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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第五章 北東大陸と北西大陸へ
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4 森での喧騒

お楽しみ下さい。

 アラデスを見て、女剣士が口を開く。


「あ、あなたは?」


 上がった息で聞いてくる。しかし、目は死んでない。力強い目でアラデスを見てくる。


 よく見ると、二人共年齢は若い。アラデスと同じぐらいだろう。


「俺は近くの村の者です。このビッグベアは凶暴です。俺が注意を引いているうちに逃げて下さい!」


「そうしたいんですが、もうこの森で二日間迷っているんです。それに……姫は腰を抜かしてますし」


「こら、マリン! 黙りなさい!」


 女剣士は《マリン》、もう一人は《姫》と呼ばれた。お姫様とその国の兵士らしい。


「そうですか。じゃあ、倒すしかないですね」


 何を思ったかアラデスは木刀を構える。今は女剣士マリンという仲間がいる。倒せるかもしれないと思った。今までは数発打ち込んだら逃げていた。


「……あの、木刀で戦うんですか?」


 マリンが呆れたように聞いてきた。よく考えたらその通りだが、アラデスはいつも木刀で戦ってきた。


「仕方無いですね、これを使って下さい!」


 マリンは腰に差してあったもう一本の剣を投げた。ビッグベアの上を越え、アラデスの目前の土に刺さった。


「うわっ、危ない……。よ、よーし」


 初めて真剣を持ったアラデス。ズシリと重い。剣を構えると自分も一端の剣士になった気分だ。


「さて、やりましょう! 一緒に斬りかかりましょう!」


 マリンが構える。疲れているはずだが、まだ戦える様だ。


「待って下さい! 弱点を攻めましょう!」


 五年間戦う内にビッグベアの弱点が分かってきた。そこを叩けば木刀でも少し効いているような反応をするのだ。


「弱点? そんなものがあるんですか?」


「はい、ビッグベアの弱点は両脇と眉間です! 二人で動き回って注意を逸らして隙を見て打ち込みましょう! ……まだ動けますか?」


 最後は、アラデスが少し意地が悪そうに尋ねる。息も上がっていて、もしかしたらビッグベアの攻撃を受けたのかもしれない傷付いた体で無理をさせるわけにもいかない。


「大丈夫ですよ。姫を連れて無事に連れ帰るまで倒れる訳にはいきません!」


 口に笑みを浮かべ、マリンは言う。少し無理をしている様な気がするが、これだけ言えるなら本当に大丈夫だろう。


「分かりました。じゃあ、行きますよ!」


 アラデスが勢い良く駆け出した。それを見てマリンもビッグベアに向かって行く。


 いつもはただの剣の練習相手だが、今は真剣もあり、守るべきお姫様もいる。


 ビッグベアは動きが遅い為、マリンと姫を連れて逃げる事は出来ただろう。でも、真剣を渡され、味方もいる。森には熊除けの鈴を持って行けばビッグベアに襲われる事は無い。しかし、倒しておけば薬草を取りに村に入った時にビッグベアを気にせずに作業が出来る。村人も安心だ。アラデスはそう考え、立ち向かった。


 アラデスはビッグベアの長い腕のギリギリ間合いの外まで来ると右に地面を蹴った。マリンも同じ様に地面を蹴る。ビッグベアの周りを回る様に走る。


 ビッグベアも二人の人間を同時に相手にした事が無いのか、少し混乱している様だ。しかし、狙いを手負いのマリンに定めたのか、マリンに注意が向いている。


 アラデスはその一瞬のスキを見つけると、ビッグベアの背後から襲い掛かった。素早くビッグベアに寄ると、ビッグベアの右脇に剣を振り上げた。


 アラデスの剣はビッグベアの右脇にクリーンヒットした。木刀では打ち込むと、感触は硬く、一見効いてなさそうだが、効いていた。


 今回は真剣だが、やはり感触は硬かった。ダメージは木刀と変わらないかと思ったが、違った。じんわりと血が出ている。さらに木刀の時には無いかなり激しい声を上げた。急所だったらしい。しゃがみ込んだ。


「今です!」


「やぁー!」


 ビッグベアから素早く離れて叫ぶアラデス。それを聞いてマリンが突撃する。


 ビッグベアと五年間戦ってきた。勿論、剣の稽古だ。私怨は無い。ビッグベアは熊除けの鈴さえ付けておけば絶対に襲って来ない。


 よく考えれば、ビッグベアは人を襲うんだろうか? 熊除けの鈴は、森に熊がいるからという理由で付けているだけだ。


 アラデスは自分から攻撃を仕掛けるし、マリン達も逃げればよかったのに初めて見たビッグベアに戦いを挑んでしまったんだろう。


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


「えっ、うわー!」


 アラデスの急な叫び声にマリンが振り上げていた剣を急いで止めて、急いでビッグベアから距離を取る。


 ビッグベアは動かない。気を失っている様だ。


「ビッグベアは気を失っている様です。俺から言ったのにすみません、止めは無しでお願いします」


 アラデスの言葉を聞いてマリンは目を大きくして驚いている。


「な、何故です? ……分かりました。早くここを離れましょう」


 アラデス達のやり取りをぽかーんと見ていた姫だったが、我に帰るとこっちに走り寄って来た。いつの間にか抜けていた腰も治ったみたいだ。


「急いで離れるわよ! あなた、出口まで案内しなさい!」


「俺ですか? 分かりました、付いて来て下さい」


 アラデスに走り寄って来る姫。


「ん、マリンどうしたの? 早く来て……ちょっと、マリン!」


 マリンが、持っていた剣を落として膝を地面に付いた。前に倒れこんで来たマリンをアラデスが受け止めた。


「ちょっとマリン? マリン!? どうしたの? しっかりしなさいよ〜」


 姫が叫ぶ。アラデスに寄り掛かっている為、マリンの顔はアラデスのすぐ横にあるが、息はしている。スースーという可愛らしい寝息を立てている。


「大丈夫、気絶しているだけみたいです。よっぽど疲れていたんですね。攻撃も受けているみたいですし、ダメージも溜まってたんでしょう」


「そ、そう。よかったわ」


 安心した表情を浮かべる姫。


「ところで、あなた名前は?」


「えっ、アラデスです」


「じゃあ、アラデス、悪いけどマリンを背負って森の出口まで案内してくれない?」


 姫が言う。確かにアラデスが案内しないと森を出れないだろう。


「分かりました。お任せ下さい」


「さぁ、早くおぶって。……じゃあ、出発!」


 マリンを背負って、森の出口まで歩いた。

お読みいただきありがとうございます。

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