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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第五章 北東大陸と北西大陸へ
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6 種族

お楽しみください。

 獣人族という言葉に俯くアラデス。


 世界中で、獣人族は肩身の狭い思いをして過ごしているらしい。最も、ずっと獣人族の隠れ里であるリーマ村で過ごしていたアラデスにはそういう体験が無い。リーマ村は、迷いの森であるリーマ深林に囲まれている為、人はほとんど来ない。


 今は小さい村にいるが、騒ぎになればアラデスは何をされるか分からない。騒ぎになる前に村を出ようかとアラデスは考えた。


「ん、気付いてるわよ。マリンも気付いてたんだ。あの短期間に、さらに戦いの最中だったのに凄いわね。……それにしても獣人族って本当に目が青いのね〜」


 姫はアラデスに近付き、顔を食い入るように見つめる。その距離1メートルだ。


「ちょ、ちょっと姫。近いですよ。急に顔を近付けないで下さい」


 顔を真っ赤にして姫から離れるアラデス。姫の可愛らしい顔を近くで見てドキドキしている。一国のお姫様だけあって姫もかなりの美少女である。


「あら? ちょっと何照れてるのよ、この獣人族ぅ。ふふふっ」


 ペタリと座り込んで右手を口に当てて笑う姫。こういう仕草はお姫様っぽくない。このこの、と顔の赤くなったアラデスを指で突いてからかい始めた。


「姫! すぐに獣人族から離れて下さい!」


 急にマリンが剣を構えて立ち上がった。まだ足元はフラついているが、殺気をアラデスに向ける。


「な、何? どうしたのよマリン。怖い顔をして」


 アラデスをからかって遊んでいた姫がマリンの方を振り向く。アラデスもマリンの只ならぬ殺気に急いで身構えようとする。


「彼は獣人族です。何をするか分かりません!」


「な〜んだ、そんな事。やれやれ。マリン、あたしの勘だけどアラデスは大丈夫よ。心配しなくていい」


 おぼつかない足で剣を構えるマリンに姫が言う。


「だいたい、迷いの森であたし達を助けてくれて、倒れてしまったあなたをここまでおぶってくれたのよ。何かするつもりなら今まででいつでも出来たはず」


「ですが、姫……」


 なおも何か言おうとするマリンに姫が諭すように言う。


「見てみなさいよ。獣人族っていってもあたし達とあまり変わらないのね。目の色だけ。毛むくじゃらかと思ったわ。ふふふっ、それは言い過ぎかしら。でもちょっと大柄なのね。見て、すごい胸板。マリンより胸はあるわね」


 アラデスの胸の筋肉をペタペタと触る姫。姫に触られてドギマギしているアラデス。


「姫! 少し黙って下さい! 胸は今が成長期なんです! いつも言ってるでしょう! ……いや、そうじゃなくて!」


 怒るマリン。姫はケラケラ笑いながら言った。


「まぁ、この国はあまり獣人族との関わりが無いからね。他の国では色々あるみたいだけど、まぁ、気にしない、気にしない」


 姫の言葉をアラデスは少し驚きながら聞いた。世界中では差別や、酷ければ迫害があったりしたとも聞く。姫の柔軟と言うか、自由な物の考え方には獣人族として希望があるような気がした。


 マリンは姫の言葉を座り込んで黙って聞いていた。姫はアラデスの筋肉質な胸板や腕を叩いたり触ったり、青い目を覗き込み、それに対して照れているのをからかって面白がっている。そして、マリンに言った。


「マリン、あなたは休んでいなさい。また明日からあたしを守ってもらわないといけないんだから。……今日はご苦労様」


「姫。……分かりました。休ませていただきます。アラデスさん、しばらく姫をお願いします」


 それだけ言ってマリンは布団に入り、すぐに寝てしまった。


「ふふふ。マリンったら疲れ果てているくせに無理しちゃって。アラデス、見てごらんなさい。可愛い寝息立てて熟睡してるわね」


 姫と一緒にマリンを覗き込むアラデス。寝顔を見るとやはりまだ若い女の子だ。


「ちょっとアラデス、いくら可愛いからってマリンの寝顔に欲情しちゃダメよ!」


「えっ、えー! しませんよ!」


「きゃははは、冗談よ。でもアラデスなら許しちゃうかも」


「えー、どういう意味ですか!?」


 しばらく姫はアラデスをからかって遊んでいた。



 夜が明けた。アラデスは、初めは姫とマリンと三人部屋という状況に戸惑ったが、疲れていた為にすぐに寝てしまった。


 起きるのはアラデスが一番早かった。隣で寝息を立てている姫とマリンを起こさない様に部屋を出て宿の外に出た。


 よく考えると、村を出て外で一泊してしまった。村の人達は心配しているだろう。もしかしたら自分を探しにリーマ深林に入っているかもしれない。早く帰って顔を見せた方がいいんじゃないかと思う。


 それにマリンの体力も戻っているだろう。姫の護衛はマリン一人で十分だろう。獣人族の自分の役目も終わりだろう。そう思った。


「あっ、いた! アラデス、もう起きていたのね。おはよう」


 姫とマリンが宿から出て来た。朝からハイテンションの姫と、疲れがだいぶ取れたのか、顔色が良くなったマリンだ。


「おはようございます、姫、マリンさん」


 あいさつするアラデス。マリンも、おはようございます、と頭を下げる。


「こんな所にいたのね、アラデス。早く準備して。行くわよ」


「えっ、行くってどこへですか?」


 姫の言葉に首をかしげるアラデス。マリンも隣で首をかしげて聞いている。


「何言ってるのよ。お城に決まってるじゃない。二人共、あたしの護衛としてしっかり頼むわよ」


「「えー!」」


 驚きの声を上げるアラデスとマリン。二人の驚きを他所に、姫はふふんと腕を組んでいる。

お読みいただきありがとうございます。

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