5 悪夢の喧騒
話が進んだかな。
一人の兵士がフラフラになりながら走って来た。鎧からして近衛騎士団の人じゃない。かと言って今日参加している若手騎士団員でもない。どうしたんだろうとハイミが見ている。
「き、騎士団長、こ、こちらでしたか。ほ、報告があります!」
クランと名乗った兵士はどれだけ走って来たのかかなり息が切れている。ハイミが急いで水を持って来た。
「どうした、落ち着け。ゆっくりでいい」
ただならぬ様子にシュバードが取り敢えず落ち着かせる。この場には俺、ハイミ、シュバードしかいない。クランはチラリと俺とハイミを見る。
「この者達は構わん。報告をするんだ」
俺はクランのあまりの剣幕に驚いた。
「今日の正午頃、ルーべリア城とその周辺の街が敵襲を受けました!」
「何だって!? それで状況は?」
シュバードが言う。そうだった。俺はゲームでやっているからこの先が分かる。
「敵の数は約十万、いやどんどん増えてます! 国内の街や村はほぼ全滅だと思われます。生き残りはいるかどうか。ルーべリア城は私が伝令に出た時点では落城寸前でした。多分今頃はもう」
「そ、そんな……、パパ、ママ!」
ハイミはガタガタと震えている。
「十万だと? 国王や王族方はどうした! 無事なのか?」
「分かりません。急の襲撃で私達は態勢を整える事も出来ませんでした」
「そんな、まさか。それで敵は?」
そう尋ねると、クランはチラリとまた俺とハイミを見る。構わんから言うのだとシュバードから促されて言った。
「魔族だと思われます。獣人族ではありません。なので恐らくは魔界から来たものだと」
それを聞いてシュバードの顔色が変わった。
「ユウマ、ハイミ、ここにいろ。すぐに戻る」
「騎士団長、ここにいろというのはどういう意味ですか? 城に戻るならわたし達も!」
だめだ! と怒鳴られてハイミは口を閉じた。すぐ戻って来るからと言われ俺は頷く。
シュバードとクランがいなくなると、ハイミが口を開いた。
「魔族ですって? 許せない。パパやママを。絶対に仇を取るんだから」
強い女の子なんだろう。取り乱して泣きじゃくったりしない。一応そうだねと返事する。
すると、シュバードがハルオを連れて戻って来た。ハルオも事情を聞いたのか険しい顔をしている。シュバードが口を開く。
「ユウマとハイミはハルオと三人で国を出るんだ」
俺はゲームでセリフを知っているがハイミは激しく反論した。
「な、何故ですか、騎士団長! 騎士団長達は戻って戦うんでしょう? わたし達だって魔族が許せないし、パパとママの仇を取りたいのに!」
「お前達は国を出て他国に援軍を呼びに行ってくれ」
シュバードは声が詰まっている。俺はゲームでセリフを知っているが、ハイミは本気で怒っている。
「騎士団長、嘘はやめて下さい。敵は十万以上の大群でしょう? 死にに行くんでしょう? 援軍を呼んだって間に合わないんでしょう?」
ハイミがそこまで言った所でシュバードが声を上げた。
「ハイミ! ちょっとこっちに来なさい、話がある。ユウマとハルオは少し待ってろ」
そう言い残してハイミはシュバードと奥に行った。俺達に聞こえない為に奥に行ったんだろうが、ゲームでセリフを知っている。
うーん、可哀想。