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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第五章 北東大陸と北西大陸へ
50/60

3 獣人族と人間

お楽しみください。

 村長の家に案内された。客間に通されて椅子に座る。


 確かに村長は左目が青い。獣人族の証らしい。しかし、それ以外は人と変わらない様な気がする。変なイメージだが、獣人族と言うからには毛むくじゃらで、筋肉質なのを想像した。


 魔王軍には少数だが獣人族がいて、獣人王はかなりの強さらしい。


「そんなに獣人族が珍しいですか? 話しには聞いた事があるでしょう?」


 気付かない内に村長を凝視していた俺は、ハッとなって目を逸らした。


「すみません、話しには聞いた事はありましたが、本人を見たのは初めてだったので、つい」


 俺の言葉に、はっはっは、と笑いながら村長は聞いてきた。


「皆さんはどこ出身なんですか? そういえば名前も知りませんでしたな」


 自己紹介もまだだった為、俺、ハイミ、ハルオの順で名乗った後にキサキが名乗る。


「わたくしはルイビンベール王女のキサキです」


「何と、アリス教国のルイビンベールのお姫様でしたか。 ルイビンベールには獣人族の隠れ里がありますよね? 行かれた事や話しに聞いた事はありませんでしたか?」


 ルイビンベールのお姫様と聞いて驚く村長。急に獣人族の隠れ里の事を聞かれて焦っているキサキ。


 キサキだって現実世界から来たからこの世界の事はあまり知らないはずだ。


「まぁ、お姫様が獣人族の村に行く訳ありませんよね。失礼いたしました」


 笑いながら言う村長。すると、ハイミが口を開いた。


「わたしはルーベリア出身なのであまり知らなかったんですが、少し前に本や新聞で読みました。二百年前の魔族襲来や魔王軍の三大民族の一つである獣人族。魔王軍の獣人族は二百年前に魔族襲来でやって来た獣人族の末裔らしいですね。そして、勿論皆さんも……」


 静かに聞いていた村長だったが、ハイミに続いてゆっくり口を開いた。


「そうです。私達もその魔族襲来でこの世界であるマルスカに来た獣人族の末裔です。そして……」


 そこまで言って下を見て口を噤んだ村長。


「……村長、どうしました?」


 ハイミが聞く。村長は深く息を吸い込み、深呼吸をすると、続きを言った。


「そして、魔王軍の三大民族王の一人、獣人王アドラはこのリーマ村出身です」


 村長の言葉に驚く俺達。


「獣人王アドラはこの村出身なんですか? 一体何故魔王軍に?」


 俺の言葉にハイミが答えた。


「国の軍事演習中に事故が起こって獣人族に死人が出たという事件が起こったそうですが、あれはこの国での出来事だったのですね。少し前に新聞で読みました」


「詳しいですね、その通りです。もう国外でも知られてきているんです」


 下を向き、唇を噛み締めながら村長が言った。


「でも、それ以上の詳しい事は書いてありませんでした。何があったのですか?」


「知りたいですか? この国で何があっかを」


 ハイミの言葉に村長が答える。俺達四人はお互いに顔を見合わせ、首を縦に振る。


「それではお教えしましょう。この国、そしてこの村での悲劇を」


 村長が語り始めた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 今から約四十年前に一人の男が生を受けた。名前は《アラデス》。のどかな獣人族の隠れ里で生まれ育ったアラデスだが、アラデスは剣術に興味を持ち毎日の様に一人で木刀を振っていた。村には剣なんて無い。自分で木を切って木刀を作った。十歳の頃だ。


 十二歳になると、アラデスは迷いの森ことリーマ深林に入り、修行を始めた。リーマ村の村人は、リーマ深林によく入る。風邪や怪我によく効く薬草が取れるからだ。


 リーマ深林に入るには《熊除けの鈴》が欠かせない。《ビッグベア》がでるからだ。リーマ深林を徘徊している熊で、何を食べているのかは分からないが、非常に大きく、人間の大人の倍はある熊だ。


 村には剣の稽古が出来る相手なんかいない。そこでアラデスは修行相手にビッグベアを選んだのだ。


 アラデスは木刀で斬りかかる……というよりは殴りかかると言った方が正しいか。ビッグベアは動きは遅い。すぐき打って離れれば反撃を食らう事も無かった。ただし、子供が木刀で殴ってもあまり効かない。アラデスは疲れたら素早く距離を取って、足も遅いビッグベアから逃げていた。


 たまに攻撃を受けて顔を腫らしたり、酷い時は腕を骨折して戻って来たりした。しかしアラデスは怪我が治ると懲りずに森に入り、ビッグベアに戦いを挑んだ。



 十七歳になったある日、いつもの様に森に入り、ビッグベアを探していると、どこからか人の声がする。村人だろうか? でも今日は薬草採りの日ではない。声のする方に走った。


 しばらく走ると、ビッグベアと人影が見えた。人影は二人だ。どうやら人影はビッグベアに対峙している様に見える。村人ならビッグベアに会ったらすぐに逃げるはずだ。ビッグベアは足が遅い事を誰でも知っている。


 近付くにつれて、その人影が女性の二人組だという事が分かった。さらに服装からして村人でもない。人影の一人はビッグベアに立ち向かっていて、もう一人は守られるように後ろでしゃがんでいる。


 彼女達は何をやっているのだろう? さっさと逃げればいいのに。近付くにつれてビッグベアに立ち向かっている女性は簡素な鎧を着て剣で戦っている事に気付いた。女剣士だろう。


 近付くと、二人もビッグベアをこっちに気付いた。女剣士は息も切れてかなり疲れているようだった。


 というか、人間だ。ずっと獣人族の隠れ里で暮らしてきたアラデスは人間を初めて見た。


 そんな事は今は気にしないようにして、女剣士とビッグベアを挟む位置に止まった。


「あなた達、こんな所で何をやっているんですか!? 早く逃げて下さい!」


 これがアラデスと、女剣士マリンの出会いだった。

お読みいただきありがとうございます。

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