7 就職
お楽しみ下さい。
姫の提案に驚くアラデスとマリン。腕を組んでドヤ顔の姫にアラデスが言った。
「待って下さい、姫。僕は本当にお城まで行くんですか? 村のみんなに何も言わずに出てきてしまったので心配を掛けていると思うのですが。さらに……僕は獣人族です」
「あたしが良い物をあげるわ」
アラデスの言葉を無視する様に姫が体の後ろに隠していた物を見せてきた。
「これは? 実は私も気になっていたんですよね」
マリンも身を乗り出して見ている。
「眼帯よ。これで左目を隠せば獣人族ってバレないわ! これで堂々とあたしに仕える事が出来るわね! さぁ、お城に行くわよ!」
「「えー!」」
同時に声を上げるアラデスとマリン。
「ちょっと、姫、ツッコミ所が多すぎて何から言えばいいか分かりません。とりあえず、僕が姫に仕えるってどういう事ですか?」
「そ、そうですよ。獣人族が兵士として騎士団になるなんて聞いたことありません!」
姫に詰め寄るアラデスとマリン。
「何よ、あなた達、息ピッタリね。意外と気が合うんじゃない? あたしの右腕と左腕ね」
全然気に留めてない姫が言う。
「とにかく、あたしが決めたんだから行くの! 眼帯を付けなさい。あなたの村には手紙でも送っとけばいいわ」
一人でまくし立てる姫に溜息交じりにマリンが言った。
「はぁ。もうこうなった姫は誰も止めれません。アラデスさん、行きますか? 帰りますか?」
「ちょっと、マリンさんまで。うーん、い、行こうかな。首都に興味があるし、その……えっと……」
急に口籠もるアラデスに首を傾げる姫とマリン。
「ん? どうしたのアラデス。はっきり言えば?」
姫に促され、アラデスは口を開いた。
「実は俺、村を出て剣の腕試しをしたいと思っていたんです。旅人になるという夢があったんですが、兵士として雇ってくれるなら願っても無いない事です」
アラデスの言葉に姫は笑みを浮かべた。そして腕を組み、満足そうに言った。
「アラデス、よくぞ言ったわね。お父様にはあたしから言っておくから心配しないで。獣人族だけど、なんとかなるわよ」
隣で見ていたマリンも言った。
「ふふふ、よろしくね、アラデス」
「はい、よろしくお願いします、マリンさん」
マリンに対して敬語で頭を下げるアラデス。その様子を見てマリンが言った。
「ちょっとアラデス、私に敬語はやめてよね。これから共に姫に仕えるんだから。年も同じなんだし上下関係なんて無し。全く、獣人族はそういうのにキッチリしてるのね」
「しかし……分かりました。よろしく、マリン。姫、これから俺、いや私は命を懸けて姫をお守りします!」
力強く宣言するアラデス。それを聞いて姫とマリンはクスクス笑い出した。理由が分からずに首を傾げるアラデス。
「ちょっと、何ですか、二人共?」
姫が口を開く。
「だから、アラデスはそういう所がお堅いのよね」
「はい、もうちょっと気楽に行きましょう」
マリンも言う。それを聞いて顔が赤くなるアラデス。
「す、すみません。しかし、俺を召し抱えてくれた姫の為にこの身を削って仕える所存です! いくら笑われてもこれだけは変わりません!」
「分かったわ。頼んだわよ」
「はい、お任せ下さい!」
アラデスはベルマの姫に仕える事になった。目指すはベルマの首都だ。
「やあああ! どうだ、参ったか!」
アラデス達はベルマの首都ベルカンを目指して歩いていた。馬車を拾えば直ぐに着くのだが、姫は旅を楽しむ為に歩く事に拘り、お金は途中の宿代に使う。
歩いていると、五人の野盗に襲われた。襲われるのはこれで3回目だ。もっとも、アラデスは戦いを楽しんでいる。自分の腕試しをしたいと常々思っていた為に、戦いは苦ではない。
「ん、逃げるのか? 待て!」
「待って、アラデス。逃げるなら追わなくていいわ! 罠かもしれないし。もし、そうじゃないとしたらあんなレベルの野盗ならもう襲って来ないわ」
アラデスとマリンは出てくる野盗を蹴散らした。あまり強くなく、二人で十分だ。
「そうか分かった。マリン、それにしても野盗って弱いんだな剣の稽古にもならないよ」
アラデスが昔から使っている木刀を肩に乗せながら言う。野盗達とマリンは真剣で戦ったが、アラデスは使い慣れているからという理由で木刀で戦った。
「何言ってるのよ。あなたが何も考え無しに突っ込んだ時にはヒヤヒヤしたわよ。私が的確な指示を出したから無事に勝てたんじゃない。まぁ、敵が弱すぎるってのまあるけどね」
マリンに確信を突かれて後退りするアラデス。
「うっ、で、でも俺の剣の腕もなかなかだろ!?」
「過信は禁物よ! 命に関わるんだからね!」
「うっ、ごめんなさい」
こんなやりとりを繰り返していると、隠れていた姫が出て来た。
「アラデスもなかなかやるじゃない。マリンは騎士団で訓練を受けているけど、アラデスもいい線いってるわよ」
「本当ですか、姫! 俺のビッグベアとの修行も無駄じゃなかったのかな。それにしても、姫、この辺りは野盗が多いんですね。来る時はマリンが一人で倒したんですか?」
実際はアラデスも過信はしてない。敵に突っ込んだのは緊張や不安を隠す為でもあった。二人では倒せたが、一人では数人の野盗を相手にするのは危険だろう。
「アラデス、それは違うわよ。この辺りは治安が悪い地域だから来る時は通らなかったの」
「え、じゃあ、何で?」
マリンの言葉を疑問に思い、アラデスは姫に聞いた。
「勿論、アラデスの修行になると思ってね。森でのビッグベアとの戦いぶりを見たら、マリンがいれば野盗には負けないだろうと思ったし」
「な〜んだ、そうですか。ありがとうございます、姫!」
姫の言葉に無邪気に答えるアラデス。
「もう、姫、アラデスったら。私達では手に負えない強さの野盗が出てきたらどうするんですか。守りきれないかもしれないんですよ」
頭を抱えるマリンだが、姫とアラデスは楽しそうだ。でも、まぁ、今はいいかなと思った。マリンも姫との楽しい旅と、アラデスという新しい仲間に頬を綻ばせた。
そして、三人は首都ベルカンに着いた。
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