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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第四章 南東大陸へ
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4 治癒術師の戦い

お楽しみください。

 早朝に謁見の間に呼ばれた。まだ朝食も食べてない。隣でハイミが、お腹空いた〜、と呟いている。


 謁見の間に入ると国王が声を掛けて来た。


「おはよう、よく眠れたかな?」


「おはようございます。よく眠れました。……状況はどんな感じですか?」


 俺が聞く。


「敵は国の西海岸から上陸した様だ。カルボ村の北らしい」


「カルボ村の北? 村は大丈夫なんですか?」


 俺の言葉に国王が静かに言う。


「詳しい状況は分からないんだ。カルボ村には昨日派遣した国境警備隊と周囲の村の自警団が集まっているはずだが」


「敵の数はどれぐらいなんですか?」


 俺の問いに国王が答えた。


「十万はいたそうだ」


 俺達は驚いた。あの村にも自警団はいるが、百人もいないだろう。国境警備隊と周囲の村の自警団を合わせても五百人いくかどうか。


「国王陛下、俺達は今すぐカルボ村へ向かいます! たった四人ですがいないよりはマシでしょう」


 国王は深く頷いて言う。


「ああ、頼む。かなり危険になると思うが。ただ、カルボ村に着いたら撤退する様に国境警備隊に言ってくれ。こことカルボ村のちょうど真ん中にあるギガク広野まで撤退して魔族を迎え討つ」


「じゃあ、準備したら早速出発します」


 来た時の馬車を使っていいとの事で、朝食も馬車にいれておいてくれるらしい。



 すぐに準備をして馬車に乗り込んだ。御者は来た時とは違う人だ。この国の騎士で、カルボ村に着いたら助太刀してくれるらしい。


 早速出発だ。魔族が現れてからもうかなりの時間が経っているだろう。村人の無事を祈る。



 馬車で街道を走る。凄いスピードだ。この国の最高の馬車だという。飛ばしている割には揺れも少ない。


 馬車内で朝食を食べた。腹ごしらえも済んだし、後は戦いだ。



 街道を走っていると、避難民とすれ違う。国の西側にある村人らしい。自警団はカルボ村に向かったらしく、年寄りや女子供ばかりだ。


 カルボ村の避難民に会った。やはり年寄りや女子供ばかりだ。無理を言って馬車を止めて貰う。村長夫人に話しを聞く。


「村長夫人ご無事でしたか。村はどうですか?」


「これはこれは、ユウマ殿。まさか村を助けに? ありがとうございます。村は周囲の村の自警団と、国境警備隊が来てくれて何とか持ちこたえているはずです。狭い村に誘い込んでいるので魔族は大群では攻めて来れないはずです」


「なるほど、いい作戦ですね」


 最悪の事態はなさそうでホッとした。


「ただ、ユウマ殿、……この避難民の中にエリナがいないんです。どうやら村に残った様で」


 俺達は驚いた。まさか剣で立ち向かっているという事は無いだろうが、やはり心配だ。


「分かりました。エリナちゃんは俺達が連れて帰ります!」


 お願いします、と村長夫人。先を急ごう。



 しばらく街道を進む。もうすぐ着くんではないだろうか、という所で御者が声を掛けて来た。


「ユウマ殿、あちらの方は……」


 馬車から顔を出して見ると、カルボ村の村長がこっちに走って来た。


「皆さん! まさか来て下さるとは!」


 馬車を降り、頭を下げる。村長は何か落ち着かない様子だ。


「キサキ殿は治癒術師ですよね?」


「えっ、そうですよ」


 急に話しを振られて驚いているキサキ。


「向こうの小屋に来て頂けませんか? 怪我人がいるのです。重傷者も一人。余談を許しません」


 すると、御者が言った。


「キサキ殿は怪我人をお願いします。ユウマ殿も怪我人の方へ。馬車は小屋の前に置いておきます。ハイミ殿とハルオ殿は自分と一緒に村へお願いします」


 分かりました、と散って行く俺達。キサキと一緒に怪我人がいるという小屋に向かった。



 簡単な木造の小屋だった。長い事使ってないみたいで外観はボロボロだ。


 小屋の扉を開けた。十畳ほどの広さだ。見渡すと十人の怪我人がいた。九人は軽傷の様だ。自分で手当てをしている。しかし、しばらくは戦えないだろう。


 奥には一人の男性が横になっていた。四十歳ぐらいだろうか。


 腹には痛々しく包帯が巻かれている。周囲には血の染み込んだ布が積まれている。その布を見ただけで出血量の多さが分かる。


 男性の血はまだ止まらないんだろう、一人の少女が傷口に布を当てている。すぐに血が染み込み真っ赤になる。そして新しい布を当てる。


 エリナちゃんだ。顔は涙でグチャグチャだが、歯を食いしばって看病をしている。青くなった男性に声を掛けている。


「おじさん、もうすぐ血は止まるから頑張ってね! もう少しの辛抱だから!」


 男性は力無くコクリコクリと頷いている。


 小屋の扉を閉めると、その音でこっちに気付いた。俺とキサキの顔を見るとエリナちゃんの食いしばっていた歯が緩む。立ち上がり、おぼつかない足で俺とキサキの元に来て、血が付いた手を俺達の腰に回し抱き付いてくる。すると嗚咽が出て来て、そして泣き叫ぶ様に言った。


「お兄さん、お姉ちゃん、どうしよう! おじさんがあたしのせいで怪我しちゃいました! あたし、自分でも戦えると思って逃げ遅れたんです。そこを敵に見つかって切りかかられて、そしてあたしを庇って。どうしよう、血が止まりません! おじさんが死んじゃう」


 今まで堪えていたんだろう。緊張の糸が切れた様に泣き叫ぶ。


 キサキが頭を撫でながら言う。


「大丈夫よ、エリナちゃん。あたしが治癒術を掛けるから。もう大丈夫よ」


 エリナちゃんの手を優しく腰から放し、男性の横に座る。そして右手を傷口にかざす。右手が光ってきた。


「傷口に安らぎを! ナースヒール!」


 治癒術をかけた。そういえば治癒術をかける所は初めて見る。『ナースヒール』はファンタジー・オブ・シリーズの中級治癒術だ。


 右手の光が、布の上から傷口に吸い込まれていった。スッと立ち上がってこっちを振り向いてキサキが言う。


「もう大丈夫よ」


 エリナちゃんが男性の所に行き、傷口に当てていた布を取った。


「……血が止まってる。おじさんは助かったんですか?」


「ふふっ。あたしの治癒術は傷は閉じて、血は止まるけど、体力は全快にならないから、早く馬車に乗せて医者か上級治癒術師に見せた方がいいわよ。でも、命はもう大丈夫よ」


 それを聞くと、床にへたり込んでしまうエリナちゃん。キサキはその様子を見て微笑み、他の怪我人の治療を始めた。


 へたり込んでしまっているエリナちゃんの所に行き、頭をポンポンと叩き、撫でてやる。


「良かったね、エリナちゃん」


 エリナちゃんは怪我人を治療しているキサキを目で追っている。


「お兄ちゃん、もし、あたしが治癒術を使えたら、おじさんを簡単に助けれられたんですね」


 呟く様に言う。


「うん、そうだね」


「キサキお姉ちゃん、カッコいいです」


「うん、カッコいいね」


「あたし、戦いは剣を振ることだと思ってました。傷付いた仲間を治療するっていう戦いもあるんですね。……キサキお姉ちゃん、カッコいいです」


 目をキラキラさせてキサキを見ているエリナちゃん。すると、治療を終えたキサキが戻って来た。


「ふぅ、いっちょ上がり。ん、エリナちゃん、どうしたの?」


 エリナちゃんの視線に気付いたキサキが聞く。


「あの、キサキお姉ちゃん、師匠と呼ばせて下さい! あたし、村にはいない治癒術師になります!」


「えー、師匠!? ……いいわよ、あたしの一番弟子ね!」


 ノリノリの二人だ。そこへ村長がやって来た。


「こらエリナ。キサキ殿はルイビンベールのお姫様だぞ。馴れ馴れしく言うな」

 キサキに申し訳ありません、と頭を下げながら言う。


「おじいちゃん! あたしだって村長の孫だから、村ではお姫様みたいなものだもん」


 それを聞いて小屋内で笑いが起きる。何を言っているんだと頭をコツンと叩かれるエリナちゃん。


「痛〜い。おじいちゃん、これDVだよ!」


「でぃーぶい? 何を言っておるんじゃ」


 横文字が苦手な村長。頭を握り拳でグリグリされるエリナちゃん。痛い痛い、と素早く村長からキサキの後ろに隠れる。


「キサキ師匠、頭に治癒術をかけて下さい。ジンジンします」


 キサキが意地悪そうに言う。


「う〜ん、おじいちゃんの言う事を聞けない子は弟子にしてあげれないかな」


「え〜、そんなぁ。師匠の意地悪ぅ〜」


「エリナ、そんな事よりおじさんを馬車に運ぶ手伝いをしなさい」


 村長に怒られて顔を膨らませるエリナちゃん。


「エリナちゃん、怪我人のお世話も治癒術師の仕事だよ」


 キサキがそう言うとテキパキ動き、馬車に布等の治癒道具を運んでいた。


 将来有望な治癒術師の卵かな。


お読みいただきありがとうございます。

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