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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第四章 南東大陸へ
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18 ノーリアでの約束

お楽しみください。

 馬車で走っていると、ちょくちょく魔族に出くわす。白竜人族だ。五人ぐらいでどこかに歩いて行ったり、たむろしていたり。コンビニの駐車場に座り込んでいるヤンキーみたいだ。



 今は四人が俺達の前に立ち塞がっている。馬車から降りて剣を構える。隣りではハルオが身構え、後ろではハイミが魔術の準備。まぁ、白竜人族だから四人なら俺一人で倒せるだろう。


 治癒術師のキサキは、治癒術だけでは無く、支援魔法も使えるらしい。今までは敵に苦戦する事も無かったから全く使わなかった。「治癒術だけだと思ってたの? 失礼ね!」と怒られてしまった。


 白竜人族が向かってくる。あまり速い動きではないので一応気を抜かないように迎え撃つ。その距離が十メートル。敵の剣を受け止める準備に入った時に……急に敵の動きが遅くなった。


「よし、成功!」


 後ろでキサキの声がした。「うわ〜、凄〜い!」というハイミの声がする。何か気が抜ける。竜人族は急に体が重くなったと立ち止まり、混乱している様だ。


 俺とハルオはその隙を見逃さずに一気に竜人族との距離を詰める。俺達に気付いた竜人族だが今更身構えても遅い。俺は素早く敵二人を斬る。一人は左肩から斜め下に斬り下ろし、素早くもう一人に向き直し、心臓を一突きにする。それで敵は動かなくなり、パッと消えた。この世界の魔族や魔物は死ぬとパッと消える。


 ハルオを見ると、残りの二人を一撃で急所を突いて仕留めていた。よしっ、とガッツボーズを作っている。俺がハルオに走り寄ってハイタッチをする。後ろでハイミが「やったね、ユウマ! カッコいいよ!」と声援を送ってくる。ハイミに手を振ると振り返しながらこっちに走って来てハイタッチをする。


「全く、お前達は。な〜んかラブラブだよな」


 ハルオが茶化してきた。自分でも顔が赤くなっていくのが分かる。隣りでハイミは背中を向け俯いている。


「はいはい、いつまでもデレデレしてないで次行くわよ!」


 キサキは一人でスタスタと馬車に歩いて行く。俺とハイミは、待ってよ〜、と追いかけて行く。後ろでハルオが「ユウマも大変だな〜」とか言っている。何なんだろう。


 そんな感じで一ヶ月間ノーリアを回って魔族退治をした。白竜人族だからあまり強くなかったのが幸いしてか、どの町や村にも死者は出なかった様だ。


 ついにノーリアを発とうと思う。出国する時は挨拶に顔を出すとノーリア女王と約束していたので、首都ノーリカのお城へ向かった。




 お城に着くと、早速女王様への謁見依頼を出す。今は大変な時だろうから何時間待たされるか覚悟していた。今は午前中なので夕方ぐらいになるかもなと思っていたが、数分後に物凄い勢いで兵士が走って来た。


「み、皆さん、女王様は今すぐお会いになるそうです。い、一秒でも早く連れて来いとの事なので、今すぐにどうぞ」


 息を切らせながら言う。兵士のあまりの必死さに少し引いてしまう感じと申し訳ない感じがして、俺達は兵士に頭を深く下げた。




 謁見の間に着くと、俺達の顔を確認した女王様が玉座からバッと立ち上がり言った。


「皆さん、よくぞ戻られましたね! 待っていましたよ! さぁ、近くに寄りなさい」


 ハイテンションに女王様が言う。俺達は謁見の間の前に進み、膝間付く。そしてキサキが挨拶をした。


「お久しぶりです。今日は、旅立ち前の挨拶に参りました。約一カ月ノーリアを旅して、そろそろ旅立とうと思います」


 キサキの言葉に女王様が口を開いた。


「そうですか。皆さんの活躍はわたくしの耳にも入ってきてますよ。ノーリアの隅々まで回って魔族退治をしてくれたそうですね。感謝しております。この国の女王としてお礼を申し上げますわ」


 女王様は右手を胸に当て、深くお辞儀をする。これがノーリアの礼の作法らしい。すると、謁見の間にいた大臣達や騎士団員も同じ様に頭を下げた。


 その様子に俺達は少し驚き、キサキが言った。


「そんな、皆様、顔をお上げ下さい。わたくし達は自分でノーリアの魔族退治を引き受けたんですから」


 女王様はそんな事ありません、と言い、続けた。


「わたくしの元には色々な噂が入ってきてますわよ。商人の馬車が魔族に襲われていたら助けてくれて、村を魔族が襲おうと様子を伺っていたら、それに気付いて魔族を倒してくれたり」


 そういえばそんな事もあったなと思う。まぁ、俺達は発見した敵は全て倒すつもりだったから、どんなシチュエーションでも気にしていなかった。


 でも一つ疑問がある。女王様に尋ねた。


「でも、何故それを知っているんですか? 俺達は敵にも、助けた村人達にも名乗らずにいた事が多かったんですけどね」


 女王様は笑いながら答える。


「ふふふ、異国の鎧や服を着た四人組なんて目立ってしょうがないんじゃくて? すぐにあなた方の事は話題になって国中に広まりましたわよ。一カ月いて気付かなかったものですね」


 全く気付かなかった。話題になっていたなんて。そして女王様が驚きの事を言った。


「あなた方の事を《勇者様御一行》って呼ぶ人も多いのですよ。人の為に戦って、見返りを求めずに立ち去っていく。それこそまさに《勇者様》ですわね」


「えっ、俺達が《勇者様》ですか? いや、さすがにそれは言い過ぎだと思いますけどね」


 あまりの事につい苦笑いで否定してしまう。他の三人も意外な展開に驚いている。しかし、女王様は続ける。


「《勇者》という称号は周りに認めされた人が人知れずに呼ばれ始めるものなのかもしれませんわね」


 クスクスと笑いながら言う。俺達のあまりの狼狽振りが面白いらしい。


「まぁ、あなた方が自覚が無くても周りは呼び続けると思いますわよ。……ねぇ、いいわよ。出ていらっしゃい」


 女王様が誰かを呼んだ様だ。玉座の真横にあって、俺達がいる所からは死角になっている場所から一人の女の子が出てきた。


 黒髪を一つ結びにしている、よく知った娘だ。前に見た時は、あまり裕福でない村に暮らしていたからか、少しみすぼらしいと言うか綺麗な格好ではなかったが、今はしっかりとしたノーリア騎士団の武術家の服を着ていて、十五歳には見えないぐらい凛々しく見える。


「ファイナちゃん! こんな所で会うなんて思わなかったよ。騎士団に入ったの?」


 ノーリアの北西の端にあるザラ村の武術家少女であるファイナちゃんだ。自警団がいない村を一人で守っていた。強さは折り紙付きだ。


「皆さん、お久しぶりです! 騎士団に入りました。女王陛下から推薦していただいて、入団試験を受けて合格したんですよ!」


 騎士団に入るには幾つか方法があるらしいが、ファイナちゃんは入団試験を受けたらしい。


「入団試験の時のファイナは凄かったんですよ。大の大人を数人殴り飛ばしたり蹴り飛ばしたり」


 女王様の言葉に組手をした事があるハルオが言った。


「それは凄いな。俺と組手した時より強くなっているんじゃないか? 今やったら俺は勝てるかな〜」


「いえ、まだハルオさんに勝てるほどじゃありません。まだ《瞬動速》も使えませんし」


 俯き、顔を赤らめながら話すファイナちゃん。


「ファイナにはわたくしの側近として仕えて頂く事にしましたのよ。こんな強い娘ならいざという時にも頼りになりますしね」


「へぇ〜、凄いね! 女王様の側近なんて凄い出世だよ!」


 女王様の言葉に驚く、俺。ハルオも隣りで驚いているが、「おめでとう」と手を叩いている。


 しかし、キサキが言った。


「えっ、ファイナちゃんは女王様の側近なの? いつも一緒にいるの?」


「はい、いますよ」


「大丈夫? 何もされてない?」


「えっ、何もされてませんよ?」


 キサキの質問に首を傾げながら答えるファイナちゃん。俺も初めはキサキの質問の意図が分からなかったが、よく考えたら分かってきた。そういえば女王様は男女どちらでもイケるのだ。前にはハイミとキサキが餌食になりかけたのだ。


 ファイナちゃんもかなり可愛い。さらにまだ十五歳という事もあってか、初々しく、少し天然なので、そういう所も女王様の母性本能をくすぐりそうだ。


 何の事が分からずに首を傾げているファイナちゃんを前に俺達四人は、ファイナちゃんの貞操の危機に顔を引きつらせた。


 しかし、そんな俺達の表情を見て考えを察知したらしい女王様が言った。


「全く、皆さんは何か失礼な事を考えてませんか? わたくしがファイナに手を出すとでも? そんな事はしませんわよ」


 それを聞いて、えっ、と女王様を見るファイナちゃん。手を出すというのに反応したようだ。


 それを聞いても相変わらず怪訝な顔で女王様を見ているキサキ。


「本当ですか? それならいいんですけどね。う〜ん、まぁ、信用しましょうか」


 渋々信用する事にしたらしいキサキだ。それなら俺も信用しよう。


「だって、ファイナには手を出せませんわよ。毎日あんな事を聞かされていてはね」


「あんな事?」


 女王様の言葉にキサキが聞き返す。女王様の隣りでファイナちゃんも何の事だろうと首を傾げている。そんなファイナちゃんを見て女王様はクスクスと笑いながら言った。


「だって、ファイナったら何かあるとハルオ殿の話しをするんですわよ。組手で負けた時の事、魔族との戦いでハルオ殿が転んでしまって自分が助けた時の事。そして、武術家として憧れているという事。……ファイナ、あれは本当に武術家としての憧れだけなの? 違うわよね。こんな純粋で、一人の男性に胸をときめかせるファイナに手を出せませんわよ」


 横目でからかうようにファイナちゃんを見る女王様。


「ちょ、ちょっと女王様、何を仰っているのですか?」


 物凄く動揺しているファイナちゃん。態度で図星ですと言っている様なものだ。


「あー、そういう事ですか。その事ならわたくしもハイミもユウマも気付いてました。勿論ハルオも気付いていたわよね」


 今度は俺とキサキとハイミがハルオの方を見る。何か固まって動かないハルオ。見るからに気付いていなかったという反応だ。そんなハルオにハイミが言った。


「えっ、ハルオ気付いてなかったの? ……ん、ハルオ? どうしたの?」


 ハルオは固まって無反応だ。魂が抜けた様に動かない。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺は初め、キサキと女王様の会話の内容が理解出来なかった。


 確かにザラ村ではファイナと組手をしたり、アドバイスをしたりした。そして、そんな俺を武術家として慕ってくれているなとは何となく思っていた。あくまでも武術家としてだ。


 しかし、今のキサキや女王様の言い方だったらまるでファイナが……俺の事を……


 ファイナは俺の現実世界の大学の同級生である『島野まりや』に似ている。俺達は現実世界では二十二歳なので、十五歳のファイナは島野に比べれば幼く見えるが、それ以外はソックリだ。よく考えたら木下さんがワザと似た様に作ったとしか思えない。


「ファイナ、もう隠しきれませんわよ。白状した方があなたの為ですよ」


「そうよ、ファイナちゃん。白状して楽になるのよ!」


 女王様とキサキに言い詰められているファイナ。


「ちょっと、お二人共、あ、あの、わ、わたしは、えっと……」


 顔を真っ赤にして二人の言葉を聞きながら口を出せずにあたふたしている。そこでハイミが言った。


「ファイナちゃん、わたし達は旅人だから、いつ敵に殺されるか分からないのよ。言いたい事は言っておかないと後々後悔する事になるかもよ!」


 すると、ファイナの顔が変わった。何だろう、何か決意した様な顔だ。というかハイミは何を言っているんだろう。まぁ、確かにその通りだが、少し大袈裟じゃないだろうか?


 そして、顔が真っ赤なまま恥ずかしそうに俯きながら言った。


「ハルオさん、旅を頑張って下さい。そして絶対に死なないで下さい。そして旅が終わったら絶対に、絶対に……あたしを迎えに来て下さい! あたしはいつまでもここでハルオさんをまってます!」


 ……えっ、マジか? 可愛すぎる。……生きていて良かった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ファイナちゃんが遂に言った。可愛らしく顔を真っ赤にして俯きながら言った。


 対してハルオは……見る見る内に顔が変わっていく。可愛すぎるファイナちゃんの告白にハルオは、いきなり男らしく顔をキリッと引き締めた。その様子にキサキと女王様は笑いを堪えている様だ。楽しんでるな。ファイナは小声で、頑張れ、と手を胸の前に組み応援している様だ。


 すると、急にハルオがクワッと目を見開き言った。


「ああ、ファイナちゃん、待っていてくれよ! 旅が終わったら迎えに来るからな!」


「はい、待っています!」


 謁見の間に、わぁー、という歓声が上がった。「若いカップルの成立だ!」と中年の兵士は騒いでいる。


 勿論、俺、ハイミ、キサキ、女王様も手を叩き二人を祝福している。幸せそうな二人に俺達も顔が緩む。


 しかし、俺達は異世界から来た。旅が終わった時にこの約束はどうなるんだろう。今はそんな事に気付かずに二人を祝福した。


お読みいただきありがとうございます。


今までで最大文字数かな?

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