7 再出発
お楽しみください。
次の日の朝は軽く朝食を取って、各々出発の準備を始めた。
俺は朝早く起きて、少し剣を振った。とりあえずは『強振剣』、『双・強振剣』、『突進剣』、『突進剣・連撃』だ。それ以外の技が出せない事に気付いた。何故かは分からないが、仕方ない。この四つの技を極めよう。将来は秘奥義も出してみたい。
早く戦ってみたい。敵を目の前にしてビビらなければいいが。
大聖堂を出て、一時間ぐらいで港に着いた。港には教皇が数人の取り巻きと共にいた。
教皇の目の前に行った俺達だったが、どうしても聞きたい事があり、右手を顔の横に上げ、指パッチンをした。
「ど、どうしたの、ユウマ?」
急に真っ白な世界に移行した為、キサキが驚いている。ハルオも何事かと俺を見る。
「木下さん、聞きたいことがあります」
「どうした、ユウマ君? 改まって」
キサキ、ハルオも俺を見ている。
「木下さんもゲームの中に入っていますけど、木下さんはこっちと向こうを行き来出来るんですか?」
コクリと頷く木下さん。
「ああ、出来る。よく分かったね」
そういえば、とキサキとハルオが木下さんを見る。
「でも、俺達が暫く世界中を廻って事は、木下さんは教皇としてアリウスにいる意味が無くなりますよね? 木下さんはあくまでも俺達がこの世界に来た目的を言う為だけにゲームの中にいればいいわけですから」
となりでキサキとハルオがなるほど、と考え込んでいる。木下さんは一つ頷き言った。
「ああ、だから教皇はこれから世界中に布教の旅に出るという名目で姿を消す。アリス教の事は部下に任せるよ」
それを聞いてキサキが言う。
「じゃあ、木下さんと会うのは今日が最後ですか?」
下を向いて俯く様に言う。ハイミみたいだ。研究の成果か?
「お、キサキ君も可愛い顔をする様になったな。ハイミにも負けてないぞ」
「もう、木下さん!」
照れて怒っている。隣でハルオがクスクスと笑っている。
「そうだな、暫くはお別れだ。だが、世界中を廻ってレベルが上がって、魔王に挑む時が来たらまたここに来るといい。魔王の弱点ぐらい教えてやろう。……私も仕事があるのでな、現実世界では忙しいのだ。暇ならルイビンベールに行って、一所懸命王妃を口説くのにな」
ハルオが食い付く。
「その時は俺も負けませんよ!」
盛り上がる二人に、ちょっと! と怒るキサキ。
「まぁ、冗談はさておき。でもあまりゆっくりは出来ないぞ。君達は現実では夏休み中だろ? あと一ヶ月ぐらいか。という事は、こっちの世界での期限は一年だ。普通に冒険をすれば余裕だと思うが」
期限が一年と聞いてやはり気が引き締まる。長い様で短いだろう。
「分かりました。期限は一年ですね。出来るだけ早く戻って来れる様に頑張ります。魔王戦前は大聖堂に立ち寄りますので、ここにいて下さいね」
俺はそう言い右手を上げる。力強く頷く木下さんを見て指パッチンをした。
真っ白な世界から戻ると、教皇が話し始めた。
「では、行ってきなさい。世界を頼んだよ。魔王戦前は大聖堂に寄りなさい。アリス教で集めた情報でも教えれるだろう」
いかにもな事を言ってくる。やはりハイミは真剣だ。自分の生まれた国が滅亡させられて、次は世界が襲われる。自分に出来る事を精一杯やるんだろう。俺達仲間と力を合わせて。
「はい、教皇、行ってきます。世界中を廻ったらまたここに来ます」
ハイミが力強く言う。気合い満タンだ。
アリウス教皇が準備した船に乗った。もう定番になりつつある船出だ。俺達は誰も船酔いはしないので、快適な船旅だ。……わざと船酔いしたフリをしてハイミに膝枕で介抱してもらおうかな。いや、キサキにバレたら真っ白な世界で説教だ。
「よし、決めた!」
急にハイミが言った。ビックリして、ハイミを見る俺達。
「な、何よ、急に大きい声を出して」
キサキが言う。
「ゴメン、この船の名前を思い付いたの。ルイビンベールの船はキサキが名前を付けたよね。何だったっけ?」
「『小型客船キサキ一号』よ! よく覚えてたわね。これに引けを取らない名前を思い付いたの?」
ドヤ顔で言うキサキ。いや、『小型客船キサキ一号』ってダサいよ。でもこんな事を言うと、また真っ白な……いや、もういいか。
「この船の名前は、『タイタニック号』よ!」
「「「えー!」」」
俺達三人は驚きの声を上げる。さすがにタイタニック号は縁起が悪い。というか、何でタイタニック号を知っているんだ? 木下さんの差し金か? こっちの世界では憧れの豪華客船として有名とか? そもそもタイタニック号も当時の最先端の豪華客船だったんだよね。
「あれ、イマイチだった?」
固まって顔が引きつっている俺達を見て、しょんぼりしている。すかさずフォローを入れる。
「な、何で『タイタニック号』なの?」
右手人差し指をピンと上げて説明する。
「えっとね、古代語で『タイタ』は大きい、『ニック』は贅沢って言う意味なんだよ」
なるほどね〜、キサキ並みのネーミングセンスだね。言えないけど。
「そ、そうなんだ。いいんじゃないかな、古代語なんて仰々しくていいね」
後ろでキサキとハルオがうん、と仕方なく頷いている。
ハイミは満足そうに笑っていた。
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