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ファンタジー・オブ・デスティニー  作者: 一条一利
第三章 真実と使命
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行間3 ハルオの苦い思い出?

お楽しみください。

 俺は部屋の大きな鏡の前に立った。この世界では180cmあるが、全身が写る本当に大きな鏡だ。


 右腕で力コブを作る。固い力コブが出来た。太腿の筋肉も凄い。ルイビンベールでの戦闘では、身体中の筋肉が嘘みたいに体が軽く、『オオカミ犬』までの距離を詰めると、自分でも嘘みたいな強烈な蹴りを放ち、『オオカミ犬』を倒した。


 現実での俺は身長が160cmしかない。でも、背の低さはあまり気にした事が無かった。正直、もっと低い人はいる。しかし、大学一年の時の出会いで初めて自分の身長を恨んだ。



 大学に入学したのはいいが、俺にはこれと言ってやりたい事は無かった。この大学を選んだのも、俺の成績で親や教師に勧められたからだ。


 いわゆる一流大学だろうか、親戚には、この大学に入ればモテるぞ、と言われたりしたが、そんな事は無かった。


 大学に入ると、サークルを見に行った。周りは皆入っているし、将来の就職の為にサークルに入った方がいいと言われた。


 大学では沢山のサークルが勧誘を行っていた。俺は部活にも入っていなかったし、特に趣味も無かった。今更スポーツをやろうとも思わないし、新しい趣味を見つけようとも思わなかった。家ではゲームをやっていればそれでよかった。


 ある日、あるサークル部屋の前で足が止まった。『将棋サークル』と書いてある。


 将棋と聞いて大学入学一週間前に亡くなった祖父を思い出した。祖父はお節介だった。休みの日はずっと自分の部屋でゲームをしていたが、急に俺の部屋に入って来て言う。


『春男、自分の部屋に篭ってないでじいちゃんとはさみ将棋でもやらんか?』


 小さい頃からよく祖父とはさみ将棋をしていた。祖父は強かった。十歳頃から始めたが、全く勝てなかった。それにある程度の年になると、どう考えてもテレビやゲームの方が楽しくなる。やらない、出て行ってよ、と言ってもやるまで出て行かないから一局だけやるが、コテンパンにやられていた。


『キャリア七十年のワシに勝つには百年早い!』


 じいちゃん、あと何十年生きるつもり? それが高校三年生ぐらいまで続いた。

 高三になると、祖父はあまり部屋に入って来なくなった。今考えてみれば、受験勉強中だから気を使ってくれたんだろう。



 大学の合格発表もあまり緊張しなかった。俺の成績なら余裕な大学だったし、試験も良く出来た。合格を確認して家に帰り、玄関を開けてビックリした。顔が青く、ガタガタ震えながら祖父が立っていた。祖父と話すのは何ヶ月ぶりだろう。


『は、は、春男、どどど、どうじゃった?』


『ど、どうしたんだよ、じいちゃん? 受かったよ、第一志望』


 それを聞いて顔にも血の気が戻り、体の震えも止まった。すると、はさみ将棋で俺に勝った時の勝ち誇った顔で言った。


『や、やっぱりな! さすがはワシの孫じゃ! あんな良い大学に合格するとはな!』


 笑いながら俺の肩をバンバン叩いてくる。


 母さんに聞いた話しだと、じいちゃんは大学の事は全然分からないらしい。東大も知らない。こんなに喜んでいるのは近所の人に、春男君はあの大学を受けるなんて凄いね、と言われてその気になったみたいだ。


『よくやった! よくやったぞ、春男! よし、じいちゃんが小遣いをやろう! いくら欲しい? 欲しい物はあるか?』


 年金少ないのに無理してないかな。じいちゃんがこんなに喜んでくれるなんて。何でも言ってみろ、と聞いてくる。


 そういえば、じいちゃんは昔から俺を可愛がってくれた。毎日、友達のいない俺の相手をしてくれた。たまには俺からもお礼をしないとな。


『それならじいちゃん、はさみ将棋をしようよ! 久々にさ』


 それを聞いてじいちゃんは目を大きくして相当驚いていた。曲がった背中も真っ直ぐになってたんじゃないかな。


『そ、そうか、はさみ将棋か。ああ、やろう! 本当に久しぶりだな。部屋で待っていろ』


 嬉しそうに言う。


『いや、じいちゃんの部屋でやろうよ。準備して待っててよ。お茶入れて行くよ』

 そうかそうか、と自分の部屋に戻っていく。俺もすぐに部屋で着替えて、お茶を淹れる為に台所に行く。


 お湯を沸かしている間に急須と茶葉を探す。普段淹れないので探すのにかなり時間が掛かってしまった。急いでじいちゃんの部屋に行く。待たせてゴメン、と言うといいんじゃ、と笑っていた。


 慣れない手付きでお茶を淹れてじいちゃんに出す。ズズッと一口飲んで、美味い、と二口、三口飲む。


 はさみ将棋をやり始めた。多分、一年ぶりぐらいじゃないか。ルールは単純だから勿論覚えている。


 今日は調子が良かった。どんどん攻めている気がする。俺が一手を打つたびにじいちゃんは、うーん、と唸っている。


 そして、じいちゃんに初めて勝った。最後は両手を挙げて降参だ、と言う。悔しそうだけど、何か清々しい顔をしている。


 俺は大学に受かったよりも嬉しかった。悔しそうにしているじいちゃんの前で大きくガッツポーズをする。予想外の勝利の余韻に浸りながらじいちゃんの部屋を出た。またやろうね、と言って。


 そして、その次の日の夕方にじいちゃんは倒れた。


 それから亡くなるまで病院で寝たきりだった。俺は出来る限り見舞いに行った。行くたびに、起きれるようになったらまたはさみ将棋しようね、と言い続けた。じいちゃんはしゃがれた声で、ああ、と何度も頷く。



 じいちゃんは亡くなった。



 俺は多分人生で一番泣いた。通夜、葬式の間泣き続けた。じいちゃんは俺に負けた日の夜は嬉しそうに将棋の話しをしていたらしい。負けたけど成長したハルオが見れて嬉しかった、と言っていたらしい。


 じいちゃんの将棋盤は俺が貰った。今も大切に取ってある。相手がいないから差せないけど。



 将棋サークル部屋に入ってみた。二十人ぐらいいる。みんな真剣に差している。上級生に話しかけられいろいろ聞かれたが、俺ははさみ将棋しか知らないと言うと、はさみ将棋の本を棚から出して渡してくれた。


 将棋盤を借りて、部屋の隅で本を見ながら一人で差した。色々な戦術やテクニックが載っていて思ったよりも奥深いなと思う。


 すると、突然目の前の椅子に女の子が座って言った。


『あの、はさみ将棋好きなの?』


 あんまり可愛い女の子だったから驚いた。小さい顔と長い黒髪が特徴だ。


『う、うん。死んだじいちゃんとよくやっていて』


『そうなんだ。わたしのお兄ちゃんとおじいちゃんもよくやっていたんだ。横で見ていたからわたしもルールぐらいは分かるんだ』


 名前は『島野まりや』というらしい。どうやら本将棋が好きな友達と来たら、その友達が将棋に夢中になってしまい、一人ぼっちになったらしい。それを聞いてプッ、と少し笑うと頬を膨らませて下を向き、笑いながら睨んできた。



 試しに一局打ってみた。……俺の圧勝だった。物凄く悔しがっている。あまりに悔しがるから本と俺の経験でアドバイスをする。真剣に本を読む。垂れて顔に掛かってきた髪を耳にかけながら真剣に読んでいる。分かった! とまた対戦を申し込んでくる。……返り討ちにしてやった。


 一週間ぐらいはそんな日が続いた。正式に入った訳ではないが、将棋サークルに顔を出す。いつも、島野まりやは本と睨み合っている。そして、俺を見つけると対戦を申し込んでくる。勿論返り討ちだ。


 だが、しばらくすると来なくなった。女の子だからもっと他のサークルに入ったんだろうか。それともバイトでも始めたか。……彼氏ができたか。


 島野まりやの事は大学でたまに見かけた。友人が多い様で、いつも沢山の友人に囲まれている。男もよくいる。


 将棋サークルにはすぐに行かなくなった。学校が終わるとすぐに家に帰り、ゲームをするという日が続いた。


 島野まりやの事はよく思い出した。目の前で、うーん、と次の手を考えている顔。負けて悔しがっている顔。サークルでの別れ際に笑顔で手を振っている顔。遠くで友達と話している顔。


 顔も可愛いし、いつも笑顔で明るい。背が高くてモデルみたいな体型。男にはかなりモテるだろう。背が低く、地味な俺には高嶺の花だ。せめて島野まりやより背が高ければ、雑誌を見てファッションを研究すれば地味な見た目はどうにかなるのに思ったりした。



 木下さんの話しを聞いてキサキが食い付いてきたが、俺には触れられたくない、でも忘れられない過去だ。



 数少ない大学での可愛い女の子との思い出に浸っているとゲームの中の可愛い女の子の声で我に返った。


「ハルオ、晩ご飯だよ」


 ハイミの声だ。よいしょ、と起きて食堂に向かった。


お読みいただきありがとうございます。


ハルオ主人公でした。


じいちゃんとのはさみ将棋は私の思い出でもあります。私も1回だけ勝った事があります。

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