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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第四章 南東大陸へ
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8 助太刀?

お楽しみください。

 約百メートル先に、黒い長髪を一つ結びにした少女が竜人族と対峙している。彼女がファイナだろう。


 立っている竜人族は二人。一人は倒れていて動かない。倒したんだろうか? 強いというのは本当らしい。


 ファイナの後ろに二人の子供がしゃがみ込んで震えている。攫われた子供達は取り戻した様だ。


 片方の竜人族がファイナに襲い掛かった。竜人族は素手である。武術を使う竜人族の様だ。


 竜人族はファイナにパンチやキックを打ち込む。白竜人族だからかあまり強い攻撃じゃ無い様だ。ファイナは完全に見切っており、ガードで全攻撃を防いでいる。


 しかし、ファイナは敵の完全に攻撃を防いでおり、攻撃を物ともしてないのにも関わらず、一向に反撃しない事に気付いた。何故だろうと注意して見てみると、攻撃を防ぎながらもう一人の竜人族を牽制している事が分かった。その竜人族は片手にナイフを持っており、今にも飛び掛かりそうな勢いだ。狙いは子供達だ。実力で勝てないと分かり、また子供達を人質に取るつもりの様だ。


 俺達は馬車を少し遠くに隠して影から様子を見ていた。


「助けるぞ。ユウマとキサキは子供達を頼む。俺は竜人族を倒すから、ハイミはいつでも魔術を打てる様に準備しておいてくれ。……行くぞ!」


 俺達が返事をする前にハルオがナイフを持った竜人族に走って行く。武術家だけあってかなり足が早い。竜人族だけでなく、ファイナや子供達も今気づいた様で少し驚いた様子だ。


 明らかにパニック状態のナイフを持った竜人族は、ハルオと子供達を見た後にハルオに向かって行った。今から子供達に向かっても俺がいるし、どうせ途中でハルオにも捕まるだろう。


 ナイフを持った竜人族の狙いが子供達から逸れた事で、ファイナは反撃を開始した。


 相手が右手のパンチを放ったが、それを右手で右に受け流す。すると相手はバランスを崩し、前に倒れ込みそうになる。そこでファイナは素早く後ろに回り、蹴り技を放った。


「回転蹴り!」


 ファンタジー・オブ・シリーズのシンプルな技だ。左足を軸にして右足で回し蹴りを放つ。比較的大きく振りかぶる為、蹴り前にスキができるが、相手はバランスを崩しているので反撃は出来ない状態だった。


 綺麗に相手の右脇腹に決まった。足を思いっきり振り抜き、相手は十メートルくらい飛ばされ、倒れていた竜人族のすぐ横で止まった。約190cmの竜人族を蹴り飛ばす160cmぐらいのファイナ。その光景を驚きの眼差しで見ていた俺達。実力は本物の様だ。



 ファイナの戦闘が終わったのを確認したかの様に、ハルオもナイフを持った竜人族との戦いを始めていた。


 ナイフで攻撃を仕掛けてくる竜人族。しかし、見るからにただナイフを振り回しているだけだ。ナイフ使いではなさそうだ。ハルオが手刀でナイフを叩き落とした。


「いってーな! 人間が調子に乗るなよ。素手で片付けてやる!」


「魔族も言葉を喋るんだな。よし、素手で勝負だ!」


 ハルオと竜人族が言葉を交わす。


 竜人族から仕掛けた。パンチやキックを繰り出す。しかし、やはりハルオは確実に一発づつ防御する。全然当たらない。そこで、俺は気付いた。横にいるキサキ、こっちに来たハイミに言う。


「何かハルオ、チラチラ見てない? 俺達とファイナさんを」


「うん、あたしもそう思ってた。ガードばかりで攻撃しないしね」


 俺とキサキが話しているとハイミが言う。


「うーん、いい所を見せようとしてくれてるのかもね」


 呑気に言っているが、苦戦しているという事はないと思うから確かにそうかもしれない。


 そこで、ファイナがハルオの戦闘に見入っているのに気付いた。ハルオの動きを見逃さない様に追っている。同じ武術家として対抗心でもあるのか。


 ハルオがこっちをチラチラ見ているのは、ファイナの視線に気付いているのと、いい所を見せようとしているのだろう。要するにファイナにいい所を見せようとしているんだろう。


 よく見るとファイナも可愛らしい。小さい顔と大きな目が特徴だ。竜人族を蹴り飛ばした時はあまりの迫力に驚いたが、戦い終わって額の汗を拭う姿はやはりまだ十五歳の女の子だ。一つ結びの黒髪はさらに可愛らしさを際立たせる。胸は……まだ無い。育つのは今からだろう。あっ、髪を解いた。腰上まである長い黒髪だ。



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 やはり大した事ないなと思う。白竜人族なんてこんな物なんだろう。多分一撃で倒せるだろう。


 さっきのファイナの蹴りは凄かった。相手の攻撃を完全に見切って受け流し、素早く後ろに回り『回転蹴り』を食らわせた。十五歳の女の子とは思えない蹴りだ。あの巨体をぶっ飛ばすぐらいだ。あんなにガード無しで受けたら、俺やユウマでも肋骨が折れるだろう。


 というか、視線が気になる。ファイナからすれば同じ武術家の戦闘に興味があるんだろう。ファイナの父は素晴らしい武術家だったらしいから俺なんかじゃあ参考にならないかもしれないが。


 ユウマ、ハイミ、キサキがこっちを見ながらニヤニヤしている。何なんだろう? さてはあいつらは俺に大技を期待してるな? しょうがない、ハルオスペシャルをお見舞いしてやろう。


 あっ、髪を解いた。技を出すのは延期だ。様子を見よう。


 やはり似ている。小さい顔に長い黒髪。『島野まりや』だ。


 彼女を最後に見たのは一ヶ月前ぐらいか。友人と大学の食堂で参考書を見ている様だった。何で図書室とかに行かないんだろうか? 食堂は人が多くて騒がしい。集中出来ないんじゃないだろうか。……やはりキョロキョロしている。周りの騒がしさが気になっているのか。……目があった様な気がした。見ていた事がバレたかな。見ていたとっても、少しだけだ。何か変な風に思われるのが嫌だったから急いで軽食を取ってすぐに食堂を出た。


 ファイナはその『島野まりや』を五歳幼くして、ファンタジー世界の住人にした感じか。


 こうなったら気合いを入れて技を打とう。一撃必殺だ。敵は右手でパンチを打ってきた。よし、ファイナみたいに右に受け流そう。成功だ。次は後ろに回る。よし、成功……足が滑り盛大に転んだ。


「痛っ!」


 つい声に出してしまった。恥ずかしい。キサキの「えっ?」と言う声が聞こえた。あの野郎。


 後ろに気配がする。嫌な気配だから素早く振り向くと、いつの間にかナイフを拾った竜人族が立っていた。ナイフを俺に振り下ろそうとしている。避けないと。間に合うか? 片手を犠牲にして受けて、カウンターを放った方がいいんじゃないか? そう考えてる間にナイフが振り下ろされる。


「やぁー!」


 声の方を見ると、ファイナが物凄いスピードでこっちに走って来た。竜人族も突然のファイナの突進に、驚いて攻撃を止めてしまっている。敵にスキができた。素早く間合いを取る。


 俺が間合いから離れたのを見ると、竜人族は標的をファイナに変えナイフを突き出した。ファイナはスピードに乗っているから、突き出されたナイフを避けられるのか?


 すると走りながら素早く左に避けた。そしてくるりと体を回転させ、敵の背中に回し蹴りをお見舞いした。


「踵回し蹴り!」


 これもファンタジー・オブ・シリーズの基本技だ。ファイナの踵が綺麗に竜人族の背中にヒットした。やはり十メートルぐらいぶっ飛んでいく。倒れていた二人の竜人族の上に落ちた。パンパンと手を叩いて腰に当て、無い胸を張って言った。

「よし、終わり!」


 遠くで子供達が、「すげー、かっこいい!」と騒いでいる。俺はユウマ達の冷たい視線が気になって仕方ない。



----------------------------------


 ハルオの馬鹿! 危なかったんじゃないか?


 それにしてもファイナの動きは早かった。ハルオが転んだ時にはもう走り出していた。あっという間に敵までの距離を縮め技を決めた。


「翼の生えたあなた達! 今回は見逃してあげる! でも次に来た時は命は無いと思いなさい!」


 左手を腰に当て、右手人差し指をビッと指し言う。竜人族の二人は目を覚ましており、ヒィ〜と声を上げて逃げて行った。


 助かった。ファイナにお礼を言う。


「ありがとう。助かったよ」


 俺が言うと、一瞬困った様な顔をしたファイナ。


「い、いえ。あの〜、あなた達はいったい?」


 ファイナが言うと、キサキがザラ村の村長と会い、子供を助けに行ったファイナを助ける為に来たと説明した。


「そうですか。助けられたのはわたしの方ですよね。ありがとうございました」


「いや〜、そうは言ってもハルオは少し危なかったわよね。何であそこで転ぶの? ファイナさんの転機がなければどうなっていたか」


 キサキの言葉で、遠くで小さくなっていたハルオがビクンと反応してゆっくり振り向いた。


「ご迷惑をお掛けしました」


 謝るハルオ。だが、ハイミがトドメを刺す。


「ハルオって良い所で失敗するよね。若い女の子を前にカッコつけようとするから」


 俺達は大爆笑だ。


「ふふっ、ふふふ」


 ファイナも笑っている。口元に手を当てて小さく笑う。さっき身長190cmの竜人族を蹴りで十メートルぶっ飛ばしたとは思えない可愛らしい笑い方だ。


お読みいただきありがとうございます。

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