、午後からは城に上がり、マリンと一緒にケテーナの仕事に付いて回るため、マリンとは毎日会っている。ちなみに、マリンは午前中は騎士団内で訓練をし、午後からはケテーナの仕事に付いている。


「あ、マリン。老師から買い物を頼まれたんだよ。ちょうど良かった、これってどこに売ってるの?」


 カラメ老から渡された紙をマリンに見せる。


「かなり沢山頼まれたのね。うーん、これは店を幾つか回らないといけないわね。いいわ、私が一緒に行ってあげる。今日は午前中は休みなの」


「本当か!? 助かるよ」


「じゃあ、早速行きましょう」


 アラデスとマリンは商店街を歩き始めた。




「あら、マリンちゃんじゃない。今日は休みなの?」


「こんにちは、おばさん。午前中は休みなの」


「おー、マリンちゃん。ウチの店のコロッケ食ってかねーか?」


「ごめんなさい、おじさん。私ダイエット中だから」


「あー、マリンお姉ちゃんだ! またあたしの服のコーディネートしてくれる? 沢山服を買ったの」


「ごめ〜ん、また今度ね。今日の服も可愛いわよ」


 マリンは人気者らしく、少し歩くたびに人から話しかけられる。


「ま、マリン、凄い人気だね。こんなに話しかけられるなんて」


 アラデスは驚きの声を上げる。


「そうかしら。偶然じゃない?」


 マリンはあまり気に留めてないようだ。


「あー、マリン姉ちゃんだ! 何やってるの? 俺さ、姉ちゃんなら結婚してやってもいいぜ。姉ちゃんなら胸が無いのも許してやるよ」


「なんですって! 待ちなさい! 少し気にしてるのよ!」


 十歳前後の男の子を追いかけるマリン。周囲の人はその様子を見ながら笑っている。普段はあまり見せない怒ったマリンを見てアラデスも一緒に笑った。


「全く、子供って逃げ足だけは速いんだから。……ちょっと、アラデスまで何笑ってるのよ!」


 商店街の人と一緒に笑っているアラデスを見てマリンが腕組みをして言った。


「いや、ゴメン。何か普段見ないマリンだったから、つい可笑しくてさ」


 アラデスは一生懸命に笑いを堪えながら言う。


「ふん、アラデスが笑うならもう買い物に付き合ってあげな〜い」


 拗ねたようにマリンが言った。


「ちょっと待ってよ。悪かったよ」


 こんなやり取りをしている二人に商店街のおばさんが声を掛けた。


「ところで、マリンちゃん。この人は? もしかして彼氏かい? ついに彼氏が出来たんだね」


 おばさんの言葉にアラデスとマリンは驚いて否定した。


「ち、違うわよ、おばさん。彼は新しく姫様の側近になったアラデスよ。普段はカラメ老の家に住んでいるの」


「は、はじめまして、アラデスといいます。マリンには普段からお世話になってて、いい先輩って感じですよ」


 言い訳をする二人をニヤニヤしながら見るおばさん。気付けば、周囲の人達も怪しい二人を見ていた。


「ちょ、ちょっと、アラデス行くわよ」


 人混みから逃げる様にアラデスの手を引くマリン。


「ま、マリン、待ってよ。せっかくだからゆっくり行こうよ」


 アラデスの手を引き、ズンズン歩いて行く。アラデスがマリンの顔を見ると、顔が紅潮しているのに気付いた。何か少しおかしいマリンに首を傾げながら付いて行くアラデスだった。



 マリンのお陰でお使いは無事に終わった。しかし、荷物が多く明らかにアラデス一人で持つのは大変だ。勿論、カラメ老は重い物を持つ事も修行の一つだと考えていた訳だが。


「この荷物は一人で持つのは大変ね。いいわ、私もカラメ老の家まで一緒に運んであげる」


「いいのか? それじゃあ、頼むよ」


 買い物を終え、二人はカラメ老の家に向かった。



お読みいただきありがとうございます。

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