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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第四章 南東大陸へ
37/60

9 組手

お楽しみください。

「えっ、さっきのは魔族なんですか? どおりでおかしいと思ったんですよね。翼を付けるファッションなんておかしいですもんね」


 魔族と聞いて驚くファイナちゃん。普通の人間だと思ったらしい。天然か?



 今は馬車に乗っている。俺は操縦しているハイミの隣に座っている。車内にハルオ、キサキ、ファイナちゃん、子供二人が乗っている。


「それにしても、凄い技だったね。あんな大男を蹴り飛ばすなんて。十メートルは飛んでたよ」


「ありがとうございます。武術は父に習いました。実は父以外の相手に技を使ったのは初めてでした。技が決まって良かったです。父には一回も当てる事ができなかったので」


 キサキの言葉に嬉しそうに答えるファイナちゃん。あんなに凄い動きと技だったのに当てられないとは凄い父だったんだろう。


 そこでファイナちゃんが言った。


「でも、ハルオさんの動きも凄かったですね。ナイフを避ける動きは早かったですよ。転びさえしなければ技も綺麗に決まってましたよね」


「うん、ありがとう」


 元気なく一言だけ言うハルオ。少し気にしてた。そこでキサキが意地悪そうに言う。


「ファイナちゃん、あそこで転ぶのがあり得ないのよ。まさか、ハルオ、ウケを狙ってたの?」


「違うよ。んな訳無いだろ。」


 少しムキになるハルオ。ファイナちゃんや子供達が笑っている。隣でハイミも笑っている。


 ファイナちゃんにハルオが言った。


「ファイナちゃんのお父さんは凄かったんだな。あの攻撃が一発も当たらないなんて」


「はい、凄い父でした!」


 誇らしそうに言うファイナちゃん。


 話している間に村に着いた。



 村に着くと、入り口に皆が集まっていた。


「みんな〜、ただいまー!」


 ファイナちゃんが馬車の窓から上半身を出して元気に言う。その声に気付いた村人が手を振ってくる。


 村に入ると馬車から降りた。村の入り口に馬車を停めておくスペースがあった為、そこに停めた。村の馬車もここに停めてあるようで、馬の世話もしてくれるらしい。


 ファイナちゃんを見ると、攫われた子供の両親らしき女性からお礼を言われていた。


「いいんですよ、おばさん。この村はあたしが守るんだから!」


 胸を張って言うファイナちゃん。


「でもファイナ、あまり無茶をするなよ。三人相手で、人質もいるんだ。敵は弱いとはいえ危険だったぞ」


 村長が言う。無事に帰って来て安心したんだろう。


「ワシ達が戦えないばかりにお前にばかり負担を掛けてすまないな。自警団もまだ戻ってこないし、お前の父親の事は本当に申し訳ないと思ってるよ」


 現在、村に残っているのは年寄りや女子供ばかりらしく、皆がファイナちゃんに負担を掛けている事を気にしているようだ。


「パパの事はいいのよ。村長達は悪くないんだから。パパはこの村を守る事が生きがいみたいな人だったから、あたしがそれを引き継ぐの!」


 頼もしく言う。そうか、と頷く村長。


「皆さんもありがとうございます。ファイナは強いですが、さすがに心配なんです。いつも無茶をするから。

 今日は村でゆっくりして行って下さい。村全体でおもてなししますぞ。宴の準備を村人に申し付けてますので」


 村長の言葉にファイナちゃんが言う。


「ぜひ、ゆっくりして行って下さい。色んな話を聞きたいし、ハルオさんと組手もしてみたいんですよね」


「お気遣いありがとうございます。今晩はお言葉に甘えさせてもらいます。ファイナちゃん、ハルオは好きに使っていいよ。なんならサンドバッグにしちゃって」


 キサキが言うと、ハルオが突っ込む。


「サンドバッグは嫌だよ。組手か、お手柔らかに頼むよ」


 はい! と元気よく答えるファイナちゃん。夕食までは時間があるので、それまでやろうということになったみたいだ。



------------------------------------



「ハルオさん、お願いします!」


 村の広場で向かい合う俺と『島野まりや』似のファイナ。改めて顔を見るとよく似ている。身長はやや島野の方が高いだろう。顔は年齢が低い分、ファイナの方が幼い。でも、それ以外は同じだと言ってもいい。島野がファンタジーの世界に入ったらこんな顔になるだろう。


 気をつけの姿勢から両手を合わせて、ファイティングポーズに入る。顔は微笑んでいる。手合わせが楽しみで仕方ないという顔だ。長い黒髪を一つ結びにしている為、顔の小ささがよく分かる。小さな顔にはパッチリとした大きな目。


 三年前に、大学の将棋サークルで将棋盤越しに見ていた島野の顔を思い出す。対戦を申し込んでくる時も『宮尾君、お願いします。覚悟してよね!』等と言ってくるが、返り討ちにしていた。すると、悔しそうに頭を抱えていたのを思い出す。


「おう、よろしく。いつでもどうぞ」


 ファイナは強いはずだから油断は出来ない。油断せずに迎え討つ。


「行きます! やぁー!」


 ファイナが向かって来た。さすがに速い。そういえば、この世界に来て強い敵とは戦った事がない。今まで戦った中ではファイナは最強だろう。


 パンチやキックをどんどん繰り出してくる。速いが受けれない早さじゃない。さらに攻撃が単調だ。なるほど、何か狙ってるな。俺に攻撃をしながら視線が動いている。一瞬のスキも見逃さない様に、攻撃しながら窺っている。


「スキ有り! やぁー!」


 そこで足払いがきた。目にも留まらぬ攻撃の合間を縫っての足払いだ。少し驚いたが後ろに飛ぶことで回避。


 俺の動きを見てファイナの口元が緩んだ。そして、さっきとは比べ物にならない速さで俺との間合いを詰めてきた。


「くらえ! 正拳突き!」


 空中に少し浮いている俺に、ファンタジー・オブ・シリーズの基本技である『正拳突き』を打ってきた。タメが無く打てるが威力は弱い。


 でも、この体勢は悪い。空中でモロに食らう。さらに威力が弱いとは言え、武術家としてそれなりのレベルに達しているファイナだ。『正拳突き』もそれなりに威力があるだろう。……骨が折れなければいいが。取り敢えず着地だ。


 ファイナの拳が飛んでくる。空中から着地するのが先か、ファイナの拳が当たるのが先か。


 ……俺の着地が先だった。両足が着地したと同時に動く。


「瞬動速!」


 ファンタジー・オブ・シリーズの中級技だ。その名の通りに一瞬で速く動く。……この技が使える様になってて良かった。


 ファイナの『正拳突き』が当たる直前に『瞬動速』が発動した。『正拳突き』が空を切るのと同時にファイナの右側に素早く移動。そして、拳を構える。


 ファイナは拳が空を切った後、信じられないといった様子で、自分の右側に移動した俺を見てきた。『正拳突き』は発動は速いが、打った後にスキが出来る。


 拳を構える俺を見て観念したのか目を瞑るファイナ。十五歳らしい、可愛らしい顔だ。


 ……俺は拳を放った。勿論当てない。寸止めだ。


 目の前で止まる拳を見て、その場にへたり込むファイナ。顔は放心状態だ。何か、少し悪い事した様な気がする。


「だ、大丈夫?」


 へたり込んでいるファイナに声を掛けると、ファイナが言った。


「さっきの移動は何ですか?」


「ああ、『瞬動速』だ。一瞬での移動技だ。ファイナちゃんの『正拳突き』が凄くて、つい使っちゃったよ。少し卑怯だったかな。悪かったな」


「いえ、そんな技があるなんて知らなかったから、あたしも使える様になるまで練習します!」


 知らない技に目を光らせるファイナ。


「さぁ、まだまだやりましょう、ハルオさん! 絶対一回は当ててやるんだから!」


「おう、来い!」



 ずっと打ち合っている。ファイナは体力もある。もう、二時間は組手をやっているが、攻撃が止む事は無い。まぁ、肩は上下しているし、息も少し上がっているから疲れてはいるんだろう。俺も疲れてはいる。でも女の子に負ける訳にはいかないから我慢比べかな。


 俺はもう『瞬動速』は使ってない。むやみに飛び上がったりしないように注意している。


 一度だけファイナの『正拳突き』を手で受け止めたが、痛かった。手が痺れた。なかなかの威力だ。まともに受けたくない。


 そろそろ日が暮れてきた。もうすぐ夕食の時間だろう。


 いつの間にかユウマ、ハイミ、キサキが見ていた。


「ファイナちゃん、頑張れ!」


「ファイナちゃん、一撃食らわせてやれ!」


 ハイミとキサキだ。あいつら、覚えてろよ。


「ハルオ、動きが鈍くなってるんじゃない?」


 ユウマまでファイナの味方か。泣けてくる。


 ファイナは応援されているからか、動きが良くなっている様な気がする。


 すると、キサキが言った。


「ハルオ、よく見て!」


 何だ今度は俺の応援か?


「ファイナちゃん、汗で下着が透けて見えてるよ!」


 えっ、と思い見てしまった。攻撃を受けながら視線を落とす。


 現実の俺は二十二歳だ。対するファイナは十五歳。七歳下である。


 ファイナは武術をやっているだけあって鍛えているようだが、腰からお尻までのラインは女の子らしく、くびれからいい感じに膨らんでいる。


 また、今は丈の短いズボンを履いている為、足の攻撃を手で受けると、柔らかい太ももの感触がヤバい。


 上着は白いシャツである。武術家の服とかではない。白いシャツに太ももが出たズボン。何て格好をしているんだろう。


 視線が白いシャツに浮いた下着を捉えた。黒だ。よく見ると、無いと思われた胸も膨らんでいる事が分かる。ハイミやキサキほどではないが。


 つい、胸に目が行き、見とれてしまった。まだ育ち盛りだろう。小さく膨らんだ胸を黒い下着で隠している。


 さらに、組手開始から気になっている事もある。ファイナは素早い攻撃で激しく動いている。攻撃を受けた時には女の子らしいいい匂いがする。気が散りそうになるのを気合いで堪えていた。


 色んな想像をすると、照れてきてしまった。相手は七歳年下の子供だ。俺は十分に熟れた大人の女性が好みだ。子供なんて……。


「スキ有り! 正拳突き!」


 油断した。ガードをしないと。いや、今からは間に合わない。『瞬動速』で避けるか? いや、これは使わない。じゃあ、どうする?


「ぐふっ!」


 食らった。当たる瞬間に少し後ろに飛んだから少しは勢いを殺すことはできた。鳩尾に決まったが、倒れるほどじゃなかった。


 着地したが、さすがに片膝をついた。当てられてしまった。さぞ喜んでいるんだろうと思ってファイナを見た。……両腕で自分の胸を隠して赤くなっている。


「もう、キサキさん! 何言ってるんですか!」


 キサキは怒られたが、ごめーん、と手を合わせて笑っている。


「キサキさんったら、大きな声で言わないで下さいよね。……ハルオさん、見ました?」


 胸を隠したまま聞いてくる。俺の目を真っ直ぐ見てくる。立ち上がると、俺の目を追ってくる。こんなに純粋で真っ直ぐな目で見られると嘘なんかつけない。元はキサキの余計な一言が原因なのだから、正直に言えばそんなに怒られないんじゃないか。島野似の女の子に嫌われるのは嫌だが、正直に言おう。


「ゴメン、見ちゃった。汗びっしょりだな。早く着替えた方がいいよ。風邪をひくから」


 一応フォローも入れておく。ビンタが飛んで来たりしない事を祈る。


「そ、そうですか。見てしまったのなら仕方ないですね。まぁ、どんな理由があろうと攻撃が当たって良かったです。あたしもまだまだですね。いつかはハンデ無しで攻撃を当てれるように修行します!」


 最終的には何か尊敬されて終わった。良い子だな。年頃だから恥ずかしかっただろうけど、フォローされたのは俺の方だな。



 ハイミとキサキが着替えのシャツを持って来た。後ろにはユウマもいる。


「ファイナちゃん、攻撃当たったね!」


 ハイミがシャツを渡しながら言う。


「はい。でも、あの時はハルオさんは『瞬動速』を使えば避けれたんじゃないですか? まだまだハンデがあったんですよ」


 シャツを受け取りながら言う。そして、汗が染み込んだ着ているシャツの裾に手を掛けて捲り上げようとした。いや、少し捲り上げた。キサキが急いで止める。

「ちょっと、ファイナちゃん! ここで脱ぐ気?」


 はっ、とするファイナ。もう、お腹は見えている。白くて細いウエストに見入っていた俺とユウマ。


「きゃー! 見ないで下さい!」


 急いでお腹を隠し、しゃがみ込むファイナ。自分で見せて、自分で隠す。天然か? 後ろではハイミは笑っており、キサキは頭を抱えている。



 夕食の準備が出来たと村人が呼びに来た。結局ファイナは家で着替えてくるそうだ。後での再会を約束していたみたいな女子三人だった。


お読みいただきありがとうございます。

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