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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第四章 南東大陸へ
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16 クーデター後

お楽しみください。

 縄を掛けられた国王らが謁見の間に連行されて来た。全部で八人だ。国王、王弟、そして彼等の側近が六名。以外と少ない。あとは皆が国王等に不満を持っていたという事だろう。


 縄を掛けられた国王と王弟は激しく暴れ、叫んでいる。さらに謁見の間に入るとナターニャ様やそこに並んでいる騎士団員がや自警団を見て、まだ状況を把握出来てないのか、ナターニャ様に食って掛かった。


「姉上、これはどういう事です! 私はこの国の国王ですよ! こんな暴挙が許されるとお思いですか!?」


 次は王弟が騎士団員と自警団に言う。


「お前達も何をやっている! 早く縄を解け!」


 勿論言う事を聞く訳がない。動かない騎士団員や自警団を見てさらに怒りが込み上げて来ている二人だったが、ここでナターニャ様が口を開いた。


「黙りなさい、二人共! また状況が把握出来てないんですか!? 国民は皆貴方達に不満を持って、ついに爆発したんですよ! これはクーデターです。貴方達を追放します。そしてこの国の女王にはわたくしが即位しました。これは国民の総意です」


 ナターニャ様の言葉に見る見るうちに顔が青ざめていく国王と王弟。一緒に捕まっている側近達は観念したのか膝を付きうなだれている。この側近達も国王や王弟の下でずっと甘い汁を吸っていたらしい。これで全てを失うだろう。


「そ、そんな、姉上! お待ち下さい、我らは……」


「連れて行きなさい。最深牢に入れておきなさい。……あそこで頭を冷やすんですね」


 国王の言葉を遮り、ナターニャ様は冷たく言った。最深牢とは、この国で最も地下深くにある最悪級の犯罪者が入れられる牢屋らしい。ナターニャ様は自分の弟達にかなり厳しい罰を与えた。


 国王と王弟は相変わらず暴れ、叫びながら最深牢に連行されて行った。


「……終わりましたね。皆さんご苦労様でした。そして明日からよろしくお願いします」


 ナターニャ様は力なく言った。目には涙を浮かべているように見える。やはり姉として弟達に縄を掛けるというのは苦渋の決断だったんだろうか。最後は鬼になってでも実行した、ナターニャ様には王の器が十分に備わっているのかもしれない。


「ナターニャ様、苦しい決断だったでしょう。お疲れ様でした。しかし、この国の民はあなたについて行くでしょう。わたくしはアリス教国ですが、ノーリアの未来に栄光がある事を祈ります。」


 キサキが前に出てナターニャ様に言う。それを聞いて再び湧き上がる謁見の間。それを右手を挙げて静めるナターニャ様。


「キサキ、そして皆さんもありがとうございます。実はギガク国王からクーデターの話しを何度かされていました。でも、決断が出来なくて。……弟ですからね。もうわたくしの唯一の肉親ですし」


 ナターニャ様の瞳から涙が溢れてきた。しゃがみ込んで「うっうっ」と小さく嗚咽をだしている。


「……ナターニャ様」


 キサキとハイミが側に寄りしゃがみ込む。ナターニャ様は両手で二人の背に手を回し小声で泣いている。


 謁見の間の重臣や騎士団員や自警団員ももらい泣きをしている人達がいる。ここは思いっきり泣けばいい。明日からはまた大変な日が待っているだろう。


 だが、そこでハルオが俺に聞こえるぐらいの小声で言った。


「おい、あのナターニャ様は嘘泣きだな。……いや、もう泣き止んでいると言った方がいいか。見てみろ。どさくさに紛れてハイミの魔術師の服と、キサキの治癒術師の服に手を入れてるぞ。胸を揉む気か?」


「……えっ?」


 ナターニャ様を見る。しゃがみ込んで泣く両脇にキサキとハイミが寄り添っている。そして二人の背に手を回しているナターニャ様の手……の動きが確かに怪しい。


 そこでキサキとハイミも気付いたらしく、「キャッ」と小さく悲鳴を上げてナターニャ様から離れる。


「ちょっと、ナターニャ様! 何をやっているんですか! こんな大衆の前で!」


 キサキが両手で胸を隠すようにして言う。隣りでハイミも同じ様にして顔を赤くしている。


 ナターニャ様は、気付かれたか、と言いたげな顔ですくっと立ち上がった。そして、一応本当に出ていた涙を拭って言った。


「気付かれましたか。さっきはキサキに上手くかわされて楽しめなかったから、今がチャンスかと思ったんですがね」


 悔し気に言う。


「もう、ナターニャ様! こんな時に何を言っているんですか! 信じられないですね!」


 顔を赤くして言うキサキだが、ナターニャ様は「キサキが怒った〜、怖〜い」と相手にしない。それを見て何を言っても無駄だと思ったのか怒りを鎮めたらしいキサキ。キサキを自由自在に操れるのはこの世でナターニャ様だけなんじゃないだろうか。


「ふふっ、キサキ、そして、ハイミ、ユウマ、ハルオ、本当にありがとうございした。これからはいかがするんですか? これからの事は何が考えがありますか?」


 ナターニャ様が言う。急にこれからの事を聞かれて考え込むキサキ。


「ん、決まってないの? それならしばらくこの国に残ってわたくしの……」


「「お断りします!」」


 ナターニャ様の、大体は何が言いたいか分かりそうな言葉にキサキとハイミが被せて断った。


「そ、そんな思い切って断らなくてもいいんじゃないの? もう、わたくしだって傷つくんですからね」


 その光景を見た謁見の間では笑いが起こった。ようやく和やかな雰囲気になった様な気がする。ナターニャ様もキサキもハイミもつられて笑っている。




「ナターニャ様、俺には考えがあります」


 笑いがひとしきり止むと、俺が言った。ハイミ、キサキ、ハルオがこっちを見る。


「そうですか、ユウマ。言ってごらんなさい」


「はい。俺はこの国を回って魔族退治をしたいと思います。この国には至る所に魔族が出没しているようです。国の端のザラ村にもいたぐらいですから。自警団の方が戻ってもすぐには落ち着かないでしょう。それまでは俺達が少しでも助けになれたらいいと思います」


 俺の言葉を下を向いたまま黙って聞いていたナターニャ様。言い終わると顔を上げて言った。


「それはこの国の女王として助かりますね。キサキ、ハイミ、ハルオはどう思いますか?」


「わたくしは賛成です」


「わたしもです」


「俺も賛成です」


 同意する三人。それを見て「そうですか」と頷くナターニャ様。


「では、お願いしましょうか。期間はどれぐらいを考えてますか?」


「えっと、期間は考えてませんが、一ヶ月ぐらいでしょうか」


 大体これぐらいかなと思う。他の国も回らないといけないし、あまり長居は出来ないだろう。


 しかし、今までは国王や教国に依頼されて国を訪れるという事ばかりだったので、RPGらしく色んな所を見て回りたいという気持ちもある。


「分かりました。ではお願いします。でも無理はしないで下さいね。あなた達が死んでしまっては何にもなりません。明日の昼までにこの国の状況を調査させます。壊滅した村や町は無いでしょうが、それを聞いて行き先の参考にして下さい。今日はお休み下さい。ハイミとキサキの部屋も準備させます」


「はい、ありがとうございます。今夜は休ませていただきます」


 ユウマが言って頭を下げる。他の三人も同じ様に頭を下げる。騎士団員に連れられて客間に戻った。ハイミとキサキはすぐ隣の部屋に泊まるようだ。


 この晩は遅かった事もあり、すぐに寝た。一つの国の大事件に立ち会ったのだ。少し興奮もしたが、疲れの方が勝っていた。睡眠に入ると、朝まで熟睡していた。


 ハイミとキサキは、ナターニャ様の襲来があるんじゃないかと気になってなかなか眠れなかったらしい。


お読みいただきありがとうございます。

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