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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第五章 北東大陸と北西大陸へ
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8 獣人族の謁見

お楽しみ下さい。

 首都ベルカンに着いた。小さな村で生まれ育ってきたアラデスからすれば、初めての町が首都だから建物の大きさや人の多さに驚く。


「どう、アラデス。驚いた? ここがこれからあなたが働く都市よ」


 口を開けて建物や周囲を見回しているアラデスに姫が言った。


「は、はい、驚きました」


「ふふふ、アラデス、口が開いてるわよ」


 アラデスの様子を見ながらマリンが笑う。


「だって、こんな大きな町なんて来た事ないから……」


「まぁ、帰って来る時は冒険を楽しむ為にワザと町は避けて来たからね。さっ、いつまでも驚いてないでお城に行くわよ、アラデス」


 相変わらず周りを見回しているアラデスの手を姫が引いて城へ向かった。




 三人はお城に着いた。姫の一言で門番に門を開けさせて中に入る。勿論、門番の視線ははアラデスに行く。アラデスも門番の視線を感じるが、構わずに姫に引かれて中に入る。マリンも門番に会釈をして後を付いて行く。


 姫が戻ったと言う噂はあっと言う間に城内に広まった。姫とマリンは城に入ってからは城内を案内しながら進んでいた為、謁見の間に着くまでに時間が掛かった。その為に、三人が謁見の間に着いた時には王や王妃を始め、かなりの数の人が集まっていた。


「お父様、お母様、ただ今戻りました」


 姫がペコりと頭を下げる。右隣ではマリンが跪いている。左隣にいたアラデスもマリンの様子を見て慌てて跪いた。


「うむ、戻ったかケテーナ」


 国王が口を開く。


「マリン、ご苦労でしたね。いつもありがとう。ケテーナは迷惑掛けなかった?」


 続いて王妃も続いた。


「迷惑だなんてとんでもない! 楽しい旅でした」


 マリンが言うと、王妃は笑顔で頷いた。


「け、ケテーナ?」


 アラデスが、姫の向こう側に跪いているマリンに小声で尋ねた。


「うん、姫の名前。アラデスは知らなかったのね」


 マリンも小声で答えた。姫の名前を始めて聞いたアラデス。


「そうか、ケテーナか。名前があったのか。マリンがずっと姫って呼んでたから名前は無いと思ってたな。……うんうん、覚えた」


「ふふふ、私達の主君だからね。名前ぐらい知っとかないとね」


 王と王妃の面前だが、構わずに小声で話しているアラデスとマリン。ケテーナは自分の足下でヒソヒソと話している二人に言った。


「あなた達、何か緊張感無いわね」


 その言葉にハッとする二人。急いで頭を下げる。その様子を見て小さく笑うケテーナ。


「ところで、ケテーナ。隣の大柄な男性はどなたかな?」


 王が尋ねると、謁見の間にいる人達の視線が一気に集まるのをアラデスは感じた。


 アラデスは、森でケテーナとマリンに会った時は木刀しか持っていなかった。道中は基本的にその木刀で戦ったが、首都に近づいて野盗の襲撃の心配がなくなってからは木刀は道端に捨てて来た。もしもの時はマリンに剣を借りればいいと思ったし、アラデスが獣人族とバレた時に武器を持っていたら怪しまれると思ったからだ。


 そのお陰か、大柄で筋肉隆々なアラデスを謁見の間の人達は危険視しなかった。


「彼はここから東にある迷いの森こと《リーマ深林》で私達がビッグベアに襲われていた所を助けてくれたアラデスです。そしてお城までマリンと一緒に護衛をしてもらいました」


 ケテーナが言う。アラデスは跪いたまま聞いていた。


「そうですか。それは、ケテーナとマリンがお世話になりましたね。アラデスと言いましたね。お顔を上げなさい」


 王妃の言葉にアラデスは戸惑ったが、マリンを見るとコクリと頷いた為に顔を上げた。


「これは凛々しいお顔ですわね。……あら、眼帯をしてるんですね。片目は見えないのかしら?」


「い、いや、これはその……」


 王妃の問いに言葉が詰まるアラデス。勿論、自分は獣人族だなんてとても言えないと思う。


「あ〜、これは目が見えないわけじゃないんです、お母様。彼は獣人族で、左目が青い事を気にしていたみたいだから私が付けるように言ったんです」


「あら、獣人族なの。わたくしは初めて見ましたわ。噂通り大きいのね」


 簡単に獣人族である事を明かしたケテーナと、獣人族と聞いてもまるで気に留めない王妃。


 そこで、初めて謁見の間にいる二十人ほどの兵士が目の色を変えた。そして、一人の兵士、騎士団長の合図で全員がアラデスに剣や槍を向けた。


「獣人族ですって! 皆、構えろ! 姫様、すぐに獣人族から離れて下さい! マリンもだ!」


 物凄い迫力にアラデスは圧倒される。マリンもこの様子を固唾を飲んで見守る。謁見の間にいる兵士は近衛兵である為、強者が多い。


「チョット待ってよね、騎士団長。アラデスはあたしとマリンの命の恩人よ。危険は無いわよ」


 アラデスの前に立ってケテーナが言う。


「皆の者、武器を下ろせ」


 王が言った。


「しかし、国王……分かりました。皆、武器を下ろせ」


 騎士団長は部下に命令を出す。兵士達は戸惑いながらも武器を下ろした。アラデスの隣ではケテーナが全く! と腕組みをしながら顔を膨らませていた。


 すると、王妃が静かに口を開いた。


「ケテーナ、あなたはアラデスをマリンと同じく自分の側近として雇うつもりですね」


 王も続く。


「やはりか、全く。他国では獣人族といえばちょっとした騒ぎになるというのに。獣人族が首都の城の謁見の間に来るなんて聞いた事が無い」


 ブツブツと愚痴る王。隣では王妃がまぁまぁ、となだめている。謁見の間の兵士達もザワザワとしているが、古参の者はいつもの事だと言う様に普通に聞いている。


「いいんじゃないですか? いつもの事ですしね。マリンもいきなりケテーナの側近に抜擢されたんでしたわよね」


 王妃の言葉にマリンが微笑む。


「う〜む。まぁ、ケテーナが言うなら構わないが、獣人族か。……カラメ老、いるか? そなたに彼を任せたい」


 王はカラメ老を呼んだ。すると、奥から一人の老人が歩み出て来た。


「はい、お呼びで。国王の仰りたい事は分かります。彼は私めにお任せ下さい」


 進んでいく話しをアラデスはただ黙って聞いていた。


お読みいただきありがとうございます。

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