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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第四章 南東大陸へ
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5 新しい使命

お楽しみください。

 小屋を出て馬車に重傷者の男性を乗せる。付き添いはエリナちゃんと、軽傷者の男性も二人乗った。馬車を操縦するのは村長だ。


「それでは、ワシ達は城下の病院に行きます。お世話になりました」


「はい、俺達は村に助太刀に行きます」


 村からギガク広野まで撤退して迎え討つという作戦を伝える。


「お兄ちゃん、師匠、頑張って下さい! 師匠、落ち着いたら絶対また村に来て治癒術を教えて下さいね!」


 エリナちゃんが馬車から顔を出して手を振りながら言う。


「うん、次に会った時には絶対ね!」


 実は師匠と呼ばれて嬉しいキサキ。ニコニコしながら手を振り返す。


 それでは行きますかと、手綱を操作する村長。馬が出発した。キサキとエリナちゃんは見えなくなるまで手を振っていた。



 馬車を見送り、村に向かおうとすると、村の方から大群がこっち方面に走って来る。かなり多い数だ。一瞬敵かと思って身構えるが、先頭にハイミとハルオがいた。後ろは自警団や国境警備隊だ。


「ハイミ、ハルオ早かったね。上手く魔族を撒けたんだね」


 俺が言うとハルオが答える。


「ああ。村にはいくつか秘密の抜け道があったんだ。敵の隙を見てそこに逃げ込んだ」


「そうなんだ。じゃあ、ギガク広野まで撤退しよう。国王達はもう着いているかも」


 よし行こう、と広野目指して走り出す。



「所で、ハルオ、敵を見た? どんなヤツだった?」


 俺が尋ねる。


「ああ、見たぞ。村で戦っていたのは竜人族だった。竜人というだけあって背中に翼がある。体は大きい。皆190cmはあるんじゃないか?」


「でも、強さは対した事なかったよね。わたしの魔術とハルオの武術で十分倒せたわ。翼があるからって飛べるわけでもないみたいよ」


 ハルオとハイミが言う。それを聞いて少し安心した。


 村から撤退するといっても、撤退はそう簡単じゃない。追って来る敵から逃げるのは大変なのである。もしもの時は俺達が殿をやろうと思っていたが、抜け道もあり、簡単に撤退できた。追っ手も来ない。一安心だ。



 ギガク広野に、ギガク兵六万と、魔族十万が対峙した。


 俺達はギガク国王の隣で少し離れた高台から見ている。撤退を完了させると、国王に呼ばれたのだ。


「そなた達には感謝しておる。これだけ被害が少なく撤退出来るとは。我々の兵も千ぐらいはカルボ村に向かわせようとしてたんだが、それより先にほぼ無傷で撤退させるとはな」


 国王の言葉に俺が答える。


「いえ、村の自警団や国境警備隊の方達がかなり優秀でした」


 それを聞いてフッと笑う国王。そして敵を指差して言った。


「ここにいる敵は竜人族と魔道士族だ。見てみよ、竜人族は翼があり、魔道士族は小柄だが強力な魔術を使う」


 俺は両方初めて見た。見た目はほとんど人と変わらない。竜人族は背が高い。逆に魔道士族は小柄だ。


「強さは見た目で分かるんだ。肌が白い者は一番弱く、茶色の者は強いらしい。灰色の者はその中間らしい」


 確かに肌の色が三色に分かれている。見た所、白が六割、灰色が三割、茶色が一割といった感じである。


「さっき白の竜人族とは戦いましたが、そんなに対した強さじゃありませんでした。村から被害が無く撤退出来たのは敵が強くなかった事が大きいかもしれませんね」


 カルボ村で白竜人族と戦ったハルオが言った。横でハイミも頷いている。


「相手は十万いて、こっちは六万だが、我が国は大丈夫だ。負けはせん。そこでそなた達に頼みがあるんだ」


 改まって言う国王。何だろうと俺達は顔を向ける。


「ここから東南にある、我が同盟国ノーリアに行ってくれないだろうか。私が書状を書く」


「ノーリア? どういう国なんですか?」


 突然の頼みに少し驚き、聞く。


「一年前までこの大陸では四つの国が戦争をしていたのは言ったな。占いの結果で我が国が停戦を提案したのも」


 俺達は頷く。城で聞いている。


「我が国の提案に一番最初に乗ったのはノーリアだったんだ。私も知らなかったんだが、ノーリア国王が重い病気に掛かっていたらしい。ノーリアも停戦に賛成した為、アリス教国の二国も乗って停戦したんだ。当時のノーリア国王はかなりの名君でな、病気と聞いた時は心配したもんだ」


「当時の国王? その国王は亡くなられたんですか?」


 俺の言葉にギガク国王が頷く。


「停戦から半年後に死んだよ。国王の死にノーリアだけでなく、我がギガクも非常に焦ったんだ」


 ギガク国王の言葉にハイミが首を傾げて聞く。


「何故ですか? 名君だからですか?」


 国王が下を向いて答える。


「ノーリアの二人の王子はかなり出来が悪い事で有名なんだ。ノーリア国王の唯一の失敗は息子二人をしっかり育て上げられなかった事だ。内政は素晴らしかったが」


 苦笑交じりで言った。


「そんなに出来が悪いんですか? 父が死んで自分達の代になれば変わるんじゃないですか?」


 俺の言葉にギガク国王が首を横に振る。


「国王が死んで、すぐに王子二人が後継者を巡って争いを始めたんだ。最初は優秀な家臣を自分の配下に取り込み始めた。次に武器を集め始めた。そして、それは内乱に発展したんだ」


「内乱? 戦闘が起こったんですか?」


 キサキが聞く。ギガク国王は頷いて言う。


「ああ、戦闘が起こった。国民通しで殺し合ったんだ。第一王子陣営と第二王子陣営に分かれてな。我等同盟国の国王は急いでノーリアに入り、王子達を説得した。説得の結果、第一王子が国王になり、第二王子が王弟として政治をする事でようやく両方とも兵を引いたよ」


「そんな。戦闘は大したものではなかったんですか?」


 キサキの問いに唇を噛み締めながらギガク国王が言った。


「戦闘は二週間続いたよ。だから『二週間戦争』と呼ばれている。さらに王子達は国の地方の村や町から自警団も呼び出して最前線で戦わせた。自分達の兵士は失いたくなかったんだろう。そして、二週間で約十名の死者が出たと聞いたよ」


「なんですって? それは本当ですか? 自分達の相続争いで国民を死なせたんですか? そんな事あり得ません! 国民は国の宝です!」


 キサキが言う。キサキは現実世界からこっちに来て、国に居たのは一週間ぐらいだが、国の王女としての品格が備わったらしい。


「ルイビンベールの王女よ、その通りだ。彼等は国というものを分かっていない。人の上に立つ資格は無い」


 勿論、ギガク国王も怒りを隠しきれない顔だ。そして言う。


「でもな、彼等は我が同盟国なのだ。この世界はアリス教国と非アリス教国でほぼ半分に分かれている。どこか一つの国が敵に落ちたらバランスが崩れてしまう。一方的な殺し合いの戦争が起きる危険がある。あんな出来の悪い国王が治める国でも放っておく訳にはいかなくてな。さらに今は魔族の襲来だ。人間通しで争っている場合ではないのに、国内で内乱などあり得ん」


 今度は苦笑交じりで言う。


「分かりましたわ。敵国であるルイビンベールの王女であるわたくしが相応しいかは分かりませんが、行きましょう」


 そのキサキの言葉に安心した様な国王が書状を手渡した。その書状は二通あった。片方の宛名にはノーリア国王とあるが、もう一通には宛名が無い。


「……こちらの書状は? 宛名が無いですが」


「……これはな、我が国でも数人にしか言ってない。極秘の書状だ。今から言う事は何があっても他言無用で頼む。ノーリアで国王やその周りの国王に媚を売る馬鹿な大臣共に見つかりそうになったらすぐに燃やしてくれ。少し危険な役回りになるかもしれんが。」


「分かりましたわ。……それで、中身は?」


 キサキが聞くとギガク国王が答えた。その内容に絶句する俺達四人。


「よろしいのですか? 一歩間違えればどうなるか」


「ああ。これも我が同盟国と、そして世界を守る為だ。致し方ない」


「分かりました、やりましょう」


 キサキとギガク国王のやり取りを聞いていた俺達も頷く。


「そうか、では早速行ってくれ。馬車を用意してある。ギガクの国境までは御者を出すが、ノーリアからは自分で操縦してくれ。操縦は出来るな? 頼んだぞ」


「はい、行って来ます!」


 返事してすぐに馬車に向かった。



「大変な役を申し使ったね。どうなるんだろう。キサキ、どう思う?」


「ん? 楽しそうじゃない。やっと骨のある仕事が来たわね。ユウマ、怖気付いてないでしょうね?」


「何言ってるんだよ。一つの国の事だよ? よくあんなに簡単に引き受けたね」


「うん、面白そうだしね! ねっ、ハイミ。ハイミが一番やる気満々な顔してたわよ」


「うん、やる気満々よ! わたし達が国を動かすかもしれないんだからね! やってやるんだから!」


 両手でガッツポーズを作って言うハイミ。


「ああ。まぁ、せっかくだから大きい事がやりたいしな。ユウマはビビってるなら馬車で待っていてもいいぞ」


「な、何言ってるんだよ! 俺もやるよ!」


 ハルオに言われて少しムキになってしまった。横で笑っているハイミとキサキ。

 次はノーリアだ。何だろうが、こなしてみせる、と意気込む俺達だ。


お読みいただきありがとうございます。

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